現代農業1999年8月増刊
『ボランタリーコミュニティー』 
 参加から創造へ

【編集後記から】

 「人間と人間、人間と自然との間の調和した関係に配慮しながら、各人のもつ埋もれた能力と地域の資源を利用する」「参加することで、そもそも自分にいったい何ができるのか、他の人に何をしてあげることができるかを考え直すようになる」。

 前号『自給ルネッサンス』に掲載された、ドイツ・フライブルク市の「交換リング」(昔の農村の結、手間返しのような物々交換、サービスの交換を促進するエコマネーの一種)の目的・機能についての文章だが、そんなエコマネーと同じ働きが、いま全国の農山漁村で一万数千個所にまで急増している朝市・直売所という「場所」にもある。朝市・直売所は、そこが単なる農産物流通の場所というより、そこに参加する女性や高齢者、定年帰農者といった、市場原理では非効率、あるいは非生産的とされがちな人々が、自らの潜在能力を「自発的に」(ボランタリー)に顕在化させ、埋もれていた地域の資源を同様に顕在化させる「コミュニティ」となっている。

 本誌に掲載のさまざまな実例のように、これまで市場原理では地域にとって「負の存在」と見られがちだった森林、休耕田、棚田、耕作放棄地などが、ボランタリーな人々によって新たな価値を発見され、コミュニティ創造の「場所」として機能するケースが数多く見られるようになってきた。

 都市の新興住宅地の小中学校で増加する「空き教室」を利用したコミュニティ再生も同様であり、医療や高齢者福祉の分野において広がるボランティアポイント制度やライフケアシステムなどの、農村の講や連にも似たシステムも、ともに担い合う相互扶助によって、健康保険や医療福祉産業などの貨幣分野からの自立度を高める「場所」である。右肩上がりの時代は終わっても、住民参加、パートナーシップ型のコミュニティ社会への転換を図ることができれば、やみくもな景気刺激に拠らずとも、さまざまな活路が拓けてくるのではないか。本誌掲載のすべての実践の中に、その可能性を秘めた「場所」を、読み取ることができる。


(現代農業増刊号編集部 甲斐)


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