●巻頭特集 堆肥栽培 列島拡大中
ムギに豚糞堆肥を表面施用 2009年、堆肥栽培元年。
堆肥を肥料と考えて、
足りない分だけを購入肥料で補う「堆肥栽培」急拡大。
肥料高騰をきっかけに始まった地域資源活用の大波は
もう誰にも止められない!
水質がよく全国食味コンクールで金賞をいただいたおいしいお米「雪ほたか」の産地です 堆肥栽培の現場を見に行く
1月号「堆肥栽培元年」を読んで
堆肥栽培にチャレンジ!久保田長武
私は鶴舞う形の群馬県の左の羽の部分、国立公園の尾瀬と名峰谷川岳の間に位置する利根郡川場村在住、就農15年目の35歳です。
皆さんに最初にお断わりしておきたいのは、私は堆肥栽培で成功した人間ではなく、チャレンジしている途中の人間だということです。
使えそうじゃないか、堆肥
土をよくする肥料はないかなーー
私が今回「堆肥栽培」にチャレンジしてみようと思ったのは、春の肥料を取りにJAの大型資材配送センターに行った際でした。
これから配達される予定の大量の化学肥料の山を見たときに、「関東の水源、利根川の最上流部の美しい里に、これからこれだけの化学肥料が散布されるのかー」「まかれた肥料はいつか水に溶け、土に入り、河口に流れ込み、いずれは海まで行くのかなー」「もしこの肥料の山が水や土に優しく、毎年使い込むほど土のためにもよく、作物もよく育ち、10年後の子どもたちのためにもいいような資材だったら理想的なのになー」とぼんやり思ったのでした。
地域の畜産農家は糞の処理に困っているし、私たち耕種農家は堆肥を上手に使えたら経費も抑えられるし、土壌のためにもよいのに、うまくいかないものかなーと思っていました。
茨城のキュウリ農家・松沼憲治先生(『発酵利用の減農薬・有機栽培』の著者)が、ずっと昔から生の鶏糞、モミガラ、くん炭などを使い、極上野菜を作っておられるのを見ていましたから、堆肥も使い方によっては肥料として充分使えるんだなーと想像はしていました。
堆肥栽培キュウリとわが一家(嫁さんとセガレとセガール) JAの資材センターに積まれた化学肥料。この20倍くらいの肥料が利根川最上流部の美しい里で使われる… 使っている豚糞堆肥。水分、形状が一定で、白い菌がよくまわっている。堆肥というより上質な有機肥料のよう そうか、堆肥は―肥料成分を考えてまけばいいんだ
そんな中、今年の『現代農業』2009年1月号で「堆肥栽培元年」の特集を見て、今までと少し違った堆肥のイメージを持つようになりました。落ち葉のように限りなく土壌改良材的な堆肥もあれば、生の鶏糞のように限りなく化成肥料に近い強い肥効のものもある。これまで、生に近いものから土に近いものまで、「畑に堆肥をまく」という一言だけで何も考えずにバサバサまいていたのが「堆肥を使うのは難しい」というイメージにつながっていたのかな? そこを見直せば、もしかしたらうまくいくのでは?と考えるようになりました。
そうとなったら「思い立ったが吉日」「今日やろうとして明日に送ったことは明日もできない」という思いから、さっそくメンバー(「ソイル・カンパニー(土の仲間)」11名、平均年齢40歳の仲間)に提案して、群馬県の畜産試験場が開発した「堆肥施用量計算ソフト」を使っている吾妻農業事務所へ、視察勉強会に行くことにしました。これは、今までの勘を頼りにしていた堆肥の使い方を、どのくらいの養分がどれだけの時間をかけて作物に吸われる形になるかを、可能な限り数字で出してみたソフトです。その数字を100%信じなくても、堆肥を肥料として考えた時のイメージにはなるなと思いました。
牛糞・豚糞・鶏糞についての私の勝手なイメージ
豚糞堆肥が気に入った3つの理由
露地栽培のキュウリには、標準チッソ施肥量25kgのところ、堆肥栽培なのでとりあえず元肥として堆肥で20kgくらい入れてみたいと思いました。今までは特に堆肥は計算に入れず、有機肥料などでチッソ分などを計算することが多かったのですが、最近の袋詰め堆肥には、肥料取締法で「種類」「原料」「成分」などの表示が細かく義務づけられているので、数値が出ていてたいへん参考になります。
いろいろな堆肥の中から、私が豚糞堆肥を選んだ理由は3つあります。
(1)成分表示してある袋詰めは使いやすい
1つ目は、この豚糞堆肥は袋詰めしてあり、肥料成分が細かく表示されているので、成分が何kg入ったか計算しやすい(もちろん、袋詰めしていない堆肥でも、1月号を参考にすれば計算できる――編集部注)。水分や粒状が一定で、ブロードキャスターやライムソワーで簡単に散布できる――。白い菌がまんべんなく回っている。肥料として考えると安い(1袋300円)、といった理由です。
豚糞堆肥1袋20kgの成分 (単位はpHを除き%)
チッソ リン酸 カリ 石灰 苦土 pH C/N 3.4 6.3 2.3 4.8 4.5 8.5 8 (2)牛糞、鶏糞より肥料バランスがよさそう
2つ目は、まったくの私のイメージの世界ですが、肥料バランスが気に入ったからです。
牛糞…カリや繊維が多い
牛は草食動物で胃が4つあり、よくこなされているため、チッソやリン酸は消費されて少なく、エサに草が多いのでカリや繊維が多いイメージ。
鶏糞…チッソやカルシウムが多い
家畜糞堆肥の肥料成分と肥効に対する私のイメージ
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ニワトリは口からお尻まで直線で短く、チッソやリン酸がそのまま出てくる量が多い。卵のカラを固くするため、エサにカルシウムが多い。pHが高く、カルシウムなど成分が高めのイメージ。
豚糞…バランスよさそう
豚は雑食性で人間に近く、何でもまんべんなく食べて消化器官も人間に近い。成分も上記の2つの堆肥と比べると中間でバランスのよさそうなイメージ。飼料に銅や亜鉛が添加されることから土への重金属蓄積が指摘されたりもするが、検査が通らないと売れないとのことなので心配していない。
(3)牛糞より早く、鶏糞より遅く効きそう
3つ目は試験場の出してくれた、堆肥のチッソの肥効曲線のイメージがよかった。
牛糞…じっくり長く効く
牛糞はすぐには効かないが、じっくり長く効くイメージ。遅効型で土壌改良や床土などによいのでは?というイメージ。
鶏糞…早く強めに効く
鶏糞は、2〜3週間でカーンと強めに効く化成肥料に似た速効型で、追肥などによいのでは?というイメージ。
豚糞…なだらかに効く
最上部をピンチする頃が「草姿決定期」といってキュウリの一生を決める時期といわれていますが、今年の草姿決定期は100点に近い出来かもしれません ほとんどの実がA品で使えそう。高い時には1本50円くらいになり、それがズラーッと成ると朝も目覚ましがいらなくなる。となりの人が起きるまでに10万円稼ぐことを「おはよう10万だな」といいますが、今年はまさにそんな感じ コンニャクの堆肥栽培。チッソ10kgのうち6kgを豚糞堆肥のチッソで入れて、熔リンや苦土石灰も入れずにやってみた。根腐れが出たが、まわりの畑と同じくらいの割合なので、堆肥栽培とは関係なさそう 上記二つの中間のような肥効曲線で効き方がナタネ粕のようになだらかで、ちょうどよさそうなイメージ。
これらは科学的根拠の少ない、あくまで私の勝手なイメージですが、このような理由から今回は豚糞堆肥を選んでみました。
ただ堆肥といっても、熟度も成分も、C/N比(炭素率。資材の全炭素含量(C)を全チッソ含量で割った値――編集部注)もエサも、すべて違うと思うので、そこは各自、特に注意してほしいと思います。
また元肥チッソの大半を堆肥でまかなおうとして堆肥を10aに何十tも入れたら、物理的に害が出ることは、やってみる前から経験で予測できます。普及所では、10aに牛糞なら1000kg、鶏糞なら200kg、豚糞なら800kg以下ぐらいから様子を見るのが害の出ない目安ではないか、と言っていました。
堆肥を肥料と考えて計算してみた
キュウリでは元肥チッソのすべてを、コンニャクでは6割を堆肥で入れた
チッソ成分3.5%の豚糞を10aに100kg入れたら3.5kgのチッソ量になります。堆肥だから化成のように100%効かないのと、ゆっくり効いたり、早く効いたりする違いはあるとしても、「質量保存の法則」からして、それだけのエネルギーは土に入ったのだと思います。
今回はキュウリには堆肥でチッソ20kg分くらい元肥に入れたかったのですが、昨年の緑肥でまいた冬のライ麦を残肥5kgとみて、15kgを堆肥でやることにしました。成分3.5%ですが、堆肥なので3%くらい効くものとして計算してみると、10aに25袋。元肥はこの豚糞のみで、追肥は有機化成やNK化成で補って堆肥栽培をしてみました。
コンニャクでは元肥でチッソ10kgやりたいので、豚糞で10aに10袋で、チッソ6kgの計算。足りない分の4kgを化成肥料で補いました。チッソを基準に考えるとリン酸のほうが成分が高くなってしまいますが、今まで入れていた熔リンと苦土石灰を使わずに作ってみました。
肥料代は7分の1〜8分の1に!
化成肥料は、今や1袋3000円を超えるものも珍しくなくなってきています。肥料成分は違うとはいえ、私の使った豚糞は20kg入り1袋500円です。1.5t入りのフレコンで頼めば、1袋300円で手に入ります。1袋当たりは10分の1の値段になります。
10a当たりの肥料代でみると、おそらく7分の1〜8分の1くらいに安くなった計算です。
土壌分析×作物観察のハイブリッド農法で
今のところ、90点くらいの生育かな
成分計算した堆肥の使用と、どのくらい吸われたかという土壌分析と、実際の作物の生育具合を見ながらの「ハイブリッド農法」で、自分なりの堆肥をうまく使える法則が見つかればなーと思っています。
秋に作柄の結果が出て、土壌分析などをしてみないと、よいのか悪いのかわかりませんが、今のところ生育は順調で、90点くらいの出来だと思います。1年目からうまくいくはずはないですが、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジできるのは、若い者の強みだと思います。年を重ねるほど、動物は保守的になってゆくと言います。
「失敗も成功するまで続ければ、成功するために必要だった失敗になる」と思って頑張りたいです。また「聞いたことはやったことではない。見たことはやったことではない。ただ自分でやってみたことだけが、自分の力になってゆく」と思って、まずは失敗を面倒がらずにいろいろなことにチャレンジしてみたいです。
肝心なのは、作物にとってよいかどうか
「ハイブリッド農法」で自分なりの堆肥栽培を見つけたい
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私が思う堆肥栽培のメリットは、堆肥で少しでも肥料分を補えれば、土のためにもなり、肥料代が抑えられること。これから先は、堆肥の新しい時代が来るのではないかと期待しています。
さらには、牛糞、豚糞、鶏糞をうまく混ぜて、どの成分も平らに含まれ、ゆっくり安定して効くイメージの堆肥型肥料が作れれば、もっと自由に肥料として使えるのではないか、とも思っています。
最後に私が思う堆肥栽培の理想型は、茨城の松沼憲治先生のおっしゃった言葉の中にあります。
「肝心なのは、作物の生育を見て、作物と話をしながら、自分のやっていることが作物にとって本当によいのか、悪いのかを判断することだ」「数値も大事だが、そればかり見て、作物の変化を感じなくなってはダメだ。よく生育していれば作物は喜んでいる。数値やグラフは完璧で計算上はよいつもりでも、生育が悪ければ作物は何か居心地が悪いと思っている。まだ作物や土には解明されていない不思議な力がたくさんあり、よく生育していれば、後で大学の偉い先生がそれなりの立派な理由を考えてくれる。農家は毎日の作物を観察しながら、よい生育をしているという点を重要視しなければいけない」
この言葉を胸に刻み、机上の論理一辺倒にならずに、時には常識を疑ったりしながら、作物の生育具合を最重要視して堆肥を使ってみたいと思います。最後には、安いから堆肥を使っているのではなく、堆肥栽培をするとよい作物ができるから使っている、と言えるように頑張りたいです。
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(群馬県利根郡川場村萩室)
この記事の掲載号『現代農業 2009年10月号』巻頭特集:土肥特集2009 堆肥栽培 列島拡大中
肥料袋からわかること/味・品質・病気に効く石灰/乳酸菌パワー/土壌診断でシンプル施肥/センチュウ・土壌病害と闘う/マメ科/家畜尿/炭素循環農法/冬の田土を乾かす 他 [本を詳しく見る]『現代農業 2009年1月号』 特集 堆肥栽培元年
肥料高騰これからの農業/堆肥で肥料代減らし/堆肥の未熟・中熟・完熟の話/部分施用で根が伸びる/「おいしいご飯」を目指せ!/リン酸高騰!発酵させてムダなく効かせる/わかりやすい、身体がラク、早成り 夢のような仕立て集まれ/ほっと一息を売るお茶ビジネス/飼料イネQ&A [本を詳しく見る]『発酵利用の減農薬・有機栽培』松沼憲治 著 土着菌による手作り発酵資材で、減農薬・有機40年連作の農家技術を公開。土中発酵の土つくり、土着菌ボカシ、堆肥、モミ酢、乳酸菌液、黒砂糖液などの作り方・使い方を詳解。ハウスキュウリ、露地野菜、水稲栽培も [本を詳しく見る]
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