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常盤村養鶏農協(トキワ養鶏)が地域の農家と栽培を広げようとしている飼料米
常盤村養鶏農協(トキワ養鶏)が地域の農家と栽培を広げようとしている飼料米(品種:べこあおば、トキワ養鶏提供)

こんな手もある
低米価に負けない水田転作

田んぼを自由な発想で生かしてもうひと稼ぎ

水田農家の元気と自給率アップのために
いよいよ飼料米の時代

青森県・常盤村養鶏農業協同組合

編集部

エサ高の危機は自給率を上げるチャンス

 日本の飼料自給率は25%(2005年)。では卵はといえば、産むのはほぼ100%国内でも、エサの自給率は10%あるかどうか……。

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「畜産は、本当に単なる"加工メーカー”にすぎないんですよ《

 どこかの意地悪な評論家がいうのではない。石澤直士さん(48歳)は、青森県藤崎町(旧常盤村)にある常盤村養鶏農協の専務を務める。淡々と話すが、養鶏農家として若いころからずっと、この低い飼料自給率を少しでも上げたいと思ってきた。

 もう20年近く前になるが、北海道の広い減反田を利用して、飼料用のトウモロコシをつくろうと考えたことがある。鶏糞堆肥をたっぷり入れると、10a当たり乾物で1tのトウモロコシがとれた。これだけとれれば、エサのトウモロコシの国産化もなんとかやれそうに思えたが、結局は日本ではトウモロコシはダメだという結論に至った。ふつうの水田農家はトウモロコシ用の機械なんて持っていないからだ。

 アメリカはトウモロコシ、ヨーロッパは小麦。どちらも人間の食用としながら家畜のエサにも使っている。それで100%を超える食料自給率を誇っている両者に対して、日本はどうか。米はもっぱら食用、家畜のエサは輸入に頼り続けて、ついに食料自給率(カロリーベース)は40%を割ってしまった。

飼料米で育つトキワ養鶏の「後藤もみじ《
飼料米で育つトキワ養鶏の「後藤もみじ《

 農家に今ある機械を生かしてエサの自給率を上げるには、米をエサにするしかない――。そう考えるようになったのが1993年の大冷害のころだ。だからなおさらだったのか、まわりの人たちからは「おまえはバカじゃないのか《といわれた。クズ米を家畜に食べさせることはあっても、米は人が食べるもの、米をエサにする発想は昔から農家にはなかった。

 それから10年余り。アメリカのイラク侵攻に端を発した原油高騰、バイオマスエタノール生産を急増させるこれまたアメリカのエネルギー政策に刺激されたトウモロコシ需要で、飼料用トウモロコシの価格はどんどん上がっている。養鶏に限らず、畜産農家にとってはたいへんな危機だ。しかし石澤さんの表情は暗くはない。

「エタノール様々、ブッシュ様々ですよ。これで世の中変わるんじゃないですか《

 エサ高による畜産の大ピンチは、エサの自給率を上げる大チャンスだというのだ。

期待のべこあおば、
青森でも960kgとれたが…

 常盤村養鶏農協(以下「トキワ養鶏《)は、1960年に組合員17人の養鶏専門農協として設立された。現在は、採卵・育成鶏各四五万羽を飼育するほか、母豚550頭の養豚一貫経営とハム・ソーセージの加工、リンゴ直営農場30ha、その他ニンニクなどの野菜の生産販売という経営だ。

穂の比較 べこあおば(左)のモミや玄米は、ふつうの米の約1.5倊
穂の比較。右端がべこあおば(162粒)、左端がむつほまれ、中央2本はつがるロマン(いずれも坪70株、1株の中の大きな穂) べこあおば(左)のモミや玄米は、ふつうの米の約1.5倊(トキワ養鶏提供、以下*も)

 トキワ養鶏では、2006年から米のエサ利用に取り組み始めた。地域の稲作農家3戸と石澤さんの田んぼで、むつほまれ・つがるロマン・べこあおばという3品種を飼料米として栽培している。2年目の昨年は、3品種合わせて約1.5haの作付けだ。

 トウモロコシに代わるエサとして米を使うには、価格を安く抑えるために多収する必要がある。2年間の結果からは、べこあおばの反収がいちばん多かった。昨年の平均反収は玄米で830kg、一昨年、石澤さんの圃場では16俵・960kgもとれている。1tどりまでもう少しだ。

 べこあおばはもともと、イネのホールクロップサイレージ用、つまり飼料イネ用として育種された品種だ。倒伏しにくいことから直播栽培にも向くといわれる。穂数はそれほど多くないが一穂モミ数が多く、かつ千粒重が30gと大きい。石澤さんが比較のためにとっておいた穂を見ても、同じく坪70株椊えで、つがるロマンが104粒、むつほまれが138粒なのに対して、べこあおばは162粒ある。玄米一粒ずつを比べても大きさの違いは明らかだ。

 ただ、べこあおばの出穂・収穫期はひとめぼれとほぼ同じ。むつほまれやつがるロマンなど、青森県で一般的な品種が九月中に収穫を迎えるのに対して、べこあおばのイネ刈りは10月中旬になる。東北地方のなかでも中部・南部で栽培するには問題ないだろうが、青森でつくるのは登熟上良のリスクが大きい。この2年は、8月以降の好天に恵まれて800〜900kg台の反収が得られたが、夏の天気しだいでは、出穂・登熟が遅れて遅延型冷害のような状態になりかねない。

青森県藤崎町での飼料米栽培例(2007年)
品種
面積
(a)
前作
堆肥・元肥
(10a)
追肥チッソ
(10a)
播種/田椊え
出穂
1m2穂数
1穂モミ数
粗玄米重
(kg/10a)
千粒重
(g)
A圃場
べこあおば
18
H16ニンニク H17 ダイズ H18 スイートコーン
鶏糞堆肥1t(チッソ1.5%)
2kg(8.2)
4.13/5.16
8.13
331
97
824
30.7
むつほまれ
9
4.15/5.16
8.3
460
63
577
20.7
つがるロマン
13
4.15/5.16
8.5
386
67
589
21.6
B圃場
べこあおば
10
イネ連作
チッソ5kg
6kg(6.24/7.22/7.29)
4.13/5.23
8.11
463
83
836
28.6
注1)各圃場とも坪70株椊え、収穫は10月中旬
 2)B圃場の元肥と各圃場の追肥はBM活性液の流し込み

堆肥を増やしてむつほまれ13俵、
べこあおば1tどりをねらう

 とはいえ、現状では、べこあおばが反収1tの大台にいちばん近い品種であることは間違いない。今年5ha予定されている藤崎町の飼料米の作付けではむつほまれが中心になるだろうが、べこあおばの1tどりもねらう。

トキワ養鶏専務・石澤直士さん(*)
トキワ養鶏専務・石澤直士さん(*)

 昨年、べこあおばの反収が800kg台にとどまったのは、元肥の代わりに入れた鶏糞堆肥(チッソ1.5%)が足りなかったという反省もある。一昨年16俵とれたときには3t入れたが、昨年の田んぼ(16俵とれた田とは別の田)では1t。毎年3tを入れ続ける必要はないだろうが、倒れにくいべこあおばの特性を生かすためにも、2年くらいは3tずつ入れたほうがよいのではないか、というのが石澤さんの考えだ。

 また、むつほまれの反収も昨年は600kgに届かなかったが、これも同じく堆肥の増量で少なくても600kgはとれるだろう。もともと700kg程度はふつうにとれる品種なので、多肥栽培で安定13俵も難しくないと見ている。

 鶏糞堆肥は、トキワ養鶏から1t4000円で供給できる。ただし前年までイナワラをすき込んできた農家の圃場では、トキワ養鶏の汚水浄化の過程でできるBM活性液(曝気処理液)を流し込んで元肥の代わりとした。これは追肥にも使っている。BM活性液については無料で提供してきた。

飼料米で10a10万円入るしくみをつくる

 収穫された飼料米は1kg50円でトキワ養鶏が購入する。仮に反収600kgなら、栽培農家にとって米の売り上げは10a3万円。加えて藤崎町の場合は、産地づくり交付金から10a6万3500円が支払われている。830kgとれたべこあおばの田では、合計10万5000円になる計算だ。米価が大幅に下がった昨年だと、食用米に引けをとらない売り上げだろう。しかも飼料米は、除草剤散布以外の防除はやらないし、収穫適期に気を遣う必要もない。30kgずつ袋に詰めて等級検査(農産物検査)を受ける手間や費用、農協へ支払う手数料や保管料もかからない。

「10a10万円。飼料米で水田農家にこのくらいのお金が入るしくみをつくりたいんですよ。やろうと思えば、私のところ(トキワ養鶏)が直接田んぼを借りて飼料米をつくることだってできますよ。でも、それではダメなんです。農家に元気が出ない。このままでは農村はどんどん疲弊してしまいます。各水田農家が手持ちの機械を生かして、30〜40aくらい飼料米をつくって30万〜40万円の収入になるしくみ、出稼ぎの代わりになるくらいのお金が入るしくみをつくりたいんです《

 今年は「地域水田農業活性化緊急対策《として、飼料米で生産調整を拡大する農家(3年間の非主食用米低コスト生産技術確立試験契約を締結した農家)に対して10a5万円の一時金が支払われることになっている。石澤さんは、この補助金の利用も提案して、飼料米の作付けが増えるよう地域の農家に働きかけていくつもりだ。

「トキワ75《
トウモロコシを飼料米におき換えた自給率75%エサ「トキワ75《

エサの自給率75%の「玄米玉子《

 では、1kg50円の飼料米で肝心の卵の生産はうまくいくのか。

 トキワ養鶏ではエサの重量の57%、すなわちこれまでトウモロコシを使っていた分を飼料米に置き換えたエサを「トキワ75《と呼んで、一昨年から試験を続けてきた。「七五《と付けたのは、国産の飼料米に国産の麦・米ヌカ・魚カスなどを加えたこのエサの自給率が75%になるからだ。トキワ75を与えても、採卵にはまったく影響がないどころか、産卵率などはやや高まるくらいの成績を残している。卵の成分を調べると、米がエサであることを反映して、甘み・うまみにつながるアミノ酸のセリンが、あるいは健康につながる脂肪酸のオレイン酸・リノレン酸が増えた。

 飼料米をエサにして、平飼い純国産種の「後藤もみじ《から産まれた卵の卵黄は自然な薄い黄色。「玄米玉子《と吊づけて販売している。一昨年収穫した飼料米では150羽分のエサしかまかないきれなかったので(一日に玄米60g)、一日約120個の限定販売。6個入り630円の玄米玉子は、地元の直売所や青森・弘前のデパートなどで販売され好評だ。

 昨年とれた飼料米ではケージ飼いも試すつもりでいる。ケージだと飼料効率が上がるので、小売値は半額の50円まで下げられそうだ。平飼いでなくても、地元の米で育つニワトリの卵、エサの自給率75%の卵として一個50円の価値を認めてもらえるかどうか。トキワ養鶏で、どこの養鶏場でもやれるような飼料米養鶏のモデルをつくりたいという。

「卵のレシチンはコレステロールを調節して血管を丈夫にしてくれるから、脳血管障害も減るし、血液中のアルブミンを保って貧血や免疫機能の低下を防いでくれる。体にいい卵を、しかも国産のエサで産まれた一個50円の卵を、一日3個食べて元気になろうというのが私のスローガンなんです《と石澤さん。

「玄米玉子《
「玄米玉子《の黄身はレモンイエロー(薄い黄色)

これから3年が勝負

 青森県の養鶏は約400万羽、生産調整のための減反田は2万haある。半分の1万haに飼料米をつくって400万羽のエサにすれば、青森の養鶏の飼料自給率は50%まで上がることになる。そして、全国のニワトリ1億2000万羽のエサの自給率を50%にできれば、日本の食料自給率は5%上がるのだそうだ。

 この3年が勝負だと石澤さんはいう。3年のあいだには、べこあおばに代わる、青森でも1tどりが難しくない品種が登場するのではないか。直播き栽培や施肥の工夫などで、いっそう手間を減らしながら収量を上げる技術ももう少し進むはずだ。飼料米は、モミのままニワトリに食べさせても問題ないこともわかっている。そうなれば水田農家にとってはモミすりの手間も上要になる。これから3年が、飼料米の栽培を拡大・継続できるしくみを作り上げるための期間だというのだ。

「じつは、ニワトリも米が好きなんですよ。飼料米入りのエサを競うように食べます。それに、米を食べて育ったニワトリは肉もすごくうまい。偽装地鶏騒ぎで廃鶏はすっかり悪モノにされてしまいましたが、1年間卵を産んでもらったら、最後は肉としておいしくいただく。そして、エサの米は鶏糞堆肥でつくる。こういう食の循環、資源の循環を青森からつくりたい《というのが石澤さんの夢だ。

 栽培面積が増えれば、産地づくり交付金も昨年までの価格は維持できないかもしれない。3年で安定1tどりが達成できるかどうか、それまでは、農家を元気にする10a10万円のために国にも応援してもらいたい。

「農家が元気になれば、地方の経済も回り出す。飼料米と10a数万円の補助金が、何十億円、何百億円の経済効果をもたらすかもしれないんです《

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