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農文協のトップ月刊 現代農業2019年2月号>カレー好き集まれ!の品種選び

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「カレー好き集まれ!の品種選び」コーナーより

まるでハチミツが入ったようなカレーに
幻の高糖度タマネギ札幌黄

北海道・坂東拓也

つくりにくい「幻のタマネギ」

 当ヴェール農場は明治時代から続くタマネギ農家で、北海道開拓の頃から「札幌黄」をつくり続けています。

 F種のタマネギと比較した時の札幌黄の特徴として、まず収量の不安定さが挙げられます。品種改良の進んだF種と比べて病気に弱く、腐敗が多く出てしまいます。外から見てわからない腐敗も多く、「中で1枚腐っていたよ」とクレームをいただくことも……。大きさや形状も不安定で不揃いなため、規格外品も多くなり、貯蔵性もよくないので越冬にも向きません。そのため、品種改良が進むにつれて札幌黄をつくる農家は減り、「幻のタマネギ」と呼ばれるまでになってしまいました。

筆者(左後ろ、27歳)と家族。ヴェール農場は、家族3人とパート4人の7人で経営

筆者(左後ろ、27歳)と家族。ヴェール農場は、家族3人とパート4人の7人で経営

 札幌黄は生産農家それぞれが自家採種しています。きれいな球を好む農家もあれば、幅広で扁平の球を選ぶ農家もいます。品種の定義付けがしにくく、「これが札幌黄だ」といえない曖昧さも、幻と呼ばれる理由だと感じています。その農家と同じ札幌黄のタネは、購入できないのです。

収穫後に糖度が上昇

 ではなぜ当農場ではこんなデメリットだらけの札幌黄をつくり続けているのかというと、やはり根強いファンがいるからです。牛丼やカレーなどの料理でタマネギにこだわっている方からの人気があり、F種より少し高めの価格設定でも引き合いがあります。

 札幌黄は加熱すると甘みが増し、肉厚で軟らかい食感となることが特徴です。とくに、カレーに使用すると甘みやコクが増して、普通のタマネギを使ったカレーよりも一回りおいしくできあがります。

 当農場の札幌黄は9月に収穫し、10月に外で乾燥させてから貯蔵します。すると、12月頃には糖度がさらに上昇します。その頃の札幌黄を使ったカレーはよりおいしくなり、隠し味にハチミツが入っているかのような甘みとコクが出ると評判です。

札幌黄をまるごと1個使ったカレー。筆者が出荷している「温故知新ブルックスカレー食堂」(札幌市)の看板メニュー

札幌黄をまるごと1個使ったカレー。筆者が出荷している「温故知新ブルックスカレー食堂」(札幌市)の看板メニュー

メイン作物の札幌黄は5haほどで栽培。糖度は10度以上と高く、炒めると30度ほどまで上がる

メイン作物の札幌黄は5haほどで栽培。糖度は10度以上と高く、炒めると30度ほどまで上がる

自社加工で無駄なく利用

 当農場の札幌黄は、市内のカレー屋さんを中心に使ってもらっています。在庫がない時期には、自社でみじん切りして冷凍したものを出荷。これなら商品として出荷できない規格外品も有効利用でき、多少腐敗があっても、その部分以外を無駄なく使えます。

 また、カレー屋さん監修のもと、外注ですがレトルトカレーの製造も行なっています。大量生産できないため、単価が高くなってしまうという難点がありますが、大変人気があります。

 札幌黄を使った乾燥タマネギも製造しており、キムチやカレーうどんのトッピングなどに使われています。そのままおつまみ感覚で食べる方もおり、リピーターがたくさんいます。

 札幌黄はさまざまなデメリットを抱えた難しい品種ですが、100年以上続く歴史と根強いファンのために、これからもつくり続けていこうと考えています。

(北海道札幌市)

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現代農業 2019年2月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年2月号

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