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木村秋則氏(左)と筆者
木村秋則氏(左)と筆者

「無肥料栽培のリンゴ」はなぜ可能なのか
うわさの木村リンゴ園を考察する

山内文男

 青森県の木村秋則氏は無農薬、無肥料の自然栽培を行ない、環境にやさしい農業として多くの人の注目を集めている。自然栽培法は原則として無農薬、無肥料による栽培である。

 この自然栽培が科学的にどのようなしくみで無農薬、無肥料が成立しているか考察してみたい。

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無肥料栽培が可能なのはなぜか

チッソはマメ科植物を植えて、空中チッソを利用する

 肥料はチッソ、リン酸、カリが三要素といわれ、作物に重要な養分である。

 自然栽培では、チッソはダイズなどのマメ科植物を植えて、マメ科植物の根粒菌による空中チッソ固定作用を利用している。その植え付け時の判断法は次のようである。

・一株のダイズに根こぶ(根粒菌)が10個以下なら、その土壌はチッソ成分が十分なので、次の作付けにはマメ科植物は植えない。

・根こぶが30個以上なら、その土地にチッソが不足しているから、次の作付けにはまたマメ科植物を植える。

 この判断法で実際に自然栽培は成功している。表1のように弘前大学の杉山修一教授の分析結果でも、木村リンゴ園のチッソ含量は慣行栽培の土壌より多い結果となっている。

表1 慣行栽培と自然栽培の土壌(弘前大学 杉山修一教授)
土壌分析内容 自然栽培(木村リンゴ園) 慣行栽培(隣接リンゴ園)
pH 5.825 6.027
リン酸含量(mg/100g) 0.065 0.122
可給態チッソ量(mg/100g) 17.58 15.1
微生物チッソ量(mg/100g) 12.97 10.92
微生物炭素量(mg/100g) 44.45 19.03
含水率(%) 35.1 34.9

リン酸は自然循環分と土壌中にある分で足りている

木村氏のリンゴ樹
木村氏のリンゴ樹。草生栽培により、有機物補給と硬盤破砕、母材層のミネラル吸い上げが行なわれているとみられる

 自然栽培ではリン酸については特に新たな成分を施すということは行なっていない。果樹の場合、葉は落葉となって土に還り、分解してリン酸のような無機成分となり、作物に吸収される。こうしてその土地で循環する。

 しかし、リンゴの場合には果実は畑以外に持ち去られるので、年々、土地のリン酸成分は減少してゆくはずである。そこでその減少分を計算してみた。

 リンゴの10a当たりの東北各県の収量は各県によって異なるが、約2000kg前後である。日本食品成分表によると、リンゴの果実にはリン(P)が100g当たり10mg含まれている。よって、2000kgには200gのリンが含まれる。リン酸(P2O5)に換算すると458gとなる。

 10aは1000m2であり、仮にリンゴの根が5m伸びるとすると5000m3の土となる。健全な土は約60%が空気と土であるが、耕土の約50cm以下は空気が少ないと考えられるので、空気と水を40%と仮定する。土の部分は60%で、5000m3中の3000m3が土である。土の真比重を2として計算すると6000tとなる。土壌(耕土)中には約0.1%のリン酸が含まれるといわれるので、6000t中には6tのリン酸が含まれる。1年に458g消費されても、1万3100年分の蓄積があることになる。すなわち、数十年程度の栽培なら土壌のリン酸減少はあまり問題にならないことになる。

 表1のように杉山修一教授が調べた木村氏のリンゴ園のリン酸含量は、0.065%で、慣行栽培の隣接リンゴ園の土の0.122%より低い結果がでている。多くの場合、土壌分析は表面から10〜25cmの表土をとって行なわれる。リンゴの木の根は表土に多いが、木村氏のリンゴはもっと深いところの根でも吸収活動をしていると思われる。

 以上の結果、リンゴは根が十分に張るので、リン酸成分は不足しないと考えられる。

カリも土壌中にある

 カリもリンゴの果実とともに畑の外に持ち出されるのでリン酸と同じく毎年減少する量を計算した。

 リンゴの果実にはカリ(K)が100g当たり110mg含まれている。2000kgには2200gとなる。カリ(K2O)に換算すると2640gとなる。日本の土壌(耕土)には約0.2%のカリが含まれているといわれるので、やはり根の深さを5mと仮定して10aの土、6000tの中には12tのカリが含まれることになる。すると、1年に2640gの減少ならば4545年分のカリが土壌中にあるので、リン酸と同様に数十年程度では、カリ不足はあまり問題にならない。

耕土の下、母岩には養分が多い

 以上の土壌中のリン酸およびカリの含量は、深さ約50cmの耕土中の含量をもとに推測したものである。だが、耕土以下の数mにおよぶ樹木の根の生える地層の養分含有量は本来どのくらいあるのだろうか。この層は母材層ともいわれ、多くは母岩である。

 『農業技術大系土壌施肥編B』(農文協)の「土壌の性質と活用」で川田薫氏は興味ある意見を述べている。

 すなわち、日本列島ができてから約2000万年たつといわれ、この間降った雨によって微粒子や養分は絶えず流され、土壌はヌケ殻になってきた。昔から川が氾濫すると、上流の養分は下流に流される。自然においては、植物は土がなくとも、肥料がなくとも、岩があれば立派に育つというのである。日本三景の松島のマツは岩の上に生育している。

 母岩の種類にもよるが、地球の地殻には平均してリン(P)として0.11%あり、カリ(K)は2.59%もあるといわれる(奈良誠「岩石由来ミネラルの循環と利用」(『農業技術大系土壌施肥編B』)。耕土に比べると、リン酸はほぼ変わらないが、カリは10倍以上も多い。これは地表に比べ母材層では雨による流失が少ないからだろう。

 少なくとも耕土以下の地層には耕土に劣らない多くの養分がある。自然栽培ではこの資源を十分に生かしているのではなかろうか。

雑草が土の団粒化を助け、硬盤破砕し、下層の養分を吸い上げている

 また木村リンゴ園では、リンゴの木の下に雑草が青々と茂っている。秋になると刈り倒しておくという。これが堆肥の役目を果たしていよう。

 自然栽培において、あえて雑草を取らないのは二つの意義がある。

 第一には雑草分解物の有機成分によって、土壌の団粒構造を保つことである。有機成分は土壌粒子を結びつけ団粒にすることによって、土壌に空隙を作り、空気や水の保持を高める。木村リンゴ園の土壌は足で踏んでみても、ふわふわとしている。表2のように地下50cmまで外気の温度とほぼ変わらないのは、土壌に団粒構造がよくでき土壌中に空隙が多いからである。

表2 土壌の深さと地温(木村秋則氏らの測定による)
木村さんのリンゴ園 自然栽培1年目のリンゴ園
外気温19.0度 外気温22.4度
測定の深さ 温度(度) 硬さ(mm) 温度(度) 硬さ(mm)
10cm 19 20 18.2 14
20cm 18.8 16 17.8 11
30cm 18.9 14 18.2 11
40cm 18.7 7 18.3 22
50cm 18.4 10.5 18.5 22
土の硬さは山中式硬度計による。20mm以上では作物の根は伸びないといわれている

 表2では木村リンゴ園と自然栽培1年目を比較している。1年目では多くの日本の慣行栽培の耕土のように、地下40〜50cmのところが硬盤層になっている。外気の温度と地下の温度にも明らかな差がある。このような時、大麦などを植えると硬盤層を破壊できると木村氏はいう。大麦は180cmほど根を伸ばすからだという。

 第二には、雑草の根は大麦の根と同様に、リンゴ自身の深い根とともに、土壌の下層のミネラルなどの養分をポンプのように吸い上げて、リンゴの根の多い上層の土壌に運ぶことである。このようにして肥料を施さずとも、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル成分が補給されると考えられる。

無農薬栽培が可能なのはなぜか

害虫と益虫が共存している

 自然の森林の草木は青々と茂っている。しかし、よく観察すると害虫と益虫のバランスがとれているのである。 

 益虫にはそのエサとなる害虫も必要である。害虫がいなくなると、それをエサにしている益虫もいなくなってしまう。農薬で害虫を全滅させると、同時に益虫も死ぬ。このような時、少しでも害虫が発生すると、これを食べる益虫がいないので、害虫の大発生を招くのである。自然界は、見えにくいが、少しの害虫と少しの益虫が共存しておりバランスを保っている。害虫と益虫のバランスによる生態系によって、害虫の異常発生による甚大な被害は免れる。自然栽培は生態系農業ともいえる。

 木村リンゴ園では、無農薬にしたところ、1年目は虫害でリンゴは全滅したが、害虫の3分の1程度の益虫の卵が産み落とされ、2年目、3年目以上たつと益虫とのバランスが次第にとれるようになったという。

 また、良好な土作りによる吸収力が強く丈夫な作物には病害もつきにくい。化学肥料を施したものは、病弱な体質で、数々の病害に侵されやすい。これに比べて、根からの吸収力もよく、生育や代謝にバランスの取れた自然栽培のリンゴは丈夫で、健全な発育を示すことになる。有機農業のバイブルといわれるハワード著『農業聖典』においても、良質の堆肥による地力によって、健康な作物を作ることが病虫害防除の基礎であると述べている。

 こうして育った自然栽培の作物が強いのは病虫害だけではない。慣行栽培では暴風のときリンゴがほとんど落果したが、木村氏のリンゴはほとんど落果せず、より丈夫なリンゴに生育していたという。

 はじめに自然栽培は原則的に無農薬、無肥料と述べた。原則的というのは、虫害忌避や病害虫防除に醸造酢を用いているからである。これらの醸造酢を自然物と見るか、農薬と見るかによって、無農薬の名前が適正か否かに分かれる。よって原則的にという表現を用いた。

 慣行栽培から自然栽培に簡単には転換できない。土が変わるのにも最低3年以上はかかる。また、害虫と益虫との生態系が落ち着くのも3年以上はかかる。その間、収入をなくすことはできないので、木村氏は部分的に転換してゆくことを勧めている。

 この自然栽培が農薬や化学肥料で汚染された日本の慣行農業を変革する原動力になることを願っている。

(東北大学名誉教授)

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