月刊 現代農業2015年3月号 アフリカの稲作革命から思う 土と水と平和
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アフリカの稲作革命から思う土と水と平和

若月利之

若月利之(わかつきとしゆき)
わかつき としゆき
1947年、新潟県生まれ。島根大学名誉教授。1981年オランダ留学中にケニアの土壌と農業調査で東アフリカ初体験。1986年から西アフリカに転じ、以降29年間、アフリカの水田技術の開発に携わり実証活動を継続中。ホームページ

 私は1986年から3年間、JICA(国際協力機構)の専門家として、ナイジェリアの国際熱帯農業研究所等に派遣され、西・中部アフリカ全域の稲作地帯の土壌と水、そして稲作システムを、四輪駆動車で5万kmを走破しながら調査した。また、ナイジェリア中部のビダ市付近のニジェール川低湿地で、農民が自力でできるかんがい水田開発と水田稲作を試行した。これにより「水田はアフリカを救う」ことを確信した。以後29年、歩みは遅々としているが、アフリカ訪問回数は70回となり、積算滞在年数は8年を超えた。

 アフリカの稲作革命は、(1)イギリス産業革命の前段である16〜18世紀の農業革命の基盤を形成したエンクロージャー(農地囲い込み)、(2)1960〜70年代のアジアの緑の革命の三要素技術(高収量品種・かんがい排水・肥料農薬)、(3)2000年代から始まるアジアの農業機械化、の3つの革新が1体となって2005年頃から動き始めた。我々が推進しているアフリカ水田農法(アフリカ特有の低湿地に、耕耘機を使い、農民が自力で新規水田開発をしながら同時に水田稲作を実施する技術で、現地では「水田サワ(Sawah)技術」と呼んでいる。Sawahはインドネシア語で水田を意味する言葉である)は、上記3つの要素を融合した技術であり、ナイジェリアとガーナの稲作農民と技術者によって現場で試行錯誤を重ねながら進化してきた。

 ナイジェリア北西部にあるケビ州での稲作革命は、2011年に農民と普及員にアフリカ水田農法を訓練したところ、2台の耕耘機で20haの水田を開発し、平均モミ収量7.6t/haを達成した。その後、農民は自費でさらに22台の耕耘機を購入し、326haでアフリカ水田農法に取り組み、2100tのモミ生産(平均収量6.4t/ha)を実現するまでになった。これを受けて、ケビ州は2015年2月から、1000台の耕耘機で1万ha規模まで拡大する計画を開始する。

 

 欧米等の畑作文化圏の研究者や農業者は土壌団粒を重視する。しかし、「畔で囲んで、ていねいに均平化して、水を入れて代掻きする水田の機能」が団粒機能を遥かに上回ることは、水田稲作文化のない欧米等では理解できない。日本でも当初「水田帝国主義」との批判や、アフリカで1般的な非水田稲作を陸稲と勘違いしての「陸稲重視」「ネリカ米の過剰宣伝」等、種々の誤解と勘違いがあり、アフリカの稲作振興戦略は迷走してきた。しかし、2008年以降、農水省やアフリカ稲作センターと連携して始めた「水田サワ(Sawah)プロジェクト」により、アフリカの稲作における水田システムの重要性がようやくアフリカでも理解されるようになりつつある。

 近年、サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)最大の稲作国となったナイジェリアでは、2010年以降、年間モミ生産量が470万t(260万ha、1・8t/ha)となった。30年前のモミ生産量は130万t程度だったので、この間3倍以上に急増した。しかし、この増産の大部分は粗放な稲作面積の拡大によるものである。現在の生産量もその潜在能力である2000万t(500万ha、4t/ha)の4分の1にすぎない。この間、人口と1人当たりの米消費量が各々3倍に増えたので自給率は50%と低下し、米は生産すればいくらでも売れる状態にある。しかし、ナイジェリアの数百万の小農の大部分は、他のサブサハラアフリカ諸国と同様に、日本の弥生初期の非水田や小区画水田と同様の「原初的な水田稲作」が多く、鍬1本にたよる稲作のため、その生産性は極めて低い。

 過去500年の欧米のグローバリゼーションを修正する、アジア・アフリカ新時代(植民地独立)の幕開けに貢献した日本は、現在停滞状態にある。日本は1993年以来、東京アフリカ会議(TICAD)を主催してきたが、過去500年の原罪を負う欧米のODAを単に補完する、戦略なき従属的なODAになったが故に、最近の中国によるアフリカ開発支援に比べ、存在感を失いつつある。

 40年前の緑の革命の実現により産業基盤を形成したアジアは、現在世界の経済成長の中心となったが、農業の衰退化も始まり、近未来の食料危機が危惧される。一方、広大な未開拓の低湿地を有するアフリカで緑の革命(稲作革命)が実現すれば、この地は将来の地球社会の食料基地になり得る。アジア後を展望すれば、未来の地球社会の希望ともなる。全体で5000万ha規模のかんがい水田ポテンシャルが推定され、最大2億t、10億人分の食料増産が期待できる。

 アジア諸国や日本では、水田基盤は農民たちが1000年という歴史的時間をかけて整備してきた。この基盤の上に高収量品種、かんがい排水、肥料農薬等のような科学技術の適用が可能になった(このことはあまり認識されていない)。アフリカでは、500年前に始まる欧米の奴隷貿易や植民地支配により、このような国土基盤や科学技術の適用基盤の形成が妨げられたのではないかと思われる。現在の世界的なテロ戦争の背景と同根と思われる。

 今年は国際土壌年である。水と土と養分が集まる低湿地(集水域)で適地に水田を開発し、適期に適切に管理をすれば、腐植に富む肥沃な表土の堆積や、代かきをして多種類の微生物が活動することによる水田自身の養分供給力が強化され、畑作地の10倍以上の持続可能な生産性をもたらす。この稲作革命が実現した暁には、中長期的には集水域低地の水田の集約的な持続性の高さを背景にして周囲に森林を再生させ、アフリカ型里山創造も可能になる。広大なアフリカはこれにより地球温暖化防止や生物多様性保全にも寄与できる。

 

 日本農業は、世界を植民地化した欧米型のグローバリゼーションではなく、日本型グローバリゼーションにより世界に貢献できる。アフリカ水田農法(「水田(Sawah)技術」)等をさらに進化させながら、中国やインドやインドネシア等のアジア諸国と協力しながら、サブサハラアフリカの1千万の農民に普及させることは重要な貢献になる。これによりガーナ50万ha、ナイジェリア500万ha、サブサハラアフリカ5000万haの水田稲作を実現し、アジアで1000年を要した水田開発(国土基盤と科学技術の適用基盤作り)を数十年以内に短縮させ、地球社会の持続可能な食料を確保し、世界平和を構築していける。

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現代農業 2015年3月号
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現代農業 2015年3月号

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