月刊 現代農業
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農文協のトップ月刊 現代農業2007年2月号>やっぱり自家採種はおもしろい

筆者が自家採種するトマト「レモン」
筆者が自家採種するトマト「レモン」

やっぱり自家採種はおもしろい

タネ採りするとわかる野菜の力
トマト こぼれ種栽培もおもしろい

美沢 勉

各地の個性豊かな野菜を集めて自家採種

 私(農人)は、国内外を問わず、いろんな野菜、とくに伝統的に各地で受け継がれてきた野菜をインターネットなどを通じて数粒ずつ入手してきました。試作と試食をしたうえで、それを数年後には当地で直販しています。

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 さすがに何百年も受け継がれた野菜たちは個性的な味・色・香・形で、身体によさそうだし、食卓を楽しく演出してくれます。野菜料理だけでも十分な満足感が得られるのです。

 今の農業に欠けている他人まかせの部分は種子の自給です。採種は、戦後しばらくまで農家にとって必然の仕事でした。それが現在はほとんど種苗会社まかせです。見栄え重視の商品作物の生産が野菜の画一性を高め、食材としての多様性をなくしてきました。子どもも嫌う野菜の味になってきたのかな。

 その反省を込めて、地域ごとに受け継がれた味わいの豊かな野菜の生産を目標に、種子の自給をはじめました。インターネットで購入した種子などは、前ぶれなく入手困難になることも常ですから、自家採種は農家本来の姿であり、種子の危機管理でもありますね。

野菜とともに生き、学ぶ栽培法に転換

 農人が農業を営み25年あまりが過ぎました。「環境に優しく暮らす」を意識し実践してきた最近は、一般的な農業技術からは想像もしなかった方向に進んでいます。昔は、基準どおりに農薬を使い、施肥は化学肥料主体で量も多く施し続けてきました。その結果、連作障害も出現。対策に土壌消毒を行なっても病気はさほど減らず、肥料は残留。理由もはっきりしないまま、作物のできは安定せず悪くなるばかりでした。最後は、そのころ流行の土壌改良剤やミネラルや○○農法とかをやってみても、大勢に変化なし。

 ところが自然が豊かな農園周辺で、里山や田の土手を見ていると、肥料がなくても草や木はとても元気でいるわけです。某アニメの一節に「木が腐海の毒を吸い朽ちてきれいな土を作っている」とありました。とにかく自然に寄り添って生きてみよう。そこがスタート地点だったかな。

 それからは、農人が栽培するのでなく、植物が生長するのを手助けする気持ちで、少しでも迷ったときは何もしないことをこころがけました。作物の先回りをするのでなく、後から状態を見定め、彼らの知恵を学び、ともに生き、食す。

 約500坪(1600m2)のハウスの中では、トマトやナスをはじめ多くの野菜を一五年以上連作していますが、すべての野菜が接木や土壌消毒なしで育っています。消毒は、野菜により必要な場合のみ殺虫剤を数回散布するだけです。

自家採種トマトより元気、こぼれ種栽培トマト

2006ふぞろいで美しいトマトたち「農園さくら」発 2006・11・29
商品名 味は個人的な見解ですが、どのトマトも個性的
ワイルドチェリー 市販のミニトマトよりさらに小型、なにせミニトマトの野生種だから、味は濃くて自然な旨みを体感できます。とても可愛い色形
スター 中型で凸凹の外見からは想像できないくらいシンプルな味、皮も薄くちょっとナイーブなトマト
オレンジ 中型丸型。まな板が染まるくらいオレンジソースが美しい。味も濃いめ
ブラックプリンス 中〜大型。赤銅色に染まるトマトは気品と気位が高く見えてしまいそう。果肉も深い赤色で味にも気品有
レッドゼブラ 中〜大型、植物が作り上げた美しい縦縞模様のトマト。香り酸味が強く個性的、料理をトマトが主張します
イエロー 中〜大型。さわやかな食感とジューシーな果肉はフルーツみたい。果肉の厚みが普通のトマトの何倍もあり、シャリシャリと美味しい
レモン 色も形も大きさもレモンそっくり。なじみやすい味で歯切れよく、トマト嫌いも食せるかな
ローマ 中型、加熱料理専門のトマト。生食と加熱後では味がまったく別物、ソースやピザのトッピングに最適。水分が少ないので、型崩れや果汁の染み出しが少ないトマト、毎年こぼれ種より収穫します
グリーンゼブラ 中〜大型、トマト界のあらゆる思い込みを超えたトマト。熟しても果肉はさわやかなグリーン、青臭さは感じません。味わいはまるで若いメロンのようにフルーティー。パスタのグリーンソースができそう
モスクビッチ 中〜大型、ロシアで長い間受け継がれてきた庶民のトマト。大地の力を感じる色と味、秋に旨くなる
さくら 中型、農園のトマトで唯一の日本種。10年以上前から「農園」で採取し、一部はこぼれ種から育ったものもある。今では味も香りも「農園さくら」オリジナルとなりました。個々に味のバランスが違い、楽しめます

 かなり前から、ハウスで野菜の栽培中は、除草はできるかぎりせずにやってきました。すると草の間からは、前作のトマトなどの野菜のタネも芽を出し、すごい勢いで生長してくるのです。その横には、農人が自家採種して育てた苗を定植しているのですが、自生トマトの生長速度のほうが速く、かつ高温乾燥したようなときでも萎れません。

オレンジ
オレンジ
グリーンゼブラ
グリーンゼブラ
モスクビッチ
モスクビッチ
さくら
さくら

 農人の畑では、栽培中に出る傷あり野菜や残渣はその野菜の根元に置いて土に返します。畑の外に持ち出すのは、出荷物と次作のじゃまになる蔓くらい。野菜が畑内で循環しているようなもので、畑の土は何十種類もの野菜のタネの倉庫になっています。

 ハウスの野菜には肥料は施さず、有機質資材の堆肥や切りワラ、リン酸や石灰も入れてません。だが実った野菜を食してみるとけっこう旨い。形はふぞろいになる場合もありますが、一袋単位の直接販売なので問題なし。

 こぼれ種トマトと自家採種トマトの違いがもっとも出るのは生長過程です。こぼれ種を生かすときは、トマトのウネを立てたところに偶然発芽したなかから元気のよい株を残していますが、最後まで元気に育ちます。一方、自家採種のほうは中途で生育が悪くなる場合もあり、これは人が育苗などに介在したからだと思われます。

 おもしろい現象に、こぼれ種栽培の加工トマトがあります、導入当初は這うように分枝していたのが、こぼれタネ栽培を繰り返しているうちに、最近は生食トマトのように、つる上げできるような生長のしかたに変わってきました。隣の生食トマトの様子を真似しているようです。植物にも意思があるのでしょうか。

また食べたくなる味の「ふぞろいで美しい野菜たち」

 農園で収穫した野菜は、「ふぞろいで美しい野菜たち」をキャッチフレーズにおもに地元で直販しています。農家は大量に収穫するから、大きなケース単位で考えてしまいがちですが、買うほうは一袋単位で賞味します。100円1袋に農人の気持ちが伝わらなければ、互いの気持ちはいつもすれ違い。そこで手間ですが、1品ごとに商品名、食し方、作り手の思い、その野菜の物語が印字された簡易なシールを付けています。

 多種類の野菜を通年販売するわけですが、品目・品種選びの基準は、種苗会社からの提案にのるより、購入者の生活スタイルを考えることだと思います。何人家族でどんな料理を作るのか。調理時間はどのくらいなのか。あるいは、子どもさんの食べやすい味であることや、もちろん手頃感のある価格設定も重要。定番野菜とこれから流行る食菜の開拓をインターネットや書店や口コミの情報で知ること、それらに合う種子を探し購入してゆくことが必要と思います。

 地元のお客さんの反応はずいぶんよくなっている感じがします。販売量が増えても返品は非常に少ない。店頭に並ぶ同じ野菜でも、「農園さくら」の野菜は身体に優しい味で、また食べたくなるようです。

野菜の8割以上と古代米を自家採種

美沢さんのトマトの自家採種のしかた
美沢さんのトマトの自家採種のしかた

 農園では、トマト以外にも、8割以上の野菜や古代米の自家採種をしています。

 人は、自然界の植物を選別し、さらに営利用に育種してきました。その過程で、植物本来の生命力や多様性は置き去りにされたようで、肥料や農薬の使用を前提にした、土さえも切り離して考える近代農業になっているかのようです。最近は「食」を考える生活者から、不自然な食生活や食材への疑問の声が聞かれだしたのに、農業者の意識改革が遅れている感じがします。

 野菜は、自分の子孫を残し繁栄するために、彼らなりの努力をしています、その力をそぐような画一的な管理で、人の思いどおりに操ることでは、力は発揮されないと思います。環境に優しい暮らしを望むなら、自然に寄り添う気持ちが大切。永続可能な農業を営むには、けっして人間のひとり勝ちは許されません。野菜とも草とも花ともバランスよく共生できる農的暮らしの初めの一歩は自家採種から。

(農園さくら 長野県飯田市)

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