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春到来、遅霜に備える

古川武彦

雲一つない夜空。4月以降も、こんな日は霜が降りやすい(依田賢吾撮影)

雲一つない夜空。4月以降も、こんな日は霜が降りやすい(依田賢吾撮影)

晴れて無風の夜は要注意

 五月晴れ、鯉のぼりが紺碧の大空を泳ぐ。5月は1年でもっとも安定した天候に恵まれますが、農家にとっては油断できない季節です。季節外れの霜が降る可能性があるからです。「遅霜」(晩霜)は茶の若葉を傷め、サクランボやリンゴの花を枯死させ、早植えした野菜苗に被害を及ぼすこともあります。「八十八夜(今年は5月2日)の別れ霜」ともいわれますが、決してそうではありません。左の日本地図に、各地でもっとも遅く霜が確認された日付(最晩霜)を記しました。これを見ると、4月下旬以降の霜も珍しくないことがわかります。なお、これらはあくまで都市部での記録ですから、山間地では、より遅くまで警戒が必要です。

 遅霜が降るのは、空が移動性高気圧に覆われて、夜間も晴れ、しかも無風あるいは弱い風の朝です。農家にとっては怖い自然現象ですが、その仕組みをよく理解すれば、対策も可能です。

赤外線放射で地球が冷える

 霜が降りそうな日、テレビやラジオでは「放射冷却(現象)」という言葉が頻繁に聞かれます。放射冷却は連載第4回(1月号)にも登場しましたが、どんな現象なのか、今回はまずそこから紹介したいと思います。

 すべての物体は(気体、液体、固体を問わず)、その表面から電磁波を放出しています。これが「放射」です。電磁波といっても、X線や紫外線、赤外線、そしてテレビや携帯電話に使われる電波までさまざまで、そのうち目に見えるのが「可視光線」で、目に見えなくても手をかざして暖かく感じるのが「赤外線」です。

 例えば、地球が太陽によって暖められているのはご存じの通りですが、それは太陽光に含まれる熱エネルギーによるものです。太陽とは比べ物になりませんが、同様に地球も、地面から雲から海から、あらゆる物体から赤外線を放射しています。

 一方で、物体が電磁波を放射するためにはエネルギーが必要で、熱エネルギーが失われればその物体の温度は下がります。これが放射冷却です。

 つまり、霜というのは、放射冷却によって地表面や葉面が0℃以下に冷え、空気中の水蒸気が氷の結晶となって付着する現象なんです。ちなみに、このように水蒸気が液体(水滴)を経ずに、氷の結晶に直接なる現象を「昇華」と呼びます。上空で昇華が起きて結晶が生まれ、集まって地上に降るのが雪です。

晴れた夜に冷える理由

 では、雲がない日に放射冷却が起きやすいのはなぜでしょうか。

 昼間、太陽放射で暖まった地面は、日が沈むと赤外放射の量が勝って冷え始めます。この時、曇っていると、地表面からの赤外放射で雲が暖まり、その雲から再び地表面に向かって赤外放射があります。

 一方、空に雲がなければ放射熱が宇宙へ逃げて、地面はどんどん冷えていきます。だから、晴れて雲がない夜ほどよく冷えて、霜が降りやすいのです。

 放射冷却で温度が低下しても、地表が0℃以下にならなければ水蒸気は凍らずに微細な水滴となる。これは「凝結」という現象で、葉が朝露に濡れるのはこのためです。

風がない日に冷える理由

 無風の日に霜が降りやすいのは、冷たい空気が地表面に滞留するからです。風が吹けば、上空の暖かい空気と地表面の冷たい空気が攪拌されます。

 空が晴れていて、風が弱い日ほど遅霜が降りやすい。この二つの条件を満たす気象条件が高気圧です。1月号で紹介した通り、高気圧の圏内ではゆっくりとした下降気流が起きているため、雲が消えて晴れやすいのです。

霜が降りる時の天気図

 では、遅霜に見舞われた例を天気図で見てみましょう。4月の天気図ですが、5月の場合と気象学的に本質的な違いはありません。

 この時、九州地方は東シナ海を中心に移動性高気圧(1022hPa)に広く覆われました。晴天が広がり、等圧線の間隔が広いため、風が弱かったこともわかります。まさに、放射冷却が起きやすい状況です。

 最低気温を見ると、7日は熊本県内18地点で1月下旬から3月上旬並みとかなり低く、阿蘇乙姫ではマイナス 2.8℃で、これは4月の気温としては歴代7位の低温でした。高森でもマイナス1.7℃で同9位を記録。この朝は、熊本県を中心に西日本各地で霜が発生し、農作物に被害が出ました。

遅霜に備える

 当時、熊本地方気象台はこのような状況になると予測して、前日の6日11時前に県内に霜注意報を発表しています。気象庁の霜注意報は、春と秋、霜によって農作物に被害が発生するおそれがあると予想した時に発表されます。

 農家は当然気にしておくべきですが、注意報が出ていないからといって油断するのは間違いです。気象庁が発表するのは、地表より1.5m上空の気温。したがって、例えば最低気温3℃と予想された場合でも、地表面では0℃以下となって霜が降りる可能性もあるわけです。

 霜が降りると予測される場合は、放射冷却を弱める対策として、露地野菜では被覆資材を被せたり、茶畑では防霜ファンを回したりします。防霜ファンは地上6〜9m付近の比較的暖かい空気を送って、地表の冷気と攪拌する装置ですね。

 なんといっても、霜は予測が第一です。ぜひ、テレビやラジオで天気予報を確認する時は、最低気温だけでなく、霜が降りやすい天気図かどうかをチェックしてください。今回紹介した霜の仕組みを念頭に置いていただければ幸いです。

(元気象庁、気象コンパス主宰)

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