月刊 現代農業
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「雪にも寒さにも負けない樹形」コーナーより

側枝を下げて太さを調節
雪に強く、反収10tのわい化リンゴ

青森県黒石市・佐藤謙治さん

佐藤謙治さんと側枝を下垂させた14年生のわい化ふじ(マルバ付きM26台)。経営はリンゴ3.5haとカシス50a(写真はすべて赤松富仁撮影)

佐藤謙治さんと側枝を下垂させた14年生のわい化ふじ(マルバ付きM26台)。経営はリンゴ3.5haとカシス50a(写真はすべて赤松富仁撮影)

下垂した側枝は折れにくい

 雪に強くてそのうえ10a当たり10t近くの超多収。そんな驚くべきリンゴのわい化園があるという。青森県黒石市の佐藤謙治さん(62歳)が丹精込めて育てたその樹は、側枝の下垂誘引が大きな特徴だ。

「側枝が主幹とのつけ根から下がっているでしょ。柔軟性があって、雪で押されても折れないし、ヒビが入ってもまたくっつく。とれちゃうことがないんです」

 リンゴのわい化樹は、特に雪害を受けやすい樹形だ。側枝が低い位置から発生するので、雪に埋もれやすい。積もった雪は圧縮されて沈んでいき、引きずり込まれて枝が折れる。枝が折れると収量が下がるし、低い枝がなくなると作業性が悪くなる。

主幹上の側枝のつけ根。つけ根にしわが寄り、柔軟性がある

主幹上の側枝のつけ根。つけ根にしわが寄り、柔軟性がある

「大雪が降ったら雪を掘って枝をかき出す人もいますけど、もう大変で。1年やりましたけど、もう二度とやりたくないと思いました」

 側枝を下垂させるアイデアは、以前園地を改植した時に偶然得たという。樹と樹の間に苗木を植え、狭い樹間に収めるために枝を下げたところ、雪折れが少なかったのだという。

佐藤さんに側枝を押し下げてもらった。ここまで下げても折れない

佐藤さんに側枝を押し下げてもらった。ここまで下げても折れない

「その後、北海道に行ったとき、針葉樹の枝が垂れているのを見て、これだーって思ったんです。自然をお手本にすればいいんだと」

 今の樹形の試験を始めたのは2004年。S型金具などを使って苗木から下垂枝をつくっていった。そして2005〜2006年には予期せずの豪雪。1.7mもの積雪に襲われたが、苗木の枝が一本も欠けず、自信を深めた。

S型金具。写真のように枝と枝に絡ませ、下垂させる(撮影は10月。時期的にS型金具がはまる主幹がなかったので、便宜的に側枝を利用)。金具は市販品もあるが、14番線の針金を使うと、適度に弾力があって取り外しやすい。佐藤さんは自分で作っている

S型金具。写真のように枝と枝に絡ませ、下垂させる(撮影は10月。時期的にS型金具がはまる主幹がなかったので、便宜的に側枝を利用)。金具は市販品もあるが、14番線の針金を使うと、適度に弾力があって取り外しやすい。佐藤さんは自分で作っている

側枝の太さが肝心

 佐藤さんの樹が折れにくいのは、もう一つ重要な要素がある。それは側枝の太さだ。主幹に対して2〜3割くらいの太さを維持することで柔軟性を保てると佐藤さんは考えている。だが樹が育てば自然に枝は太って、折れやすくなるので、これがとても難しい。

 そのため、佐藤さんは徹底した摘心で、枝が太るのを防いでいる。生育期に摘心すると、枝の葉の量が減るので養水分の流れが減り、枝が太るのを鈍化できるという。また、夏の徒長枝切りも同様に有効だ。太くなり過ぎた側枝は間引くこともある。逆に枝が細すぎなら、摘果を強めにして生長を促してやる。

 このようにしてできあがった樹は、雪だけではなく、風にも強い。数年前、秋に風速12〜14mの風が3日も吹いた年があったが、左右に振られにくく、キズは意外なほど少なかったという。

図1 佐藤さんの側枝のつくり方

苗木の定植後1年は主幹延長枝を伸ばすことに専念。2年目、80cm以上の高さで側枝を育てる。5月20日頃、側枝が勢いよく伸び始めるタイミングで20cmほどの長さで摘心し、太りにくくする。太めの枝は、4〜5cmの長さまで強めに摘心する

苗木の定植後1年は主幹延長枝を伸ばすことに専念。2年目、80cm以上の高さで側枝を育てる。5月20日頃、側枝が勢いよく伸び始めるタイミングで20cmほどの長さで摘心し、太りにくくする。太めの枝は、4〜5cmの長さまで強めに摘心する

矢印
摘心して約1週間後、芽が動き始めた頃に、側枝の根元にS型金具をつけて下垂させる。S型金具はつけっぱなしにしておくと枝に食い込んで折れやすくなるので、2〜3週間で外す

摘心して約1週間後、芽が動き始めた頃に、側枝の根元にS型金具をつけて下垂させる。S型金具はつけっぱなしにしておくと枝に食い込んで折れやすくなるので、2〜3週間で外す

矢印
7月はじめにもう一度20cm伸ばした位置で摘心をかけ、E型金具で水平以下に誘引。枝の太さを見て、必要なら8月にも摘心する

7月はじめにもう一度20cm伸ばした位置で摘心をかけ、E型金具で水平以下に誘引。枝の太さを見て、必要なら8月にも摘心する

矢印
休眠期のせん定で、側枝を長さ40cmに切り戻すと、3年目で主幹延長枝がよく伸びる。3年目以降は側枝の太さを見て適宜摘心。樹高は3.8mほどにする

休眠期のせん定で、側枝を長さ40cmに切り戻すと、3年目で主幹延長枝がよく伸びる。3年目以降は側枝の太さを見て適宜摘心。樹高は3.8mほどにする

葉摘みをするとリンゴが目立つ

 これだけでも十分魅力的な樹形だが、冒頭で触れたように、この樹は多収でもある。10a当たりの植栽本数は88本とわい化では少ないほうだが、平均反収は7〜8t、10t近くを達成したこともある。全国平均の4倍以上だ。

 雪害によるロスが少ないこともあるが、それだけではない。佐藤さん曰く、「わい化の収量はいかに幹に近いところに実を成らせられるか」ということだ。

 普通のわい化樹は、側枝の先端に実が成っても、奥(基部側)ははげあがっていることが多い。ふところ側には光が入りにくく、結果枝がなくなってしまうからだ。

 ところが、佐藤さんの樹には側枝の奥まで実が成っている。普通の樹は葉摘みをすると全体的にスカスカになるが、佐藤さんの樹はかえって奥まで実が目立つようになるらしい。

光を取り込み収量アップ

 じつは、この実の成り方にも、側枝の下垂が関係している。下垂させた側枝は、水平誘引の側枝よりも、奥まで光が当たる(図2)。だから奥がはげ上がらず、実が成るのだ。

 奥まで光を当てるためには、先端には実がないほうがよい。だから佐藤さんは、摘果、摘心、せん定でなるべく先端側の実や枝を落とすようにしている。先端が軽ければ、雪の負荷もかかりにくくなる。

図2 下垂誘引と光の当たり方

光が側枝の基部まで当たるので、側枝の奥まで果実が成る

光が側枝の基部まで当たるので、側枝の奥まで果実が成る

上の側枝が下の側枝に影を落とし、光が基部まで当たらず、先端にしか実が成らない

上の側枝が下の側枝に影を落とし、光が基部まで当たらず、先端にしか実が成らない

 また、収量を増やすためには、できるだけ均等にバランスよく枝を配置することも大事だ。それには摘心やせん定で、バランスを乱すような強い枝を整えること。だから佐藤さんは、細かく園地をまわり、樹1本、枝1本ごと丁寧に調節する。

「モグラたたきみたいに手がかかる。かっこうよくするためじゃないんですよ。空間の利用率をあげたいんです」

 均整がとれた樹の前で、佐藤さんは笑った。

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現代農業 2017年12月号
この記事の掲載号
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