『農村文化運動』 165号 2002年1月

「JAーIT研究会」第2回・3回研究会の記録

-米の集荷率95%=JA越後さんとうの挑戦/JAのIT革命とJA間共同


[目次]

はじめに

I 第2回公開研究会 水田地帯でのJA営農関連事業の創造を考える

 

報告1 人・土地・ものを生かす地域農業のシステム化
     ―米単作から総合産業化へ―

JA越後さんとう 今井 利昭

報告2 産地JAと連携した米卸の販売戦略

(株)ニュー・ノザワ・フーズ 山田 良男

報告3 地域農産物の多品目加工を成功させる理論と技術
     ―私の農産加工事業への取組みから―

(株)東洋商会 高木 敏弘

問題提起 JA-IT研究会でなにを研究するか
     ―JAの基幹産業としての総合営農体制の再構築とJA間共同―

JA甘楽富岡 黒澤 賢治

全体討論


II 第3回公開研究会 営農関連事業の新展開とJA間共同

 

総括報告 JA甘楽富岡の総合営農事業の構築
     ―少量多品目生産・多元チャンネル販売を可能にしたIT活用とナレッジマネジメント―

JA甘楽富岡 黒澤 賢治

第1分科会 営農関連事業を支えるITシステムとは

報告1 直売型多チャンネル有利販売を支えるIT活用の販売システム

JA甘楽富岡 滝上 正和

報告2 マッピングシステムによる高品質米ブランドの確立と農地の合理的利用    

JA越後さんとう 水島 和夫

報告3 「出向く営農指導」と農業データベース

農文協 皆川 隆三

第2分科会 JA間共同を具体化する

 

報告 地域農業を補完するJA間の新規事業開発

JA甘楽富岡 黒澤 賢治

問題提起 JAの基本路線の提起    

JA-IT研究会代表委員 今村 奈良臣

報告 わがJAの改革にむけての現状と課題

報告1 地域農業戦略・売れる農産物づくり
   ―テーマは品質・求めるのは商品力

JAグリーン近江 原 義夫

報告2 新たな販売の仕組みプロジェクトの立ち上げ    

JA鳥取いなば 佐藤 徳太郎

全体討論


はじめに

 本号では、JA―IT研究会の第二回と第三回の公開研究会の記録を特集した。

 昨年九月に発足したJA―IT研究会は、「研究会に集う農協が先駆的実践を相互に学び、その先駆的実践をそれぞれの農協が置かれた地域的特殊性のフィルターを通して取り入れ、営農関連事業を主軸に地域づくりを行なうことによって、組合員農家の生産や生活が充実し農協経営も安定的に発展する――そのような農協運動の本源を今日的段階でめざす主体的・実践的な研究会」である(「JA―IT研究会」趣意書より)。

 この研究会の趣旨を具現化するため、第一回公開研究会は農協の「『営農事業』の自立を考える」をテーマに、女性や高齢者を担い手とした周年出荷の総合産地への転換をとげ、農家の「手取り最優先」をスローガンに多元チャンネル販売を確立した群馬県・JA甘楽富岡の管内で開催された(「農村文化運動」一六三号「『JA―IT研究会』第一回研究会の記録」参照)。

 本号でとり上げた第二回の公開研究会は、「水田地帯でのJA営農関連事業の創造を考える」という多くの農協が抱えている課題をテーマに、水田平場の米産地、新潟県・JA越後さんとうの管内で開催された。

 米産地の多くの農協が米価低迷と米集荷率の低下という問題を抱えるなかで、JA越後さんとうは高い米価を実現し、九五%という高い米の集荷率を達成している。この集荷率を支えているのは、ITを活用したマーケティング戦略や組合員への情報開示、米単作産地から総合産地への転換を打ち出した地域農業振興ビジョン、そのビジョンを実現するための組織改革などである。このように、JA越後さんとうの実践は、水田地帯の農協の地域農業確立の戦略を明快に提示するものであった。

 JA甘楽富岡の場合、水田がほとんどない畑作地帯であることや、東京から高速道路で一時間という立地から、やや特殊視する向きもないではないが、マーケティングを重視して販売力を強化し、老若男女の力を引き出して総合産地化をはかり、農協の本業である営農関連事業の確立をはかる点で、両者は共通している。

 本特集のもう一本の柱、第三回公開研究会は、東京において分科会形式で開催された。第一分科会のテーマは、本会の名称でもある「JAのIT活用」であり、第二分科会は趣意書にもある「JA間協同の具体化」がテーマである。

 第一分科会「営農関連事業の新展開を支えるITシステムとは」では、少量多品目生産の組織化とその直売型・提携型販売の確立、そして営農技術の向上や、米のブランド確立、さらには地域形成の合意などに、ITが欠かせないことが明らかにされ、農協のそれぞれの部門で蓄積したデータや情報を横につないで新しい取り組みを可能にするナレッジマネジメントの手法こそ重要であると強調された。

 第二分科会「JA間協同を具体化する」は、趣意書に「産地間競争の時代から多品目少量の産地間連携の時代への移行を鑑み、JA間協同や各種生産組織との連携による地域自給の研究をすすめ、すぐに実施可能なものから実行に移していく」と謳われている課題に応えるためのものである。地産地消を土台に、素性の知れた旬の農産物をJA間協同によって確保し完全な品揃えをしたうえで、量販店・生協などに提携型・直売型で供給しようという構想に、実際に手をつけ始めたのである。

 以上に見てきたように、この研究会は、農業をとりまく環境が大きく変わりつつある現段階に対応した、農協の営農関連事業の復権、地域農業の確立、まともな食べものの販売・流通のあり方を一貫して実践的に追究している。

 第一回公開研究会参加後、具体的な農協改革に着手し始めたJA鳥取いなばでは、第一回公開研究会とJA甘楽富岡のインショップの視察結果を営農担当の全職員に報告するとともに、JA甘楽富岡を特集した『農村文化運動』誌を一一七名の営農職員と支店長全員に配布してレポート提出を求めたという。『農村文化運動』誌をテキストにした学習運動によって、合併農協における合意形成がはかられ、そのことによって農協改革が動き出したというのである。左記の『農村文化運動』バックナンバーとともに、本号をテキストにしてどしどし農協内で学習会を行ない、営農復権を主軸とした農協改革を進める梃子としていただければ幸いである。

(*)
『農村文化運動』一五七号「JA甘楽富岡のIT革命――生涯現役の個性的農業で農都両棲の地域をつくる――」
『農村文化運動』一六一号「JA甘楽富岡に学ぶIT時代の農協改革」
『農村文化運動』一六三号「『JA―IT研究会』第一回研究会の記録――『営農』中心の農協活動はどのように可能か」

文化部


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