現代農業 特別号
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別冊現代農業 2010年7月号
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農家が教える 石灰 上手な使い方 生かし方

B5版 196ページ 定価1200円

 『現代農業』2007年6月号で特集された「石灰防除」の動きはその後,全国に波及。各地で試した農家の人たちからの実践報告が相次ぎ,一気に広がっている。
 本書は,そうした農家の取組の工夫と智恵を中心に,なぜ効果があるのか? また,石灰とはそもそもどんな養分なのか? 石灰にはどんな資材があり,どんな特徴を持っているのかなどを網羅。
 世界的に注目を集めている石灰(カルシウム)施用による誘導抵抗性の発現,病原菌侵入時の細胞写真など,最新の研究成果も網羅し,防除だけでなく,身近な「石灰」を上手に使いこなす技を集大成した一冊である。

はじめに目次編集後記購入する

別冊現代農業2010年7月号

はじめに

 石灰は、三要素肥料と呼ばれるチッソ・リン酸・カリに比べると地味な肥料だ。作物の吸収量は多いにもかかわらず、一般には「作物を植える前に取りあえずふっておくもの」であり、せいぜい「土が酸性だとまずいから散布しておく」といった程度の肥料と考えられてきたのだろう。

 本書はそんな石灰の常識をひっくり返す。そのきっかけは、石灰の施用が、作物栽培にとって大変やっかいな病害虫防除に役立つという、月刊『現代農業』読者の声と豊富な経験であった。

 「石灰防除」という特集が組まれたのが二〇〇七年六月号。その後、全国各地の農家から、科学実験でいえば追試ともいうべき取り組みが始まり、石灰の散布時期、散布方法、他の資材との組み合せ方などの報告が続いた。石灰硫黄合剤だとか石灰ボルドーなど、石灰を用いた一部の農薬はあるものの、石灰質肥料そのものを病虫害の防止に役立てようと考えた人は少なかったに違いない。

 石灰防除の魅力は、いつも使っているなじみの資材で病気が防げ、しかも断然安上がりなことにある。だが、それだけではない。石灰資材の種類や使い方、作物や条件によって効果の表れかたも違ってくる。実は、なぜ、石灰がそんな力を秘めているのか、はっきりした答えは今のところ見つかってはいない。しかし、数多くの事実がある。本書はその事実をさらに多くの人に伝え、もっと効果的に生かしていくために、これまでの農家の取り組みと、石灰に関する科学的知見をまとめたものである。

 石灰のもとは石灰岩。その石灰岩を作り出したのは海のサンゴたちである。紀元前に建設されたエジプトのピラミッドは石灰岩を積み上げたものだし、八世紀前後に造られた奈良の高松塚古墳の壁には、すでに石灰を用いた漆喰が塗られていた。江戸時代の農書『培養秘録』には、石灰がすでに流通していたことが記されている。


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別冊現代農業 2010年7月号
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農家が教える 石灰 上手な使い方 生かし方

目次

〈カラー口絵〉

葉の上からカキ殻をバサバサふりかける こんな症状は石灰欠乏 三重県 青木恒男さん

イネのいもち病にも効いた ホタテの貝殻石灰散布 青森県 兎内等さん

石灰散布のやり方いろいろ

株元山盛り散布 熊本県 城戸文夫さん

株元に生石灰水をかん注 千葉県 福原敬一さん

ミスト機による散布 茨城県 大越望さん

豚糞石灰にして施用 岩手県住田町

ケイカルの浸出液をかん注 千葉県 花沢馨さん

病原菌の侵入現場から 杉本琢真先生の研究

石灰質資材のpH いろいろな石灰質資材/石灰質資材のpH

はじめに

PART1 石灰が病害虫に効いた!?

【図解】なぜ効く石灰、どう使う

石灰防除 快進撃 病気が出てからも 出る前もいい!

キュウリの褐斑に苦土石灰ふりかけはタダもんじゃない 宮崎市 佐藤泰彦さん

焼成ホッキ貝の上澄み液で 茶の炭そ病を克服 宮崎県川南町 梯孝一さん

石灰を効かせたらうどんこ病に強くなった 岡山市 近藤糺さん

苦土石灰上澄み液でイチジクにダニが寄り付かなかった 大分市 永松頼雄さん

粉をまく

苦土石灰のポイントがけでキュウリの灰色かび病・疫病を防ぐ 熊本県南小国町 城戸文夫さん

コスモスの炭そ病・軟腐病には消石灰 熊本県南小国町 宇都宮徹さん

【囲み】三〇年以上前から石灰防除はやっていた 宇都宮徹さん

暖地ラベンダー苗の病害虫をゼロにした石灰 岡山市 岩部弘幸

野菜苗にも消石灰をかけてみた 岡山市 岩部弘幸

液を注ぐ

クスリ代1/90 アスパラ立枯病・株腐病は消石灰で回復 福島県喜多方市 芳賀耕平

軟腐病に効く 苦土石灰上澄み液をもっと効かせる 三重県津市 岡田侃さん

トマトの青枯病が生石灰水で止まる 千葉県鋸南町 福原敬一さん

ダイズ青立ちにカルシウム水溶液を葉面散布 富山県入善町 米原光伸さん

石灰上澄み液の作り方・使い方

【囲み】石灰上澄み液がトマトの斑点病、灰色かび病に効果 宮崎県川南町 植松正樹さん 赤松富仁

苦土石灰の上澄み液利用のノウハウ 茨城県常陸大宮市 大越望さんに聞く

【囲み】根こぶ病に炭カル懸濁液  和歌山県からの報告

粉をまく+液を注ぐ

苦土石灰ふりかけが、炭そも褐斑も葉かびも抑える 茨城県常陸大宮市 大越望さん

【囲み】上澄み液は一度作れば四〜五回使える 上澄み液の作り方・使い方のポイント

いもちの悩み 消石灰ふりかけで解消 北海道深川市 松田清隆

ホタテの貝殻石灰でいもち防除に自信 青森県七戸町 兎内等

カメムシ害や倒伏も減り野菜の尻腐れ・立枯れ・青枯れにも効く

裏技的な使い方 モグラを撃退、うどんこ病を退治 三重県松阪市 青木恒男

【囲み】私の施肥についての考え─自然の摂理に寄り添う形で 青木恒男

施肥

カルシウムが効けば病気はまず出ない 低pHの転換畑で石灰を効かせるワザ 三重県松阪市 青木恒男さん

苦土と石灰で、トマトの葉かび、灰色かびが消えた! 和歌山県紀の川市 蓬臺雅吾さん

黄化葉巻病を「湿度・水・追肥」ではね返す 鹿児島県志布志市 野口実郎さん 山浦信次

味に効く 病気に効く 豚糞石灰「グリーンパワー」 岩手県住田町から

その他

〈石灰+木酢液〉
石灰の後にトンデモナイ木酢液 前橋市 関根良穂さん

〈常識破り石灰施用〉
石灰追肥で治る リンドウの灰色かび病 福島県旧舘岩村 星久光さん

星さん、ありがとう カルシウム効果でリンドウ激変! 山形県鮭川村 佐藤弘

あえて石灰無施用にしてわかった 病気のきっかけはカルシウム欠乏 三重県松阪市 青木恒男

PART2 なぜ石灰が病害虫に効くのか?

【図解】石灰防除の仕組み

その1 病害抵抗性が高まる
その2 葉面・地表面pH上昇で静菌作用
その3 細胞壁が強化される

一〇〇人アンケート 効果があった作物と病害虫

石灰の施用は本当に病気の発生を抑えるのか? 渡辺和彦(東京農業大学)

〈石灰こぼれ話〉江戸時代の農書に著された石灰 佐藤信淵『培養秘録』

体内カルシウム濃度が高いほどダイズ茎疫病も出ない 杉本琢真(兵庫県農林水産技術総合センター)

カキ殻石灰施用でミカンの腐れが減る 田代暢哉(佐賀県上場営農センター)

ブロッコリー「花蕾腐敗病」には、カルシウムが効果あり! 中村隆一(北海道立花・野菜技術センター)

カルシウムと植物ホルモンの関係 横田清(岩手大学)

カルシウム吸収こそ健全生育のカナメ 嶋田永生(全農農業技術センター)

石灰で夏を涼しく石灰マルチで地温を下げる 鹿児島県東串良町 鶴園英信

PART3 徹底追及 石灰と石灰資材

『現代農業』に登場した農家はこんな石灰を使っていた

農家が確かめた 石灰を含む肥料の特性と使い方

石灰質肥料トコトン追求 種類・成分・性質 鎌田春海(元神奈川県農業総合研究所)

石灰 資材・病害効果・使い方 早わかり 水口文夫

石灰上澄み液のpHを調べる 杉本琢真(兵庫県立農林水産技術総合センター)

〈石灰こぼれ話〉 乾燥剤としての石灰

ベテラン農家が教える 石灰追肥のカンドコロ

pHの高い畑は「硫酸石灰」か「過石」、低い畑は「消石灰」 水口文夫

栄養週期理論による石灰追肥の考え方 恒屋棟介

「栄養週期理論」ってなに? 恒屋棟介

資材メーカーと農家が協力して確かめた
消石灰の表面施用が土に有効菌を増やし、夏の地温を下げる 編集部+潮田武(築西アグリ)

石灰の意外な使い方
石灰質資材添加で家畜ふん堆肥の電気伝導度を下げる 西尾道徳(元筑波大学)

石灰活用資料集

資料(1)おもな作物と花の好適土壌pH/資料(2)土のpHと微量要素の溶け出し方 161

さくいん

作物名さくいん
病害虫名さくいん
石灰資材名さくいん
石灰資材商品名さくいん
石灰資材の入手・問合せ先

編集後記

今さら聞けない 石灰Q&A

石灰をかけると果実が汚れるのでは?

葉焼けの心配はないのですか?

石灰は他の肥料と同時にまけるの? (答える人)青木恒男(三重県農家)

石灰をやるとなぜ土の酸性が矯正できるの?


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編集後記

◆「石灰」を電子辞書で調べていて、英語では「ライム」ということを知った。さわやかな味と香りのカクテル、ジンライムに用いるカンキツと同じ名前なのだ。「ライム」といえば、哀愁を帯びた名曲を思い出す。道化師の人生を描いたチャップリンの映画「ライムライト」の主題曲だ。はるかむかしの高校時代、これが昼休みの放送のバックに流れていた。私の青春時代のテーマ曲でもある。

 では、「ライムライト」ってなんだろう。電子辞書の国語辞典には入ってないと思いつつダメもとでキーを打ち込むと、出てきたっ。かつて欧米で舞台照明に使った石灰光だという。石灰の棒を酸水素ガス(なんのことかわからない)の炎で熱すると強い白い光がでてくる。スポットライトの意味もある。

 この本では、石灰にスポットライトを当てた。主人公に抜擢され、最初から最後までフル出演の「石灰くん」。その働きは、とにかく目覚しい。あの懐かしいグランドの線引きの石灰、そして、焼き海苔の袋におまけのように入っている石灰がこんなに仕事ができるヤツだなんて。これまでホームセンターでは「あっ、そんなとこにいたの」という片隅の存在だった生石灰、消石灰、苦土石灰の袋たちがサン然と輝き出した。

 本の編集で石灰、石灰の石灰漬けの日々を送っているころ、海外旅行マニアさんからトルコに行くという話を聞いた。旅行パンフレットには、真っ白な石灰の丘が堂々と掲載されている。「世界遺産パムッカレ」という文字が付けてあり、「石灰くん」は押しも押されぬ国際的な大スターでもあったのだ。

 働き者の石灰、目を引き付ける石灰の存在感が増すにつれ、自分の世界がこれまで以上に広がってきたのを感じている。(西村良平)

◆先日、ささやかなわが家の菜園夏の陣がスタートした。トロ箱や鉢、小さなポットが二〇個以上、狭い玄関先の隙間に並んだ。農文協の屋上菜園で実生で育てたトマト、大玉のトマト、ナス、キュウリ、マクワウリ、オクラ、ハーブなど多士済々の顔ぶれだ。今年は、大きめの鉢の中に、数年ぶりに水生植物のハスを植え、そのなかにクロメダカを放した。

 麦を植えていたプランターを整理し、土をひっくり返して有機物を補給し、石灰を混ぜた。今年は石灰が妙に偉く見えてきた。普通の肥料に比べると値段が安かったせいだろうか、袋の表示を見ることもなくふっていた石灰が、チッソやリン酸といった肥料以上の存在に思えてきたからおもしろい。

 トマトの尻腐れには毎年悩まされてきた。尻腐れは石灰が足りないせいだとされる。石灰はやっているのになぜ? 土を分析すると、結構な量が土の中にはたまっているのになぜ? わかっているようでいて、その実力を見せてくれなかった石灰が、今回の『別冊』では、農家の人たちのアッと驚くような痛快な挑戦によって、病害虫防除にいいようだ、収量も高まった、品質もアップした、堆肥に混ぜるといい…今回は、『現代農業』誌に登場する元気に触発されての一冊だ。

 石灰を「いしばい」と呼ぶ農家のおじいさんがいた。優しい響きだ。新しい研究でも、石灰(カルシウム)が世界の注目を集めている。石灰を単に土壌酸性改良だけの地位にとどめておくのは時代遅れ。そういえば、日本の建物を支えてきた漆喰やたたきも、材料は石灰だ。口蹄疫の広がり防止のためにまかれた石灰の白い地面が切ない。(西森信博)



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