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くらし・経営・地域

島根発 農業参入企業は何を考えているのか

2007年6月に政府が発表した「経済成長戦略大綱」(改訂版)は、一般企業などの農業参入を2010年までに500社にするという目標を掲げている。構造改革特区で始まった農業生産法人以外の法人の農業経営は、2005年の改正農業経営基盤強化促進法により「※リース方式」という形で全国展開された。これによって、すでに全国で206社が実際に農業に参入しているという(2007年3月1日現在)。こうした企業は、どんな目的で農業に参入したのか。経営はうまくいっているのか。企業参入“先進県”の島根県で、2つの企業を訪ねた。

※市町村または農地保有合理化法人が、地権者から農地を借りたり買ったりしたうえで、農業生産法人以外の法人(一般企業)に貸し付ける方式(特定法人貸付事業)。


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少子高齢化を逆手に取るには農業

雲南市・木次自動車教習所

イネ刈り17haなど水田作業を受託する「カントリーファーム21 」を設立して農業に参入しているのは、島根県雲南市にある木次自動車教習所((有)難なん波ば支店)。始まりは一九九九年ごろというから、すでに8年も前のことになる。

自動車教習所が農業参入とは意外な気もするが、少子高齢化でお客さんが減るのは自動車教習所も同じこと。当時、経営していたスポーツ用品販売部門を廃止したのをきっかけに、「高齢化を逆手にとって始める新事業は福祉か農業」と絞ったうえで農業を選んだのだそうだ。

木次自動車教習所・農業部門「カントリーファーム21」の皆さん
木次自動車教習所・農業部門「カントリーファーム21」の皆さん。右から宇山充茂常務、河角富義さん(56歳)、長崎富男さん(56歳)
小型の乾燥機
小型の乾燥機を何台もそろえて、小面積の受託でもモミが混ざらないように仕上げる

「職員の中にも家で農業しているものはおるし、福祉よりは農業のほうが参入しやすいと思ったのですが、いまにして思えば安易でしたわ」

 そう笑いながら話してくれたのは、木次自動車教習所の常務・宇山充茂さん(57歳)。2003年には、島根県の企業参入促進モデル事業第一号の適用を受け、助成金で田植え機やコンバイン、乾燥機を増やして、受託態勢を拡大した。

小さい田んぼ対応の乾燥調製が人気、イネの作業受託は100軒以上

周囲の農家の水田面積は50a程度のところが多い。農家の高齢化が進むとともに、イネ刈りを中心に作業受託が増えてきた。作業を引き受ける農家の数でいえばすでに100軒を超えている。最初の1〜2年こそ広告を出したりしたが、その後は口コミだけという。隣の松江市や奥おく出いず雲も町まで受託先は広がり、いちばん遠いところはコンバインを運ぶだけで片道一時間以上かかる。「あなたのお米をあなたに、がうちのウリ」と宇山さん。宣伝なしに受託先がこれだけ広がったのは、乾燥調製を農家ごとに別々に仕上げることが喜ばれてのことという。

 作業の能率を上げるには、次々に収穫したモミを大きな乾燥機で一度に乾燥するほうが都合がいいが、それだと小面積の農家の米はほかの米と混ざってしまう。小さい田んぼごとの乾燥に対応するため、カントリーファーム21ではあえて小型の乾燥機を数多く備えている。

 それに、70歳以上の自動車免許の更新に義務づけられた高齢者講習で木次自動車教習所の作業受託を知る農家も多い。委託したなかには、幹線道路から2〜3kmも離れたところや、前進とバックを繰り返してイネを刈ったほうが速そうな小さい田んぼ、田んぼに引く水がほとんど天水頼みのようなところもある。収穫作業の引き受け手がなくて困っていた高齢農家にとって、カントリーファーム21が心強い存在であるのは確かなようだ。

トマトの栽培 水耕栽培
トマトの栽培は、農地がなくてもできる水耕栽培

農地を借りて、今年からが本創業

現在、この農業部門は2人の専従社員が担当している。いずれも自宅には自分の田んぼを持つ兼業農家だ。農繁期には、アルバイトやシルバー人材センターの高齢者の手も借りる。教習所の職員が助っ人に出ることもある。一方で、水田の作業が忙しくない時期のための品目として、水耕栽培のトマトや切り花のストックなどを導入してきた。また今年からは、一家の主人が亡くなり作り手のいなくなった畑・20aを借りて、加工用のイチジク栽培を始める。

 じつは木次自動車教習所の場合は、農業に参入したといっても、これまでは農地を持たない農業経営だった。地元・雲南市が、リース方式による企業参入に対応するようになったのをきっかけに、今年から農地を借りられるようになった。これからは水田のほうでも、作業受託だけではなく田んぼを丸ごと預かる面積が増えるだろうという。

 とはいえ、現在の作業受託中心の経営で収支はようやくトントン。農地をもち、自ら販売する生産物が増えれば新たな投資が必要だ。その分の赤字が縮小して経営が軌道に乗るようになるまでには、まだ数年かかるだろうという。そうなってようやく農業部門が別会社として独立できる。

 「農地に囲まれて育ちましたが、私自身は農業をまったく知らずに57年生きてきました。しかしこの年になると、土のぬくもりを感じてみたくなるんですね。自分でもキュウリやナスやトマトを植えてみたりしてるんですよ」と宇山さん。

 カントリーファーム21は今年から認定農業者にもなった。品目横断的経営安定対策にも加入した。「今年からが本創業」と、宇山さんは言葉に力を込めた。

資金面でも、販路開拓でも県が応援

 リース方式で農地を借りて農業参入した全国206社のうち、島根県には15社がある。もっとも木次自動車教習所の場合は、契約が結ばれたのは今年7月なので、この数字には含まれていない。全国の参入数も昨年九月時点では173社だった。半年で約20%増加しており、リース方式による企業参入はいま現在も各地で増加中と思われる。

 なかでも島根県では、木次自動車教習所も利用した企業の参入を支援する貸付金(上限事業費300万円の2分の1以内、参入後1年以上営農すれば返還免除)や補助金(事業費300万〜1億円の3分の1以内)、利子補給などの制度を設けてきたこともあり、農地リース方式以外も含めた農業参入企業は、2006年度末の時点で五四社というデータもある。これには、農地を必要としない施設栽培や、企業がかかわって農業生産法人を設立した場合などが含まれている。54社のなかには、経営不振で本業のほうが倒産した例はあっても、農業からは撤退していないという。

 島根県ではまた、栽培技術面の指導や、生産物の販売ルートを広げる商談会をセッティングするなど、参入して以降の支援も手厚いのが特徴だ。

 島根県の高齢化率(65歳以上の割合)は27.6%(2006年10月1日現在)で全国一高い。農家の高齢化はさらに進んでいる。「企業だからといって農業経営がすぐにうまくいくことはないだろうが、本業で蓄えた資本を生かして頑張って、新事業を開拓してほしいと期待しています」と県の担当者は話す。


いつか奥出雲をサツマイモの里に

――奥出雲町・(有)植田工務店

植田良二さん
「開パイ」の畑でサツマイモ栽培を始めた(有)植田工務店社長・植田良二さん。他の建設会社2社と「MOHG(モーグ)」と名づけた生産者組織も立ち上げ、有機JAS または島根県エコ農産物の栽培・販売に取り組む

 では、すでに農地を借りて作物栽培や販売を始めている企業はどんな様子なのか。次に、奥出雲町の(有)植田工務店を訪ねた。

女性が好きなサツマイモから農業参入

 社長の植田良二さん(56歳)が、借地した約五haの畑で何を作るか考えたとき、目安にしたのは次の三点だった。

(1)昔から食べられている一般的なもの。

(2)農薬をあまり使わなくてすむもの。

(3)女性が好きなもの。

 経験がないうえ、まして天候や土壌条件など不確定要素が多い農業に参入してつくる作物の8割は、ふつうに食べられている品目、すなわち消費量の多い品目だろうと植田さんは考えた。かといって、これからの時代、農薬が欠かせないような作物では販路が拓けない。女性が好きな品目をつくろうと考えたのは、家計の財布を握っているのが多くの場合、女性だからだ。

ソバガラ炭
植田工務店では竹、モミガラ、ソバガラで炭をやいて竹酢液も採り、自社の畑で使うほか販売もする。ソバガラ炭は、シックハウスなどで問題になるホルムアルデヒドを除去する力が活性炭より大きいこともわかった

 その結果、選んだのがサツマイモだった。根ものは葉ものなどとくらべてクスリがあまりいらない。それに、昨年、島根県フェアのために広島市に出かけて社長自ら焼きイモを焼いたときは、女性のサツマイモ好きを確信したという。100kgも売れればいいと思っていた焼きイモが、2日間で200kg売れた。それに――

 「いちばん驚いたのが、イモの詰め放題ですわ。ビニール袋に詰め込んでもせいぜい5kg 。それで1袋1000円としたら、女性の皆さん、イモを縦に詰めるんですね。すると8kg も10kg も入る。いや、それで損したと言いたいわけではないんです。勉強になりました。それに、詰めた中にちょっと悪いのが入っているのを見つけたので、『奥さん、これ、もう一本サービス』とおまけをつけたら、ニコーッと笑ってくれるんですね。それで翌日も『社長さん、また来たわ』なんて人がいた」

 結局、この詰め放題分も合わせると、用意した700kgのサツマイモは2日はもたずに早々に完売してしまった。

炭・木酢、マルチオオムギで畑を改良

 奥出雲町では、合併前の旧横田町時代に認可された「奥出雲来遠の里づくり特区」により、借地による企業の農業参入が2005年6月から始まっている。

 町内には、かつて国営農地開発事業で整備された、通称「開パイ」と呼ばれる畑が点在している。この多くが高齢化にともなって耕作放棄地となった。水田のほうは、集落営農組織が多数生まれて担い手となっている。参入企業にはこの開パイの活用が期待された。現在、植田工務店を含む3つの建設会社が農業参入し、合わせて23haの畑で、サツマイモのほか各種ベリー類や、青汁原料となる大麦・ハト麦の若葉、ケールなどを栽培している。

マルチオオムギ
ウネ間の草と土壌流亡はマルチオオムギで抑える

 植田工務店では、農業部門の専任社員を一人おいたうえ、収穫作業などが忙しいときは6〜7人を土木のほうから畑へまわす態勢をとっている。植田社長自身も畑で作業する。重機の扱いには慣れているので機械作業にとまどうことはなかったが、面食らったのは畑の土のことだった。

 参入1年目からサツマイモはよくとれた。畑の土がマサ地で透水性がよいことがイモに向いていたらしい。だがマサ地というのは、要は砂のT親分Uのような土だ。粒子が粗いうえに硬いので、サツマイモに傷がつく。焼酎原料用の場合はそれでもよかったが、青果用には具合が悪い。おまけに畑が傾斜しているうえねじれているので、大雨が降ると、せっかく堆肥を入れて耕した土が、いちばん下の角に向かってドーッと流れてしまった。

 この土壌流亡を防ぐには、ウネ間の雑草対策を兼ねて播いたマルチオオムギが役立った。土壌改良には、堆肥といっしょに入れた自社生産のくん炭が効果を発揮した。1年、2年と経過するにつれ、トラクタのロータリがカンカン音をたてるのが減ったことからそれがわかる。土が軟らかくなってきているということだ。

 もうひとつの問題は、野ネズミの害が多かったことだ。会社として参入が認められた2005年の前の年も、植田さんは個人として開パイを借りてサツマイモをつくっている。このとき収穫したイモは、なんと半分以上が野ネズミにかじられていた。

 野ネズミ対策に植田さんが利用したのは、やはり自社生産する竹酢液に含まれるタール分だった。静置して取り出した上澄みのほうは、サツマイモに葉面散布したり販売したりするが、沈んで残るタール分のほうも野ネズミよけに役立つのだ。ペットボトルに入れ、すぐに流れ出ないように口に布きれを詰める。それを畑のウネ間に、4mおきくらいに口を下にして突き刺すだけ。これだけで、会社として栽培を始めた2005年の野ネズミ害は5%に激減した。

 「こちらは素人。ヨソの農家のおやっさんが言うのを学んだおかげですよ。私は現場の“経験工学”を大事にします」

焼酎・焼きイモ・菓子…品種の力で販路を拓く

シモン(左)とパープルスイートロード(右)
地元の酒造会社と契約して生まれたシモン(左)とパープルスイートロード(右)の焼酎

 作物栽培の柱にサツマイモを選んだのも、もとはといえば、農産物の流通にかかわる友人に勧められてのこと。その人のT経験工学Uにヒントを得た。それからいろいろ調べて、サツマイモが女性に人気があることも知ったが、いきなり青果用だけでたくさん売れるとは思えない。それで焼酎にすることも考えた。

 青果用で売るには、ハリガネムシの食害を防ぐのに、土壌混和の殺虫剤一回がどうしても欠かせない。ところが焼酎原料なら見栄えを気にする必要はない。無農薬栽培できる利点もあった。農薬を使わないことに加えて、イモ自体の健康効果をアピールするため、品種は糖尿病などにいいと言われるシモンを選んだ。もちろん、蒸留してつくる焼酎にシモンの健康成分が残るわけではないだろうが、健康にいいサツマイモを無農薬栽培して、地元の酒造メーカーと契約してつくった焼酎2500本(720mlビン)は、イメージ戦略のねらいどおり2カ月で完売。これが会社としての農業参入1年目、2005年のことだ。

 二年目の昨年は、このシモンも含めて13品種も栽培した。どの品種がこの土地に合うかを探るためだ。そのうち今年は8品種を残した。青果用に高系一四号、ベニマサリ、ベニキララ、ベニハヤト、クイックスイート、安納の六品種、焼酎用にシモンとパープルスイートロードの二品種。計五万本の苗を約2.5haの畑に植えた。

 栽培面積が多いのは焼酎用のイモだが、高系一四号も今年は1万6000本植えている。標高が高く寒暖の差が大きいことは、作物栽培にとっては大きな利点だ。マサ地の欠点さえ改良されれば、開パイでは糖度の高い品質のよいイモがとれる。サツマイモの加工品を製造販売する有名メーカーとの契約がまとまって、今年は植田工務店を中心に、奥出雲町全体で3万5000本の苗を植えている。

 焼きイモには、ベニキララという肉質がオレンジのイモもここ奥出雲には向くこともわかった。粘質系のイモだが、ここでつくると鹿児島・種子島の有名な安納より甘い焼きイモになる。

 植田工務店では、町内の直売所でも焼きイモ販売を始めた。焼くのは直売所の店員に頼むのだが、焼きイモ器は植田さんが貸し出す。焼きイモで売れば単価が上がるから、植田さんはもちろん、手数料が余計に入る直売所にとってもメリットがある。多いときは月に10万円くらい稼いだ。焼きイモ器のリースとセットのサツマイモ販売は、町外はもちろん県外にも展開していったらおもしろそうだ。

 そのほか、ベニマサリは、県内松江市の和洋菓子店の和菓子の主原料に使われるようになっている。以前は県外の鳴門金時(高系一四号)を使っていたのが、島根県産のサツマイモでつくられるようになった。

参入企業は農地を「所有」する必要はない

 だが、農業に参入してまだ3年目。農業で利益が出るのはまだ先のことだ。植田さんは6〜7年は投資期間と見ている。

 では、その6〜7年が過ぎて作物栽培で利益が出てきたときには、現在のような借地ではなく、企業として農地を所有したいという考えも出てくるのだろうか。政府の経済財政諮問会議のワーキンググループが五月にまとめた報告書にも盛り込まれているように、経済界には企業の農地所有を求める声が強い。

 「借地で不満があるとしたら、地権者に突然出て行けと言われることです。しかし、町があいだに入って借りるいまの形にはそんな心配はない。農地を所有したいという気持ちは私にはありません。企業が農地を所有したいというなら、それは、いずれ農業ではなく別の用途に転用できる、高く売れると考えているとしか思えません。

 農地というのは土地と違う。農家がよく『先祖から預かった』というように、自分のものではなく借りてるものなんです。そこで農業をしたいという人が、国から預かっているようなもの。都会の消費者にもそれがわからない人が多いんでしょうね。『農地を所有したい』なんていう企業には与えるべきではない。企業は性悪説で見るべきです」

 植田さん自身は、開パイに参入するまで農業をしたことはなかったが、父親は早く会社を代替わりして「自分は農業をやりたい」と口癖のように言っていたという。そしてその言葉どおり、引退後も老人クラブには入らず、亡くなる前日まで畑に出ていた。

 「農業はおもしろいですよ。参入を決めたのは、公共事業が減るなかで雇用を守るのが目的でしたが、いまでは父親の気持ちがよくわかります。若いときはこんなことは思わなかったが、50を過ぎて、ここで生まれて死ぬからには、何かいいことをしておかないと、と思うようになりました。儲からなくても、正しいことをしていると思うとよく眠れるんですわ」

 植田さんには、自分の会社がサツマイモやほかの野菜で栽培・販売を成功させて、それを地域の農家に広げたいという構想もある。それはなにも「いいこと」をするためだけでない。参加農家からいくらかの手数料をもらう商売にもなると思うからだ。

 都会の企業と違って地方の企業は、農家とともにそこで生きている。「農業はおもしろい」という経営者がいる企業なら、地域の田んぼや畑をともに守る力になりそうだ。

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