現代農業2000年2月増刊
地域で介護を みんなで育てる介護保険

【編集後記から】


 本誌32頁に「なぜ、『寝たきり』は『寝かせきり』なのか?」をご寄稿いただいた三好春樹さんが、「遊びリテーションは近代を超える」という文章の中でこんなことを書いていた。

 「実は人間は、個体として存在するのではなくて人間関係の中で生き生きしたり、あるいはダメになったりしているわけです。つまり人間を個体として捉えるのではなく関係的存在として捉えなくてはいけないわけですね。みんなで一緒にわいわい、がやがやとひとつの目的をもってやるということの中で、個体だけにアプローチしてやっていた訓練では出なかった機能が、いくらでも出てくるという経験を私たちはしてきました。これは人間を関係的存在として捉えれば当り前のことなわけです」(月刊『ブリコラージュ』1999年5月号)。

 介護についてのこの文章を読んだとき、瞬間的に脳裏に浮かんだのは、いま農村の女性や高齢者の元気の源となっている朝市や直売所の風景だった。朝市や直売所は、農村の人びとの隠れた能力や、埋もれていた地域の資源を顕在化させる「場所」となっている。それも「個体だけにアプローチしていたのでは出てこなかった機能」と言えるだろう。農家もまた関係的存在なのだ。

 ちょうど1年前の『帰農時代』冒頭にご登場いただいた、愛媛県内子町の農家・野田文子さんが、車で20分もかかる直売所「フレッシュパークからり」に足繁く出荷するようになったのは、「山と家の間を往復するだけでいつも同じ仕事、変化のない毎日」から「次の日にどんな出会いがあるかが楽しいのです。これがほんものの農業だと感じる毎日」に変わっていったからだった。

 野田さんはさらに、直売所で「野田さんのファン」というお客さんが現れてきたことも嬉しいと言う。本誌50頁の園田眞理子さんの記事でいうと、「生産者―消費者」という匿名性の関係が、「野田さん―お客さん」という個別的な関係に転化したということではないのか。「関わり」「関係性」を手がかりに考えると、介護の世界と農の世界は意外に近いのかもしれない。

(現代農業増刊号編集部 甲斐)


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