旧武石村(長野県上田市) ![]()
郷に入れば郷に従え 田舎で暮らすための11カ条
小林一郎
都会にUターンすることを決めたあの人
あの人の力になってやれなかったのが悔やまれる。ふたたび都会に帰ると決めた人から受け取った手紙には、こう書かれていました。
「いただいた本(冊子)の3回目を読んだいま、言い知れぬわが失敗を受け止めているところです。この失敗を教訓として生かせるほど若くないのが残念です」
3回読んでいただいたその冊子『ふるさと回帰予備校』の教本を、「できあがったのでさしあげますよ」と気軽な気持ちで手渡したばかりのときのことでした。それが今日突然、「もう決めたんです。引っ越すことに決めました」と言われてしまった。わが家の農作業を気持ちよくお手伝いしてくれていたあの人たちが発した言葉です。「どうして?」と理由をたずねてもハッキリと言ってくれない。おくゆかしく静かで温厚な人が、それほど思い詰めていたとは、気づきませんでした。
相談をお受けする機会を、4年も5年も前につくれなかった自分が情けない。あの人たちなりに我慢していたんですね。前々からある程度の悩み相談は受けていました。それで「方法はいろいろあると思いますが、最後は降りかかる火の粉は自分で払わないとダメですよ」とアドバイスしていたのに、「降りかからないところに逃げることに決めました」だって。
移住者には農村での暮らし方を伝える必要がある
信州せいしゅん村のホームページ
(http://www.murada.com)私たち「信州せいしゅん村」は2000年から活動を始めています。地元・旧村の住民どうしの情報交換会(のうのうの会)をもとに生まれた地域活性化の実働部隊です。これまで、サービス提供型農村として、ありのままの農村体験を町の人たちに提供し交流する「ほっとステイ」事業や、農村を歩いて学ぶ「観郷ウォーク」事業を企画してきました。多くの人々に農村にきていただくことで地域活性化を図り、長野県や日本のモデル農村をめざし活動を繰り広げてきました。
おかげさまで「ほっとステイ」は、開始6年目の07年に7574人の参加者を迎え、開始当初からの延べ人数は3万人を突破しました。開催地域も6カ所に増え、「観郷ウォーク」も9カ所を数えるまでになりました。
こうした活動の延長にあるのが、これを「Iターン」につなげたいという思いです。そして、これから農村で暮らしたいと願う人たちにとって、一般のIターン情報に欠けていていちばん求められる情報は、農村での「本当の生活・暮らし方」を伝えることではないかと気づきました。そこで始めようと考えたのが、3泊4日程度で日常の田舎暮らしを体験しながら移住理論を学ぶ「ふるさと回帰予備校」。今年の初め、その教本ができあがったばかりのときに起きたのが冒頭の出来事でした。
せっかく田舎暮らしを始めたのに、嫌なことが生じて、ふたたび都会に戻ってしまうケースに遭遇するのはこれが初めてのことではありません。しかし、濃密な関係が生じる田舎の生活を知らないままやってくる人が多いことに対応しなければと、あらためて考えさせられた出来事でした。田舎暮らしがなんたるかを納得してもらい、そのうえでお互いが対等になる。そうやって話やお付き合いができなければ嫌な思いが増幅されるだけです。その最悪の結果が都会へ戻ってしまう、ということになるのです。
田舎暮らし11カ条
町からやって来た人は農業・農村の現実を知らなすぎる。そこで私は「納得、田舎暮らし11カ条」を作ってみました。『現代農業』読者の皆さんも、田舎に暮らす者としてハッキリと伝えてください。田舎の暮らしはなぜ厳しいのか、そして田舎暮らしの「本当はどうなの」かを。
「信州せいしゅん村」発行の「ふるさと回帰予備校」教本 農村はみんなが顔見知り。会えば必ずあいさつする 「ほっとステイ」にやって来た人たちが、自然農法の田んぼで草取り体験 1、支え合って暮らすのが田舎。
農村社会は、人と人、人と自然が支え合って暮らしが成り立っていることをまず肝に銘じてほしいですね。互いに支え合うのが人間本来の生き方だったはずで、支え合わずに生きていくことが蔓延してから人間社会はろくなことがない。
太古の昔から人間は身を寄せ合って、自分たちを襲う獣や外敵から身を守り、分担して狩猟や採集、子育てを行なって集団を維持してきています。困っている人がいたら助ける。見て見ぬふりすると、まわりから相手にされなくなります。助けられたら、いらぬお節介などと嫌な顔をしないで受け入れてください。ありがたく受けてくださいね。
帰宅したら野菜が置いてあるなんてザラ。お互いに助け合う気持ちで、お互いが寄与し合う関係を築きたい。相手を利用するだけではダメですよ。
2、不揃いを認め、尊重するのが田舎。
自然界は不揃いがあたりまえ。同じように育ててきた野菜も、大きさも違えば色づきも違う。揃うことは絶対にないのです。市場には選別して出荷しているだけなのです(それを知らない人が多いのが現実)。
人間だって考え方も違えば行動の取り方も違うので、野菜や米の肥料の与え方や植え付け方も違います。だから田舎では、その人にアドバイスはしても強制はしないのがルール。ところが、それではすませられないのが都会派の人々。徹底して「違う」と攻撃してしまうから嫌われる。不揃いがあってあたりまえですよ。
3、あいさつをしないと相手にされないのが田舎。
農村は、同じ地域にともに暮らし、言葉をかわしたことがなくても顔見知りしかいない世界。つねに見知った人に顔を合わせなければならない社会なのです。知らない人だらけの都会とは違います。
ところが最近は農村でも、あいさつ、黙礼すらできない人が多くなって困っています。あいさつをしなくなってしまえば「あの野郎、あいさつもできない。俺を無視している」となり、「それなら俺もそうしよう」となってしまう。他人行儀だらけの殺伐とした田舎になってしまいかねません。道で行き会っても車に乗っていても、人を見たらあいさつしよう。
4、他人につねに見られているのが田舎。
田舎で動くものといえば犬や猫、そしてまばらにいる人間です。いきおい、人の目は歩いている人や働いている人に向きます。どこで何をやっているか、ほとんどの人が見ています。だから田舎で暮らすには、自分の行ないが周囲より浮き出ているかどうか見定めて、正していくことができないとダメ。それができないと「変わっている」と敬遠されてしまいます。まわりに絶対迷惑をかけないようにしてください。
4、ちゃんとお礼するのが田舎。
ものをいただいたらお返しをする。いただいたままでは相手にされなくなります。そのままにしていると、「都会から来たから礼儀も知らないし、それでよいと思っているから、つきあうのが嫌になる人だ」と陰口をたたかれることになる。軽くお返しをしよう。
6、発言は七分に押さえるのが田舎。
言い争いになったら発言は七分で止めておきましょう。自己主張を優先し、相手を思いやる気遣いがまったく感じられない人だとわかれば、やれ交流だ、やれ隣人だからといっても「つきあうのは疲れるからつきあいたくない」となります。
7、役を皆で担い合うのが田舎。
「村の役」はたくさんあります。40近くあり、それぞれが機能して生活がスムーズに行なえるしくみ。誰もがその役を「まわり番」でおおせつかっています。この役を引き受けないわけにはいかないのが田舎。皆で支え合って生きているわけですから。何事も他人まかせでは生きられないのが田舎、自分が動かないと生きていけないのが田舎なのです。役は受けないと相手にされません。よそ者扱いです。
8、税金のほかに支払いがあるのが田舎。
所得税・固定資産税・住民税のほかに、公共的な支払いが起きるのが田舎。区費・消防費・外灯費・各種寄付金(金額が決められてくる場合が多い)・安協費・地区の祭り負担金、さらには各種作業(区有林・水路の清掃、ゴミ拾い等)に参加しないと「出不足金」を求められる。いずれもお互いの生活を快適に維持していくためのもので、行政がやってくれないことを住民が協力し合うことで運営しています。協力しないと変わり者扱いです。
9、紹介者を無視しないのが田舎。
移住して時間がたつにつれ、農業、趣味、いろいろなことで人とのつきあいが生まれてきます。そこで注意してほしいのは知り合った人を無視しないこと。必ずあいさつを交わして過ごしてください。
とくに最近は、山菜・キノコ採りでこれがになっています。採る場所、出るところを覚えたからといって、教えてもらった人をさしおいて自分ひとりだけ、あるいは自分たちだけで行ってしまっては絶対にダメ。「行きたいけど、連れて行ってもらえませんか」と相手を立ててお伺いしなければルール違反。仁義を切っていかないといけません。信義を重んじるのが田舎ですから。
10、憧れだけでは続かないのが田舎。
憧れの田舎暮らし、何をやって過ごしますか。これをやりたい、あれをやりたいと数えて田舎に来ても、毎日がそれに使える日々になってしまうと飽きてきます。さあたいへん、どう生活しようということになって、現実に引き戻されるはずです。この憧れと上手につきあって暮らさないと生きていけません。
11、肩書きが役に立たないのが田舎。
田舎に来ると、これまでの経歴や地位・肩書が通用しません。それを表に出すと嫌われてしまいます。まわりはそんなことは無関係に生きてきたのですから。
あなたの気持ちしだいで人の輪は広がります。田舎は人と人のつながりが濃密なところです。それがうっとうしいと感じることもありますが、自分から積極的に周囲に融け込もうとしなければ受け入れてもらえません。これらを理解して新しい仲間を作り、新しい暮らしをエンジョイしましょう。
その後、冒頭の都会へ戻ることを決めた人が「知人にも分けてあげたい、ぜひ読んでもらいたいので(教本を)5部ください」と言ってきてくれました。予備軍はたくさんいるのです。もっとも私は、移住者とのつきあい方に田舎人のほうが疲れを感じ、「どうでもいいや」と投げやりになるのも怖いのですが。
(長野県上田市下武石「信州せいしゅん村」むらおさ)
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