月刊 現代農業
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野菜・花

池松正章さん
池松正章さん(写真は赤松富仁撮影、以下Aも)
尿素、硫安
夏のハウスで涼しくつくる

夏は尿素で地温が1〜2度下がる

熊本県山鹿市・池松正章さん

編集部

 熊本県山鹿市のナス名人・池松正章さんは、夏と冬で追肥に使うチッソ肥料を使い分けている。夏に「尿素」を使うと地温が下がり、冬に「硫安」を使うと地温が上がるというのだ。

 これはなんとも不思議な話――。

夏は焼酎、冬は日本酒!?

 池松さんは、ナスに効かせる追肥は、置き肥のボカシを使っているのだが、それ以外にも微生物のエサとして、チッソ肥料を月に1回、10a当たり3kgほど液肥で流す。

 あれは15年くらい前のこと。チッソ肥料について先輩と話したことがある。

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池松 微生物のエサにやるチッソは硫安とか尿素とかいろいろあるけど何を使ったらいいですかね?

先輩 今は夏だから尿素のほうがいいぞ。でも冬は硫安だ

池松 え!? 夏と冬で違いがあるの?

 初めて聞いたことなので理解できない。そんな池松さんの顔を見て、先輩がたとえとして説明してくれたのがお酒の話だ。

「尿素は焼酎と同じで体を冷やすもの。でも、硫安は日本酒と同じで体を温めるもの。だから、暑い夏は尿素で地温を下げてやれば微生物にとっても過ごしやすい。反対に寒い冬は硫安で地温を上げればいいのだ」と。

菌がビッシリ
通路には放線菌らしきにおいのする菌がビッシリ(A)
夏の菌は尿素が好き?
米ヌカ団子実験
真上から見たところ
夏場、ウネの上に米ヌカ団子を置き、菌の動き方を見ると、尿素をまいたところには、菌が食らい付くように横に広がった

 どうも、この使い分けは昔から言われていることらしい。

 熊本といえば焼酎の国だから、池松さんも、この話にはすぐに納得。たしかに、焼酎を飲んだ後は顔や体の表面がカーッと熱くなるが、わりとすぐに熱は冷める。でも、日本酒を飲むと、体の内面から熱くなってきて、熱はなかなか冷めない。

 しかし、尿素と硫安で、ほんとうに違いがあるのだろうか。池松さんは話を聞いてすぐに試験してみた。

地温が1〜2度違い、微生物の食いつきも違う

 夏場だったが、ひとハウスには尿素をやり、隣のハウスには硫安をやり、地温を測ってみた。すると、硫安をやったハウスより尿素をやったハウスは地温が1〜2度低い。元肥も管理も同じだから条件は変わらないはず。でも、何度やっても同じ結果が出る。やっぱり尿素は地温を下げる。そして、冬場も同じように試験してみると、なるほど尿素をやったハウスよりも、硫安のハウスのほうが、1〜2度高い。

 微生物の働きを見る実験もしてみたのだが、これも目に見えて違いが出た。タネ菌を仕込んだ米ヌカ団子を作ってウネに置き、図のように団子の脇に硫安と尿素をパラパラまくと、普通は菌糸が団子の中心から円状に外側に広がっていくのだが、尿素をまいたところには菌が食らいつくように寄ってきたのだ。

 「菌のエサとしても夏は尿素のほうがいいみたい」

 真夏に、地温が1〜2度違えば微生物や根は天国と地獄ほどの差があるだろう。

後半の樹勢がよくなった

夏秋作
今年から始めた夏秋作。3月定植で5月末の様子。この作の追肥はずっと尿素(A)

 ここまで試した池松さん。以来、追肥を使い分けるようにした。ナスの定植は8月後半の暑い時期だから、最初は尿素。そして、冬に入って寒くなる12月ごろ、暖房機を稼働させる時期に硫安に切り替える。さらに冬を越して春暖かくなってきたら、今度はまた尿素に戻す。周りのタバコ畑(露地畑)の定植が始まる3月下旬ころが切り替えの目安。 

 追肥のやり方を変えてからというもの、収穫が後半にさし掛かり、暑くなってくる5月以降のナスのなりっぷりが変わってきた。バテないから後半の収量も安定してとれる。

 数年前、やはり暑くなる5月ごろ、地域の仲間と話していたら「樹がダラーッとして、ナスのなりが悪い」という。追肥に使うチッソは何を使っているかと聞いてみると「硫安だ」と。そこで、先輩から聞いたように友人にも尿素と硫安の話をした。

夏秋作
過酷な環境に耐えるため、下葉をすっかり落としてしまった池松さんのナス苗(3.5寸鉢)。丸2日一滴もかん水せず、3日目の朝ようやく盃2杯分くらいの水やり、というパターンを繰り返す。苗は下葉を数枚落としても、生きていこうと精一杯。このスパルタに耐えた苗は、定植後の乾燥や高温にも強い(A)

 その友人も翌年さっそく実践。暑くなってきたころに尿素を使ったら、樹の勢いがよくなったと報告してくれた。とても勉強になったと喜ばれたそうだ。

◇   ◇   ◇

 ちなみに、池松さんはどんなに暑い夏でも遮光資材を使わない。鹿児島から視察に来た人に「それで根が傷まないのか」と驚かれたことがある。もちろん、尿素で地温を下げるということもあるのだが、暑さを乗り越えるためには、池松さんはやはりナスが強くなければダメだと思う。だから育苗のときから、暑さにも乾きにも耐えられるように、水を限界までやらずに苗を鍛える。定植後もしおれる直前までは水をやらない。そうすれば根は初期の段階で地中深くまでしっかりと張る。これが夏を乗り越えるためには重要なことだと池松さんは考えている(池松さんの苗を鍛える話は、本誌06年4月号「下葉が落ちるまでしおれさせたナス苗の生命力」や、98〜99年に連載した「ハウスに山の自然を取り込んでナスつくり」もご参照ください)。

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