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山本さんの改植したバラハウス。株元の雪のようなものが羊毛クズ。有機物マルチで炭酸ガス濃度がグーッと上がる
山本さんの改植したバラハウス。株元の雪のようなものが羊毛クズ。有機物マルチで炭酸ガス濃度がグーッと上がる

炭酸ガス施用 最前線

有機物マルチ+米ヌカで、なんと明け方1200ppm

和歌山県御坊市 山本賢さん

編集部

仰天、ウネより高い通路が炭酸ガスを出す

「炭酸ガスは光合成の原料やろう。あるとなしでは収量にも品質にも大きく影響するな」

 そう語る山本さんのバラのハウスにお邪魔してみると、通路には、せん定枝や落ち葉が山積みされている。歩くとフワフワしていて、まるで秋の野山に踏み入った感覚だ。これがハウスの中? 土がどこにあるのかわからないほど(159ページ写真)。

「ここは10年改植してないところだけど、ウネより高いやろー。視察に来た人はみんなビックリしよる」

 少し掘ってみると、せん定枝の層が20cmくらいあり、その下に腐植混じりの土が見えてきた。湿り気があって、嗅ぐと縁の下のニオイで、放線菌がいっぱいいそうな感じ。分解しづらい硬い枝でも3年すれば形はなくなって土になるという。まるで森林土壌のようだ。

「このせん定枝、堆肥の量でいったら20t分くらいあるんと違うかな」

 じつはこのたっぷりの有機物マルチこそが、山本さんのバラづくりには欠かせない、炭酸ガス発生装置なのである。

スイートピーが花落ちしなくなった

 山本さんといえば、息子のさんとバラづくり20年以上のベテラン農家で、昨年は農林大臣賞、今年は生産局長賞と続けざまに受賞した。花と葉のバランスがよく、日持ちがいいとの評価。出荷先の市場でも、バラの平均単価が1本約70円だとしたら、つねにそれより10円高く取引される。

 さらに収量も多い。一輪咲きの切りバラで10a70万本切れれば御の字の人が多いが、10万本はコンスタントに切るというから驚きだ。

 そんな山本さんが炭酸ガスに興味を持ち始めたのは、かつてスイートピーをつくっていた頃からだ。冬、曇雨天が2日も続くと、花が蕾のままポロポロ落ちてしまった。原因は光合成の低下ではないかとおぼろげながら考えていた山本さん、当時としては高価なガス発生装置を思い切って導入。すると効果は絶大で、まったく花落ちしなくなった。明け方、1500ppmになるようにセットして、換気するまで施用するというやり方だ。

木クズ20t、米ヌカ1tを入れた改植畑で炭酸ガス濃度を測る山本賢さん。経営はバラ50a
木クズ20t、米ヌカ1tを入れた改植畑で炭酸ガス濃度を測る山本賢さん。経営はバラ50a

「花がひとっつも落ちないんだから、ほんとビックリしたわ」

普通のハウスの炭酸ガス濃度の一日の変化と炭酸ガス施用の概略
夜は光合成をしないので炭酸ガスは吸われない。作物の呼吸と土からもジワジワ出るので明け方は600ppmくらいになる。光合成が始まると炭酸ガスは一気に吸われ、濃度が下がる。問題は冬場、換気をしないと日中は外気より少なくなり、炭酸ガス飢餓になる

冬、ハウスを閉めていると150ppmしかない

通路を掘ってみた

通路を掘ってみた。せん定枝の層が20cmくらいあり、その下に腐植まじりの土が出てきた。小枝には白い放線菌らしきものがビッシリ
せん定枝が敷き詰められた通路。ウネより高い。「根頭がんしゅ病」が怖いと、せん定枝は外に持ち出す人が多いが、山本さんは土壌消毒なしで病気も出ない

 山本さんは発生装置についていた炭酸ガスの濃度センサーを使って、あれこれ測ってみた。すると恐ろしいことが判明。とくに温度が上がらない冬場、日中ハウスを閉め切っていると、ハウス内の炭酸ガス濃度は150とか200ppmまで下がっていたのだ。外気の濃度が約370ppmだから、その半分もない。

「なるほどこりゃ、光合成も低下するわけだ」

 次々に花芽をつけていく作物は、光合成による同化産物が不足すると、送り先の優先順序を決めるらしい。小さな花は自ら落とし、確実に子孫(タネ)を残すため、大きな花に優先的に送ろうとバランスをとる。スイートピーが花落ちしたのも、そういった植物の本能が働いたせいだろう。

 微生物に炭酸ガスを出させればタダ

 山本さんはその後、スイートピーからバラに転換したが、大事な光合成のための炭酸ガス施用は継続した。ところが、パイプハウスより大きな温室を建てたので莫大なコストがかかる。

「300坪から500坪にしたんやけど、温室は背も高いやろう。容積にしたら4倍はある。だから1500ppmにセットすると、ガスがあっという間になくなってしまうんや」

 そこで考えたのが、金のかからない炭酸ガスの供給法。せん定枝や落ち葉はハウスの外へ持ち出さず、通路や株元へどんどん積んでいく、有機物マルチ方式である(詳しくは04年10月号も参照)。土に大量の有機物があれば、それをエサに微生物が活発に動き、呼吸することで、炭酸ガスがジワジワとつねに発生するというわけだ。

「冬にハウスを閉め切ったときは、この方法で、明け方1200ppmくらいまで上がるわな。市販の発生装置なみに出るで」

 温度の低い厳寒期(12〜2月)は微生物の活動が鈍くなるので、さすがに濃度が下がってくるのだが、そういうときは有機物マルチの上に米ヌカをパラパラ(10a5kg)まく。微生物の起爆剤となるので、ふった翌日には1200ppmくらいまで上がるという。2週間に一度米ヌカをまくだけで、炭酸ガス発生装置なみの濃度になってしまうのだ。

炭酸ガスをしっかり吸収したバラは、葉が厚くコンパクトになる
炭酸ガスをしっかり吸収したバラは、葉が厚くコンパクトになる
簡易炭酸ガス測定器
簡易炭酸ガス測定器(「ポータブルCO2計」4万9000円。サカキコーポレーション)。有機物マルチの上はガス濃度が513ppm。ちなみに外気は409ppm
山本さんの有機物マルチから出る炭酸ガス濃度

硬めの有機物がガス持続のコツ

 山本さんは常々せん定枝を通路に入れるだけでなく、4〜5年に一度バラを改植するときには10aに木クズ20t米ヌカ1tをすき込むから、その効果も大きいだろう。木クズとは、土木業者が道路を整備するときに取り除く、木の切り株をチップ化したものだ。チップにする手間賃と運賃で6t1万円ほど。さらに絨毯工場から排出される羊毛クズなんかもタダで運んでもらい、ウネ上に入れる。そして、その上にせん定枝……。

「米ヌカだけでも効果はあると思うけど、長続きはせんやろうな。やっぱり元のところには少し硬めの有機物を入れなきゃ。

 せん定枝や木クズは硬いやろう。すぐにはなくならへん。微生物が呼吸すれば、炭酸ガスを出すわけやから、なるべく硬いもんを徐々に分解させたほうが、ガスの濃度も維持できる。そういう硬いもんのところへ米ヌカをパラパラやるのが、超低コスト炭酸ガス自由自在発生装置ってわけよ」

換気中でも外気より100ppm高い

 お邪魔した10月上旬、まだハウスの炭酸ガス施用が必要なシーズンではなかったが、山本さんが5年前に購入したという簡易炭酸ガス測定器で、有機物マルチいっぱいのハウス内の濃度を測ってみた。スイッチを入れると1〜2分でデジタルの数値が出る、とても便利な道具。

 全開で換気中のハウスなら、外気の濃度と変わらないだろうと思いきや、有機物マルチの上は510ppm。外気は409ppm(だいたいは370ppmらしいが、車が走る道路で測ったのでやや高かった模様)だったので100ppmも高い。ちなみに、あまり有機物を入れていない別の人のハウスのウネ上の濃度を測ってみたら420ppmだった。

 換気中にも外気と100ppmの差。有機物マルチ方式は、昼間もずーっと作物に炭酸ガスを供給し続ける装置ということか。

生物に必要な主元素
水素(H)60.3%
酸素(O)25.5%
炭素(C)10.5%
チッソ(N)2.4%
ナトリウム(Na)0.7%
カルシウム(Ca)0.2%
リン酸(P)0.1%
イオウ(S)0.1%
カリ(K)0.04%



山本さんの施肥の考えの元になっている元素表(医学関係のデータ)。作物に必要なものは、約96%が水(水素と酸素)と炭素。NPKなどの肥料は微々たるもの

風が吹くとさらに活きる炭酸ガス

 さらに、炭酸ガスは濃度だけでなく、いかに作物に取り込ませるかも大事だと山本さんはいう。それには風だ。風がないと葉の気孔から炭酸ガスを取り込む量が極端に少なくなる。だからハウスに循環扇は欠かせない。葉っぱがいつもそよそよ揺れるくらいなら、炭酸ガスはスーッと吸い込まれるが、風がないと気孔も開かず、吸われた残りの低濃度状態のガスが、そのまま葉面に停滞するので吸収効率がガクンと下がる。

 実際、朝方、山本さんが測ってみると、風がそよそよ吹く場所では700ppmあるのに、すぐ近くのバラの株が込み合って風が通らない株の中は200ppmしかないということがあった。これではいちばん重要な場所の濃度が低いことになる。株が込み合う場所でも、葉っぱが少し揺れるくらいの風を吹かせることが絶対だと確信した。

「三要素時代」から「炭素時代」へ

 山本さんは最近、施肥に対する考え方が180度変わったそうだ。以前はずっとチッソ、リン酸、カリなどの肥料成分のバランスを考えて、土壌診断も何度も繰り返してきたわけだが、最近は、肥料はそれほど重要ではないと思うようになってきた。

 というのも生物を構成する元素で作物のことを考えるようになったからだ。主なものは表に示したが、生物にもっとも必要なのが水素(H)と酸素(O)で、次が炭素(C)。つまり、水と炭素で約96%を占める。チッソはわずか2.4%で、その他の肥料やミネラルは全部合わせても1%ほどにすぎない。

「水はもちろん大事だが、炭素は体をつくる骨格やろう。だから炭素をいかに吸わせるかが大前提。ヨーロッパではトマトを100tくらいとるって聞いたことがあるけど、あれは炭酸ガスを1万ppmとかにして炭素をきっちり吸わせているからできるんやと思う。

 前は作物は肥料でつくるものとばかり考えていたけど、必要な肥料なんてほんの微々たるもん。チッソを少しだけやればいい。あとは微生物がいれば、リン酸やカリや他のミネラルだってちゃんと吸われよる。これからは三要素の時代じゃなくて、炭素の時代やな」

 炭素(C)は、アミノ酸(NCHO)などの有機肥料にも含まれているが、根っこから吸収されるより、炭酸ガス(CO2)として葉っぱから取り込む量のほうがはるかに多い、と山本さん。炭素をしっかり取り込んだバラの芽は1日で7cmも伸びるという。また、葉に厚みが出てコンパクトになる。病気にもなりにくいそうだ。

◇     ◇

 山本さんが肥料に使うのは硝安のみで、それも薄い液肥で10aに3kgを2週間流すだけ。炭酸ガス装置だけでなく、肥料代もお話にならないくらい安い。せん定枝や木クズなど捨てるような有機物でも、うまく使えば次第に肥料がいらない土になり、天然の炭酸ガスを豊富に供給してくれる。極めてシンプルなこのやり方に、たしかな手応えを感じている山本さんなのである。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
現代農業 2009年12月号

玄米はうまい/堆肥栽培 稲作編/炭酸ガス施用 最前線/ハサミ・ノコギリ拝見/畜産 光合成細菌/イモ保存術 ほか。 [本を詳しく見る]

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