日本の林業と木造建築の新たな展開を求めて
*日本建築学会1997年関東大会*
人間に優しい室内環境,CO2負荷減少の見地から木造建築への見直し機運が高まっているが,国内産材は流通面の制約やコスト面から外材に立ち打ちできなくなっているのが現状である。このような危機的ともいえる状況を打開し,日本の林業と木造建築の新たな連携を生むためには,林産地の体制や木造建築工事の発注の改善を含めて,どのような方策が考えられるかを,木造建築や山村にかかわって来たパネリストによって,各方面から討議を進めたい。
日本建築学会:建築経済委員会、材料施行委員会、建築計画委員会、農村計画委員会
9月15日(月) 日本大学船橋校舎 13号館 1326号室 9:00〜12:00
大会入場料: 8,000円(非会員)
司会: 上杉 啓(東洋大)
副司会: 野城智也(武蔵工大)
記 録: 堀江 亨(日大)
1、主旨説明
小原 誠
2、主題解説
a、木造建築と林業の連携を担うのはだれか
渡辺一正(建築研究所)
b、日本の林業と木材流通構造の問題点
小嶋睦雄(静岡大)
c、林産地とまち造り
地井昭夫(広島大)
d、公共事業における木材利用の問題点
藤本昌也(山口大)
3、討論
4、まとめ
秋山哲一(東洋大)
日本の林業環境と木造建築
ウルガイラウンドが完全実施されるとしたら,一番問題なのは農林水産業であり,それが環境問題と結び付けられる時には,なんらかの除外的方策も講じなければならないだろうといわれている。日本の森林面積は一人当たり1/4haで,適切な管理さえ行なわれれば日本の建築木材需要は賄われ得るともいわれている。過去に行なわれた日米通商交渉で,日本の厳しい木造建築規制と米材の輸入が大きな交渉テーマの一つになったことは記憶に新しい。最近は木造輸入住宅が目立ち初めたし,木造建築の規制内容も随分と変わってきた。しかし日本の林業はこの流れの変化によって有利な環境に浮かび上がったとはいえないばかりか,この流れから取り残されかねない状況にある。
新しい木造の流れとしては,従来鉄骨造や鉄筋コンクリート造で作られていた大架構への試み,防火性を得るために燃えしろを見込んだ大断面材の利用,ツーバイフォーに代表されるバルーン構造の準耐火扱い,あるいはリゾート地のロッグハウスなど,どれを取り上げても,小径木を主体とするわが国の林産地を活気づけるものになっていない。ロッグハウスにしても,バルーン構造にしても小径木の出場があり得る筈なのに,大局的にそのような状況にない。集成材とすれば大断面材が得られるのに,わが国の集成材は外材の集成材に対してコスト面で太刀打ちできない。人間に優しい,環境に優しいという木造のよさが再認識されつつあるのに,過疎化に悩むわが国の林業を力づけるものとなっていない。 その理由としてまず林業地の高齢化が紛れもない事実として挙げられるが,市場構造にも問題があろう。例えばある林産地の複式学級の小学校が木造の設計で工事発注されたとしよう。よくある事例として秋口に契約され,年度内の完成であったとする。この小学校の校舎の面積が1000ha程度とすると(体育館を除いて),200〜300・の木材を確保せねばならない。そのため請け負った工事会社は,短期間にこれだけの木材を確保するために相当の努力を払わなければならなくなる。特にその地域産地材を指定されたらば,まず不可能であろう。入札を前提とした発注では,あるいは大断面材の場合は外国産地材に頼らざるを得なくなる。日本最大の製材工場では,巨大径の米松材が専用船で着岸し,驚くべき速さのバンドソーで製材され,人工乾燥され,ヤング係数のグレード別に出荷されて行くのである。この格差は埋めようがないように思われる。
しかしこのような環境下で日本の林産地を守る努力も行なわれ始めている。たとえば住宅用木材の産直運動,町ぐるみの木造によるまち造り運動,林産地での木材関連コンビナートの建設,あるいは工事発注者からの事前予約などである。熊本県小国町のいくつかの施設は葉祥栄氏の設計で知られるが,その後も杉材利用の諸施設の建設を積極的に進めている。例えば葉枯らし材は人工乾燥材よりよい事はよく判っていても,一年ぐらい前に予約しておかなければ間に合わない筈であり,量が多くなれば一年先でも間に合わない。もともと丁寧な普請では何年も掛けて材木を集めたものである。徳島県の葉枯らし杉材の産直運動として立ち上がった木の家づくり協会の運動,埼玉県の消費者運動から始まった秋田材産直運動であるモクネット21の運動,青森県のヒバ材の産直活動である青ヒバの会など,小規模ではあるが力強い動きが各地で立上がってきた。東京においてさえ,東京の木を守る会の活動が報道に取り上げられたのは昨年の事であった。また岩手県遠野市では,製材・集成材・家具・建具などの工場コンビナートと,営業マン・設計者・工務店の協力体制によるリンデンバーム遠野を設立し,地元産材の販路拡大を図っている。もちろん遠野市で最近建設した中学校2校は意欲的な木造建築であるし,修景街区ではボードウォークの歩道を採用するなどまち造りにおいても熱心な取り組みを行なっている。
大断面材の得にくいわが国で,公共建築などに木造を導入するためには集成化が必須である。構造用材なら強度さえ保証できれば少々見掛けが悪くてもよい筈である。しかしわが国の集成材は大変美麗であり,かつ高価である。外国の構造用集成材やLVL材はその点で極めて割り切った作り方をしている。ヒノキの無節を求めるような気持ちで集成材を求めれば高くつくのは当然である。
また公共工事で,入札以前に木材の材種・数量を明らかにして予約を行なうのには大きな抵抗がある。一年以上先に確実にその通り工事が出るか,価格が約束できるか,だれが予約の責任を取るのか,入札前に発注の規模の判るような「秘密」を明らかにしてよいのかなどという危惧をもつ公共側の契約責任者は少なくない。このような入札方法では木造の公共建築は安くなり得ない。しかし建設残土の合理的利用を目的としたマニフェストシステムは,わが国の木材流通にも大いに参考に成りそうである。遠野市では学校の工事発注に先立ち用材の事前予約を行ない,妥当なコストで契約できたといわれる。公共建築で木造が高くつく事が多いのは,発注側の方にも多大の原因が有りそうである。
今回の協議会はこのような観点から,とうとうと流れ込む外材に対して,林業地の活性化と消費者の利益を両立させるため,建築から見た日本の林業環境の展望,流通の改善,山地のまち造り運動,建築関係者の木造に対する新しい観点の展開等について討議を交わしたい。
(大会趣意書)