ミニヤギの赤ちゃん(写真提供:ルーラルカプリ農場) かわい草取り名人 ヤギ&ヒツジ
ヤギブーム到来!
腰麻痺に強い品種改良が進んでいる鹿児島・萬田正治
ヤギの人気、高まる
いま、ヤギが見直されている。農水省の統計からも外されているためヤギの全国の飼育頭数は不明であるが、最近、ヤギの飼育者が増え頭数も徐々に増加していることは間違いない。
2011年10月、沖縄で「第13回山羊サミット」が開催された。会場はヤギを愛する様々な分野の人でにぎわい熱気に包まれており、ヤギの人気が高まっていることを実感できた。
また、東日本大震災後、食と農への関心が高まり、若い夫婦などの農村への回帰が始まっている。その中には自給用家畜としてヤギを飼い始める人もいる。さらに、被災地の子どもたちを元気づけるために、はるばる沖縄から宮城県南三陸町の小学校にヌビアン種の子ヤギ2頭が贈られた。子どもたちの間で大人気になり、微笑ましく明るいニュースとして報道された。
ヤギの魅力として、人なつっこく愛らしい、小型なので子ども・女性・お年寄りでも飼える、乳は母乳に近く消化がよい、肉もヘルシー、雑草をよく食べ草刈りに利用できる、子どもたちの教育効果が高いなどが挙げられる。
世界的にみてもヤギは増加の傾向にあり、FAO(国連食糧農業機関)では21世紀の世界的な食料不足に備えてヤギやヒツジのような中小家畜を見直している。
自給生活を求めて都会から筆者宅近くに引っ越した家族。念願のヤギを迎えて子どもたちも大喜び ザーネン種は「腰麻痺」に弱い
これからもヤギに魅せられ飼う人が増えることを望んでいるが、ヤギ飼育にあたっては留意しなければならない点もいくつかある。その一つは腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)という疾病。これは牛に寄生する糸状虫の子虫が、蚊の媒介でヤギに寄生し、脳脊髄に侵入してその組織を破壊するため、後躯が麻痺し、歩行困難、起立不能となる厄介なヤギの大敵である。梅雨〜夏の高温多湿時期に蚊が多発する日本では、この疾病がネックでヤギ飼育が伸び悩んだといっても過言ではない。
古くから南西諸島で飼われてきた肉用の日本在来種(トカラヤギ、シバヤギ)は腰麻痺に強いが、明治時代以降に輸入されたスイス原産の乳用ザーネン種は腰麻痺に極めて弱かった。とりわけ沖縄・奄美や九州地方などの西南暖地では、ザーネン種は腰麻痺で倒れ、普及しなかった歴史的事実もある。
ちなみに明治時代の同時期に導入された乳用のアルパイン種やトッケンブルグ種もザーネン種と同じく欧州品種であり、腰麻痺には弱い。
腰麻痺に強い「ヌビアン」交雑種
今後、日本で乳用のヤギが定着するためには腰麻痺に強い新品種を育種改良することが大切であると考えている。
そこで私は腰麻痺抵抗因子を有するアフリカ原産の乳用のヌビアン種に注目した。これを日本ザーネン種に交配し、新品種に改良するための研究に鹿児島大学在職時代から取り組んだ。
その後沖縄県でもニュージーランドから乳用のヌビアン種が導入され、日本ザーネン種等との交雑も進み、毎年開催されるヤギ品評会でも大型のヌビアン交雑種が人気を博し主流になってきている。
ヌビアン種は乳脂率が高く、腰麻痺にも強く、暖地向きである。鹿児島大学で飼育されるヌビアン種とその交雑種からは腰麻痺は発症せず、すでに腰麻痺に強いことは実証されつつある。
退職後私は農業を始めたが、ヌビアン種と日本ザーネン種のF1(オス)を購入・飼育し、周辺地域の乳用ヤギ(メス)たちとの交配を図り、南九州地域に適した乳用品種の改良に取り組み始めている。新品種として確立すれば、その名は「薩摩ヤギ」にしたいと考えている。
腰麻痺に強いヤギ品種 ヌビアン種(オス)
アフリカ東部、ヌビア地方原産の乳用種。体重は50〜90kg(ザーネン種と同じくらい)。南北アフリカ、ヨーロッパ各地で広く飼育される。毛の色は栗毛、白、灰、黒など多種あり、頭は頭額が突出し、長く大きな垂れた耳が特徴(写真提供:中西良孝、以下※も)ボーア種(オス)
南アフリカ原産の肉用種。有角がほとんどで、鼻面は凸隆し、耳が長く垂れている。体重は90〜130kgと大きい(※)トカラヤギ(オス)
鹿児島県トカラ列島原産の肉用種。体重は20〜35kgと小柄(※)ボーア種、シバヤギ、トカラヤギも強い
萬田農園で飼育している竹子丸(オス)。ヌビアン種と日本ザーネン種との交雑種。垂れた耳にヌビアンの特徴が出ている これからの肉用品種としてはボーア種が注目できる。南アフリカ原産で肉用ヤギの中で最も発育が優れている。性成熟が早く、周年繁殖化することにより2年3産が可能である上、双子率も高いのが特徴。沖縄県ではすでに導入され、交雑種が徐々に広がっている。
肉用・愛玩・伴侶用としては、小型ではあるが、日本在来種のトカラヤギやシバヤギをおすすめしたい。双子率も高く周年繁殖も可能で多産系。古くから日本列島に順化したヤギであり、腰麻痺にも強くその愛らしさを含め誠に手放し難い品種である。
また肉用で小型の韓国在来種の黒ヤギは、強健で繁殖率も高く、腰麻痺抵抗性を具備している。韓国では体力増強・薬膳食品として重宝がられている。
(鹿児島大学名誉教授)
ヤギの品種についての問い合わせ先
●鹿児島大学農学部 中西良孝教授
ヌビアン種、トカラヤギ、黒ヤギを飼育●沖縄県畜産研究センター 飼養環境班
ボーア種を飼育。今のところ県外へは出していない●鹿児島県十島村役場 経済課
村内でトカラヤギが繁殖。鹿児島市南埠頭まで来られる方のみ入手の相談に対応ヤギ好き集まれ!全国山羊ネットワーク
(ホームページ http://www5.synapse.ne.jp/japangoat/)
ヤギをこよなく愛する人が集まり、日本におけるヤギ振興を図ることを目的とした団体。全国に会員がいる。ヤギ好きなら誰でも入会可能。
この記事の掲載号『現代農業 2012年2月号』特集:2012品種特集 イモ品種大全
本気で直売 野菜品種・果樹品種/黄色いリンゴと緑のブドウ/いま「昔の品種」/台風・長雨・ゲリラ豪雨で見えた品種力/日持ちする花品種/麦と米「業務加工」を拓く/鳥獣が食べない品目/「絶品加工品」に、この品種/機能性品種/草取り名人ヤギ&ヒツジ ほか。 [本を詳しく見る]『新特産シリーズ ヤギ』農文協 著 91種の野菜をとりあげ,巻末には『各地の地場・伝統食材』として222を収録。各地の野菜研究,調理研究者137人による記述は,原産・来歴からおすすめの一品まで歴史,季節・地域さらに実用性もかねた内容。たとえばツケナ類なら,調理は和え物,おひたしが代表で,加工品では漬物が一般だが,その種類は多く,地域名を冠したものなら,仙台芭蕉菜,大山そだち,勝山水菜,鳴沢菜,大野菜,野沢菜,羽広菜,大阪白菜,大和まな,広島菜,三池高菜,雲仙こぶ高菜,阿蘇高菜,水前寺菜,久住高菜など。 [本を詳しく見る]
『ヤギの絵本』萬田正治 編 飯野和好 絵 好奇心旺盛なヤギは子供がとても好き。小屋がけ、餌やり、種付け、出産、乳搾り、食べ方など。 [本を詳しく見る]
『ヒツジの絵本』武藤浩史 編 スズキコージ 絵 草を食べて乳・肉・毛・皮を生産し人間の衣食住すべてをまかなうヒツジ。飼育・種付け・分娩から毛刈り・フェルト作りを解説。 [本を詳しく見る]