現代農業 特別号
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別冊現代農業 2011年4月号
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土をみる 生育をみる 生育診断とムダのない施肥の基礎知識

B5版 196ページ 定価1200円

今回の別冊『現代農業』は,1月号別冊「肥料を知る 土を知る」の姉妹書です。
作物の生育の調子がよくない・・・初めて作る畑だけど土はそのままで大丈夫だろうか・・・などなど,家庭菜園作りにも,不安や疑問はつきもの。そこで本書は,作物が発信している生育情報を読みとる技術(生育診断)と,育つ土の診断技術(土壌診断),さらにそれらの情報(診断結果)をもとにした土壌の状態別・作物別施肥設計の考え方と方法を集大成しました。
PART1生育診断法では,目視による診断,手軽な診断の手法(糖度計診断,葉柄汁液診断:RQフレックス・PHなど)による診断,PART2土壌診断では,PH,EC,DR.ソイルなどその場でできる診断技術,フライパンによる仮比重測定,硝酸テストペーパーなどによる土壌診断の方法。PART3では,ムダのない施肥設計と施肥技術を紹介しました。
丁寧に書かれた内容は,家庭菜園愛好家だけでなく,農業関連の学生さんたちにも好評です。

はじめに目次編集後記購入する

別冊現代農業2011年4月号

はじめに

 施肥技術は、農業技術の中でも難しい技術の一つだ。土壌の条件は圃場によってまったく違うし、一つの圃場の中でさえ場所によって異なる。作物の養分吸収にも、それぞれの特徴がある。肥料の種類は多いうえ、種類によって肥効が異なり、肥効は土壌や季節によって変化する。不適切な施肥は、病害虫の発生につながる。

 優良経営農家の多くは、研究熱心かつ経験豊富であり、長年の研鑽によって高い技術を身につけてきた。しかし、そのようなベテラン農家でさえ、養分の過剰や不足によって、うまく収穫できない年がある。

 作物の生育診断や土壌診断技術は複雑でコストもかかるので、農家が個人で実施することは難しい。従来は農協、普及センター、肥料商などが実施してきたが、近年、簡便な診断器具の登場によって、自分で診断して施肥改善に取り組む農家も現われている。

 施肥改善を考えるうえで、もう一つ重要なことは、肥料の原料となる鉱物資源の枯渇である。なかでもリン鉱石は、すでに供給が逼迫し始めている。日本では、毎年二三万tほどのリンが、肥料として田畑に投入されているが、これらの原料はすべて海外に依存している。リン鉱石の生産量は、中国、アメリカ、モロッコ、ロシア、チュニジア、ブラジル、ヨルダンの七カ国で、全体の九割近くを占めており、経済埋蔵量(現在のコスト水準で採掘が可能な量)でみると、あと一〇〇年ほどで枯渇してしまうという報告もある。

 確かにリン鉱石は希少鉱物であるが、リン自体はそれほど希少な物質というわけではない。地殻中のリンの含有率は〇・一%であり、一tの土の中には約一sのリンが含まれている。また、海水一t中には〇・〇七gのリンが含まれる。地球上の生物は、これらの自然界に広く存在するリンを摂取、利用している。

 ヒトの場合、一年間に約五八〇gのリンを排泄するので、日本全体では年間六万tが排出される。また、日本の家畜のリン排泄量は、年間一一万tと見積もられている。さらに、鉄鉱石には〇・一〜〇・二%のリンが含まれており、日本では製鉄時に年間一七万tのリンが出るという。

 かつては、東アジアでは屎尿や家畜糞尿はすべて肥料として利用されていた。また、日本では魚かすや干しかなど、海から回収したリンも利用してきた。人類は、かつての東アジアのような、リンの永続的な循環利用の技術やシステムを構築する必要に迫られている。

 本誌では、作物の生育診断や土壌診断の方法、そして、土壌の条件に応じた施肥の方法についてまとめました。


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別冊現代農業 2011年4月号
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土をみる 生育をみる 生育診断とムダのない施肥の基礎知識

目次

〈カラー口絵〉

有機野菜畑のリアルタイム土壌診断 三重県 福広博敏さん(撮影 赤松富仁)

母ちゃんたちの畑の土を分析してみました 高知県四万十町 「おかみさん市」のメンバーと 技術員森澤宏夫さん

土壌断面調査のやり方 金子文宜さん 協力・千葉県八街市 小見川修一さん(撮影 倉持正実・黒澤義教)

十年以上かけて山の赤土を土壌改良してきた 岡山県新見市 国友正明さん(撮影 赤松富仁・脇田 忍)

雑草で土を診断 愛知県豊橋市 水口文夫さん/日鷹邦夫さん(撮影 皆川健次郎)

リンゴ園でリアルタイム土壌診断 青森市浪岡 斉藤篤寿さん(撮影 赤松富仁)

連続うね利用栽培 佐賀県唐津市 イチゴ栽培農家(撮影 赤松富仁)

はじめに

PART1 生育診断の方法

トマト ようやくわかってきた樹の見方 田中一成

〈あっちの話こっちの話〉
自作の穴肥器でラクラク施肥/米ぬか+魚のアラ肥料でおいしい野菜

篤農家のトマト生育診断法

若梅健司さん(千葉県)
養田 昇さん(埼玉県)
伊藤 健さん(茨城県)
坂田丈夫さん(埼玉県)
西出隆一さん(石川県)

糖度計診断 ベテラン農家の診断法と手の打ち方

ナス 中水 亙さん(鹿児島県)
イチゴ 森作芳樹さん(茨城県)
ジャガイモ 上野一郎さん(北海道)
トマト・キュウリ 峯野 進さん(和歌山県)
キュウリ・トマト 川南善明さん(滋賀県)
スイカ 門脇栄悦さん(山形県)
キク 寺田洋人さん(鹿児島県)

作物の生理のリズムと、月の運行のリズムが重なる 片山悦郎

ピーマンの種播きは満月に、定植は新月に 長谷川裕之

リアルタイム栄養診断でトマトの樹勢をコントロール 星 和幸

葉柄の硝酸濃度で、ミカンの施肥量が判断できる 杉山泰之

糖度計でわかる果樹の状態と今年の生育 片山悦郎

スモモ・ブドウ 新梢診断と樹相の改善方法 小川孝郎

PART2 土壌診断と施肥の方法

【図解】菜園母ちゃんたちのpH・EC診断 福井県池田町
「一〇一匠の会」の母ちゃんたちと 辻 勝弘さん イラスト・トミタイチロー

【図解】どこの土を採る? 土壌サンプル採取法 イラスト・トミタイチロー

【図解】フライパンで土の物理性(仮比重)を測る イラスト・トミタイチロー

雑草の種類や姿で土壌診断 水口文夫

母ちゃんたちの畑の土を測定してみました 高知県四万十町 森澤宏夫さん

有機栽培でもリアルタイム土壌診断 三重県 福広博敏さん

生育中にリアルタイム診断 根域全体を土壌分析して対策をたてる 岡林俊宏

土と作物の変化を測定する 和歌山県御坊市 山本 賢さん

粘土から見た土壌のタイプと耕し方 有原丈二

五年かけて土を壊し、十年かかって直した 長野県堀金村 青柳 強さん

土壌診断 農家自身が分析値を読めるように (有)上ノ原農園土壌環境技術研究所 池上洋助さん

土壌診断・施肥改善の進め方 池上洋助

ジャガイモ畑の施肥改善 単肥配合で大幅コストダウン 鎌田吉博

土壌診断の基礎

土壌の種類と土壌診断 鎌田春海
サンプリング(採土) 鎌田春海
三相分布 金子文宜
仮比重 金子文宜
仮比重と三相分布の測定 梅村 弘
土壌水分 本田宏一
土壌pH 安田典夫
電気伝導度(EC) 安田典夫
リン酸吸収係数 安田典夫

土壌診断と施肥の方法

腐植 青山正和
陽イオン交換容量(CEC) 八槇 敦
塩基飽和度 山田 裕

塩基飽和度と塩基バランス 藤原俊六郎

土壌診断における基準値 郡司掛則昭

リアルタイム分析器具の特徴と使い方 後藤逸男

リアルタイム栄養診断・土壌診断の実際 山田良三

PART3 おもな野菜の施肥法

トマト ナス科 青木宏史

ナス ナス科 福田敬・石橋泰之

ピーマン ナス科 小野 忠

ジャガイモ ナス科 東田修司

サツマイモ ヒルガオ科 武田英之

エダマメ マメ科 高橋能彦

インゲン マメ科 前原隆史

エンドウ マメ科 福元伸一

キュウリ ウリ科 稲山光男

スイカ ウリ科 高橋英生

メロン  ウリ科 久保研一

カボチャ ウリ科 前原隆史

白菜 アブラナ科 池羽正晴

キャベツ アブラナ科 松崎守夫

小松菜 アブラナ科 益永利久

大根 アブラナ科 大薗正史

ホウレンソウ アカザ科 宗林正

ニンジン セリ科 藤崎成博

スイートコーン イネ科 戸沢英男

ネギ ユリ科 池澤和広

玉ねぎ ユリ科 西谷国宏

ニンニク ユリ科 大場貞信

ショウガ ショウガ科 青木宏史

アスパラガス アスパラガス科 多賀辰義

ゴボウ キク科 本田宏一

サトイモ サトイモ科 林 英明

おもな作物の施肥量の目安(例)


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編集後記

◆農産物の関税撤廃が議論されているが、農産物は、工業製品とは異なる以下のような性質をもっている。(ただし、以下の事柄は、稲、野菜、果樹など農産物の種類によってやや異なる)。

 (1)天候による豊凶があり、供給量が不安定である。極端な供給不足は、生存にかかわる。

 (2)農産物の需要量は人口でおおよそ決まるので、需要曲線はほぼ垂直になる。完全自由市場では、供給量のわずかな変動で価格が乱高下し、社会不安に直結する。

 (3)生産手段(土壌、水)が世界的に偏在し、その取得について自由な競争が制限されている。また、生産手段の取得を完全に自由競争にすると、アマゾン開発のように、未開地の環境破壊に向かってしまう。

 (4)堆肥を投入して土作りをしても、効果が現われるのは数年後である。短期利益を求める協業的経営(国営農場、人民公社、株式会社等)では地力収奪的経営が優占され、土壌の疲弊を招く。長期的には、自作農(家族農業)が最も生産性が高い。

 (5)世界の農業は自作農(家族農業)が基本的な経営形態であり、また、農産物は工業製品に比べて技術革新の速度が遅い。そのため、不作年以外は需要と供給が常に競争均衡する。さらに、食料品は長期保存できないため、価格が生産費を下回っても供給が減らず、価格が下げ止まらない。

 なお、大規模経営に対する直接支払い制度にも、以下の問題がある。一九九〇年代に欧米先進国は価格支持政策から直接支払い制度に移行したために、小麦、トウモロコシの国際価格が下落した。現在、餓死者がでるほどの最貧困国はアフリカの農業国に集中しているが、これは、穀物価格の低迷によって、アフリカの農業経営が破壊されたからだ。

 一方、アジアでは、米価が安定していたために、すべての貧困国が農業国から軽工業の段階に進むことができた。アジア諸国が最貧困から脱する(購買力が増す)ことは、長期的には、日本の製造業にとって利益になる。穀物価格を適正に維持することは、ODAよりも効果が高い。(本田進一郎)

◆上手に野菜を育てている人の真似をして同じように手をかけているつもりなのに、ちっともうまくいかない……。子育てと同じで、マニュアルがあるようでないのが、命を育て、次世代につないでいく農業。

 作物を育てる土、そしてそこに育つ作物、一見同じように見えるが、じつはとても個性的。赤い土、黒い土、軟らかい土、硬い土、きめ細かな土、粗い土など、土の条件が違えば打つ手も違う。また、土の上に育つ作物はその時々に、自分が育っている場の情報を、姿や色、つやなどを通じて発信しています。

 本書のタイトル「土をみる 生育をみる」の「みる」という言葉には、「診る」、「観る」、「見る」の思いを込めました。ベテラン農家に学びながらそのシグナルをキャッチする術(生育診断)、自分の土がどんな状態にあるのかをしっかりとつかんでおくための技(土壌診断)、そしてその診断結果をもとにしていかにムダのない施肥をするかを、昨年末に発行した別冊『現代農業』「肥料を知る 土を知る」の姉妹書として集大成した一冊です。

 世界的に見ると食料高騰が続き、一方で自然の破壊が進み、異常気象が頻発しています。本書は「みる」技術を追求した中身ではありますが、家庭菜園や自家用野菜畑に育つ作物を通じて、「世界」を感じ取っていただければと願っています。(西森信博)



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