月刊 現代農業2012年2月号 「記憶の味」が楽しめる伝統野菜直売所
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伝統野菜直売所で甘いと人気の
米良ダイコン(上)と温海カブ
伝統野菜直売所で甘いと人気の
ダイコン(上)とあつカブ
筆者。伝統野菜直売所「記憶の味館・いずみ」で販売している伝統野菜は現在20品種くらい。持っているタネは50種類くらいある
筆者。伝統野菜直売所「おくあじやかた・いずみ」で販売している伝統野菜は現在20品種くらい。持っているタネは50種類くらいある

いま「昔の品種」の味に惹かれる

「記憶の味」が楽しめる伝統野菜直売所

大分・仲村英一

米良ダイコンとの出会い

 私が伝統野菜と出会ったのは、15年くらい前の12月だったと思われる。宮崎県の西にし村に行った時、薄緑の葉で葉柄に赤い線の入ったダイコン葉が畑にならんでいるのを見た。これまでに見たことのない光景にビックリして畑の持ち主を探し出し、話を聞くと、「西米良村では昔、水稲のできる田んぼがほとんどなく、このダイコンを千切りダイコンに加工して隣の熊本県でお米と交換して生活していた」と話してくれた。

 長い期間、自家採種しながら「米良大根」の名で各農家が種子を保存してきたとのこと。残りダネがあれば少し分けてもらえないかとお願いして、手に入れることができた。タネとともに栽培中のダイコン2本も引き抜いて渡してもらえたのもありがたいことだった。

 さっそく食べてみると、甘味があり、歯切れがよく、煮崩れもなく、これまで食べていた市販のダイコンとは異なる食感にビックリ。翌年、播種・栽培してみると、白い肌に赤い線のあるもの・赤い肌のもの・その中間のもの……などいろいろできて、固定していないタネだったようだが、味は別格だった。

 以来、私は「昔の品種」に注目するようになった。

地方野菜のタネを収集

 当時の私は大分県職員であり、野菜の試験研究機関に配属になった際、タキイ種苗発行の月刊誌「園芸新知識」の連載「地方野菜をたずねて」が第1号(平成8年1月号)から残されているのに出会えたのが幸いであった(編注、この連載は現在、農文協刊「地方野菜大全」として一冊にまとめられている)。各県に残されている地方野菜を知るきっかけとなり、またタネの販売先も一部ではあるが紹介されていたので、この時点で入手できる品種をできるだけ多く手に入れた。

 平成6年に退職したのを機に、伝統野菜を栽培しながら大分県に適した作型を探ってみることにした。長野県や山形県・福井県など、東北や北陸に多く残されているカブやダイコンには、春どりや焼き畑栽培などでその品種特性が現れるものもある。また播種時期が今でもわからないものもある。中には前述の米良ダイコンのように、植えてみると3〜4系統に分かれるようなバラツキの多い品種もあり、選抜育種していく必要もあった。

「伝統野菜のための直売所」を作る

 その後、生産した伝統野菜の市場評価をしてもらうため、近くにある直売所に持ち込んで販売委託してみたのだが、売れ残りが多い。他の農家が持ち込んでいる野菜は見た目も揃いもいいわけで、私の品物はそれらに比べると貧弱である。「見た目は悪くても味は絶品」と思うが、消費者の評価は得られない。販売している店の人が伝統野菜をまったく知らず、説明ができないのである。

 そこで、近くに住んでいる同級生を誘い、伝統野菜の直売を始めることにした。店名は「おくあじやかた・いずみ」。伝統野菜を旬に出荷してその味を楽しんでもらうため、育苗以外は施設栽培を行なわないことにした。伝統野菜だけでは年間通じての青物販売が難しいので、果樹や一般野菜も取り扱ってはいるが、伝統野菜には品種名・種子産地・品種の特徴等を書いたパンフレットをつけ、一般野菜と見分けがつくようにしている。お客さんにはできるだけ説明するようにし、品物によっては試食品も出している。

 記憶の味館で人気のある伝統野菜のいくつかを紹介する。

甘みが強く一度食べたらハマる
コクセンコウオオナガニンジン

 これは群馬県前橋市に伝わる品種で、根がゴボウのように長く60cmくらいになる。ニンジン特有の香りがあり、生で食べるサラダや油炒めにすると、ほかのニンジンにはない甘みと風味が出る。きんぴらや煮付けにも適しており、ニンジンがあまり好きでない子供さんも喜んで食べるので、一度食べるとまた買いに来るお客さんが多い。

 根が長いので畑は土層の深い赤土が適している。株間は15〜20cmほしいので畑の面積は要する。7〜8月に播種し、11月から翌年抽台の始まる4月まで出荷できる。

国分鮮紅大長ニンジン。これは早掘りしたので長さが30cmくらいだが、ふつうは60cmくらいになる。大正の初めにフランスからタネが入り、長い間群馬県で採種されてきた
国分鮮紅大長ニンジン。これは早掘りしたので長さが30cmくらいだが、ふつうは60cmくらいになる。大正の初めにフランスからタネが入り、長い間群馬県で採種されてきた

最高の焼きナスができる
熊本長ナス(赤ナス)

 九州には長ナスが多いが、大正時代の終わりに宮崎県西都市穂北地区の農家が栽培していたナス(佐土原ナス)が各地に広まったとされている。良品質であったために熊本県では昭和5〜6年に取り入れられ、熊本長ナスとして採種が始まった。昭和13年頃は県内の栽培面積の80%がこの品種だったようである。

 とくに夏の暑い時期は果皮が赤くなるため、黒光りするような現代のナスに比べると見劣りするが、果肉がやわらかく種子も少なく弾力性に富んでいる。油との相性がいいので油炒めや焼きナスにすると美味しい。「タネが少ないので焼きナスにすると食感が抜群にいい」というお客さんもいる。

 熊本県ではハウス栽培と露地栽培で年間通して栽培しているが、当直売所は露地栽培のため、7〜10月だけ取り扱っている。

歯ごたえがとてもよい
あまべにキュウリ

 大分県別府市あまで栽培されているキュウリ。この地ではコンニャクの間作として昭和以前から地這い栽培法がとられていた。九州は台風が多いため支柱栽培が少なかったと思われる。

 このキュウリは未熟の青い果実の間は渋みがあっておいしくないが、果皮が赤く色づくと渋みも抜けてくる。天間の栽培者に聞くと、地這い栽培でも収穫期近くなると赤い果実となるので見つけやすいとのこと。

 特徴は肉質がしまっていて歯応えがとてもよいこと。酢のものにして2〜3日たってもその食感は変わらない。生はもちろん、浅漬けやニンニク醤油に一晩漬けるのもおすすめである。

中央の真っ赤な丸いのが岩国赤ダイコン
中央の真っ赤な丸いのが岩国赤ダイコン
栽培中の岩国赤ダイコン。葉柄、葉脈もきれいな赤
栽培中の岩国赤ダイコン。葉柄、葉脈もきれいな赤

こんなキレイな紅白はない
岩国赤ダイコン

 岩国赤ダイコンは、山口県岩国市の岩本さんという方が日清戦争の際、中国ダイコンの中で表皮の赤いダイコンを数種類持ち帰ったのが始まりとされている。真ん丸とした根の表面は鮮やかな紅色だが果肉の中は真っ白。戦後貧しい時代にはこの紅白を生かしてかまぼこの代用品にされたことがある。

 播種後75日以後に収穫する晩生種で、低温に遭うと辛味が減少し、甘味が強く柔らかみも増し、独特の味が出る。肉質が柔らかいので、ダイコンおろしや千切り、酢漬け等生食用の料理に適している。ただ晩生のため、あまり早播きすると暖冬の年は12月中旬より抽台する場合がある。

旺盛な生命力で病みつきになる味
のらぼう菜

 東京都あきる野市で栽培されてきた。本種は洋種のナタネ系統で、タネが油の原料になるとして江戸時代初期から各地でつくられてきた。葉や蕾はおひたしに利用されてきた。

 9月上旬に播種し、本葉5〜6枚で定植する。越冬させると春に花茎が伸びてくるので、それを摘み取って食用とする。花茎は折っても折っても次々わき芽を出す。旺盛な生命力をもっている。

 以前は、おひたしやごま和えにして食べるのがほとんどだったが、最近はバター炒め、マヨネーズかけ、スープや漬物に向いていることもわかった。甘いので一度食べると病みつきになる。

 あきる野市にあるやす神社境内の「野良坊菜の碑」には、明和4年幕府代官がこのタネを配り、天明天保の大飢饉から住民を救ったと記されている。

じゃーん!70cm以上。食用カボチャとしては日本一長いといわれる大鶴首カボチャ
じゃーん!70cm以上。食用カボチャとしては日本一長いといわれる大鶴首カボチャ

日本一長〜い
大鶴首カボチャ

 戦後の食糧難時代に各地のさまざまな品種を育種して世に功績を残した熊沢三郎先生の文献によると「この品種は福岡県小郡地方で栽培されていた晩生の大果種」とある。これが地元大分県宇佐市に持ち込まれ、自家採種で受け継がれてきたようだ。

 果実の長さは70cmを超え、重さは4〜5kg。食用カボチャでは日本一長い品種と思われる。先太りした果実の部分にしかタネができないので手軽に料理することができる。肉質は粉質で甘みがあり、洋種カボチャに劣らぬ食味を持っている。煮物や焼きカボチャ、スープにして食べると美味。

 晩生種で短日条件にならないと花がつきにくい性質を持っている。

(大分県大分市)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2012年2月号
この記事の掲載号
現代農業 2012年2月号

特集:2012品種特集 イモ品種大全
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地域食材大百科2 野菜 地域食材大百科2 野菜』農文協 著

91種の野菜をとりあげ,巻末には『各地の地場・伝統食材』として222を収録。各地の野菜研究,調理研究者137人による記述は,原産・来歴からおすすめの一品まで歴史,季節・地域さらに実用性もかねた内容。たとえばツケナ類なら,調理は和え物,おひたしが代表で,加工品では漬物が一般だが,その種類は多く,地域名を冠したものなら,仙台芭蕉菜,大山そだち,勝山水菜,鳴沢菜,大野菜,野沢菜,羽広菜,大阪白菜,大和まな,広島菜,三池高菜,雲仙こぶ高菜,阿蘇高菜,水前寺菜,久住高菜など。 [本を詳しく見る]

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