月刊 現代農業
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野菜・花

月のリズムと作物のリズム
宵の明星(金星)と三日月のランデブー(小川浩徳撮影)
宵の明星(金星)と三日月のランデブー(小川浩徳撮影)

大潮前からのかん水・追肥でナスの樹が動く

熊本県山鹿市・池松正章さん

月のリズムとは?
この記事で使っている「月のリズム」は、月が地球を一回りする約29日間のサイクルがベース。旧暦で考えると新月が1日で、満月が15日。新月・満月の頃には、地球が月と太陽から受ける引力が最大となるので海面も影響を受けて大潮となる。逆に月が半月に見えるときはこの引力が一番小さくなる頃で小潮となる。ただ、潮の大小は地域によっても変わるので「潮時表」などで確認が必要。(詳しくは、05年3月号特集「月と農業」を)

大潮の日、どの人の作物も樹勢が強かった

 「月のリズムと作物の生育に関係があると初めて聞いたときは、そんなこともあるのかなと思う程度だったけど、今はこの関係を意識するのとしないでは作物の見え方がまったく違ってきますね」というのは熊本県山鹿市のナス名人・池松正章さん。10年ほど前から月のリズムを意識した管理をしている。

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 きっかけは水だった。20年近く前、池松さんがまだ駆け出しの頃のこと。バラ・スイカ・メロンなどそれぞれ作物が違うメンバーと勉強会をしていたのだが、学べば学ぶほど最終的に残る課題が水だった。肥料や温度管理はある程度勉強すればコントロールできることはわかってきたが、水だけはなかなか見えてこない。土を湿らせることは簡単なことだが、作物がちゃんと水を吸収しているかどうかがわからないのだ。行き着いたところは水のクラスターを細かくすること。電子水や炭を使う人など、メンバーそれぞれがいろいろな方法を試したが、それでも見えてこなかった。

 そんなときに出てきたのが月のリズムと作物の関係だった。メンバーの作物はそれぞれ違うのに、あるとき、同じ時期に作物の樹勢が強くなると皆の意見が一致したのだ。暦を見るとそれは大潮の日だった。池松さんはこのとき、作物にとって水が吸収しやすい時期があるのかもしれないとおぼろげながら感じたのだ。

小潮にかん水を強くしたら病気が多発

池松正章さん
池松正章さん。月のリズムを意識してからナスの樹がまるで変わって見えてきた

 池松さんはいいナスを作るため、毎年課題を見つけては、いろいろと仕掛けをしてナスがどうなるか、実験を続けてきた。「樹は一本のストロー」と考える池松さん、病気や障害が出るのはストローが詰まっている証拠で、水や肥料の吸収がよければストローの中の流れがいいと見る。ストローの流れがいいナスは、朝・昼・夜と葉色が変化することがわかってきた。朝は養分があるので色が濃く、昼は養分を活発に使って活動するので薄くなり、そして夕方は光合成した養分が転流されて朝と同じ濃さに戻る。

 何本かに1本は必ずいい樹がある。そうやって樹を見ながら、いい状態の樹を全体に広げるために、ときには極端に水をやったり、切ったり。そんな実験を10年くらい続けてきたのだ。

 あるとき、池松さんはかん水のサイクルを決める実験をした。2週間に1回、強めにかけてみたのだ。今から考えると、あれはちょうど小潮にかん水していたことになるのだが、そのときの作物は、悪いほうへ悪いほうへと動いた。病気が増え、害虫も激しく出た。農薬をかけてもまったく止まらない。

 肥料をやった後に樹を見ても、それが効いているのか見えてこない。いつまでもダラダラした感じで、樹勢が強いか弱いかといった変化もまるで見えなかった。ストローの中の養水分の流れが悪い状態だ、ということは明らかにわかった。

小潮はナスが弱いとき、大潮は強いとき

 そんなころに出会ったのが、月のリズムに合わせて栽培管理する「バイオリズム農法」。(有)光彩という資材屋さんが情報を持ってきた。

 その考え方では、植物は小潮のとき、体質的に最も弱くなる。水や肥料の吸収力も小さい「転流期」。だから定植や葉かき、濃い薬散などは避けたほうがいい。逆に大潮のときは体質的に強く、吸収力も旺盛になる「吸収肥大期」。だから肥料や水の不足には注意したほうがいい、というものだ。

大潮のナス
お邪魔した3月5日は満月の翌日の大潮。生長点に近い葉は45度の角度で立ち、アントシアンの色も濃い。これが樹勢のいい証拠

 池松さんは大潮にナスの樹勢が強くなることはそれまでにもわかっていたが、この考えをヒントに、大潮のころに追肥とかん水をやってみた。すると、樹が明らかに変化するのが見えてきたのだ。大潮当日が一番わかりやすいのだが、まず生長点のアントシアンが濃く、葉の立ちも45度の角度でピンッと上を向いてくる。障害があるときや小潮のときは横に寝たままの葉が多かったのに…。葉の厚みやツヤも違う。生長点から3枚目の葉を見るとよくわかるという。葉柄の糖度を測ると7〜8度ある。これはまさにストローの流れがよく、樹が“動いている”証拠だ。

大潮3日前の防除でピタッと効く!

 池松さんは防除の仕方も変えた。もともと減農薬でやっていたわけだが、以前は虫を発見してから農薬をかけていた。でも、月のリズムを意識し始めると、大潮付近の日にハウスの通路を歩いていると、決まって虫が活発に飛び回るのがわかった。逆に小潮のときはあまり飛ばない。

 そこで、害虫が活発に動く大潮の3日くらい前を目安に農薬をかけるようにした。すると、これまでは2〜3種類の農薬を混用しなければ治まらなかったスリップスなどの害虫が、単剤で、しかも1000〜2000倍と書いてある場合は2000倍と一番薄くしても、一回でピシャッと効くようになったのだ。

追肥は大潮に向かう前の長潮・若潮

 さて、現在の池松さんの月のリズムに合わせた管理の仕方だが、追肥は1カ月に1回の置き肥をベースに、それを補うために樹の状態を見ながら葉面散布や液肥でかん水する。これらは基本的にすべて大潮へ向かう長潮・若潮にやるようにしている。大潮当日にやる場合もあるが、それ以前にやったほうが、効き目がはっきりとわかるからだ。かん水は、大潮に向かうときから大潮が終わるまでは乾かさないように、たとえ雨が降っていても強めにやるようにしている。

池松さんの月のリズムに合わせた管理の概観
池松さんの月のリズムに合わせた管理の概観

 防除は殺菌剤も殺虫剤も大潮の3日前が目安。もし、それでも治まらない場合は大潮の4日後くらいにもう一度やることもある。

 これらの作業は、他の作業との段取りでその日にできないこともある。でも2〜3日くらいなら、ずれてもそれほど問題ないと池松さんは考えている。

樹勢を抑えたいときは、小潮前の中潮に葉面散布

 さらに、樹勢が強すぎた場合に樹のリズムを崩さずに抑えるのにも潮が使える。代謝を活発にしてチッソを消化するような葉面散布・かん注剤をより効果的に使うタイミングが見えてきたのだ。

 天候や温度管理の加減でチッソが優先して効いてしまうと、花は普段より一回り大きく、葯数も普通6〜7本のところが8〜9本になる。そうなると次の果房の花は必ず小さくなって、収穫リズムが崩れてしまう。そんなとき、池松さんが手を打つのは小潮に向かう中潮。使っているのは「光彩フィトン」という資材だが、このタイミングでかけると、作物のリズムを崩さないで、樹勢を抑えることができるのだそうだ。

葉の立ちがよく樹勢がいい
写真の真ん中(ふところ部分)に注目。葉の立ちがよく樹勢がいいことがわかる

 「まだよくはわからないんですけど、植物は小潮のときに、次の大潮までにどのように向かおうとするのか自分で決めているような気がします。だから小潮のときに樹勢を抑えてやる。まだまだ奥は深いですよ」

元肥も多くできた

“抑え”の技術がわかってきた今、池松さんはさらに新しいことに挑戦している。元肥を以前より多めに入れているのだ。元肥のチッソ量は、普通、樹が暴れるのが怖いので35kgくらいの人が多い。あとは追肥や葉面散布で小まめに対応していくのだが、池松さんは、元肥のチッソ量を46kg入れている。樹勢が強すぎても抑えることができるので、安心して思い切ったことができるのだそうだ。追肥や葉面散布の回数も減らすことができてラクチンでもある。

 現在、池松さんの収量は地域の平均が14tのところ毎年20t以上は確実にとれている。今シーズンだって例年だと4月で半分とる計算なのだが、3月上旬で、すでに9t。周囲では暖冬の影響で2月は成り疲れで出荷量が激減したというのに、順調に出荷が続いている。

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