『農村文化運動』 173号 2004年7月

「地域づくり」と「ほんもの体験」


[目次]

はじめに

I 農山漁村の根源性とグリーンツーリズムの思想
――近代化で分断された人間・自然との関係性の修復に向けて――
久留米大学経済学部教授・西川芳昭

  1. 市場価値では測りきれない「豊かさ」と、地域の固有価値
  2. 持続可能な開発と農業の思想
  3. ヨーロッパの事例紹介から抜け落ちていたグリーンツーリズムの思想性
  4. 農業の思想に根ざした農山漁村と都市住民の価値共有の可能性
    ――自然と人間、人間と人間の関係性の修復を農業の思想から――

II 「地域づくり」と「ほんもの体験」へのアプローチ

  1. わがグリーンツーリズム 民俗研究家・結城登美雄
  2. 地域住民が誇りや自信をもつための関係づくりこそが、ツーリズムの基盤
    ――九州ツーリズム大学の取り組みから
    九州ツーリズム大学事務局長・江藤訓重
  3. 地域の環境・文化を学びあい高めあう、ツーリズムは地域づくり
    ――飯田市型ツーリズムの取り組みと向かう先――
    飯田市エコツーリズム推進室長・井上弘司

〈コラム〉グリーンツーリズムの根底にあるもの――周防大島、大下ミナコさんの暮らしの場から

III ほんもの体験型ツーリズムのすすめ方

体験教育企画代表・藤澤安良
  1. 体験型ツーリズムがめざすものと、プログラムのクオリティ
  2. 体験型ツーリズム実現のための手順――7つの要素
  3. ほんものの体験には、ほんものの感動がある
  4. 体験型ツーリズムの課題

執筆者一覧


はじめに

 今、都市農村交流やグリーンツーリズムが盛んになり、都市から農村への人口移動の逆流も続いている。昨年は、内閣官房のイニシアティブで、都市農村交流推進のための組織「オーライ! ニッポン会議」が立ち上げられた。時代は大きく転換し、近代化の極致で農村空間が輝きを増している。そこで本号では、都市農村交流やグリーンツーリズムの本質を考え、そこで「ほんもの体験」が持つ意味について考えてみることにした。

 第I章のご執筆をいただいた久留米大学経済学部の西川芳昭教授は50ヵ国以上の農村を歩かれた経歴を持ち、文化経済学を専攻しておられる。そのような立場から西川教授は、営みとしての農業の持続の結果生まれてくる地域の個性について考察を加え、グリーンツーリズムが先行的にはじまったヨーロッパのそれが日本に紹介される際に抜け落ちていた視点について触れながら、〈農業の思想〉を土台に自然と人間、人間と人間の関係性を修復してゆくグリーンツーリズム本来のあり方を提起している。

 第II章では、地元学を唱える民俗研究家・結城登美雄氏や、グリーンツーリズムの現場で深い経験をもつ九州ツーリズム大学の江藤訓重氏、飯田市役所の井上弘司両氏に、その実践と思想を開陳していただいた。

 結城氏は東北地方の集落をこれまで約600集落を歩き、農家の暮らし方に共感し、ついに自ら農業をはじめるに至っているが、自分の歩んできた過程そのものがグリーンツーリズムだったのではないかという視点から、ツーリズムの根底にある農家の〈存在〉のあり方に光を当て、その本質を説いておられる。

 九州ツーリズム大学の事務局長、江藤氏は、地域住民が誇りや自信を持つための関係づくりこそがグリーンツーリズムであるとし、自らの熊本県小国町を拠点に、共感の全国ネットワークが形成されてきているその実践を報告。

 飯田市の井上氏は、今年2月に飯田市で開催され大成功をおさめた「全国ほんもの体験フォーラム in 南信州」の模様や、前述の「オーライ! ニッポン会議」が催す表彰事業の第一回で、最高の内閣総理大臣賞を受賞した南信州のツーリズムの取り組みを紹介しながら、地域経営としてのツーリズムや、そこでほんもの体験が持つ意味について述べている。

 そして最後の第III章では、この南信州のグリーンツーリズムにも深い影響を与え、今もその活動をサポートしている体験教育企画・代表の藤澤安良氏に、その思想ではなく、ノウハウに重点を置いて書いていただいた。

 今、グリーンツーリズムが注目を浴びるなか、一方では期待した効果が十分あがらないという声や、都市の人びとを迎えることに疲れてしまったという声も聞かれる。今一度、ツーリズムの思想や体験のあり方を見直し、地域の活性化と、自然と人間が調和する社会の実現にむけて、その一歩を歩みだしていただけると幸いである。 農文協文化部


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