田植え間近の露地プール苗。生育がビシッと揃い、無駄になる苗がない ハウスなし、水やりなしでガッチリ苗
新潟発の大ブーム!?
露地プール育苗清田政也
直播よりも乳苗よりも
「露地プール育苗」新潟県のみならず、稲作農家を襲う農業収入の減少は、どこまで続くのでしょうか。このままでは収入格差に拍車がかかる一方です。そろそろ稲作のあり方を根本的に考え直す時期が来たと思います。
米価の下落は、食生活の変化による消費者の米離れだけが原因ではないと思います。本当においしくて安全なお米(ご飯)が、子供たちを含む消費者まで行き届いていないからでしょう。
この難局を乗り切るために生産現場では何が必要なのでしょうか。異常気象下でも安定しておいしいお米を多収穫する栽培の確立です。そのためにまず欠かせないのが、強健苗作りです。
私が「水槽プール育苗」を新潟県内に紹介し、普及活動を始めてから今年で17年になります。この間現場で実践農家の方々と、理想的な苗作りを求めて試行錯誤を繰り返してきました。そしてコストや作業性、その後の収量性に優れた誰でもできる育苗の完成形は、直播や乳苗でもなく、「露地プール育苗」であると確信が持てました。
著者(中央) 露地でも春先の低温に負けず、マットがしっかり形成されて崩れない。田植え後の活着もいい プールは、木枠をU字の杭などで固定し、底にビニールを二重に敷いてパッカーなどで木枠に固定するだけ。設置は簡単 低温で催芽・発芽させた種モミ。根が優先の生育になる。 32度で催芽・発芽させるよりも育苗器や積み重ねの時間は長くなるが、長過ぎても徒長しやすくなる。できれば写真のように芽が土から5mmくらい顔を出した段階で(だいたいの種モミが、(2)か(3)くらいの芽になったら)プールに並べる 1万箱以上の農家も実践
露地プール育苗の普及は、県内でも豪雪地帯の魚沼市や中越地域、中山間地で広まってきました。試しに数百箱取り組む人から一万箱以上も実践する農家まで出てきています。とくに5ha以上の大規模農家で多く取り入れられてきました。
たとえば柏崎市で80ha以上の作付けをしている(有)山波農場さんでは、10年ほど前から田んぼで露地プール育苗を実践しています。経営規模の拡大とともに苗数も増加し、現在の育苗箱数は約1万2000箱。「ハウスが要らないため経済的で、かつ苗が丈夫に育つので収量・品質・収入ともに安定してきた。やはり米作りは苗質が肝心。露地プール育苗はやめられない」とのことです。
ハウスなしだから低コスト
徒長もしにくい農家が「露地プール育苗」に取り組む動機は、次のようなことです。
・豪雪の年に雪でハウスが倒壊したり、春先のハウス設置に時間がかかったりするため、ハウスなしで育苗がしたい。
・受託耕作や経営面積が増加し、育苗ハウスが手狭となったが、新規にハウスを建てる経費がもったいない。
・試しにやってみたら、手間隙かけて育てたこれまでの苗よりも、水やりもしない露地プール苗のほうが活着がよく、お米も天候に左右されずにたくさん収穫できた。
・用水の水も有効活用できる。
・入水までの温度管理にさえ注意すればトラブルもなく、苗箱のロスも少ない。
これまでハウス内のプール育苗に取り組んできた方でも、「露地プール育苗のほうが徒長しにくい」と言います。ハウスがあると、体感温度でちょっと肌寒いときにはつい親心でハウスを閉めてしまって徒長させてしまうパターンが多いのですが、露地プール育苗ではそんなことがないからです。
低温障害、田植えが遅れる心配もない
いっぽう取り組みに躊躇する農家の心配ごとで多いのは、次のようなことです。
・低温で発芽が揃わないのではないか?
・苗丈が短くて、田植えが遅れるのではないか?
・低温で根組みが悪く、活着も悪いのではないか?
・風や霜で苗に傷害が生じるのではないか?
これらの心配事には、実践農家が答えてくれています。
南魚沼市六日町の専業農家、小杉豊さん(苗数3000箱)と桑原浩さん(苗数6000箱)は、3年前から「露地プール育苗」に取り組みました。二人は作業の都合で5月初旬から田植えするため、まだ寒さの残る4月中旬には播種を始めます。それでも露地プール苗は根組みがよく、苗質の強さを感じたそうです。田植え後も植え傷みはなく、収量と品質も、むしろ遅植えの圃場よりよかったほどだと言います。
また強風で有名な阿賀野市で肥料米穀商と農業を営む五十嵐辰也さんも露地プール育苗を実践。問題なくいい苗を作っています。強風の心配は、白黒ラブシートのベタがけを土嚢でしっかり押さえることでほとんどなくなりました。
露地プール育苗
成功のポイント露地プール育苗も基本はハウス内の水槽プール育苗と同じですが、とくに注意することがいくつかあります。
▼浸種は低温で10日以上
浸種は、10度前後のやや低温で、モミの水分が24%ほどになるまで10日以上かけてじっくり吸水させます。温度にムラができないよう、モミ袋は広めの平桶に一重に並べ、水中ポンプなどで水を循環させるといいでしょう。
▼28度以下の低温で催芽・出芽
出芽を揃えるため、催芽はしっかり行ない、育苗器や積み重ねで確実に発芽させます。ただしどちらも28度以下の低温で行なうことが大切です。ここで一般的に目安とされている32度の高温を体験させてしまうと、露地の苗床に並べたときに苗はかなりの低温ストレスを感じ、生育が遅延します。また30〜32度の高温は、褐条病等の病原菌も増やしてしまいます。
ちなみに最近コシヒカリBLでは発芽の不揃いがよく問題になっていますが、十分な浸種と低温で催芽・発芽をすれば発芽が揃うという事例も多数あります。
▼プールは早めに設置
プールは、田んぼ全体に水を溜める場合と、ビニールを敷いて水槽を作る場合の二通りがあります。いずれの場合もプールの準備は早めに行なったほうが地温は上がりやすいうえ、忙しい春先の作業効率をよくする面でも都合がいいでしょう。
田んぼ全体をプールにする場合は、秋のうちに整地し置き床を準備します。
水槽を作る場合は、春先早々に前年の稲株や雑草を処理して設置します。水漏れ防止のため、底のビニールは必ず二重に敷いたほうがいいでしょう。保温のためにも水漏れは厳禁です。
ただし入水前に水が溜まってしまい、発芽したばかりの苗が水没してしまうと障害が出る可能性があります。入水前はプールの枠を閉め切らないなど、排水対策も必要です。入水方法は、水道でも田んぼの用水でも使えます。それぞれ工夫しましょう。
強風地域はプールの周囲に防風網を張ることも大切です。
芽が出揃って写真のように緑化し、根が箱の底に届いたら入水のタイミング。好天の朝に入水する。
入水時に栄養剤を流し込むと、さらに苗質が強化される。発根活着力アップには「ケアグリーン」、低温抵抗性や苗質強化に「MPB(光合成細菌&海藻エキス)」や「育苗サム」、黄化苗対策の中間追肥として「茎太」などがお勧め最初は白・黒ラブシートの2枚がけ。1.5葉期ごろ、右のように黒ラブシートをはがす。
ただし低温や遅霜が心配なときには、さらに保温マットを上掛けする。その際保温マットの上に水が溜まると保温効果が落ちるので、プールの枠にパイプを渡してシートに傾斜をつけるなりして、雨水が溜まらないよう工夫する▼白と黒のラブシート2枚ベタがけ
当初は初期の保温のため小トンネル被覆を勧めていましたが、強風でめくれたり、逆に高温障害が起こるなどのトラブルがあり、現在は白のラブシートの上に吸熱性のある黒のラブシートを重ねる2枚ベタがけを勧めています。保温性はもちろん、透水性もあるためシートの上に雨水が溜らず、それでいてワリフや寒冷紗のように伸びてきた芽が刺さったりすることもありません。
ハウス内での平置き発芽に有効な太陽シート等の反射シートは、保温効果が少ないため、露地プール育苗ではお勧めしていません。
▼根が箱の底に届いたら入水
芽が出揃って緑化期になり、種子根が箱の底に届いたことを確認したら、水温が上がりやすい好天の朝に入水します。
▼1.5葉で黒ラブシートを外し、二葉で白ラブシートを外す
入水後、1.5葉期頃に黒ラブシートを除去しますが、白ラブシートは、風害と鳥害(スズメなど)防止のため二葉期頃まで被覆したままです。
低温や霜注意報が出された場合、1.5葉期までは保温マットなどの上がけで対応します。その後は深水管理で対応できます。
▼田植えの3〜5日前に落水
落水は、田植えの3〜5日前でいいでしょう。培土や育苗箱の水はけを考えて調整してください。
弁当肥や箱処理剤は、落水後に動力散布機で散布すれば、田植え時に散布するより省力かつ効果的です。
無加温平置き露地プール育苗もできるはず
今後の課題は、新潟における「無加温平置き露地プール育苗」です。春先の気温が低い新潟でも、4月20日以降になれば直播栽培も行なわれています。そのころ播種すれば、露地での平置き発芽も間違いなくできるはずです。
地温を上げるためにプールを早めに準備し、種モミの浸種と催芽をMPBなどの活性剤を使用しつつ十分に行なって出芽を安定させ、ラブシートと保温マットなどを活用して保温する。これらの注意点をクリアすれば可能です。とくに田植えが遅くまでかかる大規模農家にとっては、一部を無加温平置き露地プール育苗にする価値は十分あると思います。さらなる省力と農業収入アップが期待できるでしょう。
(新潟市卸新町 (株)ネイグル新潟)
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