2007年秋
東京のスーパーのお米の値段を調査してみた編集部
「消費者の一人」という目線で、東京のスーパーの米売り場を何軒か歩いてみた。9月初め、千葉の新米がチラホラ出始めたばかりで、並んでいる大半は昨年産の米、という時期。今年の米価格の動向を調べるにしてはちょっと早すぎたのだが、全農本部発表の米集荷が「全国一律、1俵7000円の内金」と聞いて、いてもたってもいられなくなったからだ。
最終的には県本部単位や農協単位で7000円に上のせするところも結構あるようだが、それでも去年までと比べてガクンと手取りが落ちる農家が圧倒的な様子。こんな米価では年越しもままならない。何でそんなに米が安くならなきゃいけないのだろう? 末端消費者はそんなに安い米を食べてるのだろうか? ――とりあえず、そんな単純な疑問だけが動機だ。
スーパーを巡って感じた米販売事情
価格調査の結果は340ページの表の通り。まわった店は、郊外型の大規模スーパーというよりは、住宅地のそばの、どちらかというと中規模〜小規模のスーパーが多かった。売り場で米袋をひっくり返したりしながら価格と産地を片っ端からメモしていると、店の人の不審そうな視線が背中に痛かったものの、実際にとがめられることは一度もなく無事終了。
全体の印象としては、「農家の手取りがそんなに暴落しなきゃいけないほどには、消費者の米価は下がっていない」という感じではあったが、こうして何軒か歩いてみると、それぞれスーパーの個性もあったりしてそれなりにおもしろい。今まであまり気にしてなかったような米販売事情も見えてきた。せっかくなので、それも含めてお伝えしておく。
世田谷区
A店港区
B店台東区
C店台東区
D店中野区
E店あきる野市
F店北海道 ほしのゆめ 1680 2180 ななつぼし 2380 秋田 あきたこまち 2180 1999 2280 2420 3180 同無洗米 3180 山形 ササニシキ 2380 はえぬき 1980 岩手 ひとめぼれ 2580 宮城 ひとめぼれ 2380
(特栽)1880 福島 コシヒカリ 1880 ひとめぼれ 2550 茨城 コシヒカリ 1680
2180
(特栽)2799 あきたこまち
(新米)2980 千葉 ふさこがね
(新米)1680 ふさおとめ
(新米)1680 コシヒカリ
(新米)1980 長野 コシヒカリ 2900
(「幻の米」)新潟 コシヒカリ 2580 2380
(「深雪米」)2880 2982 3480
3780同無洗米 2480 3180 ひとめぼれ 1999 こしいぶき 2520 魚沼 コシヒカリ 3780 3080 4780 4000 4980 3880 富山 コシヒカリ 2980 同無洗米 3380 石川 コシヒカリ 1980 3280 福井 コシヒカリ 2180 佐賀 コシヒカリ 3000
(新米「七夕コシ」)2180
(棚田米)熊本 ヒノヒカリ 1980 ブレンド米 2980
(「産直の米」)1980
(「おいしいお米」)
2880
(金芽米)(1)品揃えについて
▼東高西低 新米不足
まずこれはあらかじめわかっていたことではあるが、東京のスーパーには西日本の米はほとんどない。圧倒的に東北・北陸の米が多く、次いで関東の米。大阪のスーパーを見ると、きっとまた全然違うんだろうなと思う。
それでもこの時期だけは、本来なら宮崎の新米などが売り場を賑わせているのが普通なのだが、今年は台風で大不作だそうで、どこにもなかった。新米は、千葉産と茨城産を見かけたが、それほど大きなフェアをやっているふうでもなかった。18年産がまだまだゆっくり、落ち着いて売られている……という印象だ。
▼どこの店にも必ずある魚沼コシ
何軒かまわるうちに気づいたのは、「どこの店にも必ずある米がある」ということ。表を見れば一目瞭然だが、魚沼コシヒカリ・新潟コシヒカリ・秋田あきたこまちの3点は、郊外のF店を除き、すべての店で品揃えしてあった。
だが「このスーパーは本当にこの3つを売りたいのか?」というと、ちょっと疑問に感じた。展示のしかた、セールのかけ方などを見ると、各店舗それぞれの「おすすめの米」が別にある。魚沼コシなどは最たるもので、どの店もあまり売ろうという意欲は感じられない。他の米より平気で1000〜2000円高くて、どうも「置いてある」ことに価値があるようだ。たまに「高いもの好き」のお客さんが買っていったりするのだろうが、本当に魚沼コシが食べたい人ならスーパーでなく高級デパートや産直で取り寄せるのでは?とも考えてしまった。
▼2kg袋が充実
今回価格を調べたのは白米の5kg袋。地方のスーパーでは米は10kg袋が普通だとも聞くが、東京のスーパーでは5kg袋が圧倒的に主流なのだ。
だけど見ていると、下町のスーパーでは特に、2kg袋・3kg袋の品揃えが充実しているのに驚いた。5kg袋と同じくらいに力を入れている感じだ。これは、よくいわれるように@家族の人数が少なくなってきたこと、東京には単身者が多いこと、のほかに、A東京のスーパーには駐車場があまりなく、徒歩か、せいぜい自転車で買い物に来るお客さんが多いこと、という事情があるのかな、と思った。
▼無洗米も必須アイテム
無洗米も、いまや必ずどの店にもあった。たいがいは普通の米の100〜200円プラスの価格で、1種類か2種類がおいてある。最近は無洗米が半分以上を占めるスーパーも出てきたと聞いたこともあるが、今回まわった中ではそれほどのところはなかった。
そのほか、玄米や発芽玄米、ご飯に混ぜて炊く黒米や雑穀なども、店によって充実度合いに差はあるものの、必ず置いてはあった。
(2)卸とスーパーの関係について
意外な発見は、スーパーごとに主要卸が決まっていることだった。売り場はにぎやかで、いろんな産地から、いろんな袋のいろんな品種が集まってきているように見えるのだが、袋をひっくり返して「販売元」の表示を見ると、たいがい同じ。格安品も、高級品も、産地精米限定品も……、どの店も棚の八割の米は、一カ所の決まった卸から引いたものだ。スーパーの棚のバラエティというのは、取引先の卸の品揃えのバラエティに左右されるところがあるのかもしれない。逆に言えば、スーパーの要望に応じて、卸は全国からいろんな品種・いろんな価格帯・いろんな袋入りの米を、自由自在に作り出しては納入している……。そんな関係にあるのかなと感じたほどだ。
ちなみに今回まわった6カ所のスーパーそれぞれの主要卸は、全部違った。スーパーのほうが6カ所まるで系列の違うところだったせいもあるだろうが、「ん? この卸、あっちにもこっちにも入れてるな」という場面には、ほとんど出会わなかった。米卸も大手に再編が進んでどんどん寡占化しているとは聞くのだが、とりあえず名前も聞いたことのないような卸もまだたくさんあって、それぞれに頑張ってはいるんだな、という印象を持った。
(3)価格について
▼同じ品種でも、こだわり品は少し高い
さて価格だ。産地・品種は同じでも店によってまるで違うということはわかった。
表にはうまく表現しきれていないのだが、同じ県の同じ品種だとしても、「○○県産こしひかり」というだけの県統一の無個性な袋があるいっぽう、「○○県△△町産こしひかり」という産地限定品、または「産地精米100%こしひかり『○○の花』」などの銘柄がついているもの、もしくは「特別栽培米○○県産こしひかり」など栽培法に特徴があるものなどもある。これらは袋もちょっとだけしゃれていて、価格も200〜500円は高いかなという印象だ。
こういうものが売れるかどうかは、スーパー側に売る気があるかどうかにかかっているのではないかと感じられた。目立つところにたくさん積み上げて、いかにも「おすすめセールです」というふうに売れば、200円くらいの差ならお客さんは買いそうだ。
▼特売価格は赤字覚悟?
もう一つ価格面で比較が難しいのは、スーパーには特売価格というものがあることだ。週に1日とか2日とかの特売日の目玉に米を使うときは、利益度外視の価格設定を平気でするのだという話はよく聞く。卸には、「こっちは安く売る分、こっちを高くして利幅の調整をするから」などと言って、セール用価格での値引き納入を迫るのかもしれない。つきあっている主要卸が一社に絞られているとなると、そういうこともやりやすい。
表には、セール品だったものとそうでないものとが混在しているが、たとえば下町のC店の18年産茨城コシヒカリ1680円は、店の外に山積みして特売セールをかけていた。
この価格をどう見たらいいのか? 何年か前までは、セールでも1980円が最低だったような気がするから、米の価格が徐々に下がっているのは確かなようだが……。
素人ではやはりよくわからないので、以前連載をお願いしたこともある台東区のお米屋さん「金沢米店」の砂金健一さんに、昨今の米事情と合わせて少しお話を聞きに行ってみた。
農家の代わりに産直してくれているお店・金沢米店にて
計算のしかたを教わった
18年産茨城コシヒカリ1680円ですか。はあ、確かに安いですけど、その価格なら、スーパーに利益が出ないことはないですよ。計算の仕方としては……
5kgで1680円ということは、1kg336円の米ということですね。これが玄米なら60kgをかければ一俵の価格になりますが、白米なので、ヌカの分を考えて、53.5kgをかけると1俵のだいたいの価格になります。336×53.5kg=17976円。つまりこれは1俵18000円で売っていることになるわけです。
茨城コシの卸の仕入れ値(農協や集荷業者の販売価格)は、18年産は1万4000〜1万5000円くらいだったみたいですから、この場合、3000〜4000円を米卸とスーパーで分ければいいわけです。流通経費とかそれなりにかかるから、すごく儲かる価格とはいえないけど、やっていけない価格ではないと思います。
なるほど、そうやって考えればいいわけか。
ということは、表中で1680円の北海道ほしのゆめとか千葉ふさこがね・ふさおとめも、1俵18000円、2180円の秋田あきたこまちや茨城特栽コシ、福井コシなどは約23300円、2580円の岩手ひとめぼれや新潟コシは、27600円の米ということになりますね。
怖いけど、最高額の魚沼コシ4980円で計算してみよう。おおっ、1俵53300円だ!
こうやって考えると、農家の米価はどんどん下がってるけど、消費者は結構高い米を食べてるということになる。大特価特売セール品でも18000円。通常価格なら、2万円をはるかに超える額を、消費者は1俵に払っているわけだ。中間に入る人たちの取り分を考えても、農家の手取りが1万円を切らなくてはいけない理由は、この価格からは感じられない……。
■白米5kg1680円の米だとすると…
ことになる
1680÷5=336 … 1kg336円の米
336×53.5=17976
…1俵約18000円で消費者は買っている■白米5kg2000円の米だとすると…
2000÷5=400 … 1kg400円の米
400×53.5=21400
…1俵約21400円で消費者は買っていることになる■白米5kg2500円の米だとすると…
2500÷5=500 … 1kg500円の米
500×53.5=26750
…1俵約26750円で消費者は買っていることになる業務用米は1kg200円台
今、「安い米」が人気なのは業務用需要ですよ。私も経営の6割は業務用ですが、いろんなお客さんがいて、超高級米がほしいところもあれば、とにかく安い米を、というところも多いです。あんまり「価格価格」ばっかりいうところとは私は取り引きしませんが、関西のほうなどでは1kg200円台前半で取り引きが成立してるって話も聞きますから、びっくりですよね。
1kg200円というと……、さっきの計算のしかたでいえば、1俵10700円! お米屋さんがこの価格で売らないといけないとなると、農家の手取りは確かに相当下がることになりそう……。
いや実際、そんな価格で入手できるまともな米なんてあり得ないですから。当然、中国米とか加工用米とかをブレンドして、何とか価格を合わせないといけません。そういうお客さんを持つ米屋は辛いところですよ、きっと。
で、今は、そういう安い米ばかりが引きが強くて、「いいお米」が少々余ってしまっているという状況なんだと思いますよ。18年産は確かにまだ倉庫に結構残っているらしいです。で、先安感があって、相場が上がらない。卸業者も「そのうち値下がりしそうだから、あわてて買わなくてもいいや」という気分。だから全農も、1俵7000円なんて思い切った価格を出してきたんじゃないですかね。
弱りましたね……。
一般米価が下がり続けたこの10年、
価格はまったく変えてないいや、だから私が言いたいのは、「米を相場で見るのはやめましょう」ということです。相場感覚だと「高い」「安い」「余る」とか、すぐそういう話になってしまうのだけど、私の店頭販売では、この10年間、価格はほとんど変わってないですよ。
平成5年の米騒動以来、うちの店はほとんど全量を卸を通さず、信頼できる農家から直にお米を取り寄せるようになりました。店頭精米で一般のお客さんに販売していますが、10年間仕入れ値が変わってないのだから、販売価格も変わる必然性がないでしょう。白米1kg600円台の価格帯のものが多いけど、お客さんは多少入れ替わりがあっても、全体の数は増えもせず減りもせず、ずーっとやってこれてます。農家の産直のお手伝いというイメージで、アイガモ米とか米ヌカ深水栽培とか、農家のことを伝えながら売る。たまにその農家がテレビなんかに出たりすると、お客さんホントに喜んでくれて「○○さん、出てたねー」とかいってますますファンになってくれますよ。
金沢米店 砂金さん夫婦
連載「こだわり米屋の店頭から」は2001年8月号〜2002年3月号をご覧くださいまさに「相場による米価」ではなくて、「関係性による米価」ですね。
私が店を始めたときから、お客さんに見てもらおうと、ずっと貼ってあるのがあの貼り紙です。
「白米10kgで6000円のお米は、ご飯茶碗一杯でいくらになるでしょう?」
答えは、1kg約14杯分として、43円ですね。こんなに安い食材は他にありますか?
今は世間では10kg4000円くらいの米を食べてる人が多いと思いますから、もっと安くなるはずです。一杯のご飯の意味、お米の価値。食べること、手間をかけることを楽しむという流れを、もっと作っていかないと。理解する人たちとコツコツつながっていけば、「米は高い」なんて誰もいわないです。農家といっしょに、あきらめないでやっていきたいと思っています。
***
砂金さんのお話をうかがって、だいぶ元気になってきた。そうだ、やはり米相場に左右されない流通をつくることだ。
スーパーの米価格調査で改めて実感したのは、消費者は、家庭ではそんなに激安の米を食べているわけではないということ。たとえば農家から直接なら、送料込みで1俵22000円とか25000円とかを提示しても、別に全然驚かないはずだ。それに、何も東京の人に売らなくても、地元のお客さんにだったら、もっと安くしてやってもいい。農家と直接のパイプができると、消費者もとても幸せになる(農家のほうも楽しくなる)。
この秋、1俵1万円以下で売らなくてはならないくらいだったら、米産直の開始を、改めて呼びかけたい。
お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp
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