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野菜・花

第3回 ベテラン有機農家が教える 有機農業コツのコツ
始めよければすべてよし ホウキングで超初期除草

福岡・古野隆雄

ホウキング2号と筆者。有機農業歴約40年。現在はアイガモ水稲同時作7ha、露地野菜3ha、小麦2ha、養鶏300羽ほか、食品加工も。妻と長男夫婦、次男夫婦、21歳の研修生がいる(依田賢吾撮影、以下Yも)

 

アイガモからホウキングへ

 およそ30年前、アイガモ水稲同時作を体系化。アイガモは縦横無尽に水田を泳ぎ回り、条間も株間も関係なく除草してくれました。私はアイガモに、有機農業の面白さを教えられました。

 2003年からは乾田直播にトライし、問題となったノビエとケリをつけるため、農機メーカーのオーレックと乾田除草機の開発に取り組みました。しかし株間の除草は、その明確な原理がわからず暗礁に乗り上げていました。

 16年、ある朝、愚息から発破をかけられました。「お父さん、EUの農機メーカーが販売している、作物と雑草を識別できるAI株間除草機買おうや。500万円ばい」。それに私は、なんの根拠もなく「作るばい」と即答。

 そして倉庫に小麦の除草機を取りに行きました。そこで一本の松葉ぼうきに見つめられたのです。ムギ畑で引いて歩いてみると、そのバネ鋼の針金は土の抵抗で上下左右にしなやかに揺動し、作物は傷つけず草だけを抜いていく……。「選択除草」をしたのです。

 試行錯誤の末、4本の松葉ぼうきを組み合わせた株間除草機を作り「ホウキング」(ほうきing)と命名。シンプルで安価で汎用性があり、イネやムギ、大豆や野菜の中耕・株間除草に効果を発揮。そして、日々少しずつ進化するホウキング(1〜3号)を、本誌で何度か紹介させていただきました。

ホウキングが選択除草するしくみ
針金(2号は3mm径)が土の表層1cmほどに鋭角に突き刺さり、引きずられながら上下左右前後に揺動することで、雑草の根を引っ掛けて抜いたり、土ごと動かしたりして枯死させる。作物は深さ2〜3cm(播種した位置)から根を下ろしているため、影響を受けない。100mのウネの除草がわずか1分で終わる(20年5月号、19年6月号、18年5月号など)。

 

超初期除草を可能にしたホウキング3号。作物を傷つけないよう、細い針金(2.5mm径)を使い、スタビライザー(安定化装置、穴をあけたアルミパイプ)に4本ずつ通して、揺動の大きさを調節する(Y)

 

「埋める力」で超初期除草

 ホウキングの除草のしくみ(図)は「抜く」「切る」「埋める」。特に雑草も作物も極めて小さい超初期は、「埋める」という働きが際立ちます。例えばキンポウゲ(トゲミノキツネボタン)の双葉は長さ1cm程度で、地面に水平に這いつくばっています。一方、ホウレンソウの双葉は3cmあり、垂直に立っています。超初期の埋める除草はその差が大事なのです。

 ホウレンソウの超初期除草を可能にしたホウキング3号ですが、土が寄って短い双葉が埋まることがよくあるのが欠点で、葉に載った土はほうきで取り除いていました(20年5月号)。

 昨年12月、ホウレンソウの株間をホウキングすると、密生して抜けにくいキンポウゲ93本が、一発で見えなくなりました。ほうきで土を取り除いてから調べてみると、70%は抜けていましたが、30%は根付いたまま。抜けた草も抜けなかった草もすべて土に埋まり、そのままなら光合成を阻害され、早晩弱り、枯れていきます。

 しかしホウレンソウの葉に載った土を払うと、せっかく土にうまった雑草も救出することになり、根付いたままの草は生き残ってしまいます。

雑草を埋め、作物を埋めない

 雑草だけを抜き、作物は抜かないのがホウキング。超初期除草でも、小さな雑草だけを埋め、作物は埋めない工夫が必要です。

 ホウキング3号の特徴は、針金をより細く(2.5mm)、スタビライザーでその動きを小さくコントロールできるようにしたこと。この特徴を深化させ、揺動の幅をより小さく、土に深く突き刺さらないようにしたい。そこで針金の径を1.5mm、長さを計28cm(うち折り曲げ部8cm)にして、思い切り細く短くしました。そして超初期除草ではスタビライザーの位置を思い切り下げ(揺動の幅を小さくし)、ホウレンソウに土が被るのを防ぎます。その後、作物の生育に合わせてスタビライザーを上げていくわけです。

 実際に使用してみると、滑らかで軽い動きに驚きました。ホウレンソウに被った土はごくわずか。双葉のキンポウゲに対する除草能力は高く、面白くなってきました。名付けて「スモールホウキング(ホウキング4号)」です。

 

スモールホウキング(ホウキング4号)。針金をより細く短くし、スタビライザー(ゴムチューブ)で揺動を抑えた結果、除草効果は落とさず、作物に土がかぶらなくなった(赤松富仁撮影)

ホウキング前(赤松富仁撮影)

ホウキング後(赤松富仁撮影)

 

超初期除草のタイミング

 初期除草こそ天下分け目の関ヶ原。ホウレンソウが出芽を始め、位置が確定できるようになったらスモールホウキングの出番です。まずは中耕除草(条間除草)。針金が短いので株際ギリギリまで除草できます。この時、作物の両側の地面の凹凸を均平にしておくと、次の株間除草の際、ホウレンソウの株元に土が寄るのを防げます。

 この株際除草で、条間に密生したキンポウゲは一掃できます。草が小さいうちなら、スモールホウキングの「埋める力」は完璧です。

 次が本命の株間除草。キンポウゲの本葉が出始める頃までにやりたいものです。ホウレンソウの本葉が出始めたら、その上から、最初は様子を見ながらスモールホウキングをゆっくり引っぱります。針金が細く土の動きが小さいので、ホウレンソウを埋めることは驚くほど減りました。ホウレンソウの葉切れも減り、さらに針金のL部の角度を少し鋭角にすることで葉柄の折れも防げます(寒い日は注意)。

 有機農業のコツは、楽しく仕事すること。創意工夫することだと思います。

(福岡県桂川町)

 


ホウキングの動画がルーラル電子図書館で見られます。「編集部取材ビデオ」から。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/

 

*古野農場では、2021年の研修生を募集中。仕事を限りなく面白くする技術を一緒に考えてみませんか。(TEL090-2856-7995)

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この記事の掲載号
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