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イネから学んだリンゴ栽培4
花芽を増やして、葉数を稼ぐ

福島・薄井勝利

「樹が弱っているのでは?」

 薄井農園では、できるかぎり人工的な作業を避け、作物の生命力を生かしながら、安全・安心・おいしい米とリンゴを生産することを心掛けています。イネとリンゴの複合経営のため、イネの春作業とかちあうリンゴの受粉、摘花、袋掛けはせず、6月と7月の2回の摘果で対応しています。

主枝、側枝、成り枝とすべての枝で先刈りしない。腋花芽も着果させる

 薄井農園の樹は、リンゴ産地の農家が見たなら「樹が弱っているのではないか」といわれるほど、たくさんの花を咲かせます(下写真(薄井農園のリンゴ、1枚目)。3月号で紹介したように、せん定時に先端の先刈りをしないので、枝が落ち着くからです。2年枝から出た発育枝(兄弟枝)や長果枝はすべて切って、短果枝・中果枝だけを残すので、先端から樹冠内部までずらりと花が咲きます。

 若樹からリンゴを収穫していく方法では、これが当然の姿となります。

薄井農園のリンゴ

先端から内側まで花が咲く

下写真の丸で囲った部分(竹の支柱の内側から撮影)。先端だけでなく、樹冠の内側まで花がずらりと咲いている。光が内側までしっかり届いている証拠(依田賢吾撮影、以下も)

兄弟枝は最初に切ってきたので、親(主枝)の勢いを弱めるような太い枝(側枝)がなく、樹勢が保たれている

 

他園のリンゴ

内側には花が咲かない

下写真の丸で囲った部分。兄弟枝が太い枝となって主枝を弱めたり、樹冠内部を混み合わせるため、何本も太枝で落としている(矢印)。内側には花芽がほとんどついていない

先端の先刈りを続け、兄弟枝を残してきた樹。栄養生長に傾いて、全体に花が少ない

兄弟枝を残すから樹が暴れる

 一方、兄弟枝を残していくとどうなるでしょうか? 上の写真(他園のリンゴ)をご覧ください。この樹は先刈りを続けてきたため、樹が栄養生長に傾いており、全体に花の数は少ないです。

 また、兄弟枝を切らないので、当初は枝数が多くてよいのですが、次第に親(主枝)をいじめるほどに兄弟枝(側枝)が太くなります。樹冠内部が混みあってくるため、そのうちに太い枝を落とさざるを得ません。すると栄養生長がさらに激しくなり、花芽がぜんぜんつかなくなります。

 太い枝を切って樹冠内部に光を入れても、地下部では切られた枝に相応した根が残っているので、徒長枝が激しく出ます。夏に徒長枝を切っても、樹が暴れて二次伸長が止まりません。結局、地下部の根をなんとかしないと、いつまで経っても悪循環は続きます。

 そうではなく、若いうちに兄弟枝を全部落としてしまえば、最初から余分な根をもたず、樹は暴れないのです。

花芽を多くし、光合成能力を高める

 イネもリンゴも光合成能力が高くなければ、目的(食味と高収量)を達成することができないので、まずは葉の構造を改善する必要があります。イネでは登熟期の葉の数が5枚と決まっているので、改善策は葉身を長く、幅広く、厚く、直立態勢を維持することになります。

 リンゴでは葉の数は決まっていません。同じ長さの枝でも、葉の枚数が多いほうが光合成能力が高くなります。そこで注目したのが、発育枝の葉数と花芽のついた枝の葉数の差です。花芽には花そう葉が5〜10枚程度つくので、光合成能力を高めようとすれば、花芽を多くつけることが肝要となります。私は1年枝についた腋花芽も、せん定で落としたり、摘花したりせずに活用します。果実を生産するためではなく、葉数を確保する手段としてです。

中心花が満開時の花。花そう葉がたくさんある分、花芽は葉数を稼げる

果台枝で成り枝をつくる

 私の樹を見ると、「こんなに花を咲かせて大変だ。樹が弱って来年の花芽がつかなくなってしまう」と思う方がほとんどですが、花がたくさん咲いて実を結んでも、決して貯蔵養分のムダとはなりません。花芽から出る葉数は葉芽より何倍も多く、光合成の工場の生産力もその分増えるからです。

 また、前述のように1年枝についた腋花芽でも、まずは着果させることで、生殖生長ホルモンの分泌を促すとともに、果台枝の生成につなげます。果台でいったん養分の流れが止まるため、果台枝は長く伸びず、暴れません。

 前号で紹介したイワシの骨状に垂れた成り枝は、この果台枝を利用してつくります。毎年20cmほど伸長するのが理想で、5年程度で1mほどの成り枝をつくるのです。

光を無駄なく使うために、成り枝はイワシの骨状に整枝する(詳しくは4月号参照)

 果台枝利用の成り枝なら、主枝や側枝の生長を妨げることなく、毎年安定して着果します。果実生産の安定と葉数の確保が容易になるのです。

 花芽の形成でもっとも重要なのが光です。イワシの骨状整枝は、受光態勢の確保による花芽形成の点でも威力を発揮します。リンゴもイネも光合成能力を最大化させることが、一番のポイントです。

(福島県須賀川市)

イワシの骨状に配置した成り枝(長さ50cm程度)。左の枝は短果枝の果台枝を利用して3年でつくった。右は果台枝の先端に花が1つ咲いている。生殖生長に入っているので、来年はこの果台枝にずらりと花芽がつく予定


取材時に撮影した動画がルーラル電子図書館でご覧になれます。
「編集部取材ビデオ」から。
http://lib.ruralnet.or.jp/video/

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