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「TPP このまま批准させてはいけない」コーナーより

TPP協定案全文から読み取れる恐るべき暴力性

内田聖子

「大筋合意」後、TPP(環太平洋経済連携協定)の協定文が公表されてから約2カ月がたつ(1月9日現在)。

 英語原文では5000ページ以上ある協定文。日本政府は1月7日時点で、ようやく本文にあたる部分だけの日本語訳文を公表した。付属書全体や二国間交換文書は全文和訳で公開されていないため、まだまだTPPの全体像をつかむことは難しい。

TPP英文テキスト原文を読み説くチームを結成

 昨年12月、政府は「対策」の補正予算を通し、「TPPによる経済効果は13兆円」と魔法のような数字を出した。自国民に十分な情報を提示しないまま、しかも協定に署名もされていない状況の中、このような動きをとる国もまた特殊(=異常)である。

 さて、特殊で異常な政府を持つ国の私たちは何をすればいいのか。私たちは11月以降、英文テキストを原文で読み解き、日本や他国の市民にとっての危機を指摘する分析チームを立ち上げた。膨大な英文との格闘は生易しいものではなく、また協定文そのものは、直截的に「大企業のためのTPPです」と書かれているわけではない。細かい文言の一つ一つや、行間から読み解いていくしかない。

変わり続ける協定の中身

◆関税ゼロに向かっていく

 TPP協定文全体の問題を一言でいえば、政府やマスメディアが多用する「生きた協定(living agreement)」「進化する協定」という言葉に尽きる。私はそれを「自由化に向けてのエンドレスゲーム」と名付ける。TPP協定それ自体が「発効後3年以内に見直される」ことになっているほか、国有企業や政府調達、農産品関税など「再交渉・再協議」があらかじめ決められている分野もある。相手国からの要請により関税撤廃繰り上げなども検討しなければならない。

 アトランタでの大筋合意は、いってみれば「中締め」のようなものだったのではないだろうか。問題は、「進化する」という時の方向が「関税ゼロ、非関税障壁の撤廃」という、そもそものTPPの目的に向かっての一方向であることだ。一部の留保を除いて後戻り(規制の強化や新たな関税創設、関税引き上げ)は許されない。

TPP協定は自由化に向けて進化(暴走?)し続ける
各国の法律や政策などはTPPに合致しているか常にチェックされる
各国の法律や政策などがTPPにそぐわない場合は変更させられる。たとえば学校給食に地場産野菜を使うという条例があっても、食品輸出企業にとって非関税障壁とされれば、条例を見直さなければいけない
アメリカ政府がカナダの企業に提訴された
石油パイプラインの建設を拒否したアメリカ政府に対して、トランスカナダ社が提訴した

◆金融危機に陥っても国は対策を打てなくなる

 ルール分野全体を見渡してみて、やはり危険だと感じるのは、投資、金融、知財などの分野だ。これらでは徹底した大企業や投資家に有利なルールづくりが巧みに埋め込まれている。例えば投資では、各国政府は進出企業にローカルコンテンツ要求(地元から雇用や物品、サービスを調達するよう求めること)をしてはならない。

 金融では、2008年のリーマンショック後に各国が積極的に導入してきたマクロプルーデンシャル政策(金融危機に陥った際に、消費者や国民生活を守るために政府が行なう金融安定化対策)を事実上萎縮させるような条項が置かれている。各国政府が行なっている金融安定化政策は、投資家や金融機関にとっては「過剰な規制」となる。結果的にTPPでは「人びとの暮らしよりも、投資家・金融機関の自由」が優先されたのだ。これによって過剰な投機や金融危機が引き起こされる危険が高まるという分析もある。

◆なぜ? 著作権問題は米国要求を丸のみ

 さらに「知財」の著作権問題である。TPP協定文では米国要求の多くが丸ごと採用されている。いわば「知財のアメリカ化」である。特に問題なのは、(1)著作権保護期間70年、(2)非親告罪化導入、(3)法定損害賠償金制度の採用である。(1)と(2)は、これまでもネット社会を中心に懸念されてきたが、日本はもともと保護期間50年、非親告罪化は反対の立場だと政府も説明してきた。

 それがなぜ(1)(2)とも米国の要求をのんだのか? 非親告罪化については「商業的規模の海賊版」「原作の市場での収益性に大きな影響がある場合」に限ると政府は説明しているが懸念はぬぐえない。法定損害賠償金制度とは、米国流の「懲罰的賠償金」という意味合いが強いもので、実損害の証明がなくても裁判所が懲罰的な賠償金を決められる。米国では1作品につき15万ドル(約1800万円)が賠償金の上限と、驚くべき金額の訴訟が頻発している。

 こうした厳しい管理・賠償制度のせいで、ITやキャラクタービジネスなどの新規事業が萎縮してしまい、結果的にIT・コンテンツビジネスが発展しないという批判が、他ならぬ米国国内でもあるほどだ。

規制の統一化の危険性

◆法律や政策はTPP合致が条件

 また「規制の整合性」章では、各国内の法律や政策が、TPPに合致しているかどうかが常にチェックされ、問題だとされれば変更を求める圧力にさらされていく。いったん発効するや否や、監視と変更圧力が始まるわけだ。日本国内の規制改革推進者こそがそれを喜んで受け入れ、実行を急ぐだろう(私はこうした部分が日本にとってもっとも危険だと思っている)。

◆FTAの主目的は「規制の調和」だった

 もともとTPPの目的及び本質は、関税撤廃の交渉ではなく、ルール部分をいかに統一化していくかというものだ。貿易交渉の専門用語でいえば、「behind the border issue」。つまり各国間での「国内規制の調和」をいかに進めるか、ということである。すでに多くのFTA(自由貿易協定)において、関税を100%近くまで削減している米国や、域内関税を撤廃しているEUは、「関税は大きな貿易障壁ではない」ことを明確に認識しており、消費者安全・環境保護等の観点からのSPS(衛生植物検疫)、TBT(貿易の技術的障害)関連の基準認証政策、知的財産権保護制度、政府調達規定、競争政策、投資、環境、労働規制といった各国間の相違こそが、「乗り越えるべき真の障壁だ」との強い認識を持っている。

 こうした背景から、最近のメガFTAには「規制の整合」あるいは「規制協力」といった章や項目が設けられてきたのである。各国の産業界からも強い後押しがある。特に、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、WHO(世界保健機関)及びFAO(食料農業機構)傘下のコーデックス委員会などで策定される各種国際標準の主導権争いが、FTA交渉における基準認証関連の国内規制の調和作業に大きな影響を与えるようになっている。

◆エンドレス規制緩和の危険性

 米国政府はこれまで、貿易障壁報告書等で米国の主要貿易相手国における貿易障壁を指摘し、その改善を官民一体となって要望してきた。しかし、各国の国内規制について口出しをすることは困難を伴い、かける労力(コスト)が明確な成果(ベネフィット)として現われないというもどかしさを抱えてきた。そこで近年は、米国にとって問題のある規制の改正・撤廃は引き続き要望するものの、今後新たに策定される(ないし改正されようとしている)規制の「策定・改正プロセス」そのものを各国共通化させるという手法の採用に重点を移しはじめている。

 要するに、一度つくられた各国の規制を統一化していくことは難しいので、「規制をつくる」段階から統一していこうというルールなのだ。

 実際、TPP「規制の整合性」章では、各国における規制策定・改正プロセスに外国の利害関係者の意見を的確に取り込む方策の導入などが規定されており、前述の「エンドレスゲームとしてのTPP」とも重ねれば、今後TPPそのものが変化していくことと同時に、国内の法改正や規制緩和が、TPP参加国の政府・利害関係者の「参加」によって進められる危険性が高い。どのような方向にそれが進むのかは自明の理である。

企業が国を訴えるISDS条項

◆「濫訴防止策」は極めて脆弱

 最後に懸念の声が日本でも強いISDS条項の問題にふれる。TPP協定文では「投資」章にISDS条項が含まれるが、その中身自体は過去の貿易協定とさほど変わらず、むしろ濫訴防止策(むやみに訴訟を起こすことを防止する策)などがいくつか盛り込まれている。しかし「濫訴防止」の中身とは、「すべての事案の判断内容等を原則として公開することを義務付ける」「申し立て期間を一定の期間に制限する」などで、実質的な濫訴防止につながるとは思えない。

 過去のISDS紛争のケースを見てもわかるとおり、企業や投資家側は自らが不利益を被ったと思えば、どのような条件もクリアして紛争を起こしてきたからだ。仲裁人の選定などはこれまでの協定と変わらず、企業寄りの国際弁護士が選ばれることもあり中立性にも問題があろう。

◆新年早々に米国がカナダ企業に訴えられた

 TPPにおけるISDS条項については、米国こそが議論噴出だった。その火に油を注ぐようなニュースが新年早々飛び込んできた。

 1月6日、カナダのトランスカナダ社は、オバマ大統領が「キーストーンXLパイプライン」の建設を拒否したのは大統領権限の越権行為だとして、NAFTA(北米自由貿易協定)のもと150億ドル(約1兆7000億円)の賠償請求をした。もちろんこの訴訟はNAFTAにおけるISDS条項を使ったもの。

 オバマ政権は、カナダから米テキサス州に原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設を認めると、石油消費が増え気候変動に悪影響があると判断し、昨年11月に申請を却下していた。そしてTPPが発効すればISDS条項によって、米国政府が日本や豪州など先進国の多国籍企業・投資家から訴えられる危険性が高まるとの懸念が米国内では強かった。数日後に議会演説でTPP批准を強く訴えたいオバマ大統領にとって、年明け早々に米国が訴えられるとは、まさかの大打撃だろう。

◆企業に社会正義は通用しない

 これは決して「対岸の火事」ではない。11月のオバマ大統領のパイプライン計画申請却下はパリでのCOPに向けてのアピールとはいえ、「気候変動に悪影響がある」との判断で基本的に正しいといえる。しかし企業にそのような社会正義は関係ない。TPPのもと、日本が同様の訴訟を起こされる危険性を示唆しているのではないだろうか。

国内の法律・制度の改悪を止めることも重要

 他にもさまざまな問題点が指摘できるが、まずは今後2つの動きが重要となる。

 1つは、TPPの批准そのものを阻止すること。

 2つ目は、TPP批准を前提として進められる(あるいは無関係を装いながら、しかし確実にTPPに関連してくる)国内の法律・制度の改悪を止めていくことだ。医療や雇用ではすでに生じていることであり、また先述の著作権に関連する法改正も今国会でなされる危険がある。「国内法であれば後から変えられる」との楽観論もあるが、過去の法律改悪の歴史を見ても、規制緩和の方向を後から戻していくこと自体は実際相当に困難である。私たち運動の側も広い視野を持って新たな動きをつくっていかなければならない。

(アジア太平洋資料センター「PARC」事務局長)

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この記事の掲載号
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