林さんちのお鏡もち。ワサビが少量混ぜ込んであるのでカビない 絶対おいしい! 林さんちの「普通じゃない」もちづくり 伝授
林 浩陽
筆者。林さんちが経営する(有)林農産は、米やダイズの請負を手がける農業法人。経営面積は、30haでコシヒカリ12ha、かぐらもち10ha、ハナエチゼン4ha、ひとめぼれ4ha。また、もち加工も経営の柱となっており、年間2500万円の売り上げ いよいよおもちの季節です。つくるからにはおいしいおもちを、ということで今回はもちづくりのプロ、(有)林農産の林浩陽さんにその技術を伝授していただくことになりました。
林さんちのもちはコシの強い品種「かぐらもち」を使い、製造後、3時間以内に届けるのが人気です。また、殺虫・殺菌剤を一切使用せず、有機肥料でつくったコシヒカリを「林さんちの普通じゃないコシヒカリ」のネーミングで販売。「23世紀型お笑い系百姓」を目指す林さんちの世界へようこそ。(編集部)
もち米編
半透明の「普通じゃない」もち米がおいしい
冬になって、寒くなると美味しい食べものがおもちです。焼いてよし、鍋に入れてよし、ところが知っていそうで意外に知らないのが、「おもち」です。
まず、「もち米」ですが、一般に売られているもち米は、白いですよね。でも、農家でイネ刈りをした段階では、一般のご飯にするお米と同じで、半透明です。これが、乾燥が進むと、あ〜ら不思議、真っ白な「もち米」ができあがります。この白く変身することを、「はぜる」といいますが、語源や意味は不明です。昔から、林さんちでも、そういっています。
しかし、じつは「はぜないもち米」のほうが美味しいと、林さんちでは考えています。そもそもなぜ「はぜる」必要があるのかというと、「うるち米」と区別するためです。なぜ区別しなければならないかといえば、残念ながら、もち米と称してうるち米を混ぜて高く売った歴史があるようです。まあ確信犯でないにしろ、作業機械や乾燥機でうるち米が混入することも、よくあることです。それらを防ぐ意味で、昔から、はぜて白いものがもち米と呼ばれてきました。
しかし、はぜたもち米は、必要以上に乾燥が進んでいて、どうしても歯ざわりが硬いと感じます。普通うるち米は、水分が15%ほどになるように乾燥させますが、もち米をはぜさすためには、13.5%ほどか、2段乾燥といって、一度乾燥させたあと、さらにもう一度乾燥させる方法を取ります。
しかし林さんちでは、年内にほとんど使用してしまうので、検査を通るギリギリの水分値15.5%を目標に乾燥させています。当然もち米は、はぜていないので半透明。最初の頃は、もち米を買うお客様や業者さんから「はぜていない」とクレームがありましたが、わけを話して信じてもらってからは、まったく問題なく使ってもらっています。まあ、精米すれば、そのうち徐々に白くなっていきます。
一般のお米屋さんで、はぜていないもち米を買うことは不可能ですが、縁故米等でいただいた場合、はぜていなかったら逆に貴重かもしれませんね。ただ、本当にうるち米の混入がないか不安な場合は、天日に干すと、はぜてきますので確かめることができます。
もちつき編
林さんちが伝授する、家庭でもちをおいしくつく方法
さて、もち米について知ったところで、家庭でもちつきをする方法をお教えしましょう。
▼もち米の浸漬……たっぷり二昼夜
まず、もち米は過乾燥している場合があるので、よく洗ってから(研ぐ必要はない)二昼夜たっぷりの水に浸けておきます。この時、分量を量ってナイロンメッシュの袋に入れてから漬けると、水から上げたり、お米をセイロに入れるにも作業がラクです。浸けてあった桶を洗うのも簡単です。
途中2日目に水を替えます。この時、臼と杵を水に浸けておきます。
▼取り粉の準備……粉を炒る
さて、次はもちの取り粉を用意します。林さんちでは、片栗粉をフライパンで炒って、細かいメッシュでふるって使用しています。炒ることで粉の殺菌と乾燥、そして香ばしい香りが付き、もちが美味しくなります。
▼もちつき当日……段取りが大事
米の水洗いと水切りで、もちをおいしく
まずは、セイロを載せるお釜を沸かすために火を点けます。
さらに、セイロを蒸す釜とは別に、臼と杵を温めるお湯をタップリ沸かしておきます。
水に浸けてあったもち米をザルに上げて水を切り、さらに綺麗な水でよく洗います。この「綺麗な水でよく洗う」ことが味を左右しますので、慎重に、できれば流量の多い水で洗ってください。
洗ったあとはよく水を切ります。ここから先は、もち米についた水分は邪魔な存在になりますので、とにかく水分を飛ばします。水分がついたままだと、もちのコシがなくなって、溶けるもちになってしまいますので、これが味にとって重要です。
その間に、臼にお湯を張って温め、杵も温めておきます。
▼米をセイロで蒸す……蒸気を隙間から漏らさず、もち米の中を抜けるように
お釜のお湯が沸騰したら、セイロを載せるために、直径1cmほどの穴のあいた板をお釜の上に置きますが、この板と釜の隙間、板の継ぎ目を手ぬぐい等でよくふさぎます。これをやらないと、隙間から蒸気が抜けてなかなか蒸せず、メッコで(芯が残って)もちつきが失敗する場合もありますので要注意です。
さて、いよいよセイロに網布を敷き、もち米を入れますが、このときなるべく真ん中を薄くして、蒸気が上のセイロに抜けるようにしてください。敷いた網布も、余った部分は、セイロの四隅にまとめておいて、もち米の上には掛けないようにします。とにかくもち米の中を、蒸気が抜けるように工夫します。
最後の段のセイロを載せて蓋をする場合も、蓋をわずかにずらし蒸気が抜けるようにしておいてください。もち米は、あまり強い蒸気で、上に抜けない状態で蒸すと、「炊いた状態」になります。林さんちでも、当初、中にご飯粒が残ったようなもちになったことがあり、蒸しが足りないのかとさらに蒸気を強くしたら、なおさらご飯粒状態になりました。細かく割れた胴割れ米を使った時も蒸気の通りを詰まらせてしまい、やはり「炊いた状態」になったことがありました。
まあ、ボイラーの強い蒸気で蒸すのでなければ、なかなか起きないことかもしれませんが、蒸気はスムーズにセイロの中を通すことが肝心です。
▼もちつき……ダイナミックにいこう
さて20〜90分ほどで蒸しが完了しますので、いよいよもちつきです。
あらかじめお湯で温めてあった臼と杵でついてください。最初の小づきが一番大変ですが、がんばってやってみてください。
一番難しいのは手返しですね。皆さん躊躇されるようですが、成せば成る! 多少、水が多くて飛び散ったり、杵にもちがくっ付いて飛び出したりしてもいいじゃないですか。それがもちつきの醍醐味です。つき手と手返しは寄り添ってやってください。くれぐれも正面どうしでやらないように。
つき終わったもちは、取り粉を敷いた適当な箱に入れて、ちぎってお好みの味付けでどうぞ。ちぎる時熱いので、軍手を濡らして使うとラクです。
▼カビ防止の裏技……ワサビ・カラシの助けを借りる
さて、せっかくついたおもちをカビにくくする方法も紹介しておきます。
タッパーにもちを入れて、隅に練りワサビかカラシを少量。これで冷蔵庫に入れておけば、軽く数週間はOK。
もう一つ。お鏡もちをつく時に、粉ワサビを2升で20gほど混ぜてつき込めば、鏡割りまでは十分カビません。
では、「林さんちのもちつき」とは?
さて、ここからはプロ編です。
もちはもち屋とよくいったもので、林さんちがもちつきを始めた昭和61年の時は、「家庭でつくおもち」程度の知識は十分あったのにもかかわらず、まったく商品になりませんでした。それほど、細かいコツを掴まないと、なかなか上手くいかないのです。
林さんちでは、基本的に「浸水後の洗米」「完全な水切り」「蒸気を飛ばす」ことを、重視しています。蒸し上がった米の蒸気を飛ばすために、ボイラーからセイロを下ろしたら、1分程度扇風機に当てます。それでもまだ不足している場合は、もちつき機にセットしてある小型扇風機で飛ばし、ついた後、もちを切る時も、お鏡にする場合も、扇風機を当てます。余分な水分を速やかに飛ばすことによって、歯応えのよい溶けない美味しいおもちができます。
林さんちの妙技、お鏡作りを披露 そして、片栗粉を炒って作った取り粉が薄い皮膜を作って中の余分な水分をちょうどよく出してくれます。最近、はやりのテフロン加工された板を使う「取り粉なしのやり方」だと、どうしても乾燥する際、もちの表面の皮が厚くなってしまい、皮だけ厚い美味しくない餃子のようになってしまいます。林さんちでは、昔ながらの取り粉にこだわって、表面が薄い膜状の皮で、中はフンワリの、カマンベールのようなもちを目指しています。
売り方編
「林さんちの価値」は決して安売りしない
しかし、プロ農家にとっては、ここからが一番難しいハードルとなります。販売です。
林さんちは、今から18年前に、もちを卸していた会社が倒産、1400万円の不渡り手形をもらったことがあります。一気に儲けようとした若気の至りの結果です。腹の虫が収まらず、その会社に押しかけようとした時に、帝国データバンクの担当者の方に、「あなたのような若い者が、あんなドロドロした所に行くものではない。そんな暇があったら、1個でも2個でももちを売ることを、1粒でも2粒でもお米を売ることを考えなさい」と諭されました。
その後は、注文ハガキを印刷した新聞折り込みチラシを、4万世帯に配り、1軒1軒注文を受けるようにしました。最初は、印刷折り込み代が40万円かかったのに、わずか15万円の売り上げでしたが、今では、2500万円のもち加工の売り上げのうち2000万円は直売です。売り上げは決して大きくありませんが、収益率は高いです。
もうひとつ、業者さんやスーパーさんとの価格交渉ですが(といっても、こちらから売りに行くことはありませんが)、「林さんちの価値」を大前提に、お話をさせていただきます。普通、スーパーさんはまず上代を決めて、そこから卸価格を50〜75%前後提示されます。しかし、林さんちで売る1000円のもちは、850円の価値と決めているので、スーパーさんにもその値で卸します。販売価格は、業者さんスーパーさんの、販売力に見合った価格をお願いします。まあ、普通はここでビックリされて帰られますが、「林さんちの価値」を安売りするわけにはいきません。もちを作るより、この「林さんちの価値」を創造するほうが、難しいですね。毎日、そのために、がんばっています。
では、皆さん、美味しいおもちを食べて、よいお年を!
(石川県石川郡野々市町 (有)林農産)
お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp
まで 2008 Rural Culture Association (c) |