「21世紀の日本と農業・農村を考えるための行動」機関誌
第44号:特集のねらい
◆「集落をエサ場にしない」を出発点に
ここ数年、農山村を中心にイノシシやサルなど野生動物による農作物の被害がさらに深刻化していますが、同時にその克服へ向けた確かな動きも出てきています。現場での一番の問題は「野生動物に無意識に『餌付け』し、しかも『人慣れ』させてしまったため集落が野生動物の恰好な『エサ場』となってしまっていること」だと捉え、農家等が主体となって集落(地域)ぐるみで獣害対策に取り組んで成果をあげています。
こうした動きを踏まえ、この特集では、地域ぐるみで進める「7つの取組み」を取り上げました。(1)集落をエサ場にしない (2)被害が出ないよう囲う、追い払う (3)野生動物との棲み分けを目指す (4)地域資源として有効活用 (5)広域協議会の必要性とその効果的な取組み (6)獣害対策のなかから地域に魅力を創る (7)鳥獣害防止の補助事業・制度を活用する
いずれも取組みの主役は地域の住民です。捨てづくりはせず、村の宝(自給も含めた農産物)を守る取組みです。
まず、この取組みの出発点は(1)と(2)であり、獣害対策でもっとも重要なこと。知らぬ間に「餌付け」の原因となる取り残しの作物、野菜くず、放任果樹等をなくし、田畑を囲って、侵入させない。ロケット花火や「モンキードッグ」で追い払う。行政まかせ、他人まかせにしないことが大切です。さらには(3)、イノシシなどが嫌いな作物の作付け、牛やヤギの放牧で緩衝地帯を設ける。(4)では駆除した野生獣を地域資源として活かす。(5)野生動物の動きに合わせた広域での対応。(6)災いのもと、獣害を防ぎ、かつ地域の元気・活性化につなげる。(7)脇役としての行政のサポート(補助金活用)まで。
なお、(1)(2)(6)の取組みは、この二月下旬刊行予定のビデオ・DVD「獣害に強い集落づくり」もあわせご活用いただくと、この取組みをどう進めるかがよくわかり、得心できます。
現在、多くの市町村で「鳥獣被害防止特措法」(一昨年十二月成立)に基づき「鳥獣被害防止計画」が策定されていますが、その「被害防止計画」が「“絵に描いたもち”に終わらないよう」(鳥獣被害対策室)、今後の獣害防止対策を確実に実施するために、さらには、そうした対策を通じて地域に元気を取り戻すために、本号をお届けします。
〈主な内容〉
○集落のみんながやれることに無理なく取り組む
――「エサ場として魅力のない集落」にするための第一歩
◆(独)近畿中国四国農業研究センター 鳥獣害研究チーム長 井上雅央さんに聞く /4
○脚立なしで収穫できるカキ栽培等に取り組むなか、サルも退散
――平均年齢七三歳の奈良県十津川村K地区の取組み /14
○猿用防除柵「猿落君」も導入、集落全体で獣害防止に取り組む
――徳島県・那賀町木沢地区木頭名集落の取組み /20
○農家が飼養の愛犬を訓練、サルを追い払う
――長野県大町市「モンキードッグ」事業の取組み /28
○野生獣を寄せ付けない営農管理を!――獣害対策の根本的な解決のために
滋賀県農業技術振興センター栽培研究部 湖北分場 主任主査 山中成元 /36
○牛の放牧や「エサ場」の点検活動で集落から野生動物を遠ざける
――滋賀県農業技術振興センターと木之本町、近江八幡市、甲賀市の取組み /46
○村内の旅館やレストランが競って鹿肉料理を開発、村の新名物に
――長野県大鹿村、観光協会と「ジビエ料理研究会」の取組み /55
○県境を越えて動き回るサルに広域協議会で対抗、集落から追い払う
――宇陀市(奈良県)と名張市(三重県)が提携、鳥獣害防止広域協議会の取組み /62
○楽しみつつ、地域内の連携で獣害と闘う
――ビデオ&DVD「獣害に強い集落づくり」(農文協)、島根県美郷町の撮影現場から
・害獣イノシシ肉「山くじら」で地域おこし /70
・母ちゃんたちの「青空サロン」は獣害対策の最前線 /76
○鳥獣被害防止特措法に基づく被害防止対策の取組を支援する
――鳥獣害防止総合対策事業の活用等による被害防止対策の実施に向けて
農林水産省生産局農業生産支援課鳥獣被害対策室 /82
・総務省の<鳥獣被害対策に取り組む市町村への財政支援>活用ガイド(総務省自治財政局調整課)/89
・鳥獣害防止対策を進めるうえでの野生動物保護制度活用ガイド(環境省鳥獣保護業務室)/90
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