「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」 機関誌
第26号:特集のねらい
◆地域みんなの財産に
コウノトリやカモ、マガン等がエサを求めてやってくるようになった冬季(期)湛水の田んぼ。小魚やカエルを追いかける子どもたちの姿が見られるようになった用水路。「環境との調和に配慮した」農業・農村整備を行なったところは、どこも地域が“生きものワンダーランド、豊かなビオトープ”になっています。田んぼや用水路に生きものが戻り、子どもたちの喚声があがる農村空間は、農家だけでなく地域住民みんなの財産です。
農林水産省は、昨年十二月「農林水産環境政策の基本方針」を公表。今後、農水省が支援する農林水産業は、「環境保全を重視するものへ移行する」ことを宣言しました。この「環境政策」のねらいについて、「自然環境を守るのが目的ではなく、自然と人間の関係を、現代的に再構築することにある。そのベースを農業生産と農的な暮らしに置こうというのである」と宇根豊氏が提言で指摘しています。
この特集では、「多様な生態系や景観」が消える結果を招き、農村から“農村らしさ”を失わせていた、従来型の農業農村整備事業から、「環境との調和を配慮」し、かつ「農村での暮らしを豊かにする」農業農村整備へ切りかえる〈提言〉と〈実践〉を紹介しました。こうした農業農村整備が行なわれたところは地域住民の安らぎ・憩いの場となり、都市住民を呼び込んで交流の場にもなっています。
◆地域ぐるみの「直営施工」で
「環境に配慮した」農業農村整備は、事業そのものがコスト高になり、その後の維持管理にも多くの資金と人手が必要となります。そんなとき威力を発揮しているのが、「農家・地域住民等参加型の直営施工」です。地域住民が、事業に計画段階から参画し、知恵と労力を出しあいながら事業を実施して、完成後も維持・管理を行なうというもの。住民は、達成感・充実感をもって取り組んでいます。「直営方式には、たくさんのアイディアが生まれ、住民たちの愛着心を高める良さもある」と言われ、今各地に広がっています。
“農村らしい”農村。繰り返し行ってみたくなり、住みたくなる魅力ある農村つくり。そんな農業農村整備のため、「生きもののにぎわいのある農村が形成されることを期待し」(農水省・斉藤泰氏の提言)、本号をお届けします。
〈主な内容〉
○二十一世紀を切り開く農業農村整備のあり方
――農村地域の健全で豊かな自然環境を保全・形成する施策を展開中
・・・農林水産省農村振興局事業計画課 課長補佐 斉藤 泰/4
〈資料〉「農林水産環境政策の基本方針」(概略) 農林水産省大臣官房環境政策課/13
○わが田を守る環境政策 在所の自然から国を思う政策を
・・・NPO法人 農と自然の研究所・代表理事 宇根豊/16
○「水と緑のネットワーク」の実現で農家の暮らしそのものを残す
――岩手県・国営「いさわ南部農地整備事業」の取組み/26
○「メダカを救いたい」小学生の願いが地域を動かした
――山形県余目町家根合地区による「メダカの里」づくり/34
○人工の魚道でドジョウやフナを田んぼに呼び戻す
――ほ場整備で分断された「水域ネットワーク」を「ドジョウ水路」によって復元する栃木県河内町西鬼怒川地区の試み/42
○コウノトリと人とが共生できる 豊かな環境・地域づくりを目指して
――行政・NPO・農家が手を携える兵庫県豊岡市の取組み――/50
○「産地づくり交付金」を利用 水鳥を呼ぶ「冬期湛水水田」の取組み
・・・宮城県田尻町農政商工課・生産調整推進対策係長 高橋直樹/58
○阿蘇の良さを丸ごと活かして 町全体を「屋根のない博物館」に
・・・熊本県阿蘇町建設課・農村総合整備係長 石松昭信/61
○農業用水を 市民とともに保全・活用する
――東京都日野市の「用水機能を活かした水辺の保全と復元」の取組み
・・・東京都日野市環境共生部・緑と清流課 小笠俊樹/66
○「子どもの遊び」を切り口に 農村に多面的機能の回復をはかる
――住民が主役、滋賀県甲良町の「せせらぎ遊園のまちづくり」実践から
・・・滋賀県甲良町まちづくり課・企画係主査 山田禎夫/74
○排水路整備の「直営施工」で 住民参加の「花咲く道づくり」
――新潟県亀田町における「亀田排水路公園」の取組み/82
〈資料〉「農業農村整備事業等における農家・地域住民等参加型の直営施工について」
――平成14年3月29日付 農林水産省生産局長・農村振興局長通知/90
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