月刊 現代農業
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巻頭特集
西恒美さんが在来種から固定しようとしている赤ダイコン
西恒美さんが在来種から固定しようとしている赤ダイコン
岩崎政利さんの晩生長崎白菜の花(128ページ)
岩崎政利さんの晩生長崎白菜の花
もっともっと自家種を採ろう

タネ採りすると見えてくる、作物の本当の姿、生かし方。
ニンジンにもダイコンにもいろんな菜っぱにも、花を咲かせてタネを採ろう!

美味しいタカナの浅漬けはタネ採りのおかげでできる

熊本県人吉市・西 恒美さん


理想のタカナを求めて山村を訪ねる

 ピリッと辛みが美味しくて、あくが少ない。多肉で多収、抽苔が遅く、耐寒・耐暑性が強くて鮮やかな緑色――。

 これが、西 恒美さん(68歳)の求める理想のタカナ・カラシナの条件だそうだ。それが、すらすらと口上のように出てくるところからも並々ならぬ思い入れが伝わってくる。

 以前は陶芸に、そして寒ランに凝ったこともあった。もともと何でも凝る質だそうだが、農業高校の教員を退職してからは、すっかりタカナ・カラシナおたく。売りに出せば数万円になっただろう寒ランは、家の裏で枯れ上がっている。

 畑30a余りと減反田20a。ここに、タカナ・カラシナだけでこれまで20品種以上つくってきた。理想の条件に合わせて一時に比べれば品種は絞ってきたが、いまでも10品種以上はつくっている。どれも固定種だからタネは自分で採れる。

 収穫したタカナ・カラシナは浅漬けにして、人吉市内のスーパーの中などに設けられた「ふれあい市」4カ所に並べる。奥さんの悦子さんとムリはしない程度にやっているというが、年間の売り上げは100万円を軽く超えるほどになった。

 タカナといえば、このへんじゃふつうは三池高菜のことだ。畑から抜いてきたのをそのまま塩で漬けて何カ月もおいた古漬けを、油炒めにしたりして食べてきた。だが直売所に並べるには、1品種の同じ漬物ばかりじゃ消費者も飽きてしまう。

 年寄りの話を聞くと、昔のタカナはもっと辛くて美味しかったという。菜っぱは交雑しやすい。タネ採りを繰り返すあいだに味も変わってきたのだろうか。かつてのような辛いタカナ、古い品種を求めて、西さんは時々、九州各地の山村を訪ねてきた。一方、とくに若い消費者は、くすんだ色の古漬けよりももっと色鮮やかな漬物を求めていることもわかった。

 いろんな味を楽しんでもらうために品種を増やす。そして、それぞれの特徴を味わってもらいながら色の鮮やかさを出すには、古漬けより浅漬けだった。

西 恒美さん、悦子さんご夫妻。
西 恒美さん、悦子さんご夫妻。悦子さんが持っているのは、恒美さん作製のタカナ・カラシナの有望品種の一覧。上のほうの色がついたものほど有望
辛みがあって浅漬けにしても緑色が鮮やかなセリフォン。
辛みがあって浅漬けにしても緑色が鮮やかなセリフォン。西さんの一番のお気に入り
芥子高菜。
芥子高菜。辛みが強くて美味しいが、収穫するとすぐしなびたようになるのが欠点

浅漬けで売るのに一番の品種はどれだ?

 一般につくられている三池高菜は、寒くなるとアントシアンがよく出て赤みを帯びるが、この特徴は浅漬けにするにはあまりよくない。古漬けにするなら、酸化抑制に働くアントシアンはむしろ好ましいけれど、最近の消費者は青々した一夜漬けのほうを好むからだ。それゆえに西さんは「鮮やかな緑色」の品種を求めてきた。

 緑が鮮やかなのは大葉高菜だ。だが大葉高菜には辛みがないので、メインの品種にはならない。

 辛みが美味しいタカナには、隣の宮崎県の西小林で見つけた芥子高菜があるが、これは収穫するとすぐしなびたようになってしまって、浅漬けにしたときの見栄えも今ひとつ。

 やはり宮崎県の西郷村で分けてもらったイラカブ(タカナの仲間)は、とくに辛みが強くて美味しいうえ、茎元からポキポキとよく折れるので収穫の手間がラクという利点がある。寒さ暑さに強いので端境期の収穫も可能。とくに6〜10月は、珍しさもあって浅漬けが飛ぶように売れる時期なので、少しでも暑さに強いのは大きな利点だ。しかしイラカブも、アントシアンの出る株がときどき交じる。

 またイラカブは、繊維が多くて硬いという欠点がある。芯に近い、軟らかい部分しか使えないので、収穫の手間のわりに商品化率が下がってしまうのだ。

 もともとは沖縄産のしま菜も、辛みがあっておもしろいタカナだ。これは逆に軟らかいので、手でさっともんだだけで漬物のように食べられる。しかしトウ立ちが早いのが欠点。冬のあいだはもちろん、4月まで長く収穫するためには、抽苔の早い品種はあまりたくさんつくれない。

 抽苔が遅いうえに多肉・多収という点で西さんが気に入っているのは三池大葉ちりめん高菜だ。一方、こぶ高菜はあくが少なくて美味しいという点でお客さんに人気がある。西さんが中心品種として考えているのは、この三池大葉ちりめんとこぶ高菜、地域で一般的な三池高菜、それに辛みの美味しさが気に入っているセリフォンだ。セリフォンは中国野菜が由来のカラシナで、アントシアンが少ないので、浅漬けにしたときの緑色も鮮やかになる。寒さや暑さに強いのもうれしい。

美味しい浅漬けを売るには自家採種

 台風や干ばつの被害で夏のあいだに途切れない限り、西さん夫婦は1年中タカナ・カラシナの浅漬けを販売している。タネを播かないのは、播いても寒くて芽が出ない1月下旬から2月いっぱいまで。3月に入れば、トンネルをかけて播き始める。多いときは一週間おきくらいにタネ播きしている。穫れすぎて、浅漬けで売るには余るときは、塩を多くして古漬けにして売ればいいのだ。

 これだけしょっちゅうタネ播きするには、自分でタネ採りしたほうがタネ代がかからなくていい。それに浅漬けで売るには軟らかいほうがいいので、西さんは15cmくらいの幅でバラ播きしている。ウネ幅も35cmと狭いので、ふつうよりだいぶ密植だ。条播きに比べるとタネの量は4〜5倍いるので、なおさら自分で採らなくては損だ。

 6カ所に分かれている畑には、それぞれ2〜3種類ずつタカナ・カラシナがつくってある。年が明ける頃になると、今年はどの品種のタネを採ろうかなと西さんは考える。タネを採る株は、生育旺盛な株よりやせ細ったような株がいい。こういう株は、抽苔が早いうえ花がパッと咲いてパッと散ってしまう。花が咲いている期間が短いと、同じアブラナ科どうし交雑するおそれが少なくなるし、タネも早く採れるからだ。畑の中でも、よく乾燥する、肥料の効きも悪いような端のほうにある目的の品種を選んで、薄い板を立てて目印にしておく。

 タネ採りしようと決めた品種は、ウネ数メートル分残して花を咲かせる。古くなって発芽率が落ちても、芽が出るタネがある限りタネはまた採れるから、一度にたくさんタネ採りしておく。

タカナはダイコンとは交雑しない、
コマツナとも交雑しない

 タカナやカラシナはお互いに交雑するから、タネ採りは1つの畑で1品種がふつうだ。こうなると畑が6カ所に分かれていることが都合がいい。採ったタネは、よく乾燥して牛乳パックに入れて家の中においておけば、少なくとも2年は発芽率が落ちることはない。だから一年おきにタネ採りすれば、6カ所の畑で12品種のタカナ・カラシナのタネを採り続けられる計算だ。2年に一度タネ採りすれば、毎年採るのに比べて交雑の危険が半分になる利点もある。

 実際には、近所の畑も気にしないといけないので、必ずしもそのとおりいくわけではない。その代わり、春になって肥料の効き方によっては開花が遅れる品種も出てくるので、1カ所で2品種採れることもある。10品種くらいタネを採り続けることは難しいことではない。

 また、同じアブラナ科なら何でも交雑するというわけでもない。たとえばタカナやカラシナはダイコンとは交雑しないし、コマツナとも交雑しない。染色体の数が違うからだそうだ(表)。西さんは、人吉市から川辺川をさかのぼったところにある五木村の農家に分けてもらった在来種五木赤大根のタネ採りもしているが、たとえば、こぶ高菜のタネと五木赤大根のタネは同じ畑からでも採れる。

同じアブラナ科でも染色体数が違うと交雑しにくい
芥子高菜。
 ※同じn=10でも開花時期がずれると交雑しにくい。
  たとえば、コマツナは開花が早いが、タアサイやチンゲンサイは遅い

たくさん採れたタネで周年栽培に挑む

 タカナやカラシナの浅漬けが「ふれあい市」でよく売れるのは6〜10月だ。なにしろ夏にタカナを出せる人なんて、周囲にはほとんどいない。夏の最盛期は、朝8時・午後1時・夕方4時と1日3回出しても、浅漬けを並べたコンテナは空になる。それこそ飛ぶように売れるのだ。

 しかし夏にタカナをつくるには、雑草と暑さ対策が問題だ。夏でも比較的水分の多い減反田は草に悩まされるし、逆にカラカラに乾燥する畑のほうはトウ立ちで困る。「教科書」には、低温に遭って日長が長くなるとアブラナ科は花芽分化するとある。だが、夏の干ばつに遭ったりチッソが切れると、たとえ芽を出したばかりでも花芽分化が始まってしまう。草丈が10cmにもならないうちに花が咲いてしまうことがあるのだ。同じアブラナ科でも、周年栽培できるよう品種改良の進んでいるコマツナと違って、夏のトウ立ちは厄介な問題だ。

 乾燥しないように水を多くやれば今度は病気が心配だし、チッソを切らさないように肥料を多くやると辛みが出なくなってしまう。以前には、緑色の鮮やかな大葉高菜を、暑さよけのためにナスのあいだの通路に播いて成功したことがあった。しかしこれは作業がやりにくい。

 品種を選ぶなら、セリフォンやイラカブは硬くなりやすいものの暑さには比較的強い。また他の品種だって、雑草に負けたりトウ立ちしたら播き直しすればいいと思えばつくれないことはない。なにしろタネは十分ある。

 昨年の6月は、黄芥子菜のタネが大量に残っていたので、5aほどの面積に何十リットルものタネを、肥料をまくようにバッサバッサとバラ播きしてみた。いつも草が多くて困る減反田だったが、畑一面ビッシリ芽を出して草を抑えてしまった。黄芥子菜どうしもお互いに競争して生育の早い株だけが残り、ちょうどいい具合の密植状態になってうまくいった。ときにはこんなことができるのも自家採種の利点。タカナ・カラシナは、数メートル分ほど株を残しただけで、何ヘクタールもつくれるほどのタネが採れる。

タネ採りしてつくる、次なるヒット商品

 西さんが、タカナ・カラシナの浅漬けに次ぐヒット商品化をねらっているものに、赤ダイコンの甘酢漬けがある。赤ダイコンは宮崎県の椎葉や米良でも見たが、その赤さでは五木赤大根が際立っている。

 だがタネを採って畑に播くと、根が丸いものや、赤というより紫色のもの、外は赤いけど中は緑色とか様々な特徴のダイコンが出てきて、品種が固定していない。表面は鮮やかな赤、中も赤いしもふり状、葉っぱも赤くて花は桜色――こんな赤大根を畑で選んでは交雑しないところに移植して、品種をある程度固定することをめざしている。

 もう1つ考えているのは、かつお菜というタカナと別の辛いタカナとの交配だ。かつお菜は、かつおだしに似たうまみに加え、軟らかくてアントシアンが出なくてトウ立ちも遅いという長所があるのだが、辛みがない。そこで他の辛い品種とわざと交配させてから選抜して、理想の品種をつくろうというわけだ。

 西さんがタカナ・カラシナに夢中なのは、どうやら浅漬けが売れるからだけではない。タネ採りのおもしろさもあるようだ。


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