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カキのせん定。福岡の小ノ上果樹園にて(赤松富仁撮影) 太枝の切り口はハサミで面取りを
岩本和彦
今月から、毎月の果樹の作業のコツを実践的にとりあげる連載をスタートします。著者は元奈良県果樹振興センターの岩本和彦さん。「答えは現場にあり」(187ページ)をモットーとする岩本さんに、現場から学んだ知恵を公開してもらいます。
切り方で変わる癒合しやすさ
太い枝を切る場合、切り口を小さくする切り方が基本である。切り口が大きいほど、そこから病原菌が侵入するなどして、枯れこみやすくなる。なかには切り口を大きく切る名人もいるが、それなりの切り方や道具が必要である(188ページ参照)。最近はかなり太い枝までエアバサミやチェンソーで手軽に切ることが多いが、切り方でその後の癒合しやすさはずいぶん変わる。
切り口は図1のAのように、枝に対して直角がいちばん小さくなる。ノコギリを使い慣れていない場合は、Bのように斜めになって、切り口が必要以上に大きくなることがある。そんなときは一度、先を切り落としてから切り直せばよい。
図1 切り口を大きくしない枝の切り方(とくに太い枝) きれいな切り口ほど治りが早い
切り口の癒合は私たち生き物で考えると理解しやすい。生身の生き物はなんらかの傷を受けると、血を固めたりカサブタをつくったりして自分で治ろうとする(自然治癒力)。しかしこのとき、ノコギリなどで傷口がギザギザになっている場合と、ナイフやガラスでスパッと切れている場合とでは治りの早さが違う。スパッと切れたほうが治りは早い。これは、傷口がきれいになっているからで、植物の場合も同じように考えればよい。
人は自然治癒力に加えて、早く治るような処置をするが、植物ではほとんどしない。枝が折れたり、極端に大きな傷を受けたりした場合には添え木や保護材で処置するが、太い枝を切った場合でも処置をしてあげてはどうだろう。
せん定バサミをノミのように使って面取りを
枝が太くなればなるほど、ノコギリやチェンソーで切ることが多くなり、切り口がギザギザになる。そんなときは、煮くずれさせないダイコンのように面取りをするとよい。畑には面取り専用の道具(切り出しナイフなど)を準備していないことがほとんどだが、せん定バサミを使えば簡単にできる。
ハサミには「切り刃」と「受け刃」があり、切り刃は片刃になっている。図2のように、この切り刃を下にして、ノミのように滑らせながら削るのである。皮から形成層を含めて木質部に少し食い込むくらいに削れば十分。この処置が遅れると、腐り始めたり乾いてしまったりする。太枝を切ったらその日のうちにしておくと治りが早い。
これは、むかしから庭木屋さんがやっている方法である。癒合促進剤(トップジンMペーストなど)が高価だった頃のやり方だろう。枝にも料理にも、面取りに挑戦していただきたい。
図2 切り口をきれいにする面取りのやり方 芽がほしいときはシワを残して切る
図3 芽を出ないようにする切り方、出させる切り方 芽が出ないようにするには少しえぐるように
枝の切り方はねらいによっても変わる。さきほどの切り口を小さくする切り方は樹を早く治す(枯れ込みを防ぐ)視点からの方法だが、徒長枝などのように同じところに芽がくり返し出ないようにするためには、図3のAのように、少しえぐる感じで切るとよい。
Bのようにコブを残すように切ると、芽はまた出てしまう。現場ではよく、高く残ったコブを「土瓶がけ」と呼ぶ。土瓶の取っ手がひっかけられるほど高いことを冷やかして言う。エアバサミは刃が厚いので、とくにコブが残りやすく、注意が必要である。
シワを残すと潜芽が吹く
また、必要なところに芽を出したいときはさらに一工夫がいる。それはたとえば、古くなった側枝の更新をしたいのに、近くに更新のための候補枝がないので、確実に枝(芽)を発生させなければならないときなどである。
この技として、まず枝が太い場合には図3のCのように、必ず裏切りをする。そして、Dのように、枝の際から少しずらして、上からは際ぎりぎりに、全体としてやや斜めにノコギリを入れてシワを残すように切る。こうすると、シワの部分にある芽(不定芽または潜芽)が刺激によって吹き出す。Eのようにえぐるように切ると、芽は出ない。これは、ナシの生産者から教えてもらった方法である。
プロは何とはなしに切っているように見えるが、よく見ていると、ねらいに応じてノコギリの扱いを変えている。
果樹のせん定は芽を自由に調節する切り方であり、山のせん定(枝打ち)は芽を出さない切り方である。これらの技をうまく組み合わせて樹づくりをしたい。
(元奈良県果樹振興センター)
答えは現場にあり
私の母校である千葉大学園芸学部は、現場を重視した実践教育で知られ、机の上はもちろん、畑の中からも多くのことを学ばせた。地元の果樹産業への貢献にも熱心だった。校外の伊豆熱川にミカン、沼田にリンゴの農場があり、先生と寝泊まりしての実習では近くの生産者も来て、いっしょに学んだ。この経験が私の脳裏にこびりついており、のちの故郷での奈良県職員生活の基礎になり、今も現場第一の気持ちで生産者と接している。
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卒業後、助手として働くことになったリンゴの沼田農場では、せん定枝のかさばらない片づけ方を教わり、その後の現場指導で大いに役立った。
奈良に帰ってから勤めた農業大学校では、「ブドウのねん枝はぞうきんしぼりの要領で」などと、私と7〜8歳しか違わない弟のような学生たちが教えてくれた。彼らは理屈がわからなくても手は動く。私はその理屈を考えて、一つずつ身につけていった。
その後、34歳で普及員になったとき、ある生産者に攻めるように聞かれた。「オレ、40年農業やっているねん。先生これわかるか?(オレには敵わないだろうという雰囲気)」。ところがそのとき、何を思ったのか私は「たった40年、40回やろ! 2〜3年で答え出すし、おっちゃんに勝つで!」と啖呵を切ってしまった。そこで私は「職業をうまく使えば、1年に50〜100回くらいは経験できる」と考え、たくさんの生産者から話を聞き、納得するまで現場を見て歩いた。
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わかったことは「現場から出た問題の答えは現場にあり」である。答えは本にはなく、本はあくまでも糸口や確認であると思えば、現場の歴史や知恵・工夫はどんどん吸収できるだろう。私は「現場が1番、生産者が2番、実証が3番、実験・研究が4番、本・情報が5番」と考え、現場に育てられたことを感謝している。
この連載では、現場や生産者からのヒントに一工夫加えて、生産者の皆さんに役に立つ情報を伝えていきたいと思っている。
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