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8月3日、ねらい通り、旧盆用の小ギクが出荷を迎えた。山内正博さん(64歳)はキク栽培約40年のベテラン農家(赤松富仁撮影)

8月3日、ねらい通り、旧盆用の小ギクが出荷を迎えた。山内正博さん(64歳)はキク栽培約40年のベテラン農家(赤松富仁撮影)

もうちょっと詳しく
10月植えで、旧盆に小ギクを当てる方法

福井県勝山市・山内正博さん

 カラー口絵でも紹介した露地小ギクの旧盆出荷。秋のうちに挿し穂を本圃に植えてしまい、春の育苗と定植を省く。さらに4月25日頃、刈り払い機で刈って生育を揃える。一斉に伸び始めたキクたちの収穫は、旧盆にピタリと当たる。

「今年は揃いすぎて、出荷が大変」と言うのは、キク農家の山内正博さん。栽培のポイントを教えてもらった。

土とモミガラを寄せて発根させる

 このやり方、地域では「暮れ植え栽培」と呼ばれている。しかし、実際の植え付け時期は「暮れ」というほど遅くはなく10月上旬。挿し穂は前年度の刈り株から採取する。盆や彼岸の収穫が終わったら、しばらくしてから刈り株を台刈り。すると、切り口の横から芽が伸びてきて、次年度用の挿し穂として使える。

 山内さんによると、「スムーズな活着のため、根のしっかり出た挿し穂をとるのが大事」。そこで、芽が10cmほどまで伸びたら、土寄せして不定根を出させる(図)。管理機のロータリを逆回転させ、株元が隠れる程度にザッと土を被せていくのだ。土の代わりにモミガラを寄せる人もいる。山内さんは管理機で土寄せしたあと、寄せが甘い場所を中心に、モミガラを撒く方式だ。

収穫した株から挿し穂をとる

土とモミガラを寄せた刈り株。イネ刈り時期より前に寄せるため、モミガラは昨年のものをとっておく。昨年は台刈りが早すぎ、10月には伸びてきた芽が花をつけた(倉持正実撮影、以下すべて)

土とモミガラを寄せた刈り株。イネ刈り時期より前に寄せるため、モミガラは昨年のものをとっておく。昨年は台刈りが早すぎ、10月には伸びてきた芽が花をつけた(倉持正実撮影、以下すべて)

 植えるまでに萎れないよう、挿し穂をとるのは定植当日の午前中。山内さんがとりたての挿し穂を見せてくれた。なにやら下のほうで桃色や白色の芽が出ている。「これが『冬至芽』。来年収穫することになる茎の元です」。いわく、植えてからでも冬至芽は出るものの、なるべくこの時点で冬至芽の出ている挿し穂を選びたいそうだ。

 挿し穂の葉は、最低3〜4枚あれば十分育つが、10枚程度ついているものだと育ちがよくて安心だ。挿し穂の長さは15〜17cmだと、活着・生育が一番スムーズ。でも、10cmに満たないものも、40cmを超すものも使えないことはない。大きいものはハサミを使い、20cm弱に切り揃えればいい。「どんな苗も、ちゃんと育ちます。キクは意外と強いですよ」と山内さん。何しろ、どうしても苗が足りないときは、カラカラに乾いた昨年の古株を割って植えるほど。これでもちゃんと芽が出て、茎が伸びてくるという。

浅めに斜め挿しで新根を出させる

 午前中にとった挿し穂は、午後に来年の本圃へ植える。圃場は「水田→水田→キク」と、3年サイクルで回している転換畑だ。9月中旬にイネを刈り、土づくりのために石灰チッソとリン酸肥料のマグホスを投入して秋耕。9月末にウネを立て、除草剤(トレファノサイドとプリグロックス)を振って乾かしておく。

 植える本数は、フラワーネット(17〜18cm幅)1マス当たり2本ずつ。新根を多く出させるため、浅めに斜め挿しをする。先が尖った塩ビパイプをザクッと刺し、その穴にストンと挿し込む軽快な作業。山内さん、見る間に1ウネ植え終わった。1ウネごとにすぐかん水。1〜2日はクタッと萎れるものの、3日目にはシャキッとする。

 移植後は、薄い不織布でウネを被覆。霜の心配がなくなる4月中旬頃までかけておく。不織布は、草丈の伸びに合わせてゆるめていき、完全に剥ぐ頃には、草丈が10cmほどに伸びている。この時期にハサミを使って古株をピンチすると、冬至芽が一気に伸びる。

古株一つから12本もの芽が発生。ベストな大きさは右から4つ目(矢印、約18cm)のものだが、どれもちゃんと挿し穂として使える

古株一つから12本もの芽が発生。ベストな大きさは右から4つ目(矢印、約18cm)のものだが、どれもちゃんと挿し穂として使える

古株一つから12本もの芽が発生。ベストな大きさは右から4つ目(矢印、約18cm)のものだが、どれもちゃんと挿し穂として使える

早い株では冬至芽が数cm伸びていた

挿し穂は100本ごとに新聞紙にくるんで乾燥を防ぐ。その日植えられない挿し穂は、このままコンテナに入れ水をかけておく。真っ白い新根が出て、翌日植えれば速やかに活着する

挿し穂は100本ごとに新聞紙にくるんで乾燥を防ぐ。その日植えられない挿し穂は、このままコンテナに入れ水をかけておく。真っ白い新根が出て、翌日植えれば速やかに活着する

刈り払いで生育が揃う

 4月25日頃には、伸びてきた冬至芽を刈り払い機でピンチする。旧盆に向かい、揃ってスタートを切らせるわけだ。これをサボると冬至芽が勝手放題伸びてしまい、丈もバラバラ、開花もバラバラ。物日に出せるのは一部だけだ。

 山内さん、刈り払い機は新品の刃(チップソー)にこだわり、切れ味よく刈っていく。ポイントは、ウネから2cmの高さで水平に刈り払い、5葉ほどを残すこと。こうすると、1株約5本の茎となって混み過ぎない。

 刈り払い翌日と、10日後には、ホルモン剤「エスレル10」を500倍で散布する。芽の出が早いものを抑えて揃える効果があり、7月中旬に咲く品種でも旧盆用として出荷できる。

 5月末には、二次根を出させるための土寄せを行なう。生育期間が長いぶん、キクの活力を保つために、新根を出させることが必要不可欠だからだ。

 7月〜収穫にかけては間引き作業。一番太い茎と細い茎をはじいたうえで、フラワーネット1マスに6本ずつ残すと、花と茎のボリュームが揃う。

 7月末〜8月5日には、蕾が揃って出荷できる。旧盆用の物日価格は、高いときは1本100円ほどになる。山内さんの笑顔も満開だ。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2018年8月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年8月号

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