月刊 現代農業
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角材を引っ張って苗を鍛えるサトちゃん
筆者(倉持正実撮影。以下Kも)

新連載 みきっぺの菜の花稲作挑戦記

まずは菜の花のタネを播いた

木原美樹

「おもしろいと思えない農業」を卒業したい

 はじめまして。私は、山口県で水稲約13haと裸麦を8ha栽培しています。就農して今年で6年目、祖父からの経営を引き継いで3年目になります。

 米作り、農業が職業になるということをよく理解しないままに祖父の経営を引き継ぎ、これまでやってきました。初めのうちは祖父のやってきた稲作や農業関係機関の指導のもとに米作りを続けていましたが、おもしろいと思えることがありませんでした。

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 たくさんの面積を抱え、農薬で病害虫の防除を行ない、化学肥料でお米を大量生産する。この稲作で、いったい私はどこにやりがいを見出せるのか、悩みました。

 菜の花稲作に興味を持ったのは、鶏糞と菜の花でお米が作れて、しかも抑草効果もあるというところです。自然の摂理に従った、無駄がなく無理もない環境にやさしいお米づくり。それでいて田んぼを一面黄色で埋め尽くす光景がとても魅力的。菜の花が咲いている脇の道路は、何度も通りたくなる。こんな景色を自分の地域でも実現できたら…。

 さらにナタネ油を搾って精製したら、バイオディーゼル燃料としてトラクタも動かせるかもしれない。こんなにおもしろくて可能性のある花を、自分の田んぼでも咲かせてみたいと思いました。

赤木さんの田んぼに衝撃

菜の花稲作の師匠赤木歳通さんと
菜の花稲作の師匠、赤木歳通さんと

 そんなとき、愛読誌『現代農業』で実際に5haの田んぼで菜の花稲作をなさっている赤木歳通さんを知りました。自信たっぷりの「赤木節」がさく裂で、まるで「その目でオレの田んぼを見においで」と言われているようでした。そして実際に岡山まで足を運んだ私は、赤木節を事実として目の当たりにすることになりました。

 赤木さんの田んぼは、見事に雑草一本立っていませんでした。除草剤を使っても雑草を生やしてしまう私の田んぼと、菜の花をうまく利用して雑草一本も生やさない赤木さんの田んぼ。これは挑戦してみるべきだとすぐに決心しました。

 それと私は、カブトエビやヤゴやイトミミズなど田んぼの生きものに出くわすと、子供の頃以上にワクワクしてしまいます。赤木さんは、田んぼの生きものに関する知識も豊富で、生きものについて話をするときに嬉しそうな顔をされます。「こういう農家って身近にいない、ましてや大人ではそうはいない」と思いました。

 農業に対する二人の思いが通じたのだと思います。緑肥稲作を実体験として伝授しようという赤木さんのご好意で、山口県の私の田んぼまで足を運んでくださることになりました。

早植えコシヒカリには生長の早いナバナ緑肥

クリムソンクローバー
赤い花がかわいいクリムソンクローバー(K)

 菜の花稲作に挑戦することになり、まず始めに地域の田園風景をどんな具合に彩るかを考えました。赤木さんの田んぼは、菜の花だけではなく、ヒナゲシやアンジェリアなどの草花も取り込んでおられて、その景観は本当に素晴らしかった。そこで私が選んだ緑肥のタネは、菜の花(ナバナとキカラシ)とクリムソンクローバー(イチゴを逆さまにしたような赤い花)。田んぼを黄色と赤色で彩ります。

 緑肥初挑戦なので、今年はまず2haでやってみることにしました。イネの品種は、コシヒカリとひとめぼれ。うち30aのコシヒカリは、毎年5月10日頃に田植えをします。

 赤木さんによると、5月中旬以前の田植えの場合、緑肥は秋播き。緑肥を田植え後一気に腐らせるには、遅くても4月20日までにはすき込んで、土の中で腐る準備期間をちゃんと取ってやらないといけないからです。5月の田植えは気温が低い分、すき込んでからの期間が短いと田植え後一気に腐熟してこないから、有機酸不足でコナギが生えてしまうというわけですね。

 田植えがもう1カ月遅いのであれば、2週間前のすき込みでも構わないから冬播きでもいいそうです。

 ちなみに秋播き菜の花の品種は、当初ナタネを予定していました。でも赤木さんの提案でナバナに変更。同じ菜の花といっても開花の早さが違うらしく、とくにナタネは、同じ時期に播種しても開花が一番遅いみたいです。いっぽう最初に咲くのがナバナ。もっと早くに(9月いっぱいまでに)播けば、大寒の頃には咲くようです。コシヒカリの田植えは早いから、少しでも早く生長して生草重量を確保できるナバナに変更したのですね。

溝あけ

枕溝としっかりつなげなきゃ

クリムソンクローバー
最初に枕溝をあけ、縦の溝をあけてつないでいく

 10月30日、ついに赤木さんが私の田んぼにいらして、緑肥の播種作業について実地指導してくださいました。
 早くタネを播きたい気持ちを抑え、まずは一輪管理機で溝あけ作業。ナバナの湿害を防ぐためです。赤木さんは播種後にあけるみたいですが、人間の心理的にはやっぱり播種前にあけるのがいいですね。せっかくタネを播いたところに溝あけをした土が被さると、発芽しないんじゃないかと心配になります。

 溝は地下に暗渠があれば5〜6m間隔でも構わないそうですが、私の田んぼは暗渠がないので、3〜4m間隔であけていきました。

 溝あけ作業のポイントは、最後に枕溝との連結部分をクワでつなげてやるところです。この作業を怠ると、せっかくあけた溝も出口がないので水が流れ出ていきません。

 ムギの排水対策も同じです。祖父からは「表面排水のための溝で、ムギのウネと同じレベルに水がこなければいいんだ」と諭されていました。でも排水の悪い田んぼでムギを作っていた頃、この作業が苦手でした。排水口に向かって水がなだらかに流れていくようにと心がけてクワを動かしていたのですが、これがなかなかうまくいかない。溝の途中で凹凸ができれば、そこで水が滞るから結局水がたまってしまう。そういう田んぼでは、ムギが最後まで元気だった姿を見たことがない。しかも湿った重い土を動かすのは結構な重労働。効果があるのかも半信半疑で、やってもやらなくても同じだとあきらめの心境でした。

 でもナバナを播いた田んぼはよく乾いていたので、土も重たくなく作業がはかどりました。

クリムソンクローバー クリムソンクローバー
水の流れを考え、枕溝との連結部分や凸凹になっている部分はクワで溝をキレイにする 歩くスピードや歩幅、散粒器を回す速度などをなるべく一定にして播種。幅は耳と目で確認する

播種

タネの落ちる音を聞き、溝の土の動きを見る

 そしていよいよナバナの播種。手回し散粒器を使いましたが、ムラなく播くには「一回で全部播こうとせず、残りをもう一度歩いて播くぐらい慎重に」と赤木さんに教えてもらいました。散粒器や動噴のような器械は、散布する人の感覚が頼りのものなので、一回で播こうとするとタネが余ったり足りなくなる可能性もあります。

 とくにナバナのタネは小さすぎて、どこに播いているのか目では確認できません。そこで耳で確認することと溝に目を向けることがポイントになります。散粒器で飛ばしたタネが、土に落ちる瞬間にパラッと音が聞こえる。溝に目を向けると、タネが溝の側面にぶつかって土が落ちるのを確認することができる。これを頼りに播く幅を決めます。

 一回目の播種でタネが余ったので、二回目は歩く速度を少し早めにして播きました。でも途中でタネが足らなくなってしまったので、結局不足分はキカラシのタネで補いました。

 播種の最大のポイントは、歩く速度と散粒器の回し方をできるだけ一定に保つことかな。これは人に教えられてわかるものではなく、自分で一枚の田んぼをやり遂げたときに初めて感覚として身に付くものだと実感しました。

やっぱり溝あけは重要なんだ

クリムソンクローバー
播種の約50日後、厚播き・薄播き、鶏糞の多い少ないでちょっと生育に差はあるものの、菜の花はとりあえず元気に育ってる!(K)

 ナバナが発芽した田んぼは、「播き過ぎたかな」と思ったところがやっぱり厚くなっていたり、「速く歩き過ぎたかも」と思ったところは、やっぱり薄くなっていました。厚播きのところのナバナの生育は小さいかもしれないけど、「その分薄播きのナバナが大きくなって生草重量的には変わらなくなるから、気にしなくていい」と赤木さんに言われました。量が少なかったら質で補って、質が悪ければ量で補うってことですね。

 播種から3カ月経ちますが(原稿は1月末に執筆)、しばらくは大雨が降ったあとでもほとんど水溜まりがなかったので意外でした。多分田んぼの土や空気が、よく乾いていたからなのかなと思います。

 でも最近は雨の日が続いたり天候がよくないので、田んぼは水が溜まりがちです。今になって、やっぱり溝あけは重要な作業だと実感しています。湿害は今の時期より春先のほうが受けやすくなると思うので、これからの春の雨にはますます注意が必要になってくるんじゃないかな。面倒でも枕溝との連結部分は、必ずつなげてやったほうがいいんだなと思いました。

 菜の花稲作最初のステップは踏み出しました。これから春に向かって生長していくナバナとキカラシと共に、私も頑張っていこうと思います。

(山口市佐山)

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