月刊 現代農業
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「流し込み施肥をムラなく効かせるコツのコツ」コーナーより

MリンPK→硫安の順番で流すのがコツ

福島・馬場新介

馬場新介さん(73歳)はMリンPKを水口に豪快に投入(依田賢吾撮影)

 五十有余年の農業従事により、田んぼの色を見ただけで生育状況が理解でき、作物と話ができるくらいの技術を習得できました。毎朝早く圃場に出向き、イネに「おはよう」と声掛け。ここから一日が始まります。

周囲を山に囲まれた只見町深沢地区は、昼夜の気温差が大きくおいしい米がとれる(依田賢吾撮影、以下すべて)

親子で追肥大失敗

 農業が曲がり角といわれた昭和38年に福島県立会津農林高校を卒業し、家業を継ぐため農業に従事。役場に勤めながらも、50aほどの田を耕して生活を立てていこうと決意しました。

 農業高校で追肥の重要性は学んでいましたが、生育状況もあまりわからないまま田んぼ全面に追肥したところ、全面積が倒伏してしまいました。父に相談すると、「オレも以前、追肥で大失敗した。硫安を水口に流したんだ。水に溶けやすいから、広がっていくと思っていたが、田全体が枯れてしまった」と、経験談を聞かせてくれました。田に水を溜め、水口に一度に空けたので、肥料成分が動かず枯れてしまったのでは? とのことでした。

 父の失敗、そして高校で学んだことを元に、何とか施肥を成功させられないかと、常に圃場を見てイネの生育状況を研究しました。平成初めのその頃、「将来、米の価格が30kg5000円まで下がる」と、新聞が報道。驚きましたが、おいしいお米をつくり、自分で価格を決めて売ることができれば、所得が増えて生活は安定すると考えました。そんな矢先に出会ったのが、Mリン農法でした。

 Mリン農法では、元肥こそ動力散布器で丁寧に、全面にムラなくMリンPK(*)を散布しますが、追肥は流し込みで行ないます。最初は父の栽培の失敗のことが脳裏をよぎり、本当に勇気がいりました。しかし、将来重いものを動かす力が落ちることや、コスト軽減を考え合わせ、株式会社ミズホに流し込み施肥を指導していただくことにしました。

ことば解説

MリンPK リン酸の吸収量を増やして作物の光合成能力を高める資材。Mリンカリン(酵素微生物資材、ミズホ)を購入し、過リン酸石灰、塩化カリ、米ヌカと混ぜて発酵・熟成させてつくる。

調節肥も穂肥もMリンPK→硫安

 当地は雪解けも遅く、田植えの時期は5月20日過ぎになります。田植え1カ月後頃に生育状況にムラが出るため、ガス抜き(軽い中干し)後の調節肥でお色直し。その後、本格的な中干しを実施し、出穂20〜18日前頃に穂肥をやります。穂肥の適期は、幼穂が9mmほど見えてきた頃です。

 調節肥も穂肥も、ガス抜きや中干しで葉色をさめさせてから振ります。調節肥は葉色板で3〜4、穂肥は4程度が目安。追肥後、4.5に揃うのが理想です。調節肥で大事なのは、穂肥を均一に振れるよう葉色を揃えておくこと、穂肥はタンパクを残さないこと。10a当たり施肥量は、調節肥はMリンPK20kg、硫安5〜7kg、穂肥はMリンPK20kg、硫安10kg(葉色が濃い場合は8kg)です。

 初めに圃場全体に行き渡るように水を回し、まずはMリンPKを10a当たり20kg水口にドカッと空けます。水田の半分程度に成分が回ったら、硫安を入れた肥料袋に30カ所ほど穴を開け、袋のまま水口に置きます。すると、ゆっくり硫安が溶けて全面に拡散。

 水深は、初めは2〜3cm程度にし、水尻は閉めておきます。かんがい水はなるべく静かにゆっくりと、半日ほどかけて流し込み。水深10〜15cmほどになったら水を止めて3日間おき、その後静かに水を抜きます。

アゼから田んぼを観察。肥料が切れ、パンダのように薄い部分が目立ってきたら調節肥が必要

愛用の葉色板で確認。調節肥の目安は3〜4

田んぼ1枚ごとに施肥量を計算し、あらかじめ計量。MリンPKと硫安を、それぞれ別々のビニール袋へ詰めておく

施肥前の水深は2cm程度に落としておく

まずはMリンをバサーッと投入。水口に顆粒が堆積する

硫安の袋にはドライバーなどで穴を開けておく

Mリンがある程度溶けたら、硫安を袋ごと水口に設置。あとは全部溶けるのを待つだけ

リン酸の効果で食味も上がった

 MリンPKの流し込みを取り入れてから、作業がとてもラクになりました。水が平らに全面に運んでくれるので、手や機械で肥料をまくよりもムラも出にくい。なぜこのような方法が以前から行なわれなかったか、不思議でなりません。

 全国的な後継者不足による労力不足は当地域も同じですが、これを解消するためにも、ぜひ流し込み施肥を勧めたいと思います。

 MリンPKでリン酸を効かせることにより、イネの葉がピンと立ちます。その間に稲穂が隠れて、鳥害が防げることも大きな利点であります。

 反収は毎年9俵を確保。昨年、天候不順で周囲が2俵近く落とす中でも、平年作を保つことができました。そして何より、食味が向上しました。Mリン農法を始めてから20年間、毎年食味計で値を測っていますが、食味値が80点以下になったことはありません。30kg1万円以上と、強気の値段で販売していますが、お客様は喜んで買ってくれます。昨年は、全国食味コンクールに出品。食味値が88点となり、各地から問い合わせがきています。

 これからもさらに研究して、労力をかけずに食味の高いお米をつくり、収入の多くなる農業経営を行なっていきたいと思います。

(福島県只見町)

MリンPKは硫安の拡散を助ける?

 (株)ミズホによると、MリンPKにはそれ自体の肥効に加え、硫安の散布ムラを減らす効果があるとのこと。硫安は水中で正電荷を持つアンモニウムイオンに変化するため、負電荷を持つ土壌に一部が吸着されてしまう。MリンPKをあらかじめ流し込んでおくと、水口部分に硫酸カルシウムの溶け残りが広がるため、硫安が土壌に直接触れにくくなる。また、負電荷を持つリン酸イオンが水中に分散することで、土壌と水との電荷の均衡がとれて、アンモニウムイオンが土壌に誘引・吸着されにくくなる。こうして、全面に広がるのを助けるとのことだ。

 この取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。 http://lib.ruralnet.or.jp/video/

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2018年7月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年7月号

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