気温が安定してくる4月下旬に播種をする (イセキの点播式湛水直播機を使用) 除草剤なしの湛水直播、ほぼ見えた
冬期湛水、たっぷりのトロトロ層に播種柴田一義
誰もが否定したけれどじつは自信があった
湛水直播の実践自体は、別に珍しいことではありません。滋賀県下でも普及がかなり進んでおり、私の地元長浜市においても年々その面積は増加傾向にあります。しかし私の場合は、ちょっと話が違います。目指すは無農薬・無化学肥料・冬期湛水で湛水直播を行なうことだからです。
こんなことを農家仲間に言うと、すべての人から「無理、無理…絶対無理!」と言われます。それもわかります。雑草とイネのスタートが同じになる湛水直播は、一般的には除草剤あっての技術と言われているからです。
でもそんな周りの意見も顧みず実行にうつした直接的な理由は、2000枚以上の成苗をつくるためにかかる家族への時間的・体力的な負担があまりに大きくなり、なんとかしたいと思っていたことです。とはいえ以前から無農薬・無化学肥料・冬期湛水の稲作にコツコツと取り組んできた経験から、湛水直播でもある程度できるのではないかという自信もあったからなのです。
冬期湛水+酵素魚粉・酵素おからでトロトロ層のできる田に
私にはかなり大きな影響を受けた先生が二人おられます。一人は不耕起栽培の提唱者である岩澤信夫先生です。
先生の考え方、技術、取り組みに対する並々ならぬ熱意に感動し、直々のご指導のもと私も不耕起栽培に取り組み、天候不順や病害虫に負けないイネづくりの基礎を、いろいろな経験を通して勉強させていただきました。
とくに冬期湛水により微生物の活動を促し、その糞や菌体そのもので田面にクリーム状のトロトロ層をつくることで雑草のタネを埋め込んで眠らせる抑草技術は、今取り組んでいる湛水直播でも欠かせないものになっています。
もう一人は、本誌2009年12月号でも紹介されている山本賢先生です。10年前にお会いして今日に至るまでご指導を受けています。
先生からは微生物による土づくりの大切さ、農作業は元来シンプルであること、肥料は買うものではなく地元にある有機資材を活用すること、肥料の三元素(チッソ・リン酸・カリ)ではなく四元素(水素・酸素・炭素・チッソ)が重要であることなど、本当に多くを学ばせていただいています。
その教えを実現すべく、5年前には農家三人で力を合わせて地元にある有機性廃棄物を農業資材に再生する会社を設立。地元の水産会社、お豆腐屋さんの協力を得て、魚のアラや生おからを酵素を用いて乾燥、酵素魚粉と酵素おからに再生し、それらを田んぼに投入することで土づくりに大きな成果を得られるようになりました(2006年10月号および2007年5月号参照)。こうしてほぼ望んでいた土の状態になった田んぼができてきたのをきっかけに、無農薬湛水直播に挑戦しようと考えるに至ったのです。
よい土の田では成功
まだまだの田では草に負けた無農薬湛水直播には、2008年、2009年と2回取り組みました。どちらも手応えは大いにありました。
1年目は土づくりのもっとも進んだ圃場を選択して30aを二筆行ないました。結果はまさにイメージ通り。イネの出芽後すぐに深水管理をしたので、ヒエ等はまったく問題ありませんでした。いっぽうあとから生えてきたコナギは全面元気に勢ぞろいといった具合でしたが、コナギの生長よりもイネの分けつのほうが早く、イネがコナギに負けることはありませんでした。そして収量は10a当たり450kgとまずまずで、粒が大きく、食味も抜群でした。
そこで2年目の昨年は、全圃場で行ないました。圃場の条件は、ダイズの減反あとを含めてさまざま。その結果、条件による違いがハッキリ現われました。
全体の3分の1程度は、1年目同様に成功と思えるできばえでした。しかし土があまりできていない田、中でも水持ちの悪い田や高低差のある田では全面が草に覆われ、反収210kgくらいしかとれませんでした。
「失敗は成功のもと」といわれるように私にとってこの経験はたいへん大きな収穫であり、問題点を分析し、今年さらなる前進をしようと意欲がわいているところです。
土づくりの強い味方、酵素魚粉の散布作業。酵素魚粉・酵素おから(いずれも1850円/25kg・税込み・送料別)の購入は(有)サン愛ブレンドまで。大口注文にも対応可能(価格応相談) ポイント(1) トロトロ層づくり
秋に酵素魚粉・酵素おから投入 浅耕して冬期湛水に
実践から学んだ技術のポイントは、やはり一にも二にも良い土壌です。トロトロ層が発達した田では雑草の発芽が抑えられ、かつイネの生長は順調なので、たとえ雑草が出てきても負けることなく育ちます。逆にトロトロ層がうまくできない田では雑草の発生が多く、イネの生長もイマイチなので雑草に負けてしまうのです。
そこで土づくりのため、私の場合は五年前から毎年秋のイネ刈り後に酵素魚粉と酵素おからを合わせて10a当たり100kg投入、また抑草のために田植え後にも10a当たり50kgの酵素おからを施用してきました。
そして現在は、秋のイネ刈り後できるだけ早く酵素魚粉100kgと酵素おから50kgを微生物のエサとして入れ、ロータリで表層を浅く(5〜10cm)混ぜてからすぐ冬期湛水に入るようにしています。
できるだけ?田面が出ないよう水を張る
冬期湛水は、冬でも用水に水が来ている一部の田んぼではたっぷり10cmくらい水を張ります。しかし、ほとんどの田んぼは秋から冬場は用水に水がないため、できるだけ雨水や雪解け水が溜まるようにします。水漏れがないようにアゼぬりしたり、排水口をしっかり止めておくことが重要です。
圃場では、湛水状態になることで水が温められるので、酵素おからなどをエサに冬場でも微生物がジワジワと活動して有機物を分解します。またカモやコハクチョウなどの野鳥が休み場として飛来するのを楽しむこともでき、その野鳥の糞やかき混ぜ効果も合わさって水が常に濁った状態になり、この状態が春まで持続します。
そうすると播種するころには微生物により秋のイナワラがきれいに分解され、よい土づくりの目安であるクリーム状のトロトロ層ができあがります。
いっぽう春になっても有機物がかなり残って見える状態の圃場は微生物の数や活動が弱く、さらに土づくりをする必要があるといえます。土づくりは、なかなか一朝一夕にはできません。決して諦めない根気強さが大事です。
また冬期湛水の途中で水が切れ、土が顔を出してしまうと草が生えるので、水を切らさない注意が必要です。もし草が生え始めても、慌てずもう一度水をしっかり張ればヒエなどは大きくなる前に退治できます。ただしイグサなど草の種類によっては、改めて代かきをして土に練り込んでやらなければいけない場合もあります。
湛水直播での土のよしあしとイネ・雑草の生育イメージ よい土の田 まだ土のよくない田 イトミミズなどの微小生物がもともとの田面の上にトロトロ層をつくるため、埋め込まれた雑草のタネは発芽が遅れる。その間にトロトロ層の上に播かれたイネは順調に育って雑草に負けないようになる トロトロ層が薄く、イネとほぼ同時に雑草も発生するため競合関係になる ポイント(2) 雑草に負けない播種
播種前代かきなし、寒すぎず暖かすぎない時期に播く
冬期湛水中の田んぼ。ここは秋にぬかるんでロータリを入れられなかったため、酵素魚粉と酵素おからをまいたら不耕起状態ですぐに冬期湛水に入った。2月の雪解け後にハローで浅く代かきをして早めに土と混ぜ、春を待ってトロトロ層をつくる 次のポイントは、播種する前に代かきをせずにトロトロ層の上に播くということです。冬から春まで5カ月ほどもかけて田面に積み上げられたトロトロ層は、雑草のタネを埋め込んで眠りにつかせている状態です。これを代かきで混ぜてしまうと、そのタネを起こしてしまうことになります。またせっかく微生物がつくりあげた団粒構造を壊すことにもなります。できればトロトロ層そのままの状態を残すことが理想的なのです。
そして播種は、気温が安定してくるころ(こちらでは4月20日〜5月10日)、落水直後に行なうのもポイントです。カルパー被覆した催芽モミを使うため、気温が安定してくれば、イネは雑草よりも先にうまく一斉に芽がきれるからです。ただし暖かくなりすぎると、今度はほかの草の発芽も多くなる心配が出てくるので注意が必要です。
ポイント(3) 深水管理
芽が2cmになったら一気に10cm超の深水に
イネは播種後10〜14日で2cmほどの芽になりますが、それまでの期間は水を切った状態にします。水が上に溜まった状態が続くと発芽してこないことがありますので、やはりここでも良い土(保水性がよく、かつ水切れがいい)が重要です。
約2週間も田面が出ているので、このころには雑草の芽も出始めています。しかしここが我慢のしどころ。全体の出芽を確認後、すぐに10〜15cmの深水管理に入ればまたトロトロ層は復活し、ヒエなどは問題なく抑えられるのです。
このときイネも完全に水没しますが、直播では根が芽よりも先に伸びてしっかり張るので、酸欠で消えてしまうことはありません。すぐに水面まで伸びてきてちゃんと育ちます。
あとは6月下旬まで深水を続け、一度田面を固めるために中干しした後に間断かん水にして収穫までいきます。草が気になれば草を抑える意味で酵素おからをまいたり、イネの様子を見て追肥のために酵素魚粉や酵素おからをやる場合もありますが、基本的に冬期湛水でトロトロ層がちゃんとできた圃場は、微生物によるチッソ固定により、秋の酵素魚粉と酵素おからだけで収穫まで生育の勢いが落ちることなくいけることがほとんどです。
このように無農薬・無化学肥料・冬期湛水・湛水直播は、苗づくりはもちろん、代かきなどのトラクタ作業や肥料散布においても大幅な省力化をもたらすだけでなく、微生物を中心とした環境にも人にも優しい自然循環型の農業になると思います。
ザックリ一言で言うと「良い土にタネを播いて水管理をしっかりする」という、ごくシンプルで簡単なことのように思えます。ところが同じように作業しても、田んぼによっていろいろな違いが出てくるので心配・疑問や発見・感動やらとドラマがあります。これがまた百姓としてたまらなく楽しいのです。まだまだ試行錯誤の段階ですが、これからも積極的に挑戦し、みなさまの知恵をお借りしながら安定した技術に近づけるように今後も頑張りたいと思います。
無農薬・無肥料・冬期湛水・直播、最終的には不耕起も目指して! はたして今後はどんなドラマが待っているのか…今年も楽しみです。
これを機会に「無農薬・無化学肥料・湛水直播に挑戦しよう」という方やグループは、ぜひご一報ください。全国の方々とネットワークを組み、ひとつひとつ問題を解決してみんなで前進していきたいと思っています。
(滋賀県長浜市湖北町 シバタプラセールファーム)
この記事の掲載号『現代農業 2010年4月号』こんなに効くぞ乳酸菌/有機物が乳酸菌で変身/乳酸菌でおいしい健康/手間・カネいらずの育苗法/土壌診断で堆肥栽培/果樹の受粉/牛の雌雄産み分け/竹粉砕機/直売所農法/出かける直売所 ほか。 [本を詳しく見る]
『無農薬・有機のイネつくり』稲葉 光國 著 NPO法人民間稲作研究所 責任監修 基本を守れば労力・経費をかけず、安全でおいしい米が安定多収できる。そのポイント(1)田植え30日前からの湛水と深水、(2)4.5葉以上の成苗を移植、(3)米ヌカ発酵肥料(ボカシ肥)の利用、を中心に抑草と栽培方法を [本を詳しく見る]
『イネの有機栽培』鈴木武 著 林田雅夫 著 須飼剛朗 著 有機栽培のポイントでもある除草法では深水管理,コナギ退治の二回代かき法,米ヌカ施用によるトロトロ層の活用,田の草の種類と特性を知り,アゾラなど浮き草を生かす除草などこの間の各地実践家による除草剤に頼らない方法を網羅。 このほか種籾の温湯処理法,プール育苗,自家簡単交配法,多品種混植栽培も収録。 [本を詳しく見る]