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「心が届く花」を商品化
四つ葉のクローバ
岩手県一関市・佐藤修司さん
編集部
クローバなんて、基本的には牛のエサだ。「こんなものが売れるものか」と笑われもしたし、バカにもされた。来年から売り出そうと仕込んだハウスで、雑草と思った家の人が全部きれいに抜いてくれて全滅――なんてこともあった。が、いまや佐藤修司さんは、「時の人」。「四つ葉のクローバ」はこれからの季節、今年も大ブレイクしそうな様相である。
商品名は「しあわせみぃつけた」。黒いビロードっぽい葉のクローバで、三つ葉の中に時折四つ葉が混じっている。かつて草むらで四つ葉をなかなか見つけられなかった経験を持つ人ならば、ちょっと探せば必ず四つ葉が見つかるこの鉢は、何とも嬉しい。品種名は「クロバツメクサ」。別に、佐藤さんが育種したわけでもなんでもなくて、もともとそこらにある品種。昔から、知っている人は知っている。
つまり、佐藤さんのやったこととは、四つ葉の出やすいこのクローバを「商品」として価値あるものに仕立てあげたということだけだ。ちゃんと売れば、ほしい人はたくさんいた――。
誰に売るか?
「かわいい」の感性にグイッと迫る
クローバの日常管理は、かん水と枯れ葉かき。左端が佐藤修司さん。研修生とパートさんたちが毎日頑張ってくれる ターゲットは若い女性。10代から、せいぜい40歳代までの女の人だ。ちなみにこの層は「花を買わない層」といわれている。花を日常的に買う習慣があるのは50歳以上で、比較的お金と時間に余裕のあるオバサンたちということになっているのだ。事実、佐藤さんの本業であるシクラメンを直売で買いに来るのは、ほとんどがオバサンたち。試しにこの人たちに四つ葉のクローバを見せてみても、あまり反応がない。「ふーん……これ花咲くの?」
だが、佐藤さんのもう一つの経営である観光イチゴ園のお客さんだとまた違う。子ども連れでイチゴ狩りに来る若いお母さんにクローバを見せると「キャーかわいい!」となる。
若い人は、花を買わないわけではないのだ。つい買ってしまいたくなる花がないだけなのだ。
「花っていうのは、しょせん衝動買いの商品でしょ。だけどじゃあ人間にとって本当に『いらないもの』なのかっていうと、じつはそうでもなくて、人はいつの時代も『美しい』とか『愛しい』とかいう感情を抱きながら生きてきたんじゃないかなー」
3寸鉢に育てて3.5寸の鉢をかぶせる。ラベルは、あったかい絵を描いてくれる友人のイラストレーターに頼んだ自信作。ラベルに写真をのせるのは、あまり意味がないと思う ラベルの裏。夜になって葉を閉じることを書いておかないと苦情につながる。書いておけば「わあホントだー。生きてるのねー」と感動につながる そういう意味で、最近、佐藤さんが思い入れているのは「枕草子」。清少納言は、四季の風情を描いては「……するのは、いとをかし」と、やたらに「いとをかし」を連発する。
「古文体だからありがたく感じちゃうけど、よく考えてみると清少納言さんは当時の若い女性でしょ。『いとをかし』って、いまふうに言えば『超かわいい!』じゃないのかなあ?」
……確かに。最近の若い子は、何かに心惹かれることを「かわいーい」と表現する。愛しいもの、美しいものに対して心が動くという現象は、歴史的に見ても人類共通の大事なことに違いない。
いつ売るか?
花業界の冷え込む春先にぶつけるクローバは何せ草だから、ほぼ1年中葉をつけている。売ろうと思えばいつでも売れそうなものなのだが、佐藤さんは、冬〜春の商材と決めた。
佐藤さんは、岩手県を鉢物ラベンダーの産地にするためにも努力してきた。中で、丈が低くて穂が長い株を選んで品種登録もした(上の写真の右)。オリジナル品種を持つことは、やはりとても大事だと思うからだ。 品種名は「イーハトーブむらさき」。だが佐藤さんは、商標登録した「いいかおりいいきもち」のほうが気に入っている。クローバと同じようにラベルもつくり、母の日のギフト商品として売り出し中だ このクローバをハウスでつくると、どうも2月〜5月頃が最も四つ葉率が高い。そのうえ寒い時期のほうが、葉が小さくて丈もコンパクトになって「いとをかし」な感じに仕上がる。いっぽう生育が旺盛すぎて、びよんびよんに伸びてしまう夏は、「やっぱり草だなー」と見えてしまう。
さらに、春先の商材は花屋さんにとっても都合がいい。冬から春の初めあたりは、花屋さんも目玉にできるものがなくて困っているシーズンだからだ。バレンタインデー、ホワイトデー、卒業式……「四つ葉のクローバ」をプレゼントしたらピッタリの「物日」もズラリそろっている。
だが、最初に花市場に持ち込んだときは、大手の卸にさんざんにけなされた経験もある。旧来型の発想の花屋さんには気に入ってもらえないだろう。かといって、ホームセンターの安売り商品と一緒に350円で並べても、きっと全然売れないだろう。これを売ってくれるのは、昨今の「かわいい」の感覚がわかる新しい花屋さんだ――。
「やっぱりバブル崩壊以降に伸びてきた花屋さんがいいね。『青山フラワーマーケット』さんはすごく力入れてくれて、鉢も素敵なのに入れ替えて1鉢1200円とかで売り込んでくれてたみたい」
どうつくるか?
寒いところは有利みたいだ栽培は、最初はまったくの手探りだった。「草だから簡単」とは思うものの、実際に栽培するとなると、わからないことだらけ。草地をもっている畜産農家に聞いてみたりもした。
クローバはイギリス原産で、どうやら南のほうでつくると病気が出やすく、寒地向きの草だということがわかってきた。「これはラッキーだったね。どうせやるなら、他がつくったときに負けないもののほうがいいでしょ」。佐藤さんはこれまでも、シクラメンにしろ、ラベンダーにしろ、生育に低温が必要で岩手の寒さが生きる花しかつくってこなかったという人間だ。
佐藤さんはもともとはシクラメン農家。ホルモン剤を使わない、日持ちがよくて花数の多いシクラメンを50品種くらいつくって評判だ。
一番人気は毎年「オーロラ」。万人受けするし、農家もつくりやすくていい。
迷ってるお客さんには「モーツァルト生誕250周年ですよ」というと、「そうねえ」と「モーツァルト」を買っていく。
原種に近いミニ系の「パリジェンヌ」「ベルサイユ」「ビクトリアミニ」は、若干香りがあるので人気……。
「それからね、お客さんの口紅の色とか、服とか、手に持ってる小物とか見ると、好みの色がわかっちゃうよねー。ピンクの口紅の人は絶対ピンク選ぶから、そういうのすすめると喜ぶよ。あとは、年代が高い人は濃い派手な色が好き。若い人は淡い色が好きっていう傾向も確か。それからそれから、フリル咲きばかり選ぶ人は、下着も絶対フリフリだよ、これホント!」佐敬老の日ねらいで商品化したのはトウガラシ「プリッキーヌ」の鉢物。商品名は「いつも想っているよ」。きれいだし、食べられるし、で敬老の日もいいけど、ハロウィンにも結構売れた 繁殖は株分けがよさそうだ。匍匐枝が次々伸びてくるので、それを2〜3節ずつに切って植え込んでいる。「『私、株分割・株増殖で儲けました』って、ホリエモンみたいだなー(笑)」。でも、いつの時期に株分割するのがいいのかは本当はよくわからないそうだ。佐藤さんの場合は、春出荷のために8月盆過ぎに植え込んでいるが、「暑いところでそんなことしたら病気で全滅しちゃうだろうな」とも思う。
また、「株分けは効率が悪い」とタネを採って播いてみたこともあるが、どうも形質がばらついてしまった。四つ葉が出なくなったり、緑の葉になったりすることもあるそうだ。
温度管理や肥培管理もコツがあるが、まあそれは今のところ企業秘密。しいていえば、日持ちのいいシクラメンをつくるのと似たような管理がいいみたいだ。
200万鉢は売れるはず!
出荷を始めて5年目。年々急速に拡大中の生産量は今年で10万鉢だが、家まわりの自分のハウスでは1割しかつくっておらず、主には隣町の集落営農組織のハウスを借りて、管理も委託している。春先のイネの育苗が始まるまではハウスが空いている集落営農がいま増加中だし、何よりそこの母ちゃんたちの仕事として喜ばれているのだそうだ。
「あと5年はクローバで食えるかな」。なんせ6万人の地元の町(旧一関市)で、4店舗の花屋さんに置いて1500鉢売れている。ということは、人口比で考えると日本全国で軽く200万鉢は売れるということ。
「でも、これ以上の拡大はしないよ。大量生産して質が落ちると困るし、昔から『百姓とおできはでかくなるとつぶれる』って山下惣一さんがいってたからね」
マネする人はぼちぼちいる。佐藤さんのクローバを買って増殖すればいいのだから簡単だ。だけど実際、それほど品質のいいのは見かけたことがない。「つくるなら、いいものつくってほしいよね。クローバなんてしょせん『いらないもの』なんだから。お客さんは、いらないものをわざわざお金出して買うんだから、変なのじゃ困るんだよね」
相手の心に届く販売とは?
思えば佐藤さんは、子どもの頃から商売が楽しかった。小学校5〜6年生の頃は、山を歩いて山菜や薬草を採ってくると、ばあちゃんが業者に売ってくれた。センブリを採ってきたら、初任給3万円くらいの時代に、1日で5000円になった。キノコも採ったしバッタも捕った。友達といっしょに山に入るけど、見つけられるのは自分だけ。生えてるところがカンでわかる。「別にお金が欲しかったわけじゃないんだけど、見つけたものが売れるというのは快感! おもしろかったなー」
四つ葉の他、こんな五つ葉もたまに出る。四つ葉は幸運(ラッキー)なら、五つ葉は金運だとか 高校のときはテストの予想問題をつくって売った。「先生がどういう問題を出したがっているか、耳をそばだてて授業を聞いていればだいたいわかっちゃうんだよね」。自分も勉強が省けるし、みんなも喜んで、全学年の半数の人が買ってくれたものだ。
本格的に農業を継ぐ前には各地でいろんな仕事もしたが、「キノコの会社に入って、デパートやスーパーで製品の試食販売したときは売れたよー。お客さんを観察して、身なり・目線・差し出し方を工夫すればほぼ買ってもらえる。これは今やったって一番になる自信があるね」。
――と、武勇伝は多方面に及ぶ佐藤さんだが、そこにはクローバのヒットにつながる要素が限りなく散りばめられているような気がする。一見「いらないもの」であるはずの花が、その人の心にとって「とてもいるもの」だということを見抜く力……。
花は、まだまだ売れる。
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