岩月麻里さんと宮澤杉郎さん。岩月さんは鍼灸マッサージの「おばた治療室」を経営。宮澤さんは採卵鶏80羽のほか、水田や茶畑80aの農家 (写真はすべて田中康弘撮影) 3カ月で腰痛が治った「ほのまき体操」
岐阜県八百津町・宮澤杉郎さん
愛知県名古屋市・岩月麻里さん車の長時間運転が腰に響いていた
宮澤杉郎さん(62歳)が腰痛のためにコルセットをつけたのは一昨年の秋のこと。激痛のせいで上を向いて寝ることができない。寝返りも打てない。布団の中でただじっと丸まっていなければならなかった…。
今ではすっかりよくなった宮澤さん、腰痛になった経緯をこう振り返る。
「昔、山登りやってたから身体には自信があったんですけど、農家の仕事は使う筋肉が違うんですよね。20年くらい前に東京から新規就農したんですけど、15aのイネを手植えして、鶏舎から出る鶏糞の袋を持って坂を上がったりしてきた。しかも週1回、ここから名古屋まで軽トラで片道2時間かけて卵を配達してたのが響いたんですね。運転のあとは腰が痛くて車からなかなか降りられなくて、シートから転がり落ちるように降りたこともある。でもある程度たつと治まるし、医者に診せるほどでもないなと思って、それまではずっとだましだましやってたんですよね。だけど、いよいよ一昨年の秋にすごく痛くなっちゃった」
3カ月後にはコルセットがとれた!
年明けにはいったん治まったものの、春先にまた痛くなった宮澤さん、インターネット上のブログに腰痛で苦しんでいることを書き込んだ。それを偶然見たのが、鍼灸マッサージ師の岩月麻里さんだった。
じつは宮澤さんと岩月さんは「くらしを耕す会」という産直組織を通じて20年来のつきあいがあり、宮澤さんの田植えに岩月さんが来たこともあった。岩月さんは普段は名古屋で治療院を経営しているのだが、宮澤さんの苦しみを知って山奥の宮澤さんの家にまで来て、アドバイスをしてくれたのだ。
岩月さんから受けたアドバイスは次の3つ。
▼掘りゴタツで、ピンとした姿勢で座ること。
▼車を運転するときに背当てをすること。
▼毎日、腰を伸ばす体操をすること。
どれも簡単なことで、これならできるなと思った宮澤さん、自分なりに工夫しながら実行した。
「近所に腰の曲がったおじいさん、おばあさんが多くて、絶対ああはなりたくないと思ってね」
その結果、劇的に腰痛がよくなり、3カ月後の夏にはコルセットがいらなくなってしまったのだ。「教えた私もびっくり」と岩月さん。
今でも毎日実行しているという宮澤さんの、そのやり方を見せていただいた。
改善法その(1)
腰を膝より高くして座る初めに見せてもらったのは掘りゴタツの座り方。
以前の宮澤さんは上の写真のように腰が膝より低く、背中が丸まる座り方だった。宮澤さんはとくに冬の間、家にいるときはほとんど掘りゴタツで過ごすので、この姿勢でいることが多かった。
それを見た岩月さん、この姿勢こそが宮澤さんの腰痛の原因の一つだと指摘。お尻の下に座布団などを入れて腰を膝より高くして、背筋をピンと伸ばして姿勢をよくするようにとアドバイスした。
そこで宮澤さん、座椅子を買い、お尻の下に入れて座ることにした。実際やってみると姿勢がよくなり、奥さんからも「このほうが立ち上がりやすい」と喜ばれた。だが、この姿勢を保つのはラクじゃない。そこで腰に座布団の背当てを入れた。これで背当てにもたれても、背中が丸まらなくなった。
改善法 その(1)――座り方を変える 腰が膝より高くなるように、座椅子を敷いた。背中がピンと伸びるようになった。この姿勢をずっと保つのは疲れるので、腰のところに座布団を丸めた「支え」を入れている 掘りゴタツの座面と床の高さが宮澤さんの身体に合っていないので、腰が膝より低くなり、背中が丸くなっていた。この姿勢を何十年と続けていた 改善法その(2)
背筋が伸びた姿勢をラクに保つつづいて、車の座り方。
宮澤さんの軽トラのシートを見せてもらうと、背当てがついていた。これがあると、背筋の伸びた姿勢が筋肉を使わずにラクに保てるとのこと。
実際、そのシートに座ってみると、なるほど、腰のあたりが押され、お腹が伸びるのがわかった。「その分、目線も高くなって運転していて気持ちいいですよ」と宮澤さん。今では背当てがついていない車に乗ると「気持ち悪い」と思うようになったそうだ。
改善法 その(2)――車のシートに背当てをつける 風呂敷クッションの作り方
バスタオル1枚を風呂敷で丸めるだけ。腰が反る感じが物足りないようなら2枚にする。岩月さんの体操で使うのはバスタオルくらい。とてもシンプル
背筋が伸びた姿勢を保てるように、シートに「支え」(矢印)を入れた。支えの位置は腰の高さ 支えは、座布団を丸めてガムテープでとめ、ヒモでシートに固定した(見栄えをよくするためTシャツでカバー。岩月さんの教えてくれた「風呂敷クッション」を宮澤さんが改良 改善法その(3)
曲げた腰をその日のうちに伸ばしておくそして、腰伸ばし体操。
宮澤さんによるとこれは「その日の腰の曲がりをその日のうちになおす」ための体操で、毎晩、お風呂あがりにやっている。
やり方は簡単だ。寝て膝を立てた状態で尾てい骨の少し上に丸めたバスタオルなどを入れ、足を伸ばしてバンザイをする。腰が伸びたら今度は膝を胸に寄せて腰を丸める。これで1セット。宮澤さんは毎晩5セット繰り返す。
「ちょっと痛いけど気持ちがいいですよ」と宮澤さんがいうので、記者も試しにやってみると、お腹がピーンと気持ちよく伸び、腰が締まる感じがした。ところが、タオルを頭のほうに少しずらし、腰の位置(ウエストのあたり)に入れてバンザイしてみると全然気持ちよくない。腰に抵抗感がなく、普段寝ているときとあまり変わらなくなった。バスタオルの位置が大事なのだ。
改善法 その(3)――作業のあとに腰を伸ばす 寝たまま今度は膝を抱え、20秒くらい数える(もっと短くてもいい)。
これを宮澤さんは毎晩5セット繰り返す。作業のあと、腰が痛いときにやってもいい。膝を抱えるときにタオルがずれやすいので元の位置に寝て膝を立てた状態で、丸めたバスタオルを尾てい骨の少し上のところに入れたら、足を伸ばしてバンザイをするだけ。そのままの姿勢で20秒くらい数える(気持ちよさを感じられるなら1分くらい続けてもいい) 岩月さんが最初に宮澤さんにした治療法。腰が高く上がるほど気持ちいい。前かがみで伸びたところが締まる。これを一人で簡単にやれるのが、バスタオルを使った腰伸ばし バスタオルを当てる位置は仙骨の部分。中指の先を尾てい骨に当てて手を腰に当てると、手のひらにすっぽり入るところ 前かがみで開いた骨盤を引き締める
人間の骨盤と腰痛 岩月さんはこの腰伸ばし体操を「骨盤を引き締めるため」の体操と考え、「バスタオル骨盤調整体操」と呼んでいる。近頃、ちまたでは腰痛などの身体のケアに「骨盤ベルト」なるものが流行っているが、骨盤を締めることと腰痛について、岩月さんに聞いてみた(下のイメージ図参照)。
「骨盤の後ろにある仙腸関節は靭帯でしっかり固定されていますが、前かがみの姿勢が長く続くと、ゆるんで伸びてきてしまいます。そこで周りの筋肉が靭帯に代わって支えようとして頑張るので疲れる。それが腰痛。私は、腰痛は腰やお尻の筋肉痛だと思っています」
へぇ! 腰痛は腰やお尻の筋肉痛か。
「そこで、ゆるみかけた仙腸関節のところにタオルを当てて引き締めて戻すのが『バスタオル骨盤調整体操』です。腰を伸ばすだけより、伸ばしたり縮めたりを繰り返すことで周りの筋肉の疲れがとれてラクになります。これだけで腰痛が治る人もいますが、周りの筋肉自体もゆるんでいるとすぐには治りません。そこで、腰を支える筋肉を鍛えようというのが腰を膝より高くする座り方です。車のシートの背当てでは筋肉はつきませんが、腰がS字カーブになり、いい姿勢が保てます」
なるほど、腰痛をよくするには筋肉を「ほぐす」ことに加えて「鍛える」ことが大切のようだ。宮澤さんも、ずいぶん意識して鍛えているという。
「普段の農作業のときに背中を曲げないようにしてますし、宴会に行っても、あぐらをかかないように正座して飲んでます(笑)。あぐらだとどうしても背中が曲がりやすいですからね。正座に疲れたら足を投げ出してます」
おかげで腰を支える筋肉がついてきたのだろう。今の宮澤さんの背筋はピンと伸びている。
ほのまき体操って?
岩月さんは本誌でも連載した矢上裕さん門下で「自力整体法」の指導を10年ほど続けたのち、3年前に独立。鍼灸マッサージの治療の傍ら、ほぐす・のばす・まわす・鍛えるという4つの要素を入れた『ほのまき体操』を考案して指導している。今回の体操はその一部。
※岩月さんは農家の身体のケアを学ぶためにモニターを募集しています。農作業からくる首や肩の痛みに悩んでいる人で、作業姿勢の改善や体操の指導を希望の方。ただし、名古屋から片道2時間くらいで行ける距離で、その後の経過の報告ができる方に限ります。連絡は原則としてパソコンメールで。個人でもグループでも可。(おばた治療室)
この記事の掲載号『現代農業 2012年3月号』特集:続 トラクタを120%使いこなす
ビシッと決めるぞ、アゼ塗り作業/もっと業務・加工用野菜をつくる/高接ぎ・中間台木で果樹品種をパワーアップ/自分で製材までやれば林業はまだまだ儲かる/表層攪拌更新の草地でアルファルファの根を見た/TPPで99%の国民が損をする ほか。 [本を詳しく見る]『自力整体法の実際』矢上裕 著 肩こり、五十肩、腰痛、足の痛み…あちこち痛くなるのは、背骨や関節の「すき間」がなくなり、神経が圧迫されたり関節が動かなくなるから。病院や整骨院に頼らず「自力」ですき間を広げて老化予防。実技用音声CD付。 [本を詳しく見る]
『DVD自力整体教室』矢上裕 考案・指導 予防医学を提唱する矢上先生によって考案された整体法。自然治癒力を回復し、自分の力で健康を維持していくことを目的としています。
年を取っていても、体が痛くても取り組みやすい、ゆるやかな動きが特徴。
「自己マッサージ」とも表現されます。お金がかからず、体に無理がかからず、医者にもかからない、画期的な整体法です [本を詳しく見る]