月刊 現代農業
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巻頭特集

畑の耕耘 極意25

耕耘チャンスの見極め方編

高原野菜 野辺山の名人・林拓二さんの失敗(長野)

梅雨どきに何回も耕して、キャベツが小玉に、根こぶも出た

 昭和45年くらいのころだったかな。まだ土とか天気のことなんてあまり考えないでガムシャラにやってたな。いまは全面マルチだけど、あのころはまだ露地だったね。1町歩の畑1枚全面に肥料をふってロータリをかけた。それで、端からウネを立てて、キャベツを植えつけていったんだけど、当時は全部植えるのに1カ月半くらいかかったかな(5月下旬から7月中旬まで)。植えてないところはどんどん草が生えてきてね。手で取るのは大変だからロータリをかけ直したんだけど、最後のほうは何回もかけたね。

 苗質も悪くなかったし、天候も悪くなかったから、いいモノがとれると思ったけど。植え付けし始めて3分の1くらいのところから、だんだん玉が小さくなっていってね。最後にいけばいくほど、できが悪かった。梅雨時期と重なっていたから、水分が多い状態でロータリを何回も入れると、水はけが悪くなるんだって思った。

 それから、同じころかな。造成畑を1町歩拓くとき、石とか木の根っこを取り除くのにトラクタの前にローダー(バケット)つけて、同じ畑を1日中、何度も行ったり来たりしたんだけど。それで翌年、ハクサイとキャベツを植えたら、根こぶ病がうんと出てね。新しい畑なのにまさか根こぶ病が出るとは思わなかったから驚いた。とくにタイヤで踏み固めたところに多かった。植え付けるときの土の物理性を壊しちゃうと、もう取り返しがつかないんだなって思ったよ。

極意

春先、機械の回数は減らすべし

林拓二さん
林拓二さん。6.3haの畑で主にレタス、ハクサイを作る。野辺山ではおそらく他にはいない牧草との輪作体系を確立。ロータリに使うトラクタは60馬力と地域の中ではあまり大きくない。「ロータリの前にサブソイラが付けられれば、もっと具合がいいんだけどね」と、自由な発想が次々に出てくる

 林拓二さん(58歳)は毎年、必ずといっていいほど農協で表彰される高原野菜大産地・野辺山の有名人。そんな林さんが、全面マルチ栽培となった今、これまでの経験からいえることは「マルチを張るときの土の物理性で、その年の作柄がすべて決まる」ということ。いけないのはとくに春先、水分が多いときに機械を多く入れ、踏み固めて水はけを悪くすること。それから、やはり水分が多いときにロータリをかけ、土を練りながら土中の酸素を追い出してしまうこと。

 以来、林さんは春先に入れる機械の回数をなるべく少なくした。堆肥は春ではなく秋に入れ、チゼルプラウをかけておしまい。元肥も1回ですむものにした。林さんの春作業のやり方はサブソイラ→元肥→ロータリ→ウネ立て・マルチ張りの順で、春先に入る機械の回数はほぼ4回。でも、野辺山ではこれ以外に整地するためにスプリングハローなどの機械を入れる人も多い。林さんにいわせると「そんなものはまったく必要ない。ロータリだけで充分綺麗になる」。

 でも、やっぱり熱心さ余って畑を綺麗にしたいと思うから、整地以外にも、ロータリだって何回もかける人もいる。でも、そういう畑では、やっぱりいいモノがとれていないのだそうだ。

晴天でもマルチを張れば夕方以降に湿ってくる土

 野辺山の土は火山灰土の黒ボクで粘土の強い土。畑によっても多少は異なるが、地下水が高く、水持ちがいいのが特徴だ。そんな土壌条件で、林さんがいう1年の作柄を決定づける耕耘のタイミングとはいつか。

 「ロータリにしてもマルチ張りにしても、土は乾いていれば、乾いているときほどいいね。ロータリかけた後、雨にあてずに、なるべくその日のうちにマルチを張るってことも大切だけど、野辺山で春作業するときは、乾いて困るってことはまずないよ。もし、晴天が続いて乾燥しても、マルチを張れば、地表面が乾いている時間帯は午前10時から午後3時くらいまで。夕方以降は地下から水が上がってくるから地表面はベターッと湿ってくる。マルチに穴を開けていく作業のときによくわかる」

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 これが野辺山の土の特徴だ。でも、お隣のレタス産地の川上では、土質がまったく異なって、野辺山とは逆に乾燥しやすい赤土だ。乾燥しすぎるとウネは崩れてしまうし、乾燥したときにマルチを張ってしまうとずっと乾いたまま。当然活着も悪いし、いいモノだってとれない。だから乾燥しすぎたときは、かん水して土に水を含ませてからロータリ、ウネ立て・マルチ張りをする。マルチ張りのタイミングは土質の条件によっても当然違ってくる。

湿っているときは苗を捨てたほうがまだまし

 しかし、春先に雨が多い年だってある。セル苗だからあまり長いこと置いておけず、のんびり待ってもいられない。こんなとき「苗がもったいないから」と水分があるときにロータリを入れ、マルチを張って植える人もいるというが、やはり結果はよくない。やむを得ない場合は、無理して植えるより、苗を捨てたほうがまだましだというのが林さんの考えだ。

 ただ、林さんは何年もかけてすべての畑に暗渠を入れ、排水対策は万全にしてきた。多少雨が降ってもサブソイラさえ入れておけば翌日にはすぐ乾く畑になっている。また、冬の間に1年間の作付計画をノート3ページほどにまとめ、作業が重ならないようにしているので、実際に苗を捨てるということはないのだそうだ。

春作に入れる機械の回数

順序
林さんの場合 多い人の場合
サブソイラ(心土破砕) ストーンピッカー(石拾い)
元肥 サブソイラ(心土破砕)
ロータリ スプリングハロー(整地)
ウネ立て・マルチ張り 元肥×2〜3
ロータリ×2〜3
ウネ立て・マルチ張り
計4回 計6〜9回
春先に機械を多く入れると耕盤ができて水はけが悪くなる。林さんはなるべく機械を入れる回数を少なくしたいので、春先に畑表面に出てくる石が多い畑では、ストーンピッカーは使わず、サブソイラをゆっくりかけながら、補助に別の1人が後ろについて石を拾うようにしている。また、スプリングハローによる整地はせず、ロータリですませる。元肥は手でふるときもあるそうだ

とにかく乾くまで待つ

マルチ張り作業の様子
マルチ張り作業の様子。「このときの土の物理性で1年の作柄はすべて決まる」と林さん (写真はJA長野八ヶ岳提供)
(赤松富仁撮影)

 どうしても雨が多いときは、林さんは足で土を3〜4cm蹴ってみて下の土の水分状態をみて判断する。少しでも湿っていて靴に土が付いてくるような状態では絶対にロータリを入れない。無理して入ると土が練られて、土の中の酸素が追い出されてしまう。そうなると根張りも悪くなり、結局はいいモノがとれないからだ。

 多少湿り気が多いときでも、PTOや車速を変えれば土を練らずにすみそうだとも思えるが、「そういうことはまったく意味がない」と林さん。とにかく地表面の3〜4cm下の土がサラサラに乾くまで待つ、これが鉄則なのだ。林さんは畑が乾いてから60馬力のトラクタでロータリをかけるのだが、車速はいつも1速で、PTOは一番速い4速。土の中に酸素がたくさん入った、つまり団粒が壊れていない状態でウネ立て・マルチ張りできるかどうかが1年の運命を決める分かれ道になるのだ。

とれなかった畑は硬い土塊が大きく残っている

 平成15年は非常に雨が多く、出荷量も激減した年だった。レタスでは10a当たりの平均が400ケースのところ、200ケース以下の畑も結構あった。農協の指導員である吉沢栄一郎さんによると、そんなときでも林さんは500ケース以上出荷していたという。

 吉沢さんが秋になってから、作の悪かった畑を掘ってみると、ウネ上に手の拳ぐらいの土塊がゴロゴロ。上から叩いてみるとコンコンと音が響く。レンガのように硬くて、土壌分析するために細かくしようと思っても、まったく崩れないことにビックリしたという。いっぽう、そのときの林さんの畑は、土塊はあるものの、握ればすぐに崩れてしまうくらいサラサラしていたのだそうだ。

 この差は何か。春先の機械の回数と、耕耘チャンスの見極め方が、このような結果に繋がっていると吉沢さんはいう。

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