月刊 現代農業
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穴掘りの達人、吉沢栄一郎さん
穴掘りの達人、吉沢栄一郎さん。豪雨でも湿害をまったく受けなかった伊東さんの畑を掘っているところ(写真はすべて赤松富仁撮影)
露地野菜畑の場合

大雨に強かった畑と弱かった畑の耕盤に違いはあるか?

――長野県野辺山地区より

編集部

集中豪雨でやられた畑は耕盤が問題!?

伊東大作さん(奥)と吉沢さん
伊東大作さん(奥)と吉沢さん。穴を前にすると、機械の深さや耕盤の位置など、いろいろな話が出てくる

 昨夏7月末、長野県野辺山の高原野菜産地にとんでもない集中豪雨が3日間降り続いた。7月だけでなんと400mm以上、年間降雨量の4分の1の量が降ったことになる。湿害を受けた畑も多く、雨の後の約3週間は、農協の集荷数も激減。レタスではそれまで1ケース(10kg箱)1000円を切っていたところが2800円に跳ね上がった。

 こんな時にしかし、品物が出せる畑と出せない畑がある。豪雨に強い畑と弱い畑の違いはいったい何なのか? ここにも耕盤が関係しているのか――。 

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 耕盤探検隊はその辺りのことを知りたくて、11月2日に野辺山へ向かった。

 心強いことに野辺山には穴掘りの達人がいた。JA長野八ヶ岳の営農指導員、吉沢栄一郎さんはこれまで土壌調査のためになんと1200以上の穴を掘ってきたという。吉沢さんと一緒に、若手農家・伊東大作さん(37歳)の畑を掘らせてもらうことにした。伊東さんのところには、7月豪雨の影響を見事に受けてしまった畑とまったく受けなかった畑があるという。どちらも火山灰土の黒ボクで、粘土の強い土壌だ。

よかった畑にも耕盤はあった 問題はその高さ!?

図1 土壌硬度
(大起理化工業の貫入硬度計で測定)
土壌硬度
10kgf/cm2の硬さが水を透しにくくする硬さ。強かった畑は22cmで弱かった畑が18cm。
ちなみに、貫入硬度計10kgf/cm2の硬さは、断面に挿して測る方式の山中式硬度計だと20mmの硬さに換算できる

 最初に掘った畑はまったく影響を受けなかった圃場(次ページ参照)。「あの雨のときはレタスを作っていたけど、玉太りもよくて、バシバシと収穫できましたね。信じられないくらいで、自分の能力の100%以上のできだったですね」。収量は平年でも普通の人が400ケースのところ、ほぼ秀品で500ケースはとれた畑だ。

 さっそく、スコップを入れると上層は軟らかく、サクサクと簡単に掘れる。だが、20cm下あたりから急に硬くなった。「これが機械による耕盤ですね」と吉沢さん。なんだ、雨に強かった畑にも耕盤はあるんじゃないか。――解せない顔をしている耕盤探検隊に吉沢さんは、「耕盤の高さが問題なのかもしれません」と話し始めた。

 吉沢さんは平成15年の大雨が降った年、野辺山の畑を何十カ所も掘って調査したのだそうだ。物理性を見るために貫入硬度計も使って測定したら、生育の悪かった畑では耕盤が高い位置(浅いところ)にできていて、よかった畑では低い位置(深いところ)にあることがわかった。ここで吉沢さんが耕盤と見なしているのは、硬度10kgf/cm2を超える深さのこと。この硬さになると水が透りにくくなる。平均値をとってみると、その位置は悪い畑が地表面から16cmで、よい畑は22cm。

 今回掘った畑は、平成15年によかった畑と同じ、上から22cmのところに10kgf/cm2の硬い層があった。

影響を受けなかった畑 湿害に弱かった畑 湿害に強かった畑
影響を受けた畑
色の付いた棒を、だいたい同じ力で挿してみた。軟らかいと奥まで刺さり、硬いところは手前に残る。影響を受けなかった畑(上)は、緩やかに硬くなっていく感じだが、影響を受けた畑は18cm下あたりから急に硬くなっている感じだった 湿害に弱かった畑。断面はややのっぺりした感じ。掘ってみると、15cmくらいまでが軟らかく、その下が急に硬い。18cmより下辺りに耕盤があるようだ。そこは水が抜けないで溜まっているのでテカテカと光ってみえる。下層の赤いレキが上に上がってないのはサブソイラをかけてないからだろう。こちらも、プラウは25〜30cm耕深 7月豪雨のときに、湿害に強かった畑。断面はサラッとした感じ。掘ってみると20cmくらいまでが軟らかく、その下が硬い。水が溜まっている層は見えなかった。耕盤は22cmより下の辺り。下層の赤いレキがポツポツと上に見えるのはサブソイラを50〜60cm深耕でかけているせいかも。ちなみに、プラウは25〜30cm耕深

悪かった畑は耕盤の位置が高かった

伊東さんの春定植までの機械の種類と回数
よかった畑 悪かった畑
1回目 サブソイラ(50〜60cm深) チゼルプラウ(30cm深)
2回目 元肥散布 ブロードキャスタ 元肥散布 ブロードキャスタ
3回目 チゼルプラウ(30cm深) チゼルプラウ(30cm深)
4回目 ロータリ(15cm深) ロータリ(15cm深)
5回目 ウネ立て、マルチ張り ウネ立て、マルチ張り

 いっぽう、影響を受けてしまったほうの伊東さんの畑は、豪雨のときにハクサイが植わっていた。「この畑は収穫するとき、足がくるぶしまでズボズボと入って大変でした。いつもならとてもいいものができるんですけど、あれだけの雨が降ったから…、苦労しましたね」。この作は出荷量も、平均よりかなり悪かった。

 さっそく掘ってみる。すると地表面から15cmくらいはとても軟らかいが、その下が硬い。断面を見ると硬いところがテカテカしていて、しばらくたいした雨も降っていないのに水が溜まっているように見える。耕盤のせいで水が抜けにくくなっているようだ。硬度10kgf/cm2の位置は地表面から18cm。よかった畑に比べると、4cmほど高い位置だ。

 今回はわからなかったが、吉沢さん曰く、雨の後2日ぐらいして、まだ作物のあるときに掘ってみると、悪い畑では明らかに根がやられているのがわかるという。また、さらに数日たってから見てみると、耕盤辺りの土の断面の色がくすんで見えて、嗅いでみると腐った臭いがするそうだ。

耕盤は春先の機械の回数で決まるが…

すぐに粘土のように団子状態になった
同じように摘まんでもポロポロとした感じで崩れた
大雨に弱かった畑の断面で、テカテカと光っていて水が溜まっている層の土を軽く摘まんでみると、すぐに粘土のように団子状態になった(上)。いっぽう地表面に近いところでテカテカ光っていない層では、同じように摘まんでもポロポロとした感じで崩れた

 耕盤ができるできないは、野辺山の場合、春先に機械が入る回数が一番の原因だと吉沢さん。野辺山では一般的に秋にプラウをかけるが、冬になると土が凍る。すると春先には土がフカフカになる。この状態をいかに維持できるかが重要で、「春先はなるべく機械を入れないように」というのが農協の指導だ。

 伊東さんが行なった春の管理は表の通りで、よかった畑に春先、機械が入った回数は合計で5回。吉沢さんによると、この回数は少ないほう。

 いっぽう、悪かった畑はというと、こちらも基本的には同じ工程で、畑に入った回数は5回だけだった。ただ、ひとつ違っていたのは最初にサブソイラを入れずにチゼルプラウをかけたこと。この畑は30cmより下に石が多く、サブソイラの刃が傷むので、やむを得ずかけられなかったのだ。

 影響をうけた畑の水はけが悪かったのは、やはりサブソイラを入れなかったせいだと伊東さんは考えている。

水が溜まると耕盤が高くなる!?

 それにしても、春先に入った機械の回数が同じであれば、機械の踏圧もそれほど変わらないと思えてくる。ではどうして、耕盤(硬度10kgf/cm2の位置)の高さが違うのか。

 「これは推測ですけど、水が溜まると耕盤の位置がだんだんと上がっていくような感じがします」と吉沢さん。

 春の機械管理でできた耕盤は、ある程度深い位置にあったとしても、水が溜まってしまうと、だんだんと耕盤が上がってくるというのだ。

 その理由とは、土壌が水に浸かることで土壌粒子の間にあった空気がいったん押し出されてしまう。その水が渇いて抜けてくると、これまで空気だった隙間に土壌粒子が詰まるように沈んでいくことになる(図2)。さらに、団粒化していた土が雨で壊れやすくなり、単粒化して細かい粒子になれば、この現象はいっそう促進されて小さな隙間にも隈なく詰まることになる。いわば、田んぼで水を落とした後にできるベターッと締まった感じの土のイメージだ。これが土の中で起きると吉沢さんは考えている。

図2 吉沢さんがイメージする水に浸かった後の土の状態 図3 雨が降って水が溜まると耕盤は上がる!?
図2 吉沢さんがイメージする水に浸かった後の土の状態 図3 雨が降って水が溜まると耕盤は上がる!?
水に浸かると土壌粒子の間の空気(気相)がなくなり、その後乾くと粒子が詰まって土が沈む(緻密になる) 雨が降って水が溜まると図2のように土壌粒子が詰まって、耕盤がじわじわと積み重なっていくように上がっていく

 「はっきり比較したことはないですから、わかりませんけど、どうもそんな気がしています」

 耕盤は機械の回数によるものが大きいが、水はけが悪く、水が溜まるたびに、その位置はだんだんと上がり、根域が狭くなってくる。悪循環だ。

 「野辺山の場合は、耕盤は絶対悪です。水はけが悪くなりますからね。でも、ハウスなんかではそうじゃないという考え方もありますよね。

 春先のフカフカ状態を維持するには、機械の回数を減らすこと、それからとくに耕盤を作りやすい機械(堆肥散布機・マニアスプレッダ、除石作業機・ストーンピッカー)は、春に絶対に入れないことが、耕盤を作らない条件だと思います」

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