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食べるまでがラク、だから人気

皮むき簡単・皮ごとパクリの果樹品種

最近は「食べやすい」ことも一つの売りになる。皮むきがラク、皮むきが不要。新たな需要の可能性に満ちた果樹品種を集めてみた。

チュウゴクグリ「岡山1号」、「岡山3号」は加熱すると渋皮がぽろりとむける。高糖度で焼き栗に最適。輸入グリばかりの焼き栗市場を国産グリで開拓だ(依田賢吾撮影、Yも)


加熱するだけで渋皮ごとむける!

高糖度な甘栗向け品種 岡山1号&岡山3号

西山嘉寛

筆者と岡山1号の成木。せん定や防除を省力化できる点もこの品種の魅力(Y)

焼き栗の多くが輸入グリ

 クリには大きくニホングリ、チュウゴクグリ、ヨーロッパグリの3種類があります。それぞれ特徴が異なり、主な用途も違います。

 ニホングリ、ヨーロッパグリは甘みが少ないですが、果肉のきめが細かく加工性に優れるため、和洋菓子に利用されています。チュウゴクグリは甘みが強く、渋皮離れがよいのが特徴で、主に焼き栗に利用されています。

 日本で栽培されているクリの品種はさまざまありますが、そのほとんどがニホングリです。日頃、甘栗として食べられている焼き栗には、輸入されたチュウゴクグリが使われています。

虫害で導入がいったんストップ

 日本でも明治期以降、チュウゴクグリの導入が試みられてきました。しかし、一部の例外(岡山県新見市)を除き、産地化に結び付いていません。その最大の原因はクリタマバチの蔓延といわれています。ニホングリに比べ、感受性が強く、より被害を受けたためと推察されます。

 また、気象の問題も挙げられます。チュウゴクグリの主産地である中国の河北省は、高地で年降水量も数百mm程度と非常に少雨な地域です。一方、日本は梅雨時期もあり、高温かつ多湿多雨な地域です。

 その他、焼き栗用の優れた系統が持ち込まれなかったことも原因の一つと考えられます。

天敵で撃退、品種育成に成功

 ただし、1980年代に入ると状況が一変します。クリタマバチの天敵であるチュウゴクオナガコバチが中国から導入され、国内の主産地に放虫されたのです。その結果、国内のクリタマバチ被害は激減しました。

 これをみて、当研究所でも1981年、チュウゴクグリの実を入手し所内で育成を始めました。そして、有望な3個体を選抜し、2007年に品種登録の出願を行ない、翌年「岡山1号」「岡山2号」「岡山3号」が正式に品種登録されました。

岡山1号(左)と岡山3号(Y)

 現在は岡山県北東部を中心に岡山1号と岡山3号を栽培し、「岡山甘栗」として産地化を進めています。なお、岡山2号も優秀な品種ですが、現在は2品種に絞って普及しています。

 2010年度以降、苗木の販売も始まり、18年度末時点で、県内の栽培面積は約15 ha、生産量約4t。さらに19年度は生産量が約7tと1年で倍近くに増えました。

果実特性−−渋皮むきが非常にラク

 岡山1号、岡山3号の最大の特徴は、加熱によって渋皮が非常に容易にむけることです。

鬼皮に切れ目を入れてから電子レンジで数分、あるいはお湯に浸けて加熱すると、簡単に渋皮ごとむける(Y)

 さらに、糖度も高く、食べたときに甘みが強く感じられること、果肉がしっかりしていることも特徴で、焼き栗での利用が最適な品種といえます。

 その他、以下のような外観上の特徴もあります。

 ①外果皮(鬼皮)の色がニホングリに比べて濃い

 ②果皮の上面にうぶ毛(毛じ)が多く密生している

 ③クリの座の大きさがニホングリに比べ相対的に小さい

品種特性−−大きい1号、小ぶりな3号

ニホングリとの比較は写真、表のとおりです。それぞれの品種には次のような特徴があります。

ニホングリとの比較。品種改良を重ねたニホングリの大粒品種と比べると小粒だが、高糖度で果肉の色が濃い

                    岡山1号、岡山3号の品種特性

注1)渋皮のはく皮及び果肉の色は焼き栗とした場合

 2)筑波、利平グリの特性については1974年度種苗特性分類調査報告書を参考

岡山1号

原産地 中国の遼寧省。

結実時期 10月上旬〜中旬。

大きさ 岡山3号に比べ、一回り大きく、一果当たり16g程度。現在、国内で唯一チュウゴクグリが栽培されている岡山県新見市では、一果当たり20g程度の大粒品種「傍士ほうじ360号」が栽培されているが、これに次ぐ大きさ。

果皮 赤褐色で高級感がある。

果肉 鮮やかな濃黄色。ニホングリと容易に区別できる。

結実量 成木で10a当たり200kg以上が期待できる、チュウゴクグリの中では豊産系品種。

主な利用 すでに焼き栗のほか、和洋菓子にも使われている。

 

岡山3号

原産地 中国の湖南省。

結実時期 10月中旬〜同月末で、岡山1号の収穫が終わってからの収穫となる。

大きさ 一果当たり6g程度。市販されている天津甘栗よりやや小さいか同程度の大きさ。

果皮 褐色。

果肉 濃黄色。

結実量 成木で10a当たり150kg程度が期待できる。

主な利用 クリの形をそのまま生かし、むき栗を栗ご飯にするなどの利用が適している。

栽培特性−−寿命が長く、害虫に強い

 栽培上の特徴では、まずニホングリに比べて樹勢が強いことが挙げられます。経済寿命も長く、ニホングリが20〜30年程度であるのに対し、チュウゴクグリでは50年以上と想定されます。

 次に、果実被害が少ないことも挙げられます。これはニホングリに比べ、イガが太く短く、さらに非常に密に発生しているため、加害害虫が産卵しにくいからではないかと推定されます。このため、毬果きゅうか害虫の防除は、8月に2回だけと非常に少なく、省力栽培が可能です。

 さらに、細かいせん定作業を省略できる点も特徴です。焼き栗サイズ(10g)での収穫を想定し、大玉生産を前提としないため、せん定は芯をとめて主枝を3本伸ばし、光環境さえ整えてやればよく、その後の細かいせん定は不要です。

 栽培上、とくに留意する点としては、ニホングリ同様、自家受粉率が低いので、2品種以上の混植を必要とすることです。

 また、受粉樹の花粉の影響によって、渋皮がむけにくくなるキセニア現象が起こることがわかっています。ニホングリとの混植は極力避けます。当研究所では主品種として岡山1号、受粉品種として岡山3号という組み合わせを推奨しています。

 苗木は現在、県内の3業者から県内外へ販売しています。

栽培マニュアルも公開

 岡山甘栗の生産が年々増え、販売も今後本格化していきます。すでに焼き栗の実演販売を通じて、消費者がいかに国産甘栗を熱望しているかは確認できており、これからの展開が期待されます。2019年3月には「岡山甘栗栽培マニュアル」も公開し、当研究所のホームページから見られます。栽培面積、生産量をさらに増やし、PRにも力を注いでいく予定です。

(岡山県農林水産総合センター 森林研究所)

            苗木の問い合わせ先


豊並樹苗生産組合(岡山県奈義町)

 電話・FAX 0868-36-3225

河田園芸(岡山県赤磐市)

 電話 086-995-1848 FAX 086-995-3448

岡山農園(岡山県和気町)

 電話 0869-93-0235 FAX 0869-92-0554

※3月号で岡山甘栗を栽培する農家の事例を紹介する予定です。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2020年2月号
この記事の掲載号
現代農業 2020年2月号

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