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「火とお湯で滅菌殺虫」コーナーより

キウイフルーツの樹皮をガスバーナーで炙り、かいよう病を治療

キウイフルーツの樹皮をガスバーナーで炙り、かいよう病を治療

キウイフルーツのかいよう病
ガスバーナー処理で一命をとりとめた

愛媛県四国中央市・川上久次さん

キウイ栽培に心を燃やす

 川上久次さんがそれまで20年続けていたコチョウランをやめ、キウイフルーツ栽培を始めたのは、今から5年前のこと。ハウスの土地がスーパーマーケットの土地として買い取られる話が出て、思い切って別の畑にキウイを新植することにしたそうだ。現在69歳の川上さんは、5年前すでに64歳である。

川上久次さん。キウイフルーツを5反半つくる

川上久次さん。キウイフルーツを5反半つくる

「僕は自分の年齢を7掛けで考えよるんです。64歳でも7掛けすれば45歳。人生の終わりを考える『終活』にはまだ早いぞ。人生はいっぺんきり。思い残すことなく、墓場で骨まで燃えるように、人生燃やしつくすぞと思ってたんです」

 キウイは弟さんが20年前から栽培していて、川上さんは手伝いをしていたので知識はあった。栽培品種はゼスプリゴールド、甘くて人気があって値段がよく、定植2年目から収穫できる。川上さんはキウイ栽培に燃えていた。

切るしかないといわれたが

 ところが2年前の4月。キウイの葉に、かいよう病の褐色斑点が出てしまった。かいよう病は世界中のキウイ農家から恐れられている病気で、感染力が強く、一度発生すると薬剤による治療は難しいといわれる。愛媛県では以前から発生があったが、2014年にこれまで国内で確認されていなかった新しい系統(Psa3)が確認され、被害が拡大しているそうだ。同じ年、弟さんの畑でも初めて発生したという。

 川上さんのキウイは、収穫が始まって3年目。毎年徐々に収量が上がっていた樹である。抜根して、かいよう病に強い品種への改植を勧める人もいたが、応急処置として主枝だけ残して結果母枝すべてを切り落とすにとどめた。処置した樹は、その年の収穫はなくなる。1年休ませて様子を見ることにした。

 そして次の年の春先。病気の発生は、ほとんどの樹で収まっていたが、恐れていたことに15本ほどの樹で、主枝に症状が出てしまった。枝に菌が入ると、菌を含んだ樹液(菌泥)が、樹皮から浸み出てくる。こうなると樹を伐採するか、主枝を病斑部から1mさかのぼって切除するかしかないといわれる。

「幹に入ったらもう終わりじゃといわれた。でも樹を1本切ったら80kgのキウイがパーなんや。どないしてでも樹を助けるぞと思ったんです」

キウイの主枝に発生した、かいよう病。褐色の樹液(菌泥)が漏出する

キウイの主枝に発生した、かいよう病。褐色の樹液(菌泥)が漏出する

川上さんが使っているバーナー。着火部はホームセンターで2000円程度で手に入る。燃料は使い捨てのカセットボンベ

川上さんが使っているバーナー。着火部はホームセンターで2000円程度で手に入る。燃料は使い捨てのカセットボンベ

バーナーの火で炙ると樹液は泡立ちながら、はじけて消える

バーナーの火で炙ると樹液は泡立ちながら、はじけて消える

どうせ切るなら焼いてしまえ

 ちょうどその3月、講習会に参加した川上さんは、県試験場の篠崎毅先生から、かいよう病は高温に弱く、32℃以上で多くが死ぬと聞いた。ならば病斑部を加熱すればよいと、畑にドライヤーを持ち込んで主枝を温めてみた。が、効いているのかわからないし、どうにも時間がかかりすぎる。なにかよいものはないかと探していると、テレビの料理番組でお寿司をガスバーナーで炙っているのを見た。

「どうせ樹を切るしかないなら、樹があかんようになっても、イタイことはない」とバーナーの火で直接加熱することを決心した。

 ホームセンターでバーナーを買ってきて、主枝を炙ってみると、樹液がブクブクと泡立って消えていく。病斑の周りを炙ると、汁が樹皮の下から次々浸み出して、蒸発していく。

「まるで樹が助かろうとして菌を押し出してるよーに思えたんや。おいこれは効くぞと思った」

 一度処理した病斑は3〜7日経つとまた樹液が浸み出てくるので、処理を繰り返す。川上さんは毎日園地を見回りし、樹液を発見しては根気よく治療を繰り返した。夏になって温度が上がり菌が活動しなくなるまで、1カ所の病斑ごとに20回は処理を繰り返したという。

周辺を炙ると見えていなかったところからも樹液が浸み出てくる

周辺を炙ると見えていなかったところからも樹液が浸み出てくる

予想を超える収穫量に

 8月になると、かいよう病が出た樹には、出てない樹と同様に実がずらっとついた。それを見て川上さんは確信をもつ。5反半での出荷量は、病気が出る前年は6.3t、罹病1年目は結果母枝を落として3.4tに落ち込んだが、この年は9tとれるはずと、JAの担当者に報告した。

 ところがJAは、川上さんの出荷量は5tと見積もった。バーナー処理で治るとは信じられず、菌はまだ樹のなかに残っているだろうから、秋の涼しくなった頃に再び猛威を振るい、樹が枯れるだろうというのだ。

 そんな心配をよそに、11月の収穫期を迎えると果実は「よーけ成った」。出荷量は川上さんの予想を超える9.4t。この出荷伝票が治療の効果を証明していると川上さんは胸を張る。

樹液が浸み出なくなったらバーナーを止める。今回かかった時間は5分弱。その後エタノールを吹き付け殺菌し、ICボルドー原液を塗布して処理完了

樹液が浸み出なくなったらバーナーを止める。今回かかった時間は5分弱。その後エタノールを吹き付け殺菌し、ICボルドー原液を塗布して処理完了

樹皮は剥がれるが枯れない

 バーナー処理をした跡は、上の写真のように樹皮が剥がれてくる。樹皮の下の導管は生きていて、年が明け3月になっても枝先は枯れず、癒合がはじまっていた。環状剥皮を施したのと同じような状態だ。

 ただ畑全体をみると、別の樹の枝で、かいよう病の症状が数カ所出ていた。去年よりも減っているので、川上さんは慌てずバーナー処理を繰り返す。

「このやり方なら、去年1年で4tのロスが防げたし、若木だから収量はこれからも増える。抜根してたら、収穫が始まるまで3〜4年もかかるやろ。収量の差は広がるんや」

 また、かいよう病に強く、改植が勧められているサンゴールドより、川上さんが今つくっているゼスプリゴールドのほうが味はよいという。「つくりにくくても、お客さんがほしいものをマスターするのが務め」と川上さん。

指さしているのが去年の病斑部。指導では基部側1mから先端まで切り落とすことになっていた

指さしているのが去年の病斑部。指導では基部側1mから先端まで切り落とすことになっていた

去年主枝にかいよう病が出てバーナー処理をした跡。樹皮は1回剥げ、癒合が始まっている

去年主枝にかいよう病が出てバーナー処理をした跡。樹皮は1回剥げ、癒合が始まっている

川上さんのかいよう病防除、その他のポイント

・園地を毎日巡回して病気を早期発見

・罹病した樹の枝を切ったハサミやノコギリはアルコール(70%)を吹きつけ、バーナーで炙り、もう一度アルコールをかけ、よく消毒する

・農薬に毎回、光合成細菌(20倍)とえひめAI(60倍)を混用して散布し、樹に抵抗力をつける

・土によい菌を殖やしたいので化学肥料、除草剤は使わない

「本当はバーナー処理のことは人に黙って、自分だけ儲ければいいんやけど、僕は去年の夏、仕事中にくらくらっときて、心臓が止まりそうになったことがあったんです。ほんでもうそれからは、ゼニカネのことはどうでもよくなった。ほかの60歳、70歳の人にもマネしてもらって、2〜3年よけいにお金とってもらえたら、僕の喜びなんよ。命助かったお礼に、この技術をお役に立ててもらいたい。欲得損得はゼロですわ」

 取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。 http://lib.ruralnet.or.jp/video/

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現代農業 2018年6月号
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現代農業 2018年6月号

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