竹粉 いよいよ広がってきた 竹肥料
竹粉栽培に興奮
竹の生長力と土着菌を呼ぶ力が野菜を変える!?編集部
生で食べてもゴーヤーが苦くない!?
「目をつぶって食べたら、ナシを食べてるような気がしませんか?」
試験畑を案内してくれた永田さんに、そう尋ねられたナスは、さすがにナシとは思えなかったが、甘みがあってサラダとして生で食べてもよさそうな味だった。「これもどうぞ」と次にちぎってくれたのはニラ。かじってみれば確かにニラの味、しかしニラくささはあまり感じない。ニラサラダがあったっていいんじゃないかと思えてくる。同じくピーマンは、やはり甘みがあるからなのか、ふだん食べるピーマンよりまろやかな味がした。
残念ながら、7月に九州に上陸した台風4号のせいでゴーヤーの収穫はもう終わっていたが、永田さんのゴーヤーは、生で食べても苦くないという。2〜3歳の子が畑で丸かじりして平気な顔をしていた。沖縄から見学にやってきた農家も、「これはゴーヤーじゃない」と驚いていたそうだ。
また、いつもニンジンをすりおろしてジュースにして飲んでいる人に、この畑でとれたニンジンをあげたら、「ハチミツがいらないくらい甘い」と感激されたとか。
畑の主、鹿児島県霧島市の永田實さんが新しい栽培法に取り組み始めたのは昨年3月のこと。まだ1年半しかたっていないのに、作物の変化は本人も興奮するほど劇的だ。野菜がすべて生で食べられるような味に変わるのも不思議だが、収量も1.5〜2倍に増えるという。永田さんが始めたこの新しい栽培法、その核になるのが竹肥料なのだ。
竹肥料は土着菌を呼ぶ
「チクフンの効果です」と永田さん。家畜糞がいいと言っているようにも聞こえるが、チクフンは「竹粉」、竹を破砕した粉だ。
本誌がこれまで竹肥料と呼んできたものには、「植繊機」という破砕機や182ページに新登場の「植環機」にかけた竹のようにふわふわの繊維状に破砕されるものと、永田さんが使うような粉状のものとがある。粉状の竹粉は、丸鋸を利用して竹を微粉末にする「竹粉機」(製造は静岡・丸大鉄工)にかけてできる。一見すると米ヌカのようにも見える。
粉にしろ繊維にしろ竹を破砕しただけのものには違いないので、「肥料」というのは抵抗があるかもしれない。しかし、収穫した野菜がおいしくなったり収量が上がったりと、「竹肥料」と呼びたくなるような不思議な力をもった粉・繊維であることもまた確かなのだ。
竹粉=竹肥料の特徴のひとつに糖分を多く含んでいるということがある。そのため土着菌、とくに土着の乳酸菌が自然に殖えやすい。竹粉を袋に入れて密閉しておくと、すぐ乳酸発酵が始まって甘酸っぱい香りを発する。そこでこれを家畜の発酵飼料として利用する研究も始まっているくらいだ。
永田實さん。経営の中心はシンビジウムだが、いろいろな野菜でも竹粉栽培を試験中 永田さんにすすめられニラをかじる見学者 永田さんは、竹粉のこの微生物のエサとしての力を生かすため、10a当たり50kgの竹粉を約1tの堆肥といっしょに施用するのを基本にしている。そのほか元肥にはチッソ肥料も加えるが、油カスを使う場合ならこれも50kg程度。竹肥料で土の表面をマルチする使い方にくらべると、施用量はだいぶ少ない。その代わりすぐロータリをかけて、まいた竹粉はチッソ肥料ともども堆肥でくるむように土にすき込んでしまう。嫌気状態にしたほうが、乳酸菌が繁殖しやすいだろうと考えてのことだ。そして、竹粉の施用量が少ないためでもあるのか、この耕耘直後にタネを播いたり苗を植えても、とくに害が出るようなことはないという。
果菜類の追肥のときは、株元から20cmくらい離れたところのマルチに穴を開けて、油カスなどといっしょに竹粉も施用。このときも乳酸菌がよく働くように、竹粉を置いた上には少量の土を被せておく。
生長スピードが速い、腋芽・分けつが増える
永田さんが竹粉栽培を始めて最初に気づいたのは、作物が老化しにくいということだったそうだ。
「ゴーヤーの下葉がいつになっても黄色くならない。おかげで古い葉を手で取る必要がありませんでした」
黄色くなりにくいのは実のほうも同じだ。ゴーヤーは60cm、キュウリは30cm以上に大きくなってもまだ鮮やかな緑色のままだった。
それに、竹粉を入れない対照区をつくってみると、竹粉入りの作物はとにかく生長が速いということがよくわかった。
「生育のスピードはふつうの3〜4倍! 竹のDNAがゴーヤーやキュウリに乗り移ったようです」
竹の粉を入れただけで、生長が3〜4倍も速く進むなんてなかなか信じられないが、竹は最盛期には1日に1mも伸びるという植物だ。その生長力には、植物ホルモンの働きがかかわっているといわれる。竹粉は糖分で土着菌を増殖させるだけでなく、竹由来の植物ホルモンを作用させて作物を変える力があるのだろうか。
ゴーヤーやキュウリが速く伸びれば、そのぶん実がなる節の数も増える。昨年とった記録では、ゴーヤー1株の苗から平均110本のゴーヤーが収穫できている。10a当たりにすれば約5t。竹粉を使っていなかった昨年までは周囲の平均と同じ3tくらいの収量だったから約1.7倍に増えたことになる。
永田さんの経営の中心は50aつくる床植え(切り花)のシンビジウムだ。竹粉はここにも使っている。
シンビジウム
左側のウネは竹粉を施用しているが、右(中央)のウネは施用していない。左のウネの茎数は右のウネの2倍「見てください。ここからがチクフンを入れたところ。花の数が2〜3倍とれました」
一昨年植えた株に、昨年から竹粉を入れている。4月と11月に10a50kgずつだ。腋芽や分けつで殖える作物の場合は、竹粉の生育促進効果は茎の数を増やすのに働くらしい。1株の茎の数を数えてみると、対照区が7本なのに対して竹粉入りのほうは14本。ちょうど2倍だった。
「チクフンがいいところはここです。おそらく発根がよくなるものだから、生長が速くなるし茎も増える。見に来た方はみんな驚きますよ」
永田さんの畑ではないが、ジャガイモの比較試験でも、種イモから立つ茎の数が増えたうえ、その茎が太くなった。1株ずつ掘ってみると、竹粉を入れていないほうの子イモは9個だったのに対し、竹粉入りは17個。やはり収量は2倍近く増えそうだ。
すき込んで使うなら50〜100kgが適量か
永田さんは、竹粉の施用量がどのくらいがちょうどいいかも調べている。
ナス
竹粉を入れたほうが生長が速く、草丈が大きい (電解水はどちらも使用)50kg区と100kg区をつくってカボチャ(坊ちゃん)の収量を比較した結果では、50kg区が1a当たり285個だったのに対して100kg区は395個。100kg区のほうが4割近く増収している。チッソ成分はごくわずか(0.3%程度)しか含まない竹の粉を50kg増やしただけで4割も収量が増えるということは、チッソとは別なしくみで増収に作用している証拠でもある。
では、竹粉をもっと増やせばさらに増収するかというとそうではなくて、いまのところは10a当たり50〜100kgがちょうどよいというのが永田さんの実感だ。もっともこれは、表面にマルチするのでなく、土の中にすき込んで使うという施用のしかたも関係しているだろう。
ふつうの肥料は半減させても平気そう
荒廃竹林はいくらでもある。だから、竹で作物の生長が早まったりおいしくなったりするというのは夢のような話なのだが、硬い竹の稈を粉や繊維にまで破砕するには、強力な力を持った破砕機がいる。特殊な機械だけに価格が高く、数百万円から数千万円もするということが竹肥料を自給する障害となっている。
キンカン
1カ月にわたって開花が継続中。7月初めに開花した花は1cm弱の実になっている(7月27日)永田さんの使う竹粉は、竹粉機を扱う建設機械の販売会社(九州キャタピラー三菱建機販売(株))が、県内の竹材店にその機械を設置して生産しているものだ。家畜の飼料にもそのまま使えるよう乳酸発酵までさせた竹粉で、50kgが1万2500円で販売されている。
ずいぶんと高い肥料になるが、竹粉を使うとふつうの肥料の量が減らせるという。昨年春からの永田さんの経験では、チッソ肥料を半分に減らしても増収するほどだった。昨年の秋作では、堆肥と竹粉だけで、油カスも化学肥料もゼロにしてみたが、それでもふつう以上にとれた。
たとえば化学肥料を使う場合なら、2200〜2300円の化学肥料を10aに20袋使っていた畑が10袋以下ですむという。竹粉代1万2500円を払っても、肥料代はむしろ1万円近く安くすむ。そのうえおいしい作物の増収が期待できるわけだ。
「最近は、1カ月のうち20日くらいは誰か見学に来ます」と永田さん。永田さんの竹粉栽培はテレビのニュース番組でも取り上げられたため、各地から見に来る人が殺到しているという。
北海道から3回訪ねてきた人もいる。北海道には竹がないので、鹿児島から北海道まで竹の粉をわざわざ送ったそうだ。
各地の荒れた竹やぶが、いよいよ放っておけなくなるかもしれない。
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