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果樹

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絶対に枯らさないミカンの植え方

和歌山・上山うえやま寿一

筆者と2年生苗。ミカン農家兼苗木屋。和歌山では一般的な2年生苗をつくって出荷している(写真はすべて赤松富仁撮影)

 

苗木が枯れるのは乾燥のせい

 温州ミカン、不知火、ハッサク、ネーブルなどを2.5ha栽培するほか、ミカンの苗木生産と販売もしています。

 3月から定植が始まると、苗を購入した農家から「苗を枯らしてしまった」という失敗談が聞こえてきます。よくあるのが「定植後に雨が少なくて葉が黄色くなった」「改植直前にウネを立てたら、乾燥して枯れた」など。

 つまり、苗木を枯らす原因のほとんどは乾燥です。樹を大きくするには、定植してから梅雨時期まで植え穴の保水性を高めなければいけません。乾燥させずできるだけ早く春根を出すことが、活着のポイントです。和歌山県では2年生苗が主流なので、今回は2年生苗を前提に植え穴の保水性を高める定植方法を紹介します。

踏んで水をかけて土の隙間を減らす

 手順は以下のとおり(下図「定植の手順」)。

①植え穴を掘り、苗を入れる

 穴は直径30〜50cm、深さ20〜25cm。「ゆら早生」などの樹勢が弱い品種を植える場合や作土層の浅い畑では、植え穴よりも少し深く掘ってから埋め戻すと直根がよく伸びます。

 次に台木と穂木の境目が地面の高さになるように苗を置きます。棒やスコップの柄を穴に渡すと境目の位置がわかりやすい。苗木がまっすぐになるよう、根の下に土を入れてやりましょう。

 植える向きは一番強い主枝を北にすると、反対の主枝に光がよく当たり、バランスよく生長します。

植え穴にスコップの柄を渡すと、苗の高さがわかりやすい

②植え穴の半分まで土を入れる

 半分土を入れ、ウッドエース(固形肥料)を植え穴の縁を囲むように8個並べます。穴の中を1周して踏み固め、土の隙間を減らします。ここで根鉢の上の部分を踏んで崩し、太い根がバランスよく三方に出るよう整えます。

③植え穴に水を10l入れ、染み込んだらまた10l入れる

 1回目よりも2回目のほうがゆっくり染みていけばOK。水で隙間が埋まり土が締まった証拠です。たとえば、1回目は20秒くらいですっと水が染み込み、2回目は70秒くらいかけてゆっくり染みる。これで植え穴の下半分の保水性がぐっと高まります。

20lの水を2回に分けてかける

④上から土をかけ、軽く水をかける

 土をかけたら、中がネチネチにならないようすぐには踏み固めず、軽く水をかけます。後日踏み固めるかノズルで叩きつけるように水をまくと、植え穴の上半分の保水性も高まる。

 ただし、この植え方をしてもウネを立てた直後や造成したばかりの畑だと、土がフカフカすぎて植え穴のまわりに水が逃げてしまいます。定植の1カ月以上前にはウネ立てや造成を済ませ、何度か雨に当てておきましょう。

 

定植の手順

 

 

雨水を最大限活用する

 苗を乾燥から守るには、雨の活用も欠かせません。たとえば、苗から半径30cmあたりに浅くくぼみを作ったり、ポリを敷いたりします(下図右)。水が染みないものなら何を敷いてもいいのですが、私は販売する苗に巻くポリを置いて、まわりを土で押さえています。周囲の雨水が集まってきてそこに溜まり、苗木に供給されるしくみです。

 水を吸ってゼリー状になる「サンフレッシュ」も保水剤になります(本誌2019年10月号参照)。傾斜地の場合は土を移動して傾斜を減らし、雨水を吸収しやすくします(下図左)。

芽かきと摘心で春根を出す

 次に定植後の管理について説明します。ミカンは定植後に春根がきちんと伸びて、やっと活着したことになります。春根を出すには保水性の高い植え穴を作ることに加え、春芽の芽かきと摘心が重要です。二つの作業で養分の行き先を集中させると、葉が大きくなり、色が濃くなる緑化が早まり、春根が早く出ます。やり方は以下のとおり(下図)。

芽かき

 内向きだったり、上向きに強く伸びた芽は除去し、旧葉1枚の元から出る芽は1本に整理。春芽は主枝1本につき6〜8本が目安です。主枝先端4本は強くしたいので、上向きの芽を残します。このとき、先端に強い芽がない場合は、3芽程度切り返してから芽かきするのがポイントです。

摘心

 春芽が伸びると葉が10枚以上つくのがふつうです。主枝先端から4本までの春芽は、葉を6枚残して手で摘心。葉が10枚以下でも、先端3分の1を摘心します。

 芽かき、摘心の順で茎が軟らかい5月中旬までにやりましょう。摘心すると春芽の緑化が早まり、2週間ほどで春根が出始め、それに伴い夏芽が伸び始める。夏芽が出るのは、通常より2週間ほど早い梅雨の6月20日頃。伸び始めが遅いと夏の日差しや乾燥に当たり、伸びが悪くなります。夏芽が1cm以上伸びれば、春根が確実に根付いている証拠。それまでは乾燥させないことが第一です。

(和歌山県有田川町)

 


取材時に撮影した動画がルーラル電子図書館でご覧になれます。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/

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