糖度計診断と酢散布で、
病気の少ない苦くないキュウリ福島県須賀川市から
◆編集部
「上から3枚目の展開葉の葉柄と親づるとの角度がこんな感じで45度なら病気が出にくい樹だよ」と水野さん(撮影はすべて赤松富仁) 病気の1番の原因は株の栄養状態の低下
病気が出るにはいくつかの条件があるといわれている。
ひとつは、病原菌や胞子の数。もうひとつは、温度や湿度などの環境。そして、株の栄養状態だ。
このうち、最も大切なのは株の栄養状態で、これがよければ、あとの2つの条件があっても病気は防ぐことができる。――そんな考え方でナスやキュウリの病気を減らし、農薬を減らしているのが福島県須賀川市の佐藤健一さんたちだ。
佐藤さんたちは、株の栄養状態を樹姿と糖度計によって診断、悪い状態をいい状態に直す手段として、「酢」をかけている。この「生育診断」と「酢による樹体調整」のおかげで、佐藤さんたちの農薬散布回数は少ない(佐藤さんの無加温ナスは殺菌剤ゼロ)。しかも果梗に近い肩のところも苦くない、甘味のあるキュウリがとれている。減農薬に挑戦しだしたが……
水野正仁さんはそんな仲間の1人だ。3〜7月どりの施設(18a)と、7〜9月どりの露地でキュウリを栽培している。
水野さんは、5〜6年前、出荷している農協(JAすかがわ岩瀬)から「ハウスで減農薬栽培のブルームキュウリをつくってみないか」と誘われた。これは市場からの要請であり、農薬散布回数は期間中16回と制限されていた(タネはすでに種子消毒されているので播種時点で1回としてカウント、複合剤は2回としてカウント)。減農薬栽培に取り組むとすれば、これまでに比べて農薬散布回数を半分くらいに減らす必要があったが、特別な栽培であるため、通常栽培のキュウリより値段が1本3円高いのが大きな魅力だった。それに、地域には農薬をバンバンかけて多収する人もいたが、そういう行き方はしたくないとつねづね思っていた。
水野さんは、さっそく品種をブルームレスキュウリからブルームキュウリ(穂木グリーンラックスU、台木おやこ)に替え、栽培をスタートしてみたが、どうもブルームレスキュウリの頃に比べてベト病に弱く、「減農薬でやるのは難しい」と感じていた。そこで、同じ市内で「健康とおいしさ」をテーマにナスやキュウリを栽培する佐藤健一さんに相談、「生育診断」と「酢による樹体調整」を勉強しだしたのだった。灰カビ発生株の糖度2.6度、健全株4.2度
そんな水野さんのハウスに、4月上旬、おじゃました。親づるの摘心もすませ、ちょうど10日前から収穫が始まったところだった。
「今年は追肥を多めにくれたから、栄養生長に走りすぎかな」
見ると、中段から上の節間がツーッと伸びている株がある。水野さんは、いつも測っている、上から数えて3本目の巻きづるの先端の糖度をさっと測った(ふだんは午前十時に測るがこの日の計測は午後3時ごろ)。
「3度だね。2〜3日おきに測ってるんだけど、前回まではずっと4度だった。3日間天気悪くて今日カッと晴れたから株が弱ったのかな」
「カラスが天井ビニールに穴を開けたせいで雨水が落ちるところがあって、そこに灰カビが部分的に出ちゃったんですよ」
灰色カビ病が出たというそのウネの株で巻きづるの糖度を測ってみると2.6度、それに対し健全な株の巻きづるの糖度は4.2度。見た目では灰カビの出た株と健全な株の違いはよくわからないが、明らかに数値が違う。このことをどう見たらいいのだろう?
水野さんのキュウリ。葉脈が盛りあがり波打ったよい状態に見えるが……。クスリは苗のときから2回しかかけていない 上から3本目あたりの巻きづるの先端で糖度を測る(いつも10時ごろと決めている)。4度ぐらいであれば病気は出にくいという
苗床も元肥もチッソ控えめ 佐藤さんや水野さんたちの作物栽培に対する考え方の基本は、「栄100養生長と生殖生長を見極める」ことだ。ごく簡単にいえば、身体をつくる期間である子どものときと、子孫を残していく期間である大人のときの必要な栄養を分けて考え、施肥をする。具体的には、とくに子ども(苗)のときには栄養(チッソやカリや水)を与えすぎず、足腰(根)をしっかりつくるために、化成のチッソはゼロでスタートし、水も極力控える。
水野さんのばあい、苗を落ち葉と米ヌカと山土だけの床土で育て、元肥チッソも有機質肥料のみで35〜40kgと、チッソはゆっくり控えめに効くようにしている。巻きづるの先端糖度4度を保てば病気に強い
すでに30年ちかく、巻きづるの糖度を測っている佐藤さんはいう。
「経験的に、巻きづるの先端の糖度が4度から4.5度くらいだったら健康な状態だね。病気も出にくい。ところがこれが6度以上に上がってくると、成り疲れからくる心止まりのばあいと、チッソ過多のばあいと両方あると思う。反対に3度以下に下がってきたら、これは完全に栄養不足、株が衰弱してる状態。糖度が上がりすぎても下がりすぎても病気が出やすい」糖度計は糖分(C)とチッソ(N)のバランスを見る
佐藤さんは、糖度が同じ6度でも、キュウリの栄養状態にふた通りあるという。糖度計診断については本誌でたびたび紹介してきたが、糖度計で測られる糖度とは、いったい何を測っているのか、佐藤さんのいうことはどういうことなのか、「巻きひげで野菜の健康診断」という記事(1985年7月号)を書いていただいたことのある元高知大学の加藤徹先生にたずねてみた。
「巻きひげの汁液の中には糖分とアミノ酸が含まれている。株の栄養状態は適度の糖分とチッソが含まれていることが大切で、チッソも糖分も多すぎたりしてはいけない」
「たとえば、糖度が高すぎるとき、糖分だけが高くチッソが少ないばあいは心止まり状態だと思います。そうでなくチッソだけが高く糖分が少ないばあいは軟弱徒長の状態だと思います。どちらにしても病気が出やすい状態だと思います」
つまり、糖度計の糖度は、蓄積養分としての糖分(炭水化物、炭素:C)と、吸収されたチッソ分としてのアミノ酸(チッソ:N)の両方を測っていて、同じ糖度が高いばあいでも、まったく違った栄養状態であることが考えられる。いずれにしても、糖度が高すぎたり低すぎたりするのは、病気が出やすいと考えてよさそうだ。巻きづるの味や葉柄の角度でも診断
ただし、「糖度は糖分とアミノ酸の和」であると単純に考えてしまってはいけないばあいもあるようだ。このため、水野さんたちは、この糖度計診断に、樹姿を見ての生育診断を重ね合わせて最終的に株の栄養状態を判断する(図1 水野さんたちのキュウリの栄養状態診断と病気発生、その対策)。水野さんは2〜3日おきに巻きづるの糖度を測るほか、上から3枚目の展開葉の葉柄と親づるとの角度を見る。佐藤さんは巻きづるを毎日かじって味をみる。仲間の1人、常松義憲さんは、ハウスの中に「標準木」なる株を決め、10日ごとに写真を撮って、巻きづるの糖度や味、樹姿の関係をつぶさに見る。
栄養状態をよくしてからクスリをかける
病気が出るかもしれない――水野さんたちは、そう判断したとき、株の栄養状態をいい状態に直すために、「酢」をかける。農薬をすぐさまかけるのでなく、「株の栄養状態をよくしておいてからかけたほうがクスリが効く」という考えだ。
米酢、玄米酢、ストチューを使い分け
使う酢は米酢、玄米酢、米酢と黒砂糖発酵液と焼酎の混合液のいずれか。混合液はストチューと呼んでいる。
米酢はチッソ過剰のときに使う(後述)。玄米酢はより強力にチッソ過剰を正したいときに使うこともあるが頻度は少ない(値段も米酢の2倍する)。ストチューは最も使う頻度が高く、葉面散布に使うほか、1週間おきの定期的なかん水に液肥と混ぜて、「元気づけ」のために使う。
ストチューは、民間業者によって考案されたもので、酢単体よりも葉の光合成を促進するといわれ、水野さんたちは、これをめいめい手作りしている(作り方は図2 水野さんたちのストチューのつくり方)。酢でチッソが抜ける
「節間が常にタバコの箱の高さで伸びていくのが目標なんだけどね」と水野さん。栄養が過多でも不足でも節間は揃わない(上)水野さんのキュウリは酢でチッソ過剰を正しているせいか、果梗に近い肩のところが苦くない(下) 使い方はおおまかに次のとおり。
巻きづるの糖度が高く、チッソ過剰だと判断、軟弱生育になって病気に弱い樹になっているなと思われたとき(図1の右枠の状態)には、米酢(もしくは玄米酢)を500〜1000倍でかける。すると「朝かけると夕方には葉色がさめて」、病気が出にくい若竹色でテリのある葉っぱに近づく。佐藤さんはこのことを、「チッソが抜ける」と表現し、おそらく硝酸態チッソ(硝酸)の消化が進んでいるのだろうという。酢を散布すると、チッソの消化(代謝)が進むようなのだ。
また、巻きづるの糖度が高くても、成り疲れしているとき、または巻きづるの糖度が低いとき(図1の左枠の状態)には、チッソ不足であるから、ストチューの500〜1000倍液に3要素が入った液肥(尿素を使うこともある)を混ぜてかける。こうするとチッソも補給されて、キュウリは生育がよくなる。
さらに、先にも書いたが、ストチューは液肥を加えて1週間おきにかん水チューブから流す。こうすると、微生物が繁殖、根が微生物にガードされ、よく伸び、液肥も効きやすくなるという。
今のところ(4月上旬時点)、水野さんは、酢の葉面散布こそまだしていないが、1週間おきにストチューと液肥のかん水をしている。その結果、農薬使用は、1月半ばにタネ播きをし、2月中旬の接ぎ木時に「ダコニール」、3月下旬の定植時に「アドマイヤー粒剤」、4月に入って灰カビ防除のための「ビスダイセン」の4回(種子消毒を1回として計算)。健全なスタートといえそうだ。酢はベト病増やす!? ストチューは虫を呼ぶ!?
ただし、酢の使い方には注意が必要だ。
キュウリが栄養不足になっているばあい(図1の左枠の状態)、米酢や玄米酢を単体でかけると、「1発でベト病を増やす」という。酢はチッソの消化を進めるため、ますますチッソ不足の状態にしてしまい、株の衰弱からベト病を呼んでしまうようなのだ。これを防ぐには、栄養不足のときには酢単体でかけないこと。また、糖分が添加されているストチュー1000倍液をかん水チューブで流して根を伸ばし、養分吸収力を回復させたりするといいようだ。
さらに、黒砂糖が生の状態のストチューは、アシナガバチなどの虫を呼ぶばあいがある。黒砂糖を発酵させていれば、糖分の吸収が早いせいか、そんな心配は少ない。 なお、米酢やストチューを農薬と混ぜたくなるが、混ぜられないばあいも多く、水野さんたちは基本的には混ぜないようにしている。まんじゅうよりキュウリくれ
さて、このやり方をすると、病気が減るばかりか、味もよくなってしまう。
チッソの消化が進み、硝酸が落ちて糖分がのるせいだろうか、水野さんのキュウリは、果梗に近い肩のところが苦くない。ふつうこの部分は、「チッソ過多、水分・温度・日照不足、肥料不足のばあいに苦味が出やすい」とされる。つまりキュウリの代謝がわるいと苦味が出やすく、調理のときには切り落とすことも多い。ところが水野さんのキュウリは果梗の付け根のところからボリボリとおいしく食べられる。
そのせいか、水野さんのキュウリは人気がある。自宅で曲がりキュウリを売っていたところ、けっこう固定客がつき、なかには「おいしいから5月の節句に孫に贈りたい。まんじゅうや柏餅よりこのキュウリのほうがいい」という人まで出てきた。
水野さんたちにとって、農薬を減らし、おいしいキュウリをつくるために、米酢やストチューは欠かせないものだ。
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