現代農業 特別号
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2005年3月別冊 購入する
イネの有機栽培 緑肥・草、水、生きもの、米ぬか…田んぼとことん活用

有機栽培のポイントでもある除草法では深水管理、コナギ退治の2回代かき法、米ヌカ施用によるトロトロ層の活用、田の草の種類と特性を知り、アゾラなど浮き草を生かす除草などこの間の各地実践家による除草剤に頼らない方法を網羅。このほか種籾の温湯処理法、プール育苗、自家簡単交配法、多品種混植栽培も収録。

はじめに目次編集後記

別冊2005年3月号

有機農業を見る視点

有機農業=有機JAS規格?

90年代に世界的なオーガニックのブームが起こり、有機食品の販売額は毎年20%もの高率で成長し続けている。日本でも、2000年に有機農産物の日本農林規格(有機JAS規格)が制定され、「有機JASマーク」の貼られた商品が、ほとんどのスーパーの店頭に並ぶようになった。

生産する側に目をうつすと、2000年の農業統計では、減農薬や減化学肥料栽培にとりくむ農家は、販売農家の5人に1人(50万戸)にのぼり、無農薬2万7000戸、無化学肥料は3万2000戸と報告されている。しかし、有機認証を取得する農家は少なく、4600戸あまり(2004年)にとどまっている。日本では産直や提携など、生協や宅配を通じて有機農産物の市場が発展してきたため、高いお金を払ってまで、認定機関に認証してもらう必要がないからだ。

有機JAS規格以来、長年有機農業にとりくんできた農家の多くは、自分の農産物のことを「有機栽培」と呼ぶことをためらうようになった。有機認証を取得しないかぎり、「有機」と表示することが禁止されているうえ(50万円以下の罰金)、マスコミなどを通じて、有機農業=有機JAS規格という概念が、社会通念として広まってしまったからである。

世界市場の商品となったオーガニック

もともと有機JAS規格は、1999年にコーデックス総会で採択された有機農産物の国際基準に準拠している。基準の内容は、IFOAM(国際有機農業運動連盟、72年にドイツで設立)が定めた基準とほぼ同じであり、一見すると有機農家の意見を100%反映しているかのように見える。しかし、もともとコーデックス委員会(FAO・WHO合同食品規格委員会)は、各国の食品に関する立法の壁をなくし、貿易を促進することを目的とした国際機関である。つまり、基準の内容よりも、基準をつくること自体がその目的なのである。

これには、有機食品のみならず、WTO(95年発足)など世界的な農産物の貿易自由化の動きが背景にある。じっさい、日本の有機食品の市場は約4000億円と言われているが、じつはその80%を輸入品が占めている。そして、世界市場化したオーガニックはEU、北米、日本にだけ集中し、目には見えないが、より根深い南北問題をはらむようになっている。有機農業は、かつてとは大きく姿を変えつつある。

有機農業運動の起源と意味

現代的な意味での有機農業の起源は、19世紀末〜20世紀初頭のドイツといわれているが(ユーゲント運動の自然主義。シュタイナーがバイオ・ダイナミック農法を提唱したのは1924年)、直接的に、後年の運動に大きな影響を与えたのはイギリスのアルバート・ハワードである。植物学者であったハワードは、赴任していたインドの伝統的な堆肥農法を研究し、1931年に腐植の役割と有機物の利用について発表している。ついで40年には「農業聖典」をロンドンで出版した。イギリスでは、1939年にイブ・バルフォアが慣行農法と有機農法の比較試験を始め、43年に「生きている土」として発表した。バルフォアは土壌協会の設立(46年)にも参加し、初代の代表をつとめている。同じころスイスでも、教師であったハンス・ミューラーと妻のマリアが、ドイツ人の医師で微生物学者のハンス・ピーター・ラッシュとともに活動を開始した(46年)。日本では、病害虫の研究者であった福岡正信が、1938年に愛媛県伊予市で独自の自然農法を実践し始めていた。

彼らはともに科学者であり、科学的な手法に基づいて、作物、土壌を観察している。そして、化学肥料に過度に依存する近代的な農法に対して、有機物を重視した循環的な農法を提案した。

注 1911年にドイツのハーバーとボッシュが、水素と窒素から直接アンモニアを製造する方法を確立して以来、化学肥料(と火薬)が大量に生産されるようになっていた。また、1939年に、スイス、ガイギー社のポール・ミューラーが、DDTの殺虫効果を発見し、これが化学合成農薬の始まりとなった。

現在まで、ほとんどの有機農家はこれら先人の考え方を継承してきた。さらに、地球の温暖化や生態系の破壊、資源の枯渇が誰の目にもあきらかになり、現代の有機農業は、環境保全、省資源(低投入)、持続的などの意味がより強まっている。

ところが、有機農業がビジネスになり、有機農業=有機栽培基準と、農家でさえ思い込むようになると、基準さえ満たせば資材の多投もいとわないという逆立ちした現象がおきることになる。

有機農業は時代とともある

 今回、「イネの有機栽培」を発刊するにあたって、本来の有機農法の思想に立ち返るとともに、現代的な意味も考慮し、以下のような考え方にもとづいて事例を収集することにつとめた。

(1)観察や分析が科学的な方法にもとづいていること。ただし、人間の言葉や認識に比べれば、自然ははるかに複雑で巧妙にできている。すべてのことを科学で解釈あるいはコントロールできるとは考えるべきではない。

(2)できるかぎり、再生不可能な資源や資材を使わず、再生可能で豊富な資源を活用する。人間の労働力は、最も豊富で再生可能な資源の一つである。

(3)急速に生態系が破壊され、土壌が消滅していることを認識すること。豊かな生態系や土壌を未来に残すことが現世代の最大の義務であることを自覚する。

(4)自然は多様であることを知る。自然とともにある農業もまた多様であり、農家は個性的でなければならない。

(5)農家の数を減らさない。逆に、一人でもたくさんの人が作物を育て、食べ物を作るライフスタイルをめざす。

(6)有機栽培の目的の一番目に、利潤の追求をおかない。大量販売→コスト競争→国際間競争→淘汰となり、本末転倒である。

(7)同じく、安全だけを目的の中心におかない。安全だけを求める消費者ばかりになれば、輸入品でもよいということになり、結局は右と同じ結末に至る。そもそも安全な食べものを供給することはすべての農業者の当然の責務であり、有機栽培だけがそうというわけではない。

有機農業は時代の流れの中で生まれてきたものであり、時代によってどんどん変化している。その時代のあるべき農業や社会の姿を見直す運動なのである。

農文協「現代農業」編集部

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 イネの有機栽培(別冊現代農業)

有機栽培のポイントでもある除草法では深水管理,コナギ退治の二回代かき法,米ヌカ施用によるトロトロ層の活用,田の草の種類と特性を知り,アゾラなど浮き草を生かす除草などこの間の各地実践家による除草剤に頼らない方法を網羅。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

目次

カラーページ

福岡正信

古代米・混植米は野生的で強かった …… 横田不二子

菜の花で抑草 赤松富仁(撮影)

有機のイネづくりは個性的そして楽しい

田んぼの浮き草図鑑

雑草をおさえる、田を肥沃にする …… 宇根豊

田の草図鑑 草の特性を知ってつきあう …… 宇根豊

メダカ

イネの有機栽培


有機農業を見る視点

Part 1

有機物を活かす 堆肥、米ぬか、稲わら、くず大豆…を田んぼで発酵させる

緑肥稲作に挑戦!

緑肥こそが有機米づくりへの近道

東北でもつくれる緑肥はないか? …… 渡部泰之

菜の花緑肥で除草剤なし

への字の生育だから病害虫もよせつけない …… 赤木歳通

探訪 レンゲ稲作の魅力 …… 横田不二子

草生マルチ減耕起栽培法で

田んぼの生態系を豊かにする …… 日鷹一雅

あっちの話こっちの話 イネ刈り前日に播けば、春には一面のレンゲ畑、これでいいのかと心配なほど簡単なドロオイムシ防除法

不耕起直播で五石どり

愛媛県伊予市大平 福岡正信さんのやり方 …… 編集部

福岡正信のクローバー草生

米麦連続不耕起直播 …… 本田進一郎

草を生かす、草を敵としない 自然農 川口由一さん …… 本田進一郎

あっちの話こっちの話 もみがらで抑草、反当一tで効果は五年間持続 柿の皮は減農薬の強い味方

Part 2

有機物を活かす 堆肥、米ぬか、稲わら、くず大豆…を田んぼで発酵させる

有機物を活かす 米ぬか・大豆かす・牛ふんを活用した 有機稲作の苗づくりと除草 …… 平田啓一

米ぬか、ボカシ肥、炭の活用  ボカシ肥で収量が安定食味もよくなった …… 石井稔

への字稲作  堆肥、緑肥の一発元肥で有機栽培 輪作すれば肥料は不要 …… 井原豊

布マルチ直播の有機栽培法 …… 津野幸人

Part 3

冬期湛水 冬の田んぼに水を入れると生きものがあつまる草が減る

冬の田んぼに水を入れたら、白鳥が来た、草も減った …… 中村和夫

水鳥とイネと人が共生する冬期湛水水田

宮城県田尻町でのとりくみ 岩淵成紀/呉知正行/稲葉光國

あっちの話こっちの話 一本植えに向く品種を見つけよう

豊作のかげにドロオイ多発、話題をあつめた捕獲網

冬の田んぼに水をためて、トロトロ層の力を実感!

千葉県佐原市 藤崎芳秀さん 編集部

不耕起田植え  トロトロ層を冬からつくって

草をおさえる、肥料を生みだす山形県 佐藤秀雄さん …… 編集部

あっちの話こっちの話 ついに出た!田んぼの除草にカメ

自分でつくった除草機で田の草はきれいさっぱり

Part 4

生きものたちの豊かな田んぼ 合鴨水稲同時作 鯉放流稲作

合鴨水稲同時作 …… 古野隆雄

秋田県大潟村水田一八町歩

電柵なしのアイガモ農法 米ぬか・稲ワラも活用 …… 井手教義

コイ・フナ放流稲作 …… 高見澤今朝雄

コイ除草のポイント …… 大場伸一

田んぼの生きもの、ふしぎな生態 …… 宇根豊

Part 5

有機の稲つくり知恵集 種子、育苗、施肥、防除

種子 図解 イネ簡単交配法

種子 古代米もブレンド 悪天候に強い、味がいい

多品種混植米は有機栽培で力を発揮する …… 横田不二子

種子 種もみ温湯処理は塩水選開始から三〇分以内に 滋賀県 (有)クサツパイオニアファーム 奥村次一さん …… 倉持正実(撮影)

種子 図解 種もみを「パスチャライズ」 温湯処理のコツ …… 編集部

育苗 手植え苗のための 苗代のつくり方 …… 横田不二子

育苗 平置き出芽&プール育苗のやり方 …… 岡本淳

除草 除草剤に頼らない除草法 …… 稲葉光國

除草 アゾラ 草を抑えて窒素を固定 …… 渡辺巌

除草 アゾラの魅力と使いこなし …… 古野隆雄

施肥 いもち病に強くなる もみがら・ワラのケイ酸分を生かす …… 編集部

防除 香りの畦みち アゼを生きものの豊かな環境にする …… 今橋道夫

防除 自家製の酢で丈夫に いもち病も大豆紫斑病もクリア …… 新潟六郎

防除 植物で雑草をふせぐ忘れられた古代の知恵 原田二郎さん(東北農業試験場)に聞く …… 花房葉子

かこみ

雪に強い品種は?開花が長い早生種は? 編集部

自然農法の野菜づくり 編集部

鳥や昆虫は、地球上にリン酸を循環させている 編集部

ミネラルと生物 編集部

湛水中はあぜマルチ 編集部

混植米栽培のポイント 編集部

筧さんの苗代づくり 編集部

育苗期の適温 編集部

コナギと二回代かき 稲葉光國

いもち病にケイ酸 佐々木陽悦

への字兼減農薬稲作の防除は酢と焼酎と塩で 赤木歳通

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編集後記

◆去年こどもが通う幼稚園の庭に、稲の苗を植えた。大きな水鉢の中に、畑の土と水をこねて代かき。「元肥一発じゃ!」とばかり、土にかなりのボカシを混ぜる。そして古代米の苗を2本植え。
 やがて「ガスわきだ!」。嫌なにおいがして、4株植えたうち、1株がとろけてきた。「やっぱり表層施用にすべきであった」と内心思ったのだが、「大丈夫、これでへの字の生育や」とほうっておいた。ところが、こどもたちや先生から、「くさい」という苦情が続発し、とうとう陥落。半分ぐらい土を入れかえるはめになった。やっとにおいもおさまり、稲は順調に生育。やがて、穂が出て花も咲いた。「さすが古代米は強い」とばかり、あいかわらずほったらかし。
 「古代米は、ドライフラワーにすればよい」と、ウンチクを語っていたのだが、収穫が近づくにつれて葉っぱがどんどん無くなっていく。なんだかよくわからないが、虫に食われているようだ。「こんな町の中に水田害虫などいないはずだが?」と相変わらず「科学と知識」でものごとを説明してしまうのであった。やはり田んぼには毎日いかねばならない。(本田)

◆宮城県南方町の大久保芳彦さんは、家の前を流れる川で魚をとるのが趣味で、一網で30匹もとれることがあるという。鯉や鮒、ライギョもいればブラックバスもかかってくる。大きさもさまざま。この捕れた魚を有機栽培の田んぼに放す。そのようすを撮ったのが表紙の写真である。田んぼに放す魚を手にもった息子さんも、闊達でやんちゃな感じ。
 魚も人も虫も草もさまざまににぎやかに呼び込んでいく田んぼ。あれもこれもの命が生きていける場として田んぼがある。そこでは人すらも田んぼの中の一部だ。
 食の安全がいわれ、食育がさまざまに論議されているが、忘れたくないのはその食を支えるもの、自然のもつ本来のちからを尊重した農業生産が営まれていることが根本だよということ。自然のもつ多様な姿が維持されない空間には、食の安全も子育ての空間もなくなっていくという、そのことだ。(松原)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 イネの有機栽培(別冊現代農業)

有機栽培のポイントでもある除草法では深水管理,コナギ退治の二回代かき法,米ヌカ施用によるトロトロ層の活用,田の草の種類と特性を知り,アゾラなど浮き草を生かす除草などこの間の各地実践家による除草剤に頼らない方法を網羅。 [本を詳しく見る]


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