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アルブレヒト・テーア
アルブレヒト・テーア(1752〜1828年)

有機農業の原理をテーアに学ぶ
西洋の農書『合理的農業の原理』翻訳書刊行に寄せて

編集部

 アルブレヒト・テーア(あるいはテーヤとも表記されている、1752〜1828年)をご存じだろうか。今から約200年前(日本の江戸時代後期)に、世界で初めて農学を独立した科学として確立し、「近代農学の始祖」として世界的に評価されている、ドイツの農学者であり農業教育者だ。しかも、自ら農場を経営した農業者でもあった。

ヨーロッパで「有機農業のバイブル」に

 今、このテーアの理論と農法が、ヨーロッパでは「有機農業のバイブル」として再評価されている。『合理的農業の原理』(原著は全4巻、1809〜1828年刊)は、このテーアの理論と実践を集大成した大作である。

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 日本では、江戸時代の「農書」が、国内の有機農業のよりどころとして多くの農家や研究者、指導者に読まれているが、テーアは世界の有機農業のよりどころになっているのである。

なぜ今、200年前のテーアか?

 200年前というと、ヨーロッパでも化学肥料のない時代である。

 テーアは、「土壌の腐植(フムスという)、すなわち有機物が植物の養分である」という「有機栄養説」を提唱する。そして、土壌中の腐植の量、すなわち地力によって収量が左右される。腐植を増やし地力を高めるには、堆きゅう肥の施用が基本であるとして、飼料作物(マメ科作物や根菜類)を輪作にとり入れ、家畜の頭数を増やすことで、飛躍的に地力と収量を高めることができることを示した。

 この農法は、イギリスで始まった「ノーフォーク農法」に学んで、テーアが自らの農場で実験・研究し、その原理を明らかにしたものであり、「輪栽式農法」とも呼ばれている。この農法が「持続可能な農法」として、再評価されているのである。

地力を高める「輪栽式農法」とは

 それでは、輪栽式農法とはどんな農法なのだろうか。図1を見ていただきたい。中世の封建時代には「三圃式農法」という、3年に1回休閑する輪作が行なわれていた。しかし、飼料作物の栽培がなかったので、冬にはエサがなく家畜は翌年の繁殖用を残して屠殺されていた。そのため、堆きゅう肥が不足し、地力が消耗する略奪的な農法だったとテーアはとらえる(図2)。

図1 イギリスにおける農法の変遷と、ノーフォーク農法に学んでテ−アが確立した輪栽式農法のしくみ(『土壌学の基礎』松中照夫著、農文協刊より)
イギリスにおける農法の変遷と、ノーフォーク農法に学んでテ−アが確立した輪栽式農法のしくみ
耕地の作付け順序は、いわゆる時計回りの進行を示す。 冬穀(秋播き穀物)はコムギ・ライムギ、夏穀(春播き穀物)はオオムギ・エンバクまたはところにより、ソラマメ・エンドウなどを含む。牧草は穀草式では主として多年生のイネ科牧草、一部白クローバなどのマメ科牧草を含む
図2 輪栽式農法(ノーフォーク農法)で地力が飛躍的に高まる
輪栽式農法(ノーフォーク農法)で地力が飛躍的に高まる
地力度は、1モルゲン(約30a)当たり荷馬車1台分(2000ポンド(約1t))の堆きゅう肥施用を10、純粋休閑10、自然地力40。休閑+荷馬車5台分の堆きゅう肥で合計100になる。地力減耗度は作物の種類で異なる。輪換年数を10年に換算して計算(『合理的農業の原理』上巻・第2編・6章より)

「輪栽式(ノーフォーク式)農法」の輪作では、休閑にかわって、根菜類(飼料カブ)と赤クローバ(一年生牧草)という地力培養型の作物が入ってくる。イネ科作物―マメ科作物―根菜類を組み合わせた輪作体系である。これによって、冬のエサが確保でき家畜の飼育頭数が増え、堆きゅう肥も充分に確保できたのである。この輪栽式農法の確立によって地力が高まり、コムギ収量が、1ha当たり1tから1.7tにまで増えたという。

土―作物―家畜の組み合わせの原理を明らかに

テーアが普及した6条ウネ立て機と3条播種機
テーアが普及した6条ウネ立て機と3条播種機
テーア著『合理的農業の原理』の日本初の翻訳本(全3巻、相川哲夫訳)
テーア著『合理的農業の原理』の日本初の翻訳本(全3巻、相川哲夫訳)が今年の10月より、農文協から刊行される。定価各12,000円、揃価36,000円。予約受付中

 だが、やがて有機物の過剰が問題になってくる。ここで注目したいのは、テーアが、地力が必要以上に高まることをよしとはせず、対策をきちんと打ち出していることである。

 図2にあるように、飼料作物を他の商品作物に転換して、家畜の頭数を減らし、過剰になる堆きゅう肥の生産を調整する。つまり、商品作物の導入によって、経営をふくらませながら、地力のバランスをとるのである。

 テーアは「有機物を入れて地力を高めればいい」と単純に考えてはいなかった。土地、土地によって、さらに作物によっても必要な地力は違ってくるから、当然、投入する有機物の量も変えなければならない。

 自分の農場での実験、さらには多くの農場の実態をつぶさに観察・調査するなかで、テーアは地力を中心に、土―作物―家畜のバランスのとれた組み合わせの原理を確立したのである。

地力を高め、生かすには耕耘も決定的

 こうした有機物の施用や輪作とともに、テーアが重視したのは、耕耘と土地改良である。これを「力学的農業」と呼び、地力の向上と活用に決定的に重要であると強調している。

 たとえば耕耘。土を起こすだけでなく、土が砕かれ、団粒化しなければ細根が土塊の表面にしか張らない。さらに、土を反転して野ざらしにする。これにより、「フムス (腐植)は初めてその肥沃度を受け取る」。また、秋の深耕と野ざらしで、春の乾燥に対して信じられないほど強くなる、という。

 こうして、テーアは、地力にとって耕耘がいかに重要かを指摘する。しかし、その耕耘方法もまた画一的ではなく、土壌によって強度や回数を調節しなければならない。明快な「原理」とともに、豊かな現場経験をふまえた応用方法を示すところに、テーアの大きな魅力がある。

 以上、テーアの農学の根幹に当たる地力維持と輪作について紹介したが、『合理的農業の原理』では、農業観や農家の心構え、農村生活、農業教育、農場経営、さらに主な作物の栽培、家畜飼育法まで、農業のあらゆる分野について、重要な提言をしている。

 それも、理論だけでなく、農場での自分自身の経験をふまえて、実際の作業のやり方まで具体的でリアルに書かれている。だから、楽しく、おもしろく読める。当時、ベストセラーになり、ヨーロッパ各国語に翻訳されたのは、まさに農家の経営と生産の実践的手引き書だったからである。

 化学肥料も農薬もなかった時代に書かれた「西洋の農書」ともいうべき『合理的農業の原理』、それは明日の農業に向けて、多くの示唆を与えてくれる。

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