「えひめAI」を手づくり。 乳酸菌の活躍が期待できる 魅力的 乳酸菌パワー
ヨーグルトや漬物でもお馴染み、身近な微生物、乳酸菌。
高温でも低温でもわりと平気で
酸素はあってもなくても大丈夫。しぶとい!
静菌力のある乳酸はもちろん、
他の菌や作物の生長を助ける魅力的な物質を
次々と生み出してくれるので
これは農業利用しない手はない。
農家にヨーグルトの素晴らしさを力説する (株)資源開発ネイチャーの平松さん(手前) 味がよくなるともっぱらの噂
その名も「ヨーグルト農法」編集部
ヨーグルト農法 東北地方で拡大中!?
今、岩手県をはじめとする農家の間では、にわかに「ヨーグルト農法」なる技術が話題になっている。その名の通り、液状のヨーグルトを葉面散布、あるいは土壌かん注して、乳酸菌の力で植物を活性化させようというものだ。
すすめているのは、(株)資源開発ネイチャーの平松勝彦代表。自らヨーグルトを資材化し(牛乳に乳酸菌を加えて発酵)、自らホンダのスーパーカブを駆って、畑で作業中の農家に片っ端から声をかけ続けてきた。
平松「いや〜、今日はいい天気ですね。私、ヨーグルトの普及をしているのですが、ちょっとお話を聞いてくれませんか?」
農家「うちは、ヨーグルトはいりません」
平松「いや、そうじゃないんです。農業資材のヨーグルトなんです」
と、こんな調子で乳酸菌の素晴らしさを説きはじめる。断わられてもめげずに再訪、買ってくれたあとも様子を聞きに足繁く通う。そして、いつしかついたあだ名が「ヨーグルトのおじさん」である。
今や岩手県の滝沢地区や花泉地区のリンゴ産地を中心に約60戸(総面積80町)の農家がこのヨーグルト資材を使うようになったという。もちろんリンゴに限らず、キュウリやトマトやイチゴで使う人もいる。また、県内だけに留まらず、秋田県横手市のリンゴ地帯、サクランボ王国・山形県東根市、福島県のフルーツラインと、東北地方でじわりじわりと広がりを見せている。
「普及をはじめて4年になりますが、苦情はただの一度もありませんよ」
それどころか、使った農家からは「ヨーグルトが効いた」「乳酸菌がすごい」という報告が続々と寄せられるという。
「どういう効果があるのかは、使った農家でないとわかりませんからね。私はその声を聞いて、他の農家にも伝えるようにしています」
そこで、岩手県内でヨーグルトで成果をあげている農家を訪ねてみることにした。
よく効く 乳酸菌
リンゴへの効果
▼ダニにやられてもおいしい!?
ヨーグルト農法に太鼓判をおす尾川馨さん。リンゴの平均糖度が2%アップ ヨーグルトを定期的に散布しているリンゴの葉。このテリ! 「ヨーグルト、いいですよ。値段よりもはるかに効果があります」
ヨーグルト農法に確かな手ごたえを感じているのは、平泉町で12.5町のリンゴ園を持つ(有)大文字りんごの尾川馨さんである。早くからヨーグルトを導入し、その効果を見極める実験を平松さんと二人三脚で進めてきた。
「初めて使ったのは四年前ですかね。当時はダニがどうしようもなくて、クスリじゃ止まらない状態でした。そんなとき、ちょうどうまい具合にヨーグルト農法のことを知って、なんぼかよくなればぐらいの気持ちで試してみたんです。牛乳がダニに効くっていう話はかねてからよそで聞いていましたから、それならヨーグルトでも、という発想です」
その年は、すでにダニが発生している畑への散布であった。ところが、ダニよりもなによりも、まず味が変わったのに驚いてしまった。普通、ダニに吸汁されれば、果実の色はよくないし、味も格段に劣って売りものにならないはずである。それなのに、どういうわけだかちゃんとミツも入って、いつもよりおいしいのだ。自らが経営する直売所でも好評であった。
これはなにかあるなと直感した尾川さん、それ以来すっかりヨーグルトにはまってしまい、次の年から本格的に使い方を模索しだした。
▼葉が光輝く
「ヨーグルトを葉面散布すると、葉が光り輝くようになるのが特徴ですね。テリがあるぐらい葉が元気だと、必然的にリンゴも大きくなって、味もよくなるのではないでしょうか」
また、果実そのものも引き締まるという。それまで尾川さんは、ふじの実を硬くするために、1作に6回ほどカルシウム剤を散布していたが、ヨーグルトを使うようになってからはそれもいらなくなった。ヨーグルトに含まれるカルシウムにも期待できるのだ。
▼ダニ剤が1回ですんだ
肝心のダニはどうなったかというと、こちらは不思議な結果が出た。
「ナミハダニは少なくなりましたが、リンゴハダニは増える傾向にありますね。もっとも、うちではナミハダニの害のほうがはるかに多かったので、助かりはしました」
かつては3回きっちりふっていたダニ剤が、今では7割の園が1回、3割の園が2回ですむようになった。
「おやじに任せている園もあるんですがね、2年続けてダニ剤が1回ですんだので、おやじも『こりゃすげえな』と驚いています」
▼糖度上昇に期待
尾川さんの他にも、ヨーグルトの土壌かん注で、モンパ病におかされた樹を3年ですっかり回復させてしまったリンゴ農家もいる。
また、一関市で5町歩のリンゴ畑にヨーグルトを使っている佐藤勇一さんは、「どんなにいいといわれても、それを100%信じる農家はまずいない」と慎重路線を貫きつつも、「人間の身体にいい乳酸菌が、植物に悪いわけはない」と前向きだ。
「ここ花泉のリンゴ団地では、ウネ間を広くとったりと、みんな味を追求した栽培をしている。昔からおいしいリンゴで有名で、糖度も高いよ。それでも、“もっと”“さらに”やっぱりおいしいなあと思えるリンゴをつくりたい。糖度も上げたい。病気や虫の対策としてではなく、それ以外のなにかをヨーグルトには期待しています」
まわりには味をのせるためにアミノ酸資材をかける農家もいる。佐藤さんは、乳酸菌がつくりだすアミノ酸にも注目しているのだ。
いずれにしても、ヨーグルトを使っているリンゴ農家は、乳酸菌にはかなりの期待を寄せていることがわかった。
キュウリへの効果
▼エグミなし、甘い!
キュウリ農家の菊地硬一さん(バックはトルコギキョウの畑)。花農家でもあり、キュウリのハウスでは後作でストック それでは野菜ではどうか。
ヨーグルトを使いはじめて3年目、奥州市のキュウリ農家、菊地硬一さんに話をうかがった。菊地さんは、2〜3週間に1回かん水と同時に乳酸菌を流し込み、10日に1回葉面散布。
「オレは好奇心旺盛で、珍しいものにはついつい手を出してしまうがな、はっきりいえるのは、1年目から味が格段によくなったってこと。うちに直接キュウリを買いにきてくれるお客さんが『今年は違う』というんだ。昔はどうしても若干のエグミ、渋みはあったもんだが、それがぜんぜんないのさ。なりつら(ヘタ付近)でさえ味が落ちない。
収穫終わって、株の片付けのときに残っていた実ももったいないから食べてみたんだ。甘かった。水を切ってしばらくたつのにみずみずしい」
▼収量と秀品率、どっちも上がった
「収量も上がったな。1年目は200坪のハウス二棟で16t、2年目はなんと19t超えた(2月下旬から6月までの収穫)。秀品率も上がって、いつもはA品1200〜1300ケース(1ケース5kg)のところ、その年は2000ケース。
今年は肥料のやり方まちがって17tだったが、それでも後半は忙しいくらいにとれた。昔は5月も末になると樹がバテて収量上がらないんだが、今年は持ったな。今までにないことだ」
▼灰カビ病への殺菌剤が減った
「4月あたりから、雨の頃になると、灰カビがよく出るんだよ。殺菌剤いくらかけてもとまらないんだ。それが今じゃ農薬散布は10日に1回ですむようになった。
病気に効くのは、不思議だよな。でも、ヨーグルトかけると芯(生長点)の勢いがよくなるのは確かだな」
農業用ヨーグルトのつくり方〈概要〉
(1)発酵機(ガスで熱をかけられる装置)に牛乳と市販の乳酸菌を入れ、37度に保つよう加熱する
(2)一晩で加熱を止め、冷まして攪拌(発酵をある程度止めるため)
(3)そのまま1日置いておき、じわじわ乳酸発酵
(4)熟成機(クーラーで温度を下げることができ、自動攪拌装置がついている)に移し、5〜15度の温度で2時間に1回10分間の攪拌で発酵を止めていく(乳酸菌は生きたまま)。5日間ほどで完成
※(株)資源開発ネイチャーでは「大ちゃん」の名で商品化。20リットルで1万5000〜2万円
※「大ちゃん」はサラサラの液状で、糖分も分解されてしまっており含まれない。もちろん市販のヨーグルトを散布しても乳酸菌の効果を望めるが、「ただし、糖分が含まれているので、虫をおびき寄せてしまうかもしれません」
熟成機でヨーグルトを攪拌 なぜ効く 乳酸菌
廃乳利用がはじまり
実践している農家は「平松さんの熱意に負けた」といってはいるものの、使いはじめたら最後、この盛り上がりようである。しかし平松さん、そもそもなぜヨーグルトなのだろうか。
「女房の実家のある、ここ奥州市に移り住んだのは6年前です。近くに牛乳製造所がありまして、賞味期限切れの牛乳が小売店から戻ってくるんです。それが大量に捨てられているのを見たとき、なんとか農業に活かせないかと考えたのがきっかけですね。はじめは牛乳そのものを畑にまいたりもしてみましたが、どうもヨーグルトにしてからのほうが作物の生長がいいようなんです。乳酸菌の働き、乳酸菌のつくりだすものに私は注目しました」
農家から具体的な効果を聞き、その根拠づけをするのが平松さんの仕事である。調べてみると、乳酸菌はいいことずくめ。マイナス点など見当たらないので、かえって心配になったほどである。
乳酸菌がつくりだす物質がすごい!
今現在、平松さんの調べで乳酸菌についてわかっていることは次のようなことである。
・アミノ酸
乳酸発酵の過程で、牛乳のタンパク質がアミノ酸へと変化していく。乳酸菌がグルタミン酸やアスパラギン酸などをつくりだしてくれるのである。
つまり、ヨーグルトを土壌かん注すれば根から、葉面散布すれば葉からアミノ酸が吸われていくことになる。リンゴの尾川さんやキュウリの菊地さんがまず第一に「味がよくなった」「糖度が上がった」といっているのはそのためだろうか。
また、アミノ酸は微生物の格好のエサ。土壌なり葉面で、有効菌が元気になり、繁殖も旺盛になる。
・各種抗菌成分
乳酸菌が働きだすと、まず乳酸やギ酸や酢酸などの有機酸がつくられる。これらも抗菌作用があるのだが、もっと強力なのが、続いて生み出される抗菌性ナイシン、過酸化水素、ティプロコクシン、ラクトサイジン、アシドフィリンといった物質たちである。これらが病原菌の繁殖を抑えてくれる。
また、土壌や葉面の微生物環境の改善にもなる。
リンゴでのヨーグルト散布目安(年間)
●3月か12月に堆肥を散布し、その上から400倍液を散布すると、堆肥の未熟害が出ない
●6〜9月、10日おきに月に3回のペースで葉面散布。最初の2回は1000倍で、あとは500倍。1000倍だと「葉面や土壌の環境改善」「味覚の向上」、500倍だとそれに加えてダニ対策にもなる(農薬と混合してもいい)
「ヨーグルトを食べると、腸内で善玉菌が増え、悪玉菌が減るといいますよね。あれと同じことが畑でも起こっているのではないでしょうか」
・カルシウム
牛乳由来なので、当然ヨーグルトもカルシウムが豊富。作物に吸われると細胞壁を強くして、病害虫に強くなる(カルシウムの効果は『現代農業』の石灰防除の記事でもたびたび紹介)。また、実がカチッと締まるので、食味や食感がよくなる。
その他にも作物に及ぼす影響を探っていくと、「有機酸が増えるので低pHとなり、静菌作用が期待できる」「乳酸菌がスペースを占有して、他の悪玉菌の付け入る隙を与えない」「ヨーグルトそのものが作物の栄養になる」など、枚挙に暇がない。
ますます目が離せない乳酸菌。これからも「ヨーグルトのおじさん」の研究は続く。
この記事の掲載号『現代農業 2009年10月号』巻頭特集:土肥特集2009 堆肥栽培 列島拡大中
肥料袋からわかること/味・品質・病気に効く石灰/乳酸菌パワー/土壌診断でシンプル施肥/センチュウ・土壌病害と闘う/マメ科/家畜尿/炭素循環農法/冬の田土を乾かす 他 [本を詳しく見る]『天恵緑汁のつくり方と使い方』趙漢珪 監修 ヨモギ、タケノコ、杉の実など、身近な素材を黒砂糖とあわせ、容器にいれて待つこと1週間、発酵して染み出てきた濃緑の液体は自然の精気そのもの。漬物感覚でできる手づくり資材で作物も家畜も人間も元気になる。 [本を詳しく見る]
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