無肥料・無農薬で育てた葛巻さんの苗。自家採種のタネから育てた苗は、驚くほど生育がよかった コスト減らしの究極 自家採種
難しいこと言ってないで
とにかくやってみよう無肥料でタネ採りMOA自然農法文化事業団・後藤久美子さん
編集部
苦手のキュウリがどんどんとれた
自然農法歴約40年の葛巻ヒサさんは、ナス名人。肥料らしきものは落ち葉の自然堆肥(08年10月号参照)だけ、農薬はいっさい使わずに、ピッカピカのナスをわんさかとってきた。
でもなぜかキュウリは苦手。すぐに病気がついて「いっつも枯れてた」。
そんな葛巻さんのキュウリが、08年は違った。自然堆肥すら入れない完全無肥料の畑なのに、いつまでも樹に勢いがあって、次から次へと実がとれた。もう嬉しくってしょうがない。
じつは「タネが違ったの」と葛巻さん。それまでは市販の適当なタネを買って使っていたのだが、今年は近所のタネ採り名人ばあちゃんが、自然農法の畑で三年間自家採種したタネをもらって播いてみたらしい。
すると苗の段階から、「ホントに驚くくらいに違ってた」。無肥料の同じ培土で育てた市販のタネと比べると、圧倒的にばあちゃんのタネのほうが元気がいい。定植後も、市販のタネの苗は、やっぱり病気がついてダメになってしまった。
しかもばあちゃんのタネから育てたキュウリは、パリパリして甘みもあっておいしかった。無肥料・無農薬でも丈夫でたくさんとれて、しかも味がいいとなれば言うことはない。
「タネってホントに大事だねぇ」とつくづく感じた葛巻さん、これからはもっとタネ採りを勉強して、毎年自分でタネを採ってやろうとワクワクしている。
MOA自然農法文化事業団・大仁農場の後藤久美子さん(左)と伊藤進さん 第3段階の作物
ピーマンのタネ
実が緑のときのタネは小さくて平べったいが、熟して赤くなってくるとタネがプクッと膨らんでくる過酷な環境から「自立型」のタネができる
じつは今、自然農法実践農家の間では、葛巻さんのようにタネ採りに目を向ける人が、急速に増えているらしい。
昨今の資材代高騰は、いかに自然農法の生産者でも影響がある。有機質肥料など資材の量をできるだけ減らしてもいいものをとろうと考えると、しっかり根っこを伸ばして自分で肥料を集めてくる力が作物に必要になる。そんな「自立型」の作物のタネは、肥料や農薬をたっぷり使った圃場からは生まれない。自然農法の過酷な環境でもちゃんと育つ個体を選び、自分でタネ採りしたほうがいいというわけ。
とにかくまず採ってみよう
ただ「自家採種」というと、なんとなく難しいイメージがある。交雑しないように袋を被せて…とかいろいろと神経を使いそう。
ところが自然農法の研究を行なう大仁農場の育種部門担当・後藤久美子さんは、「多少交雑してもいいじゃないですか」とサラッと言う。
自分で採ったタネで作った作物は、市販のタネの作物より不揃いかもしれない。でもひょっとしたら、見たこともないようなスゴイものができるかもしれない。そんなワクワク感は、ビシッと同じものしかできない市販のタネでは味わえない。
何より自分で採った貴重なタネは、愛しくて播くだけでもう楽しくなる。だから「混ざったらどうしよう」と心配する前に、「とにかくまず採ってみましょう!」と後藤さんは呼びかける。
「タネ採りしやすさ」四段階
大仁農場では、まだタネ採りしたことがない人に向けて「とりあえずこんな作物からタネ採りを始めてみたら」という意味で、作物を四段階にランク付けしている。交雑しやすさなど、高度な知識はこの際関係ない。とにかく「タネ採りのしやすさ」だけ考えた順番である。
第4段階の作物
ツルムラサキの実
きれいな花が咲いた後、こんな実ができる。つぶすと鮮やかな紫色の汁が出るので、天然の着色料としても使える第1段階 タネそのものを食べる作物
穀類・イモ類・ダイズやアズキ等のマメ類など、そのものを播くか植えるかするだけで作物ができるもの。もちろん一番タネ採りしやすい。
第2段階 完熟した実を食べる作物
スイカ・カボチャ・メロンなど、完熟した実を食べるときにタネをとっておくだけでいいもの。
第3段階 完熟するまで待たなければならない作物
ナス・ピーマン・トマト・キュウリ・オクラ・インゲン・エンドウ・トウモロコシなど、実を収穫せず樹に付いた状態で完熟するまでしばらく待ち、あとでタネを取り出す必要があるもの。
第4段階 花を咲かせなければならない作物
アブラナ科の菜っぱ類・レタス・ホウレンソウ・ネギ類など、普通は花が咲く前に収穫してしまうものを畑に残しておき、花を咲かせてタネができるまで待たなければならないもの。
「お気に入り」を大雑把に選ぶ
タネを採る楽しみを覚えたら、次がタネを「選んで採る」段階。ここを専門的にやろうとすると神経を使うが、やっぱり難しく考えないほうがいい。とにかく「自分の圃場でよく育つもの、好みのもの」を選んで採る。たとえば「食べてみておいしかった」実のタネを残しておくとか、「形のいい」実や葉を収穫せずに残しておくとかいった要領だ。
参考書には、いいものばかりを選抜していると、やがてタネができにくくなる性質(自殖弱勢)があるので気をつけるとか書いてある。たしかに厳密に性質の揃ったものばかりを選抜して自家採種を繰り返していると、タネができにくくなってくることはある。
でも育種の専門家と違って「これとこれがよさそうだ」くらいに大雑把に選んでいる分にはそんな心配はほとんどない。どうしても心配なら、タネ採りする個体の数を増やしてやや大雑把に選ぶか、「タネができにくくなってきたなー」と感じたら、意識して生育の勢いがいい個体を選んでやればいい。
大仁農場で採ったタネの一部。ほとんど固定種だが、ナスのタネは、F1の千両2号から10年以上かけて選抜したもの だいたい同じだけどやや違う固定種がオススメ
タネ採りの元になる品種はなんでもいいのだが、後藤さんのオススメは、やっぱり固定種。
タネ屋さんに多く並んでいるF1品種は、メーカーが二つの異なる固定種を掛け合わせて作った雑種。一代目はカチッと性質の揃った作物ができるが、タネ採りすると、普通は親とは似ても似つかない性質のものがバラバラにできる。
もちろんそのなかから気に入ったものを選ぶのも楽しいが、親を上回るようなものができるかどうかはわからないし、できたとしても固定するのに膨大な時間がかかる。
いっぽう固定種は、親も子供もだいたい同じなのだが、形や色などがやや違ったり、多少幅をもって性質が表れる。この「同じだけどいろんなものが出てくる」という幅が重要で、親に似ていながら、もっと自分が好きな性質を持った個体が出てきやすい。オリジナル品種が作りやすいのだ。
大仁農場のニンジンの採種圃。無肥料・無農薬であることはもちろん、耕さず雑草もほとんどとらない過酷な環境。ここから「自立型」のタネができる とくに地域に伝わる在来種がいい
大仁農場でもこれまであらゆる作物のいろいろな品種を栽培し、自然農法でも作りやすいものを選んできた。なかでもとくに自然農法向きと感じた品種もある。たとえばスイカの新大和二号・キュウリの霜しらず地這・甘トウガラシの伏見甘長、サツマイモのベニオトメなどである。
また普通は病気にやられやすいから自分で種イモはとれないと言われているジャガイモでも、デジマやホッカイコガネ、アンデスレッドなどは、種イモをとってもほとんど問題ないし、自然農法でも作りやすいという。
ただし以上の品種は、あくまで大仁農場でよくできるもの。同じ品種を別の地域や圃場で作っても、育ち方はぜんぜん違うという。たとえばサツマイモの高系14号は、大仁農場ではまったくうまくできないが、鹿児島ではとってもよくできたりする。
だから後藤さんは、固定種のなかでもとくに「地域に伝わる在来種がいい」という。気候や土質に合っているので作りやすいし、性質に幅もあるからおもしろみもある。また地域の伝統の味を次の世代に伝える意味でも、タネ採りする意義が大きいからだ。
多様性のあるタネほど夢がある
それでも「大仁農場で自然農法に向く品種のタネを作ってほしい」という声もあるが、やっぱりタネは、自分の畑で選んで採るのが一番いい。そこで大仁農場では、「多様性を持った固定種」を育成し、タネが欲しいという人には「タネ採りの基本」を伝えながら提供している。そのほうが地域に合ったオリジナル品種を作りやすいし、「夢がありますよね」と思うからだ。
タネ採りの基本
ここで紹介するのは、いろんなタネに共通する「タネ採りの基本」。ちょっと難しいタネ採りに挑戦するときは、参考書などを見るといい。
(1)厳しい環境で育てる
無肥料・無農薬であることはもちろん、耕耘もあまりせず、雑草もあまりとらないような厳しい環境に母本(タネ採りする樹)を置き、「鍛え抜かれたスポーツ選手のように」たくましく育てる。
ただし母本が充実していないといいタネが採れないので、弱りすぎない程度にする。
(2)完熟させてからタネを採る
ナスなど三段階の作物は、十分に熟すまで実を樹に付けたままにし、とってからも1〜2週間追熟させてからタネを採る。
(3)タネの周りに水分があるものは水選、ないものは風選する
メロンやトマトなど、もともとタネの周りに果実の水分がある作物のタネは水に入れ、沈んだものだけをとる。
いっぽうネギやニンジンなどタネのとき周りに水分がない作物のタネは、水に濡らすとすぐに発芽してしまったり、発芽率が落ちたりする。唐箕などを使って風選する。
(4)乾燥・低温・光のない状態で保管
選別したタネは、まず天日で1時間ほど干して水分を飛ばした後、指で押すとカチッと硬く感じるまで十分に陰干ししてよく乾かす。ただし強い天日に当てすぎるとタネが弱り、発芽率が落ちるので注意する。
封筒や紙袋など湿気のこもらないものにできれば乾燥剤と一緒に入れ、冷蔵庫など温度が低くて光の入らない場所で保管する。
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