「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」機関誌
第43号:特集のねらい
◆「生涯現役モデル」を次世代へ引き継ぐことも課題に
いま再び農山漁村に注目が集まっています。農山漁村は高齢社会の先頭を歩んでいますが、「健康現役社会」の先導空間でもあるからです。それは農林漁業には定年がなく、自分の意欲と体力さえあれば、生涯現役で働き続けることが可能だから。
実際、農村の高齢者(六五歳以上)の方が、家族や地域の役に立つことに“生き甲斐”を感じながら元気に活動している姿が、この号の先行事例でも紹介されているように全国各地で見うけられます。
「ただ、それはまだ点の存在。それを線に、さらに面にしていきたい」(農水省「女性・高齢者活動推進室」)と、「農業の現場のなかに、高齢者が活躍できる場をしっかりと位置付けることができれば、農村社会は、高齢者が生涯現役で活躍できる『健康・生涯現役社会』の先導的なモデルとなりうる」と述べています(農水省の本村氏)。同時に、いま農業等に元気に取り組み、地域に活気を与えている世代(昭和一ケタ世代)は、これまでの一〇年間で、農産物直売を軸に生涯現役の“地域モデル”をつくってきたのですが、次の世代に主役をどうゆずるかを考える時期でもあります。
求められる「健康現役社会」の課題は、「これまでは、“生涯現役”支援が必要であった。これからは、 “生涯現役”の締め括り・継承支援も必要となっている」(農工研の渡辺氏)。つまり、いまの現役高齢者が、次期高齢者(団塊世代前後)に、どのように「地域(元気な農業、元気な暮らし)を引き継ぐか」、そのモデルづくりにあると言っていいでしょう。
この特集では、市町村行政や農改普及センター、JAなどの支援で高齢者がいきいきと働ける環境等をどう整備し、「生涯現役社会」をどうつくるか、次世代をどうやって迎え入れるか、試行錯誤を繰り返しながら取り組んでいる事例を取り上げました。高齢者がこれまで培った技術を活かして農業に取り組め、安心して住み続けられる地域をつくり、次世代にも引き継げる環境整備に向けた「ビジョンづくり」の素材として本号をお届けします。
〈主な内容〉
むらからの発言 80歳まで現役のピンピンコロリの人生を
佐賀県唐津市(農民作家)山下惣一 /4
<健康長寿は地域でつくる・守る>
○高齢者の技を活かした大豆つくりを支援したら、高齢者医療費が7%も減少
――福島県鮫川村の「まめで達者な村づくり」の取組み /8
○地域の高齢者を元気にし、JAの仕事もつくり出す
――長野県、JAあづみ「くらしの助け合いネットワーク“あんしん”」の取組み /16
○市の保健事業で「操体法」を活用、寝たきり防止の輪を広げる
――34の地域自治会で「操体法教室」を開いている沖縄県浦添市の取組み /26
○介護する人・される人、どちらも元気になる「介護操体」のすすめ
操体バランス協会 代表 東口華代 /34
<役割分担して「生涯現役社会」を>
○高齢者が取り組みやすい野菜・果物栽培を次々と導入
――高齢者あっての地域の農業を守る、岩手県遠野市(農)宮守川上流生産組合の取組み /38
○直接支払いの交付金を活用、高齢農業エキスパートの活躍の場を整えて地域再生へ
――岐阜県東白川村、「てんとう虫ガーデン組合」などの高齢者活動を支援し、農業再生を目指す(有)新世紀工房の取組み /45
<次世代等への引継ぎへ向けて>
○「販売・加工・食育」の三本柱で活動する70歳代の地域グループ「ほほえみ会」
――兵庫県佐用町、生活研究グループの取組み /52
○女性たちが火付け役となって、地域の特産・柳瀬ゴボウを復活
――福岡県みやこ町、女性と定年退職者が活躍する「柳瀬営農組合」の取組み /62
○高齢者が農村でいきいきと活動できる環境、「地域コミュニティ」の整備を
――来年度から新たに実施予定の「シニア能力活用総合対策事業」
農林水産省経営局人材育成課 経営専門官 本村知睦 /70
○人生“80〜90年時代”に 生涯現役をどうまっとうするか
――いま輝いている高齢者から次期高齢者への地域引継ぎモデルの提案
農村工学研究所農村計画部・集落機能研究室 特別研究員 渡辺啓巳 /78
○日本農業における高齢者営農・定年帰農の役割とその重要性
――農村・農業の「担い手」確保とその持続的再生産のために
日本大学生物資源科学部食品経済学科 准教授 高橋 巌 /86
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